ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか   作:巡理愛

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第19話:悪の残党と楽園の悪意(ショー)

 

ベルは恐ろしい妖精と再会して、追いかけっ子第二ラウンドにより、夜のアンダーリゾートを逃げ回る事になった。

恐ろしい妖精ことレフィーヤとベルは二人して迷子となり、アンダーリゾートの森林を彷徨うことなる。

そんな中でレフィーヤはベルと割り切って行動を共に最中、怪しい人影を発見する。

 

「あれはイヴィルス…!?」

 

「イヴィルスって暗黒期に居たっていう邪神の…」

 

「静かに…彼らの後を着けます」

 

二人は密かに後を着けていく。彼らは気付いていないのか、真っ直ぐに何処かを目指してるようであった。

ひょんなことから、ロキ・ファミリアの魔導士レフィーヤ・ウィリディスと行動を共にすることになったベル・クラネルだったが、突如として足元の地面が爆音と共に陥没した。

 

「――きゃあぁぁっ!?」

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

二人が真っ逆さまに誘い込まれたのは、彼らの仕掛た落とし穴(トラップ)型モンスター『ヴェネンテス』の、まるで巨大な胃袋のような不気味な大空洞だった。

天井や壁面から、二人を溶かそうと粘液を滴らせた無数の触手が鞭のように襲いかかる。

 

「レフィーヤさん、僕の後ろへ! 詠唱を!」

 

ベルは【敏捷:C(器はレベル1の限界突破SSS)】の神速を爆発させ、腰のヘスティア・ショートソードと、新調された黒と赤の重厚な短刀『灼牛(シャクウシ)』を瞬時に引き抜いた。

極東の機能美を宿した黒い柄を握り、目にも留まらぬ手数の二刀流で迫る触手を次々と正確に切り刻んでいく。その圧倒的な速度と無駄のない身のこなしに、背後で並行詠唱を行うレフィーヤは

(この人……本当にレベル2になりたてなの……!?)と、内心で強烈な武者震いを覚えていた。

魔力に反応してレフィーヤを執拗に狙うモンスターの特性に気付いたベルは自身も魔法を撃ち放つ。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

「む、無詠唱!?クライヴさんに続いて貴方まで!!」

 

ヘスティアファミリアの眷族はみんな無詠唱を覚えるファルナを授かるのか?と勘違いしかけるレフィーヤであったが(そもそもクライヴは魔法名すら滅多に口にしない)驚愕や罵倒してる暇も余裕も無かった。並行詠唱というのは本来並外れた集中力が必要であり、簡単なものでは無いのだ。

 

「ハアァ!来い僕が相手だ!!」

 

レフィーヤが後ろで叫んでいて、最近、あまり意識していなかったがやはり無詠唱というのは特別な魔法であるらしい。

同じファミリアのクライヴも平然として使用しているので、あまり気にしてなかったベルである。

 

「くぅ〜非常に腹立たしいですが、援護お願いします!」

 

「ご、ごめんなさい!──【ファイアボルト】!」

 

レフィーヤは悔しそうにしながらも今はベルに頼るしかないとお願いをする。

そんな会話中にも容赦なく攻撃を仕掛けてくる植物型モンスターにベルもまた直ぐに反応して応戦する。ヘスティアショートソードか『英雄昇火』で威力を底上げした【ファイアボルト】一撃で焼払えそうであるが、この閉鎖空間でそんな事をするのは危険極まりないのと動きが機敏なモンスターでもあるので中々隙も突けそうに無かった。

 

「【──穿て、必中の矢】」

 

「ベル・クラネル!…撃ちます!!」

 

「はい!!」

 

遂に詠唱が完成して、撃つ準備が整ったことを伝えるレフィーヤにベルも陽動のように、魔力に反応するモンスターへ注意を向けさせる。そんな所も上手く合わせるベルに複雑なレフィーヤであった。

 

「【アルクス・レイ】!!」

 

狭い空間でも追尾させる特性を持って命中させようと制御するレフィーヤであったが、敵の弱点と思われる器官部からよけられしまった。ベルも失敗かと思った瞬間。

 

「【光散(アリオ)】」

 

レフィーヤは避けられるのを前提で爆散鍵(スペルキー)を唱えて見事に命中させた。

 

『ギィシャアアアア』

 

ヴェネンテスは奇怪な声とともにしばらくのたうち回り、灰となっていった。

 

───

 

その後何とか二人がヴェネンテスを撃破して脱出したその頃、地上からの救出隊であるリュー・リオンが合流。

彼女たちの前に立ちはだかったのは、『イヴィルス』の残党兵たちだった。

 

「ヴェネンテスがやられたのか!?ヴィオラスたちを出せェッ!」

 

