ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
誤字脱字報告ありがとうございます!
乾いた金属音が、朝靄を引き裂くように何度も響き渡っていた。
「――ハッ!」ベルの身体が赤い残像となり、地を這うような低い姿勢から『ヘスティア・ショートソード』の鋭い切り上げを放つ。アイズは今日も鞘を使っての訓練であったが初めてと言える防戦となっていた。
もちろん加減はしているが。
しかし、その金の瞳は、少年の放った一撃の『速度』と『軌道』に、明確な驚愕を見開いていた。
(……速い。毎日少しずつより速くなってる……っ!)
レベル1の枠を大きく超えた【敏捷:S】の圧倒的な超スピード。
それだけに留まらず、少年の足運びには、無駄な予備動作が一切存在しない。かつて魔物祭や怪人レヴィスとの戦いで見た、あの灰色マントの男――クライヴから徹底的に叩き込まれた「相手の重心を見通す観察眼」と「間合いを支配するステップ」。
それがベルの爆速の才能と奇跡的に融け合い、第一級冒険者であるアイズの懐へと肉薄していた。
ガギィィィン!!アイズはデスペレートの蒼色の鞘を掲げ、ベルのショートソードの刃を辛うじて弾き返す。
だが、ベルは弾かれた衝撃をクライヴ直伝の体捌きで一瞬にして殺すと、間髪入れずに鋭い突きを繰り出した。
キン! カン! ズバァン!夜明けの市壁の上で、漆黒と深紅のショートソードと、デスペレートの鞘が、火花を散らして幾度も交錯する。
終始ボコボコにされるだけだった原作の歴史が、完全に書き換わっていた。
ベルは圧倒的な実力差を前に泥臭く喰らいつき、アイズの超絶的な防御に対して、確かに『一歩も引かずに斬り合って』みせたのだ。
(凄い……本当に、この子はレベル1なの……? 剣を交えるたびに、私の動きを、どんどん吸収していく……!)
アイズの胸に、かつてないほどの激しい武者震いと戦慄が走る。しかし、相手は下界最強の一角。アイズがわずかに『剣士』としての本気を解放し、レイピアのように鞘を走らせた刹那――。
「あ、が……っ!?」風を纏ったかのような神速の峰打ちがベルの胸元を捉え、少年は激しく地面へと転がった。全身を襲う激痛と疲労。
「はあ、はあ、はあ……っ!」と泥まみれになりながら息を荒くするベル。一矢を報いるどころか、確かに数合の間、オラリオの『剣姫』と真っ向から刃を交え、その技術を身を以て貪欲に毟り取った少年の姿。
アイズは息を乱すことなく鞘を構え直しながらも、その不器用な胸の奥で、ベルの計り知れない輝きに、誰よりも烈しく魂を震わせるのだった。
「今日で最後だね」
「はい、ありがとうございました」
「最後、惜しかった。その感覚を忘れないで」
二人は穏やかに何処か晴れた表情で見合っていた。
「はい!」
「うん。それじゃ私そろそろ行くね」
「アイズさん。気を付けて!」
「うん」
二人は改めて見合って今度こそ別れた。アイズが先にその場を後にする
(アイズさんは深層の階層主を単独撃破してランクアップしたらしい。正直に言えば差が広がったと思ったけど、でも、確かな僕の今の実力で少しだけ触れることが出来た)
確かな手応えを元に、ベルもまた二人にとって短いながら特別な場所となった市壁から離れた。
───
──薄暗いダンジョン上層。
ベルとリリには「少し気になることがある」とだけ告げて別行動をとっていたクライヴ・ロズフィールドは、霧の立ち込める通路の真ん中で、ピタリと足を止めていた。
「――そこまでだ、異世界のデカブツ」冷酷な声と共に、影から音もなく躍り出たのは、フレイヤ・ファミリアの副団長にしてオラリオ最速の槍兵――『女神の戦車』アレン・フローメル。そして、その後ろにはアルフリックをはじめとする小人族のガリバー四兄弟が、完全に殺気を孕んで武器を構えていた。
