ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
良かったら読んでやってください。
月輪の旅立ちと放浪の聖騎士
オラリオの遥か外、大陸の果ての『秘境』とも呼ばれるような所に人間の文明から隔絶された古代の遺跡『エルソス』が存在した。
そこは今、ダンジョンの理の枠を超えて太古から大精霊たちの力で封印されていたはずの存在が地上へと進出してきていた。古代の怪物『アンタレス』。この秘境の地で封印されていた『
「ア、ァァ……アルテミス……様……っ!」
その冒険者たちのファミリアは『アルテミスファミリア』遥か昔からこの地の封印を管理していたファミリアでもある。 そんな彼女たちは突如として目覚めた怪物の猛威の前に、月の女神アルテミスの眷族たちは成す術もなく、一人、また一人と肉を裂かれ、無残に息絶えていく。
悲劇の連鎖。女神アルテミスがアンタレスの触手に囚われ、その肉体を取り込まれる直前――彼女は涙を流しながらも最期の力を振り絞り、自らの『純潔』だけを光の残像として切り離し、遙かオラリオの空へと向けて解き放ったのだった。
──
そのファミリア全滅の凄惨な血の匂いが立ち込めるエルソス遺跡の周辺。
世界の異変を察知し、極秘裏に現地へと先行潜入して調査を行っていた神ヘルメスと、その従者アスフィ・アル・アンドロメダの二人は、崩壊した神殿前の広場のような大地で立ちすくみ、その光景に完全に息を呑んでいた。
「……おや、おや。これは……驚いたな。オラリオの外に、こんな最高級の『化け物』が転がっているなんてね」
「ヘルメス様……あの男……! あの力は一体……っ!」
二人の視線の先。
無数に湧き出すアンタレスの不気味な眷属モンスターの群れを相手に、たった一人で立ち塞がっている男がいた。
白銀の洗練された鎧を纏い、白いマントを夜風に翻す、金髪の美しい聖騎士。その手には、下界のどの様式とも異なる、気高き意匠を凝らした一振りの長槍が握られていた。
「――ハッ!」
鋭い呼気と共に、男の肉体が重力を無視したかのように、爆発的な脚力で遥か上空へと跳躍した。
空中を飛び回る野良モンスターの群れに対し、男は空中で
それは至高の槍技。
ドズバァァァンッ!と一瞬にして野良モンスターの脳天を正確に撃ち抜き、肉片へと変える。そのまま垂直に落下した衝撃を利用し、地上の怪物どもの脳根を槍の石突きで完璧に叩き潰す。
押し寄せるアンタレスの眷属モンスターに対し、彼は長槍を右手に構え直すと、目にも留まらぬ速さで神速の連続刺突、レイピアの如き超速の突きを叩き込んだ。
キィィィン!と大気が悲鳴を上げるほどの鋭い手数が、怪物の装甲をハチの巣の如く穿ち、消滅させていく。
恩恵を持たぬ生身の肉体。だが、その失われた魔力を補って余りある、一国の最高戦力を率いてきた戦士としての『絶対的な技の完成度』が、下界のモンスターの物量を完全に圧倒していた。
ヘルメスは、その男の持つ規格外の『英雄の器』に底知れない笑みを浮かべた。
今回の、月を救うための壮大な「
ヘルメスはアスフィに指示を出し、その金髪の聖騎士の元へと歩み寄り、裏での密かなスカウトを始めるのだった。
──
時が少し経ち、オラリオの広場は未曾有の熱気に包まれていた。
年に一度の『神月祭』。
その中心ステージには、ヘルメス・ファミリアがエルソス遺跡から引き揚げてきたという、台座に深く突き刺さった巨大な槍――『神月の矢』が鎮座していた。
「ふんぬぅぅぅッ! ……くそっ、ビクともしねえ!」
いろんな冒険者が挑んでいくがみんな結果は変わらず。
「フィルヴィスさん!いっしょに!!」
「わ、私はこんな催しに興味など!!」
「せ「せ〜の!!」」
次はロキ・ファミリアのレフィーヤは最近仲良くしている『
「やはり私が汚れているからなんだな」と落ち込むフィルヴィスを「そんなことありません!!」と両手を包み込むようにして励ます。性格、見た目も異なれど美少女のエルフ二人に男性陣は癒やされ、そのあとは待ってましたばかりに第一級冒険者たちが参加していく。
「いっくよ〜〜!ぐぬぬぬ!抜けろ〜〜!!」
ティオナがバカ力で挑むも全く抜けず、逆に会場の床を軋ませ、姉のティオネに怒られた。
「……」
次にアイズは負けず嫌いな性格が災いして自身の魔法【エアリエル】を使いかけるが司会のヘルメスに魔法禁止!!