指揮官らしき男の命令から次は極彩色の植物型モンスターが複数体姿を現した。

 

「新種のモンスター?イヴィルスが調教(ティム)した存在か!!」

 

リューは驚きながらも、冷静に分析していく。

 

「あの方は…??…同胞!?」

 

レフィーヤは速さを持ってヴィオラスの群れに立ち向かう。リューの耳を見てエルフだと気付いたようだった。

 

「クラネルさん。何かと貴方は巻き込まれやすいようだ」

 

「す、すみません!リューさん!!」

 

「同胞の方!そのモンスターは魔力に反応します!魔法を使う時は気を付けて下さい!!」

 

「ロキファミリアの【千妖精(サウンドエルフ)】。助言感謝します。…ならば」

 

レフィーヤの助言に戦闘を切り替えて行く。だが、満身創痍と言えるベルとレフィーヤを見て、早期決着が望ましいと判断した彼女はそれでも詠唱を開始した。

 

「【今は遠き森の空──】」

 

リューは詠唱しながらでも当たり前のように攻撃、回避、防御と織り交ぜながら戦闘を継続していく。

 

(あの同胞の方、並行詠唱に慣れている!?そして、速い!!)

 

並行詠唱の速度と習熟した動きにレフィーヤは呆気に取られながらリューの戦いに見入っていた。

 

「【何物よりも疾(と)く走れ——星屑の光を宿し敵を討て】」

 

詠唱の完成。そして、風の魔法が撃ち放たれる。

 

「【ルミノス・ウィンド】!!」

 

風の魔力弾が幾重にも飛んでいき、ヴィオラスたちを次々と仕留めていく。その圧倒的な様にレフィーヤは感嘆としていた。ベルもまた美しさと強さを兼ね備えた動きに感動を覚えた。

 

「ヴィ、ヴィオラスがこうも簡単に…。貴様、何者だ!いや、待てその姿にその魔法と疾さ」

 

「貴様、【疾風】か!!」

 

「生憎、お前たちのような輩に名乗る名など今の私には無い」

 

リューが冷めた表情でイヴィルスの残党たちに言い放つだけであった。

そこからはリューによる対人戦闘へと移行した。イヴィルスたちも動きからして上級冒険者であるようであるが、リューは全く劣ることなく圧倒していく。

 

「クッここまで力の差が…」

 

「大人しくこの場で何をしていたか白状しなさい」

 

リューが聖樹から作られた木刀『アルヴス・ルミナ』を突き付けながら迫る。するとイヴィルスたちは何事か叫び始めた。

 

「神よ必ずや悲願の成就をーー!!」

 

「まさか!?」

 

不利と悟った残党兵が、周囲を巻き込んで火炎石による自爆を次々と図っていく。そして、最後の1人が自爆しようとしたその刹那。

シュウゥゥゥッ!と不気味な火の粉の残像と共に、灰色のマントを翻した男――クライヴが爆速でその場に乱入した。

 

「自爆など、させるか」

 

ロゴスの器の速度。

クライヴのインヴィクタスの一閃が、残党兵の腕を、そして火炎石に着火が届く前にその首を冷徹にへし折り、残った1人を『仕留めて』みせたのだ。

クライヴは、絶命した残党兵の懐から、クノッソスの扉の開閉に必要となる奇妙な宝玉――『ダイダロス・オーブ』を入手した。宝玉の中には『D』と書かれた眼球が収まっていた。

 

「これは奴らの重要なアイテムか何かか?」

 

「恐らくそのようですね。イヴィルスどもはここで何かをしていた」

 

クライヴとリューが思案する中でレフィーヤとベルが駆け寄ってくる。

 

「リューさん、クライヴさん助けて頂いてありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!同胞の方、クライヴさん!」

 

二人の感謝の言葉にリューは「お構いなく」と答え、

クライヴは「気にするな。大人の仕事だ」と答えた。

 

「さて、他の者は木っ端微塵だがコイツの死体から何か分かればよいがな…」

 

「あの…。それなら『開錠薬(ステイタス・シーフ)』があれば!」

 

「確かにそれなら、所属派閥、つまりどの神がイヴィルスの残党を率いてるか分かる」

 

「その『開錠薬』っての何なんですか?」

 

「簡単に言えば、その名の通り所属ファミリアを暴く薬です」

 

「そんな効果を持つものは簡単に手に入るものなのか?」

 

「いえ、一応禁制の品なので…簡単には手に入りません」

 

ベルの質問にレフィーヤが答え、クライヴの疑問にリューが答えた。

 

「クライヴさん、良かったらウチの団長にそのアイテムとイヴィルスの死体を報告しに一緒に来てくれませんか?」

 