武人としての誇りを持つオッタルのあずかり知らぬところで動いていた、フレイヤの直属の影。
彼らの目的は、ベルに贈られる試練の邪魔をさせぬよう、最大のイレギュラーであるクライヴをここで「分断・排除」することだった。
「なるほど、過保護なのはオッタルだけではないということか。……だが、俺を通したくなければ、全力でくるがいい」
クライヴは静かに、大剣『インヴィクタス』を引き抜いた。ファルナの基本能力は底辺。しかし、世界を救ったロゴスの器の完成度は、不意打ちの奇襲すらすべて見切っていた。
「チッ、死ね!!」アレンの銀の槍が、オラリオ最速の刺突となって襲いかかる。
四兄弟の連携が死角を埋める。だが、クライヴはただ純粋な戦士としての身体能力と、数多の修羅場で培った絶対的な超技術だけで、その猛攻を冷徹にいなし、弾き返した。インヴィクタスの一閃がアレンの槍を弾き、肉弾戦を織り交ぜた重厚なカウンターが小人族の兄弟たちを路地裏へと吹き飛ばす。
加護の光を持たぬ男の、底知れない強さ。アレンたちはこれ以上の激突は主神の観劇の邪魔になると本能で察知し、激しく舌打ちをした。
「……今日のところは引いてやる。だが、次はないと思え!」
捨て台詞を残し、風のように撤退していくアレンたち。
クライヴは衣服の襟を正すると、大剣を収めて再び下の層へと向けて爆速で下り始めた。
(やはり、あのミノタウロスが動き出したか。……ベル、お前を信じている。だが、大人が余計な邪魔をするというなら、俺がその壁を叩き割るまでだ)
───
ダンジョン9階層、開けた空間。
そこでは、オラリオ最強の男――『猛者』オッタルが巨大な黒き大剣を携え、ロキ・ファミリア本隊(アイズ、フィン、リヴェリア、ベート、ティオネ、ティオナ)の前に絶対的な壁として立ち塞がっていた。
ベルのいる現場へアイズを行かせまいとする、オッタルの無骨な結界。
「ここを通りたければ、俺を倒してみせろ」
アイズ、ベート、ティオナ、ティオネの4人がかりで猛攻をしかけるが全てをいなされてしまっていた。
アイズは心の中で叫ぶ。
(どいて。どけ!ベルがこの先で勝てるようなモンスターではない存在に襲われてるのに、なんで邪魔するの?)
アイズは心の奥底から沸き立つ感情を刻一刻と大きく膨らませていく。あの子を助けたい。ベルを失いたくないと。
一触即発のこのままでは本気の殺し合いに発展しそうな緊迫感の中、その背後の闇を切り裂いて、灰色のマントを翻した男――クライヴが突如として乱入した。
「――オッタル。一度は貴公の調整を見逃したが、これほどの大軍勢で少年の邪魔をするというなら、話は別だ」
クライヴはインヴィクタスを引き抜き、オラリオ最強の男へと真っ直ぐに突撃した。
「行くぞ、オッタル!」
「……いいだろう、異邦の戦士よ。受けて立とう」
オッタルが地を爆ぜさせ、黒き大剣を容赦なく振り下ろす。クライヴはここで、魔法やスキルに頼ることなく、自身の肉体のバネと重心移動だけで、歴戦の召喚獣たちの戦術を擬似的に切り替える『スタイルチェンジ』を披露した。
――【ガルーダ・スタイル(擬似模倣)】。
クライヴは剣速を限界までハネ上げ、まるで嵐の猛禽の如き超高速の戦闘スタイルへと移行した。
まずは――『ガウジ』。
インヴィクタスを両手で握り直し、目にも留まらぬ速さで左右交互に繰り出される猛烈な往復連撃。ガガガガガッ!と凄まじい火花が散り、オッタルの黒き大剣の防御を強引に削り取る。
続けざまに、オッタルの剣を強引に大剣の腹で引っ掛け、それを踏み台にするようにして空中へ爆発的に跳躍する――『ガルーダストライク』の軌道。
「――ハァッ!」
上空へ跳ね上がった勢いのまま、螺旋を描くように身体を高速回転させ、上空からの容赦なき回転斬撃――『ウィキッドホイール』の形をオッタルの脳天へと叩きつけた。
