ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか   作:巡理愛

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今回も良かったら読んでやってください。


第10話:理の破断と死線を往く猛火

 

24階層の『食料庫』――そこは、ダンジョンが本来持つ生態系をイヴィルスの残党が歪めた、最悪のキルゾーンだった。緑の栄養柱に不気味に寄生し、ドクドクと脈打つ巨大な大蛇のような植物型モンスター『ヴィクスム』。

それが天井や壁をのたうち回り、その先端から次々と兵隊蟻のような『ヴィオラス』を産み落としては、戦場を埋め尽くしていく。

正体を明かされた、オリヴァスが呼び寄せた新たな植物型のモンスターであった。

 

「――っ、アスフィ! 柱の蛇型のモンスターを叩かねぇと、この食人花どもの物量は止められんぞ!」

 

ヘルメス・ファミリアの副団長、大柄な虎人(ワータイガー)のファルガー・バトロスが、その強靭な肉体でヴィオラスの酸を盾で防ぎながら怒号を上げた。

 

「分かっています! ですが、周囲の地盤自体が奴らの触手網です! 近づけません!」

 

団長であるアスフィ・アル・アンドロメダが、自作の神秘アイテムの飛行靴などを駆使して空中からヴィクスムへ接近を試みるが、ヴィクスムが周囲の岩肌を崩落させる地形トラップを起動。大質量の土砂と、網の目のように張り巡らされた触手の壁がアスフィの退路を断ち、彼女を圧殺せんと迫る。

原作の歴史であれば、この全方位からの地形トラップと物量により、ヘルメス・ファミリアのネームドたちが次々と肉を裂かれ、無惨に圧殺されていく死のカウントダウン。

 

「しまっ……!」

 

怪人オリヴァス・アクトが操る植物型モンスター『ヴィオラス』の物量は、ヘルメス・ファミリアの想定を遥かに超えていたのだ。

 

「うわあぁぁっ! 助け――っ!」

 

強靭な触手に絡め取られ、毒の牙が冒険者の肉体を貫こうとしたその刹那。

だが――その絶望の結界を、赤黒い『爆炎』が強引に吹き飛ばした。シュウゥゥゥッ!と激しい火の粉を散らし、空間を無視した超スピードで割り込んだ灰色のマント。――『フェニックスシフト』。

 

「――下がれ、ヘルメスファミリアの者たち!動ける者は負傷者を連れて下がれ! ――レフィーヤ、広域魔法を。フィルヴィスは一度下がれ!!援護魔法の詠唱を頼む! ベート、左の防衛線を支えろ!」

 

「うるさい!黙れ!アイツは私が!!」

 

怒りに燃えるフィルヴィスはクライヴの指示を聞き入れそうになかった。しかし、そこでレフィーヤがすかさず声をかける。

 

「行きます!フィルヴィスさんお願いします。下がってください!!援護お願いします!!」

 

「……………分かった。……任せろウィリディス!」

 

「勝手に命令すんじゃねぇよ!おっさん!」

 

大声で指示を飛ばしながら、クライヴは縦横無尽に戦場を駆け巡る。

そんな彼にレフィーヤは素直に従い、詠唱を開始する。フルヴィスはクライヴのことは無視しているがレフィーヤのお願いには耳を傾け幾ばくか冷静さを取り戻した彼女も戻って援護魔法を詠唱開始する。ベートは苛立ちながらも指示に従ったようだった。

 

「ウィリディス、私の後ろへ……! 魔法の詠唱を、絶対に止めるな!」

 

「はい!【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ──」

 

オリヴァスとの凄まじい一騎打ちを経て、なおも満身創痍の身体でレフィーヤの前に立ち塞がったのは、フィルヴィス。彼女は本来、魔導士でありながら、短剣の技術にも長けた類稀なる『魔法剣士』。フィルヴィスはレフィーヤへと迫るヴィオラスの触手網を短剣で鮮やかに捌き、肉薄してくる個体の殻を蹴り飛ばしながら、その唇からは一切の乱れなく、自らの結界魔法【ディオ・グレイル】の詠唱が紡がれていた。

戦士としての肉体言語と魔導士としての神聖なる詠唱。

一切の矛盾なくそれらを同時に成立させるエルフの至高の超技術――『並行詠唱』。

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】」

 

短文詠唱による素早い詠唱が完了する。

 

「――【ディオ・グレイル】ッ!!」

 

放たれた白銀の結界が、レフィーヤをヴィオラスの酸から完璧に保護する。

仲間を失った過去の呪縛に縛られながらも、今度こそ目の前の小さな魔導士を守り抜くというフィルヴィスの気高き意志。

その必死の戦いぶりは、クライヴの目にも、痛いほど熱く焼き付いていた。

 

(……あいつはベルと同じだ。自分の傷など顧みず、誰かのためにその命を燃やしている)

 

ベルとフィルヴィスに違いがあるとすれば、願いの違いだ。ベルは強い憧れを。フィルヴィスは激しい哀しみを。

その違いが大きく運命すら変えてしまうというのは、何ともやるせないかもしれない。

クライヴのインヴィクタスが、鈍色の軌跡を描いてアスフィを押し潰そうとした巨大な岩石ごと、触手の壁を一刀両断に叩き斬った。

戦場のすべてを把握するカンストした知覚能力。クライヴはアスフィとヘルメスファミリアの負傷者たちを背後に庇い、次々と地中から湧き出すヴィオラスの群れを鋭い眼差しで睨みつける。

 

───

 

「おい、おっさん! どきやがれ、そいつの魔力、俺の足に寄こせェ!!」

 