その提案に答えようとした時に、茂みから音が聞こえた。

 

「レフィーヤ、ベル!!」

 

「「アイズさん!!」」

 

アイズが現れ顔を明るくする二人は同時に返事を返した。

 

「【剣姫】…」

 

アイズの登場にリューはもう大丈夫だろうと告げて早々に去っていった。

 

「リヴェリア、いたわ」

 

「わぁ、アルゴノゥト君もいる!クライヴさんもだ!」

 

その間にティオネ、ティオナも到着し、リヴェリアもやってきていた。

 

「ちょうど今、クライヴさんと団長の元へと話していた所です」

 

事情を話していくレフィーヤたちを察したのか、クライヴはベルをその輪から自然に遠ざけた。

 

「大丈夫だったかベル?」

 

「はい!何とか」

 

二人の雑談の後、リヴェリアたちはこの場に残り調査する事にした。ベル、クライヴ、レフィーヤはアイズの案内でフィンの所へと向かうのだった。

 

───

 

フィンがいるロキファミリアの天幕にクライヴ、アイズ、レフィーヤはやって来ていた。ヘスティアに報告と先にベルは休むようにと説得してこの場にはいない。

 

「イヴィルスの残党がこの階層の奥でね…事情はわかった。良くやったレフィーヤ、クライヴさん」

 

「だが、現状では『開錠薬』はない。そのアイテム何なのか分からないな」

 

フィンはさて、どうするかと呟いていた所へ天幕に入ってくる人物が二人。

 

「やぁ、話は聞かせて貰ったよ。何でもイヴィルスの情報を手にしたんだってね。俺たちにも共有してくれ」

 

「神ヘルメス…」

 

入ってきたのは、ヘルメスとアスフィであった。見張りも立たせていたが、この神の事だ。何でもありで入ってきたのだろうとフィンは諦めた。

 

「明確な情報が手に入れば共有はさせて頂きますよ。こちらとしても協力者は多い方がいいですからね」

 

「おや?つまりそんなに良い情報は無かったんだね?おお、もしかして、『開錠薬』が無いのかい?」

 

フィンのいい淀む返答に心当たりへ得たのか一際明るく話すヘルメスに怪訝な表情をフィンとレフィーヤは浮かべた。

アイズと無表情。クライヴは思案顔であった。

 

「こんな事もあろうかと!ってね。アスフィ」と言いながら、隣に控えていたアスフィのポケットから目当ての『開錠薬』を持ち出すヘルメス。

 

「随分と準備がよろしい事だね。神ヘルメス」

 

フィンはやはりこの神は食えないと思いながら、皮肉を込めた。もちろんヘルメスはそれを気付いているだろうが全く気にした様子もなく答える。

 

「まっ、仕事から常備してるからね。早速使って暴いて見ようか」

 

そういうとクライヴがおもむろに死体を見やすいように広げた。まだ新しい傷口はいずれも鮮やかに斬られた痕があった。

そして、ヘルメスが仕留めた残党の死体に塗布した瞬間、彼らの背中に刻まれた本来の神聖文字が浮かび上がる。

それを見たフィンたちは目を細めた。

 

「神タナトス…知らない名だ」

 

「…タナトスだったか。今の残党を率いているのは」

 

原作よりも遥かに早い段階で、イヴィルスの黒幕たる主神の影が、フィンたちの知るところとなった。

ヘルメスは彼のトレードマークの帽子のツバを下げながら、ポツリと答えた。

 

「タナトスは同郷の神でね。邪神などではなかったが…何か彼なりの考えがあるのだろう」

 

「何か知ってる情報はありますか?」

 

ここまで、黙り込んでいたレフィーヤが始めて口を開く。

 

「真面目な奴で、いわゆる仕事神っていう奴だったね。下界に降りてからの奴のことは会ったこともなく知らないけどね」

 

「そうですか、そんな方がどうして…」

 

「人も神も悠久の時を経て変わることもあるのかもしれないな」

 

「神は不変とも言うが、今の僕たちでは分からないことか…」

 

レフィーヤ、クライヴときてフィンの言葉を最後にイヴィルスを率いる神タナトスのことは締めくくられた。

 

「他に何か手がかりは無いのですか?」

 

今度はアスフィが口を開いた。

 

「あとはこれだな」とクライヴが先ほど手に入れた『D』の文字が入った。宝玉を見せてきた。

 

「これは眼球…。気味が悪いマジックアイテムですね。ですが、精巧に作られています」

 

「随分と悪趣味なものを作るアイテムメーカーが居るみたいだね」

 

覗き込むアスフィと共にヘルメスも先程とは打って変わって真面目な態度で感想をこぼした。

 

