ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
24階層の大崩落からヘルメス・ファミリアに一人の死者も出すことなく奇跡の生還を果たし、18階層を抜けて地上への帰路につく道中。
「――おい、おっさん。……一応聞くが、お前の腕の中にあるその『キモかわいい』バケモノは一体何なんだァ?」
「ただの珍しい犬だ。……いや、トカゲだったか。どちらにせよ、悪意はない」
「どこをどう見たら犬やトカゲに見えるんだよ眼ぇ腐ってんのかおっさん! 24階層でコイツ、思いっきり火炎ぶち上げてただろうが!!」
ベートが激しいツッコミを入れ、隣を歩く『万能者』アスフィや魔導士レフィーヤも「そうです、クライヴさん!」と頭を抱えて加勢する。
「これ、ギルドの憲兵や上層の冒険者に見つかったら、一発で『未知の強化種』として強制討伐対象になりますよ!? 密輸扱いになっても知りませんからね!」
「……きゅぅ?」
レフィーヤの正論の叫びを余所に、仔獣――『リズン』は小首を傾げ、親を慕うようにクライヴの二の腕へとすり擦り寄っていく。
そしてアイズは天然でモンスターと聞くとデスペレートをギラつかせつつもモノローグで「かわいい……」と呟いていた。
その一方で、真面目なエルフの魔導士であるフィルヴィス・シャリアは、静かにクライヴの隣に並び、24階層の決戦で宿敵オリヴァスへ無慈悲なトドメの鉄拳を叩き込んでくれたことへの、深い感謝の言葉を真面目に告げていた。
「ロズフィールドと言ったか、オリヴァスの一件感謝する」
「…感謝を受け取っておこう。フィルヴィス・シャリア」
お互いは短いながらしっかりとお互いの気持ちを受け取った。
さらに、衣服の隙間から「きゅぅ?」と小首を傾げて覗くリズンの姿を、フィルヴィスは冷徹な仮面の裏で無言で微笑ましく、愛おしそうに見つめる。
「――あ、フィルヴィスさん、今リズンを見て笑いましたね!? 尊いです……!」
「な、何を言っているのだ、ウィリディス……。私はただ、不浄な魔獣ではないか確認していただけだ!」
そんなレフィーヤとフィルヴィスの百合百合しい微笑ましい掛け合いを横目に、クライヴは淡々とリズンをマントの奥へと隠し、「ならば、見つからねばいいだけだ」と大人の強弁をかまし、第一級冒険者たちを心底呆れさせながら、オラリオの地上へと堂々の帰還を果たすのだった。
───
寂れた廃教会の地下室。
すでに地上でリリの救出劇を終え、お互いの絆を確かめ合っていたベルとヘスティアの元へ、ついに地下室の扉が開いてクライヴが姿を現した。
「ただいま戻った、ヘスティア、ベル」
「クライヴさん!! おかえりなさい!」
「クライヴくん! よかった、無事だったんだねぇ!」
遠征軍の無事な帰還、そして何よりベルがリリを助ける際に見せた『ヘスティア・ショートソード×ファイアボルト』のあの桁違いの極大威力を思い返し、クライヴはベルの頭を大きな手でぽんぽんと優しく撫でた。
「ベル、お前のあの紅き雷火、見事だったぞ。あのショートソードの真価をお前自身の意志で引き出してみせたな」
「へへ……ありがとうございます、クライヴさん!」
誇らしげに目を細めるクライヴの腕の中から、衣服の包みを破ってチョロチョロと現れたのは、うさぎほどの小さな仔獣――リズンだった。
「きゅぅ?」と愛らしく鳴きながらヘスティアの足元に擦り寄るリズンに、ヘスティアは「リズンくんも無事だったんだね!お姉さんは心配したよ〜!」とクライヴから手渡された干し肉を差し出す。リズンがパタパタと羽を揺らして美味しそうに食む姿に、ヘスティアはすぐにデレデレになって頭を撫で回していた。
───
翌日の昼下がり。
一度落ち着いた廃教会の地下室に、トントン、と遠慮がちなノックの音が響いた。
扉を開けると、そこには小さな身体をさらに縮めて佇む、サポーターのリリルカ・アーデの姿があった。
「あ……あの、ベル様。神様、クライヴさん……昨日は、本当にありがとうございました」
リリは静かに地下室へ入ると、地面に両手をつき、大粒の涙を流して深く頭を下げた。ベルを騙し、4億ヴァリスのショートソードを盗み、一度は裏切った自分を、ヘスティア・ファミリアの面々は命を懸けて救ってくれた。
その感謝と、自身の隠しきれない事情を打ち明けるためにやってきたのだ。
「形式上……リリの籍は、ソーマ・ファミリアのままで、すぐには