後方から、凄まじい焦燥と闘志を滾らせたベート・ローガが跳躍した。

彼の足元を覆うのは、魔法を吸収して自身の脚撃へと変換するメタルブーツ『フロスヴィルト』。クライヴはベートの意図を瞬時に察知し、インヴィクタスを構えたまま、言葉ではなく無詠唱の魔力弾『ファイア』を、あえてベートの足元へと正確に撃ち放った。

 

「ハッ――!」ドゴォォォンッ!とクライヴの放った炎の魔力を、ベートの『フロスヴィルト』が完璧に吸収する。

ブーツの金属紋様が、赤黒いリズンの魔力とフェニックスの熱量を帯びて爆発的に紅蓮へと輝き変形した。

 

「いくぜえェェ!爆ぜろぉぉぉッッ!!」

 

炎の属性を限界まで上乗せされたベートの超強力な脚撃――『ハティ』の片鱗とも言える爆炎の蹴りが、前方のヴィオラスの群れを肉片すら残さずドロドロの焦土へと焼き払い、防衛線を強引に抉り開けていく。

 

だが、死者を一人も出さないという『救済』の代償は、クライヴの肉体に重くのしかかっていた。レベル1の基本ステイタスの低さ、しわい成長率によるスタミナの限界。

前線でのオリヴァスとの肉弾戦、ファルガーたちの援護、アスフィたちの退路確保、そして負傷者の盾となる役割。タスクが激増し、キャパシティを完全にオーバーフローしたクライヴの隙を突き、地中から伸びたヴィクスムの副触手が、彼の灰色のマントを引き裂き、脇腹を鋭くかすった。

 

「が、はっ……!」

 

「フハハハハ! どうした灰色マント、その程度かぁ!」

 

怪人化したオリヴァス・アクトが嘲笑いながら、神への怨嗟を乗せた大剣をクライヴの脳天へと激しく叩きつけてくる。クライヴはインヴィクタスを傾け、火花を散らしながら辛うじて受け流すが、その衝撃を殺しきれず、泥にまみれた地面へと足が深く後退した。

まさに一進一退。誰が最初に力尽きるかという、血と鉄錆の匂いが渦巻く極限の泥仕合。

 

「バカエルフ! 陰険エルフ! まだか、俺とおっさんのスタミナが切れる前にさっさとブチ込みやがれェッ!!」

 

ベートがフロスヴィルトの炎の蹴りでヴィオラスを焼き払いながら怒号を上げる。

クライヴもまた、ファルナの基本能力の低さによる肉体の限界を、神殺しの技術と無詠唱ファイアの連弾による『タスク処理』だけで強引にねじ伏せていた。

オリヴァスの大剣をインヴィクタスで弾きステップを踏みながら、『フェニックスシフト』による高速移動。死角からフィルヴィスたちを狙うヴィオラスの首を冷徹に叩き斬っていく。

お互いが誰かを守るために限界を超えて刃を交わす、一進一退の極限の攻防。

フィルヴィスが短剣を血に染めながらの魔法を撃ち放ちレフィーヤを守り抜き、クライヴがヘルメス勢の盾となり、ベートが前線を抉る。

時折、動けるヘルメスファミリアの者もアスフィを筆頭に攻撃と防御を交えて、戦い抜いていた。特にすきをついてのアスフィの『炸薬薬(バーストオイル)』は的確な援護となっていた。

それぞれの気高き意志が一つになり、レフィーヤの放つ広域火炎魔法【ヒュゼレイド・ファラーリカ】の膨大な魔力が、ついに臨界点へと達し、遂にその瞬間を迎えようとした時、オリヴァスが動いた。

 

「あれは厄介だな。『ヴィオラス』!!」

 

極彩色のモンスター食人花どもが一斉にレフィーヤに殺到する。

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】!!」

 

撃ち放とうとするレフィーヤに迫る触手。

 

「させるか!!【ディオ・グレイル】!!」

 

フィルヴィスの魔法がレフィーヤを守り抜く。そして、背後で完成し、極大の魔力の奔流がヴィクスムやヴィオラスたちを捉えた。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!! 」

 

レフィーヤの極彩色のモンスターたちを焼き払う。

ようやく戦況がクライヴたちへと傾きかけた、その時だった。

この空間の壁の一角が突如として爆発した。

赤黒い霧を切り裂き、その場に凄まじい着地衝撃と共に姿を現したのは、前回の18階層でクライヴに左腕を切り飛ばされたはずの赤髪の怪人――レヴィスだった。彼女の左腕は不気味にも完全に『再生』を終えており、その手にはより一層禍々しさを増した漆黒の長剣が握られていた。

 

「レヴィス……!?」

 

オリヴァスが驚く声が響いた。

こちら側にはアイズが着地してきた。その身体は満身創痍でありながらも、風の闘志は漲っていた。

 

「アイズさん!!」

 

レフィーヤが歓喜の声を上げる。

別区画で一対一の分断作戦にハメられ、ボロボロになりながら戦っていたレベル6のアイズを、その圧倒的なモンスターの理で激戦と為し、お互いがこちらの空間に吹き飛ぶようにやってきたのだ。オリヴァスとレヴィス、二大怪人の同時並行。限界を超えたタスクを背負い、息を荒く乱すクライヴ、そして満身創痍のベートやヘルメス陣営の前に、最悪の絶望の布陣が完成する。背後の負傷者たちを庇いながら、クライヴはインヴィクタスを厳かに構え直し、魂の奥底の不死鳥の火をさらに激しく燃え上がらせる。

 

「……上等だ。理のゴミどもが、まとめて相手をしてやる」

 

死線の中で、男の意志の火がかつてないほど苛烈に爆発する。24階層の未開拓領域を焦土に変える、真の総力戦の幕が上がる――。




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