「何か分かるか?アンドロメダ殿」 

 

「いえ、何の用途かも分かりませんのでただ、特別なマジックアイテムである事ぐらいしか。…あと、何だか背中が痒くなるのでアスフィと呼んで貰えたらです。クライヴ・ロズフィールド」

 

「…そうか。それはすまない。次からはアスフィと呼ばせて貰おう。こちらは好きなように呼んでくれて構わない」

 

「稀代のアイテムメーカーの【万能者(ペルセウス)】でもお手上げか。ここまでのようだね。そのアイテムはクライヴさんが持っていてくれ。何か必要になったら譲ってくれるか貸してくれると有り難い」

 

「分かったそのようにしよう」

 

こうして、これ以上は手ががりが無いということで、話題が終わり解散となった。

最後までアイズは話すことはなかった──

 

───

 

数刻後、アンダーリゾートは朝を迎えていた。

神ヘルメスの不気味な唆し(ベルを英雄へと仕立て上げるための舞台装置)を受けた、リヴェラの街のゴロツキの中でも人目置かれているモルド・ラトローたちが動き出した。

彼らは裏をかき、一人で待機していた主神ヘスティアを強引に誘拐したのだ。

 

「神様――っ!!」

 

果し状を手に、平原の奥へと駆けつけたベルの前に、モルドが立ちはだかる。

モルドはヘルメスから与えられた『透明化の兜(ハデス・ヘッド)』を身に纏い、姿を完全に消してベルへの理不尽な精神的ヤキ、リンチを仕掛けようとした。

原作の歴史であれば、見えない攻撃に翻弄されてベルがボロボロにボコボコにされるはずの『悪意(ショー)』の舞台。

――だが、今のベルは違った。

 

「――そこだッ!!」

 

アイズとのあの地獄の早朝特訓を潜り抜けたベルの知覚能力は、モルドの透明化による空気の僅かな歪み、足音の違和感を、一瞬にして完璧に見切っていた。

 

「ぶふぇっ!?」

 

虚空に向けて放たれたベルの強烈な回し蹴りが、透明化していたモルドの顔面へ完璧な直撃となって炸裂した。

 

「な、何で見えてんだよオラァッ!」と慌てて姿を現し、武器を振り回すゴロツキどもに対し、レベル2の『赫灼の白兎(プロミネンス・ラビット)』の神速の連撃が容赦なく狂い咲く。

ヘスティアを人質に取られているハンデなど関係なかった。ベルはショートソードと短刀『灼牛』を抜くまでもなく、クライヴ直伝の体術と圧倒的な手数だけで、モルドたちリヴェラの荒くれ者を逆に完膚なきまでにボコボコに叩きのめし、地面へと這いつくばらせたのだ。

 

「う、嘘だろ……レベル2になりたてのガキが、なんでこんな……っ!」

 

地面に血を吐き、恐怖に顔を歪めるモルドたち。

形勢逆転され、なおも醜くモルドたちであったが、縛られていた。場所からリリたちの活躍もあり解放されて走ってきていた。

 

「――君たち、止めるんだッッ!!!」

 

ヘスティアの静かな怒りの声と共に、彼女の肉体から、ほんの僅かに下界の神の絶対のプレッシャー――『神威(しんい)』が解放されてしまった。

 

その瞬間、18階層の楽園の空気が、びりびりと引き裂かれるように激震した。

ダンジョンが神の存在を明確に察知し、防衛反を暴走させる。突然18階層が暗くなり、アンダーリゾートの時間帯を左右するクリスタル群の天井に黒い影が差した。

ズガァァァァァァンッッッッ!!!

天井から質量兵器の如く大着地を敢行した、巨大な人型の足跡。

その凄まじい着地衝撃の余波により、19階層の入り口であった『大樹』は木端微塵に粉砕され、地上へと続く唯一の連絡路も、絶望的な規模の破壊と大崩落によって完全に塞がれてしまった。

 

「な……っ、連絡路が、崩れて……消えた……!?」

 

モルドたちが腰を抜かして絶叫する。

一足先に地上へ向けて出発してしまったロキ・ファミリアの援護は、これで完全に絶たれた。

連絡路の崩壊により、18階層の冒険者たちは、完全なる『孤立』を強いられたのだ。

是が非でも、目の前の化け物を倒して生き残るしかない。

もう戻れない絶望の楽園の平原に、おぞましい黒紫色の魔力弾を滾らせ、異常な再生能力を宿した『漆黒のゴライアス』が、18階層の全冒険者を見下ろして地獄の咆哮(ハウル)を上げるのだった。

 




中々戦闘描写ってやはり難しいですね。
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