下界のファルナの常識を置き去りにした超手数の嵐が、オッタルの大剣を激しく叩く。オッタルがその手数を読み切り、一瞬の隙を突いて鋭いカウンターの重撃を放った、まさにその刹那。
――【タイタン・スタイル(擬似模倣)】。
クライヴは瞬時に重心を極限まで低く落とし、インヴィクタスの肉厚な刀身を盾の如く正面に構え、オッタルの放ったLv.7の破壊の質量を、完璧なタイミングで真っ向から受け流した『プレシジョン・ガード』。
ガギィィィンッッ!!!「なっ――!?」衝撃をすべていなされ、体勢を崩したオッタル。
その僅かな隙を逃さず、クライヴは大地の地響きを思わせる重厚な一撃『プレシジョン・カウンター』をオッタルへと叩き込んだ。
ファルナの枠に囚われず、複数の異なる戦術『スタイル』を瞬時に切り替えて戦うクライヴの多才さに、オッタルは「底が見えん……!」と激しい戦慄と愉悦を覚える。
最強同士の激突。
オッタルの意識が完全にクライヴへと削られた、その一瞬の『隙』。
団長であるフィンが、鋭く声を張り上げた。
「アイズ、今だ! 行けッ!!」
「――っ、はい!」風の結界『エアリエル』を纏ったアイズが、オッタルの横を風の残像となってすり抜け、結界の脱出に成功する。
ベルの待つ、運命の決戦の地へ向けて。
───
「――そこまでだ、オッタル。クライヴさん、戦闘を止めてくれ。僕たちの目的は、もう達した」
アイズが霧の奥へと走り去ったのを見届け、フィンが槍を収めて静かに告げた。
これ以上の無意味な消耗は、両派閥にとっても不利益でしかない。オッタルもまた、クライヴの底知れぬ剣技に深く頷き、黒き大剣を背中へと収めた。
「見事だ、異邦の戦士よ。……機会があれば、また刃を。再戦を」
オラリオ最強の男が、確かなリスペクトの眼差しを残して闇へと去っていく。残された戦場。
フィンは静かにクライヴの前に歩み寄ると、その青い瞳に真剣な光を宿し、真っ直ぐに右手を差し出した。
「クライヴさん。今、君が見せた『複数の戦術を瞬時に切り替える戦い方』……本当に素晴らしかった。ファルナの数値など関係のない、本物の戦士の器だ。……そこで、ロキ・ファミリアの団長として、君に真面目な直談判をさせてほしい」
フィンは一歩踏み込み、最もらしい口調に確かな熱を込めて言葉を重ねる。
「僕たちは近いうち、
リヴェリアやベート、ティオナ、ティオネたちが静かに見守る中、クライヴは遠く、ベルが戦っているであろう階層の奥を見つめた。
少年は今、自分の殻を破るために命を燃やしている。ならば、大人である自分もまた、この世界の深淵『アルテマの残滓』を断ち切るために、己のやるべきことをするまで。クライヴはインヴィクタスを厳かに背中へと収めると、フィンの手を力強く握り返した。
「――いいだろう、その大遠征、俺も同行しよう。あいつが前を向くなら、俺も前に進むだけだ」
オラリオの勇者と、異世界の英雄による、深淵への共闘の誓い。最高潮の因縁の火花を散らしながら、物語は少年の人生を大きく変える、片角の魔獣との運命の『
───
そして少し時を遡った日中、9階層の開けた空間。そこでは、ベルがリリの見守る中でオッタルに調教された片角のミノタウロスと対峙していた。
「どうして上層にミノタウロスが…」
リリの絶望的な呟きを発する。ベルだけなら今朝のステイタス更新で更に数字が伸びたらしいので逃げられたかもしれない。(急いでいたため具体的な数字はベル本人も知らない)
だが、もちろんベルはリリを置いて逃げるなんて考えは初めからない。何とかクライヴさんが来てくれればとも考えるが、その考えも捨てた。
確かに絶望的であるが、レベル6のアイズに少しでも届いたことがベルの希望へと繋がっていた。
ミノタウロスの推定討伐レベルは2。勝てない相手ではないかもしれない。ただ、気になるのは
ること。それに傷も多く、不自然にも片角しかなく、何より体皮が通常のミノタウロスと異なり、赤み帯びていることだ。
(まさか強化種?)