少女の、魂からの直談判。形式なんて関係ない。泣きじゃくるリリの小さな手を、主神ヘスティアが優しく包み込み、そしてベルが満面の笑顔で頷いた。
「籍なんて関係ないよ! 君がベルくんを、ウチを必要としてくれるなら、今日から君もボクの可愛い家族だ!」
「うん! これからは、僕の……僕たちの本当のサポーターになってください、リリ!」
「神様……ベル様……うあァァァん……っ!」
涙を流して本当の救済を迎えたリリの頬を、リズンが「きゅぅ」と鳴きながら温かい舌でペロリと舐める。かつて宿命に縛られていた『ベアラー』としての過去を持つクライヴは、その様子を竈の火越しに眺めながら、静かに衣服の襟を正した。
「おかえり、リリルカ。……これで、ヘスティア・ファミリアの本当の始まりだな」
弱小派閥に加わった、新しきサポーター、そして未知の魔獣リズン。
家族としての絆を完全に一つにしたヘスティア・ファミリアの活躍がここからさらに加速していくのだった。
───
午後からはクライヴにも初めてダメージらしいダメージを負っていたことが判明して休養ということになった。
明日よりリリを加えた。正式パーティーとしてダンジョン探索が開始される予定だ。
せっかくなので、エイナにリリのことで会おうとギルドに行く事にしたベルだったが、ギルドでは意外な人物が待つことになる。
「こんにちは。エイナさん」
「あっ、ベル君来てくれたんだ。その後、ソーマファミリアのアーデ氏はどうなったのかな?」
「おかげ様で全部じゃないですが、解決して正式にパーティーを組むことになりました!」
ちょうど報告しようとしていた話題に触れてもらい、ベルも嬉しそうに答えていると、エイナは少し言いづらそうに別の話題を聞いてきた。
「それは良かったね!…ところでベル君。私がプレゼントしたプロテクターのことなんだけどさ…」
「アッ、ごめんなさいエイナさん。実は探索中にたぶん10階層辺りで落としてしまって…」
「やっぱりそうなんだね!良かったよ」
「えっ?どういうことですか??」
エイナに悲しまれると思っていたベルは彼女の反応に戸惑うしかなく混乱していた。
「実はなんだけど、ある人が私に落とし物として届けてくれた方が居てね。ちょうど君の後ろに立ってるよ」
「あの…こんにちは」
「へっ?」とベルは後ろからの声に聞き覚えしかなく驚いたように振り向く。そこに居たのは憧れの少女『剣姫』アイズ・シュタインだった。
「ヴァ、ヴァレンシュタインさん!?」
一瞬にして顔が真っ赤になるが、逃げ出すことはせず先日も言葉少なくもお話したのを思い出しながら、少しだけ落ち着き始めたベルだった。
「これを返したくて待ってたの。君に会いたかったから」
アイズのたどたどしいその言葉に再度赤くなりかけるが気合を入れてベルは持ち堪えていた。
拙いながらも会話を続ける二人を見届けてエイナはそっと席を立ちその場から離れた。少しでも二人が話しやすいようにとの気遣いだった。
「あ、ありがとうございます!拾ってもらえて!」
「ううん、いいよ。あとは実はずっと謝りたくって…。ミノタウロスの時に怖がらせたこと、膝枕の時にびっくりさせちゃったことごめんなさい」
「えっ、いや、全然ヴァレンシュタインさんが謝ることではないですから!!ミノタウロスに遭遇したのも僕が下層に潜ったのが原因ですし、それにあの時出来事があったから僕は頑張れるようになりました。ひ、膝枕の方はたしかにびっくりしましたけど、う、嬉しかったです。あ、いや、その…」
ベルの話すこと一つ一つがアイズは何となくであったが、不思議と嬉しいような、安心できるようなそんな気持ちになれた。
「あ、あの…ヴァレンシュタインさんの剣技は凄くて速さに長けてるってクライヴさんが、自分のファミリアの人が言ってて」
「うん、何度か一緒に戦ってるからその人のこと知ってるよ…」
ベルは何とか伝えたいことを伝えようと勇気を振り絞る。
「でしたよね!それで、その僕には憧れ、目標があるので良かったら僕に剣を教えてくれませんか!!」
それはアイズもまた、ベルの強さの、成長の秘密を知りたいと思い自分から言いたかったことでもあった。
同想いだったことに今度はアイズが少し顔を赤らめて、コクコクと頷いた。しばらくの沈黙のあと。
「………いいよ」
そして、最後の一言でお互いが顔を赤らめて、ベルは元気よく頭を下げた。
「よろしくお願いいたします!!」
「こちらこそよろしく…」
二人の秘密の?特訓が決まった瞬間だった。ベルの成長がより加速していく。背中の