と止められ、乏しい表情にも分かる人には分かる落ち込みを見せていた。
そんな彼女を白髪の少年は可愛いと心の中で思っていた。
遂にと思われた第一級冒険者が次々と挑むも、神の石槍はピクリとも動かない。
「これ、本当に抜ける奴なんているのかよ?」と神々と冒険者たちが騒然とする中、ステージの袖には、ヘスティアの親友であり、三大処女神の一柱である月の女神『アルテミス』様が、その凛とした美しい姿を現していた。
アルテミス様は人混みの中にいる一人の白髪の少年を見つけると、吸い寄せられるようにその手を取り、ステージへと連れて行く。
「さあ、引いて。貴方が私のオリオンか?――」
「えっ、ええっ!?」
「おお、噂の『赫灼の白兎』か!」
「おやおや、これは噂のルーキーが会場に来てくれました!!」
ベルの登場に沸き立つ会場。ヘルメスも芝居がかった口調で場を更に盛り立てる。
『世界最速兎』としての認知度は伊達ではなかった。
会場の中ではフィルヴィスと共にいるレフィーヤが複雑な感情でベルを睨みつけ、ティオナはワクワクし、アイズはベルなら行けるのではと微笑んでいた。
心の中のチビアイズもまた、『うさぎさん頑張れ。応援!!』と横断幕を掲げていた。
そんなこんなと多くの者たちから見守られるベル。
そして、状況に戸惑いながらも、ベル・クラネルがその巨大な槍の柄へと両手をかけた、その瞬間だった。
カァァァァァッッ!!!
広場全体を昼間のように照らし出す、圧倒的な神聖なる光の柱が天を突いた。天の先には夜の世界を
ベルが力を込めた刹那、台座から『神月の矢』が、まるで主の元へと還るかのように、滑らかに、そして完璧に引き抜かれたのだ。
「抜けたァァァーーーッ!?」
瞬く間に盛り上がる会場。
そして、先ほどの青髪の女神は目尻に涙を浮かべながら走り出した。
「見つけた!」
「あれ?君はまさか!?アルテミスかい?アルテミスーー!!」
そんな中で槍を抜いたベルを褒め称えようとヘスティアが近づくと見覚えがある、青髪の女神『アルテミス』が駆け寄ってくるのが見えた。神友同士の感動の再会が起きたのだ。
そう思ったのも束の間。ヘスティアのハグをするりと抜け出しその隣のベル目掛けてアルテミスは突撃した。
「見つけた!私の『オリオン』!」
オラリオ中が驚愕に揺れる。
(そうか…槍は…運命は君を
ヘルメスは帽子のツバを下げて、密かにこれからの選択と行く末を憂いた。
普段は一番ハイテンションに褒め称える場面で、ヘルメスはそうすることは今回は出来そうに無かった。
世界は英雄を欲している。だが、今回はそれが英雄と言えるのかどうか。世界の命運が君にかかっていて、選択しなければならなくなった時、君はどうするのかな?
ベルは自らが女神アルテミスに選ばれた真の英雄『オリオン』であることを、望まぬ形で証明させられるのだった。
───
場所は変わり、深夜のヘスティア・ファミリアの廃教会の地祭壇。
古代の怪物アンタレスを討伐し、世界を救うという遠征の絶対の契約を交わすための儀式が執り行われていた。
「もう! アルテミス、ボクのベルくんにばっかりベタベタくっつくんじゃないよー!」
ヘスティアが猛烈にヤキモチを焼き、リリやヴェルフが呆れ半分で見守る中、
アルテミス様は真っ直ぐにベルの前に立ち、その美しい瞳で少年を見つめた。
そして、今回の命懸けの依頼契約の絶対の証明として、次々と契約の女神の指への口づけを交わす中でベルの指へと、優しく、神聖なる『誓いの口づけ』を逆に交わしたアルテミス。
「ひゃ、ひゃうあぁぁぁーーーっっ!?」と顔を爆発しそうなほど真っ赤にするベル。
「なんでベル君だけ逆なんだよ!!」
「何なんですかあの女神様は!!」
ヘスティアとリリが喚く中で、先日の完全顕現により進化した愛剣『フレイムタン』を黙々と磨いていた。一応、魔力を込めると『インヴィクタス』に戻すことも可能であった。
不思議なものだと思いつつも、元の世界で様々な大剣も使っていたので懐かしさも覚えていた。
そして、一通り騒いだことで静まり返った廃教会の緊迫した空気の中に、ギィィ……と、古い木扉が開く乾いた音が静かに響き渡った。
月明かりが差し込む教会の入り口。
そこに、白いマントを翻し、一振りの長槍を携えた金髪の聖騎士が、影を纏って静かに佇んでいた。
その男の姿を見た瞬間、静かに大剣『フレイムタン』を磨いていたクライヴの胸の『
「――……私のように、生きていたのか。ロズフィールド卿」
静かに口元を緩め、気高き、しかしどこか懐かしさに満ちた声で語りかける金髪の騎士。
クライヴは持っていた大剣を止め、驚愕にその紅蓮の瞳を見開いた。
「……ディオン・ルサージュ卿か!?」
「えっ……クライヴさんの、お知り合い……!?」
ベルやヘスティアたちが目を丸くする中、元の世界で志半ばで命を散らし、あるいは大切な約束を果たせぬままこの下界へと流れ着いた、二人の
失われたバハムートの光を取り戻し、月の女神アルテミス様を残酷な宿命から救い出すための、エルソス遺跡への壮大なる神月の旅路。その幕が、今ここに静かに上がろうとしていた。