ベルも強化種というものは知識では知っていても遭遇はしたことはなくただの推測でしかなかったが、当たっている気がした。
約1ヶ月前とは異なる自分を信じてベルは挑む。せめてリリを逃さないとと思いながら。
「【ファイアボルト】!!」
先ずは得意の速攻魔法をぶつけて見るがまるで効果は無さそうであった。
「ちくしょう!!」
『ファイアボルト』を連続でぶつけるがまるで効いてない。そんな現実に毒づくベルであったが、覚悟を決めて近接戦に切り替える。
最初はヘスティア・ショートソードと、予備の片手剣『バゼラート』の二刀流で、敵の巨大な大剣に果敢に食い下がるベル。
途中ミノタウロスが目障りだと強引に岩肌を拳で砕き、
「リリ!!」
駆け抜けるベルは猛攻をしかけにいく。リリを一刻も早くここから離れさせないと巻き添えで死にかねない。
そして、確かな剣技と反応力でミノタウロスに徐々に傷を負わせていくベル。
オッタルの
だが、少年の猛攻によって肉体に深い傷を負った瞬間、ミノタウロスが大地を震わせる咆哮を上げた。
怪物は、自身の肩の肉に無造作に取り付けられていた「2本目の大剣」を力任せに引き抜いた。
後の宿敵アステリオスを強く彷彿とさせる、絶望の『大剣二刀流』の顕現。
「――っあ……!」凄まじい十字の斬撃の嵐。
ベルの持つ予備の片手剣『バゼラート』は、怪物の放つ圧倒的な質量の前に耐えきれず、派手に砕け散ってしまった。
ミノタウロスの咆哮の影響か意識を失っていたリリが目を覚ます。
「……ベルさ、ま」
「リリ!起きて立って!今すぐ逃げて!ここは僕が引きつけるから!」
「い、嫌です、そんなの嫌です」
「ダメだ。逃げて!行って、行けよ!行けぇーー!!」
ベルの必死な叫びにリリは涙を浮かべて首を振る。それでも、ベルの気迫に負けたのか駆け出した。
「う、うぁあああーー」と泣きながら駆け抜けて、姿が見えなくなるリリを確認して少しだけベルは安堵した。自分は逃げれないが、万が一があってもリリは何とか助かると。だが、ベル自身負ける気はなかった。
ヘスティアショートソード1本になったベルはほぼ柄だけになったバゼラートを牽制に投げつける。それをうっとおしく弾くミノタウロスの隙を見逃さないベル。
一気に懐に飛び込んで、斬りつけようとするが読まれていたのか2つの大剣で防がれ、強引に弾き返されて、逆に大振りに斬り付けられ、その軌道に何とかショートソードを滑り込ませるが防ぎきれず吹き飛ばされてしまう。
「がっ……はっ。う、ぁ」
余りの衝撃に一瞬意識を飛ばしかけて、倒れ込むベル。それでもヘスティアショートソードを取りこぼすことはなかった。そして、その時、
───
「大丈夫?…よく頑張ったね」
「ア、アイズさ…ん?」
取りこぼさなかった剣を握りしめ、何とか立ち上がるベル。
どう見ても満身創痍と言える負傷をしていた。
「ベル、あとは私が…」
アイズが言葉を言い切る前にベルはアイズの手を掴んだ。
驚くアイズにベルは決意を語る。
「僕があのミノタウロスを倒します。僕が倒さなきゃいけない。じゃないと
「僕の戦いを!!」
その啖呵を切る寸前で他のロキファミリアの者たちもベルたちの元にやってきていた。
「へっ、言うじゃねぇか」
ベートが思わず笑みを浮かべた。雑魚が吠えた。雄を見せると宣言した。
剣の柄に手をかけようとしていたアイズもまた、ベルの決意を信じることにした。命を懸ける戦いに挑む少年の背中を見届けたいと思った。
「うん。ベル負けないで」
「はい!」
敢えてアイズは死なないでではなく負けないでと伝えた。
勝ったベルとまた話したいと思った。この少年がどんな戦いをして勝利を掴むか。かつて自分で剣を取るしかなかった自分に重なる部分もあったが、それ以上に特別だった特訓の時の暖かい時間をまた一緒に勝利とともに語り合いたかった。
「勝負だ!!」
ベルの宣言を聞いた相手の片角のミノタウロスもまたそれでいいと獰猛な笑みを浮かべた気がした。
───
リリはロキファミリアの面々と遭遇することができ、一命を取り留め、今はうわ言のようにベルを呼んでいた。
ティオナとティオネも見守ることにした。
優しいティオナは止めたいとも考えるが、アイズの言葉と表情を見て、自分も見届けようと考えを改めた。
改めて、少年と一匹は構え直した。お互いがこの仕切り直しで決着をつけると目が訴えていた。
「ハァ!!」
先ずは動いたのはベル。先ほどよりも冷静さを取り戻した思考がミノタウロスの動きをつぶさに確認する。
「ブモォ!!」
ミノタウロスもまたベルの動きに合わせて動き出した。力任せな剣使いの中にも確かな『型』が見え隠れしていた。
基本的には深くは攻め込まず、待ちの姿勢と闘争本能からの力技とを組み合わせた動きだ。
(アイズさんの動きに比べたらコイツはノロマだ。クライヴさんの動きに比べたら型なんて甘い。よく見ろ。いつも二人に言われてることを思い出せ!)
そこからのベルはどんどん動きの精度を上げていき、次第にミノタウロスを翻弄し始めた。速さにおいては完全にベルの方が上手だった。
「【ファイアボルト】!」
嫌な間合いになると、あるいはミノタウロスが勢いづくと型にはめるように牽制の魔法を左手で撃ち込んだ。右手のショートソードは決して手放さない。
ミノタウロスも何度も同じ動きになり学習したのか、ベルが構えると避けるか防御の姿勢を取るようになった。最初の方は何も効いてない感じであったが、徐々にダメージを蓄積されていたのだ。
ここで型にはめ込んだベルは最初の時に失敗した懐への飛び込みをもう一度実行。神速の身のこなしでミノタウロスの懐に潜り込み、片方の腕を思いっきり斬りつけて突き刺してダメ押しの自身も火傷覚悟の近距離からの『ファイアボルト』を撃ち込んだ。
功を奏してミノタウロスは腕の力が入らず、魔法の衝撃で大剣を取りこぼす。
猛牛が落とした1本の大剣を拾おうとする手から力任せに奪い取る。
ショートソードを鞘にしまい、不慣れな大剣を両手で構えたベルは真正面からミノタウロスとの斬り合いに挑んだ。速さに勝るベルはミノタウロスの四肢に胴体に、背中にと力任せに斬りつけ時には鍔迫り合いとなり、距離を離せば『ファイアボルト』を撃ち込んだ。そして、そのタイミングで思いっきり大振りで振り下ろすがベル側の大剣の刀身が限界だったか激しく折れた。
それを見たミノタウロスが巨体を四つん這いに変えた猛牛の猛烈な突進。満身創痍の両者が、最後の力を振り絞って正面から激突した。
ベルは突撃の勢いのまま、その折れた大剣の破片を怪物の顔面へと投げつけた。
ミノタウロスが反射的にそれを弾き飛ばした瞬間、怪物の顔が大きく上を向く。
「――そこッ!!」
敏捷Sの神速で完全に死角へと潜り込んだベルは、ヘスティア・ショートソードを抜き胸の傷口に突き立てようとした。
しかし、ナイフよりリーチが長かったことが災いし、狙いが僅かにズレて敵の肩口へと深く差し込んでしまう。刺しきれず、至近距離でミノタウロスの巨大な拳による猛烈な反撃が迫る。絶体絶命の瞬間、ベルは突進の際に地面に落ちていた「もう1本の折れていない大剣」を瞬時に拾い上げ、渾身の横一文字斬りで怪物の巨体を強引に薙ぎ払って応戦した。
「すごい!アルゴノゥトみたい!!」
ベルとミノタウロスの激闘に嬉しそうに声を出すティオナ。
そこからロキファミリアはフィンの言葉に耳を傾け、ベルの方を改めて見ていた。
横一文字に引き裂かれ、大きくよろめいたミノタウロス。
ベルはその隙を見逃さず、拾い上げた大剣を怪物の胸の真ん中へと全力で突き刺し、そのまま背後の岩壁へと押し込んで
ベルはすぐさま、敵の肩口に深く差し込まれていた『ヘスティア・ショートソード』を力任せに引き抜く。磔にされたミノタウロスの胸を見据え、ベルはショートソードの柄を握り直し、全魔力を注ぎ込んで『ファイアボルト』を極限まで溜め込んだ。武器の持つ【火属性極限親和】の特性が完全覚醒し、ショートソードの刀身全体が、ベルの瞳と同じ燃え盛るような深紅へと真っ赤に染まり変わる。
「――ハァアア、ファイアボルトォオオオーッッ!!!」
ベルは極大のファイアボルトを刀身に纏わせたまま、磔にされたミノタウロスの胸の傷口へとショートソードを深く突き立て、その内側へ向けて雷火のエネルギーを容赦なく流し込んだ。
ドゴォォォォンッッッッ!!!内側から肉体ごと魔石を完全に粉砕する、未曾有の大爆発。
銀色の灰が激しく戦場に舞い散り、大決戦に完全なる終止符が打たれた。魔石が砕け散り、『赤い角』が地面に転がった。
そして、戦場に残されたのは、オッタルが用意した『残された大剣』と『折れた大剣』
激闘が終わり、最後に使った全マインドを注ぎ込んだ『ファイアボルト』でマインドロストを起こしたベルの元へ、クライヴとアイズとリヴェリアが駆けつけた。
「よくやったな。ベル」
意識のないベルへクライヴが静かに誇らしく声をかけた。
ベートに唆されリヴェリアも自身の好奇心が勝り、クライヴに許可を取り、そっとベルの衣服をめくる。
背中の神聖文字を目撃した瞬間、その端正な顔が驚愕に満ちたあと思わず笑い声を上げた。
そんな珍しいリヴェリアの様子にロキファミリアの面々が驚く中、名前を知りたくなったベートが聞いた。
「おい、おっさん。そいつの名は?」
「ベル・クラネルだ」
クライヴは目を瞑りながら静かに答えた。この時もまた誇らしく。
「アビリティ…オールS 力も、耐久も、すべてがSを超えている……。いや、それどころか『敏捷』の欄を見てみろ、アイズ……!」
リヴェリアの言葉にクライヴ以外が驚く中、言われた通りにアイズもまた覗き込んだ。
そこにあったのは、能力ランク『SS』をも超えた限界突破の刻印――【敏捷:SSS(1120)】。アビリティの限界である999の壁を完全に破壊した圧倒的な数値を前に、アイズは息を呑み、少年の命懸けの渇望の結晶に、愛おしさと底知れない戦慄で激しく魂を震わせるのだった。
この日少年ベル・クラネルは殻を破り、偉業を成し遂げた。
【名前】:ベル・クラネル
【所属】:ヘスティア・ファミリア
【レベル】:1 → ランクアップ可能(偉業達成)
【基本能力】
力:A(810) → S(945)
耐久:B(705) → S(910)
器用:A(820) → S(960)
敏捷:S(985) → SSS(1120)
魔力:I(10) → D(510)
【魔法】『ファイアボルト』
【スキル】『