ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか   作:巡理愛

22 / 26
良かったら読んでやってください


第22話:湖畔の狂騒と光竜の予兆

 

ヘスティアファミリアのホームである寂れた廃教会。

 

礼拝堂の隅で対峙する2人。

地下室の方では暖炉の火が静かにパチパチと爆ぜる中、クライヴは背中の大剣を台座へと置き、目の前に佇む金髪の聖騎士へと向き直っていた。

 

「……息災だったようだな、ルサージュ卿」

 

クライヴの言葉に、ディオンは少し寂しげに、しかしザンブレクの気高き誇りをその瞳に残して静かに微笑んだ。

 

「――ディオンで良いと言ったはずだ。ロズフィールド卿」

 

かつて元の世界で、命を賭して共に世界の理(アルテマ)へ立ち向かってくれた魂の戦友。その男の変わらぬ器を前に、クライヴもまた、深いリスペクトを込めて応じる。

 

「――確かにな。こちらもクライヴでよろしく頼む」

 

お互いに元の世界を救った後、大切な者との約束を残したままこの下界へ流れ着いた葛藤を静かに語り合い、大人の絆を改めて確かめ合う二人。

火のような鮮やかな赤色をしたステンドグラスを静かに見つめながら、クライヴは意を決したように、ずっと胸の奥で燻っていた『微かな希望』を、目の前の戦友へと問いかけた。

 

「――所でディオン……ジョシュアは、一緒には居なかったか?」

 

最愛の弟。

自らの命を賭して世界の理を書き換え、フェニックスの炎を託してくれた魂の半身。ディオンという奇跡の再会があったからこそ、願わずにはいられない祈りだった。

ディオンは月明かりの光に金髪を揺らしながら、静かに、しかし確かな温みを持って首を横に振った。

 

「いや、私が目覚めた時は一人であった。そなたとそうは変わらんだろう状況だ。……だが、気休めかもしれんが、ジョシュアもまたこの世界の何処かで、彼のことだ。勝手に大きな問題に対して一人で動いてるやも知れぬ」

 

「……フッ、あり得るな。ああ。本当に、あいつならそうだな。ありがとう、ディオン」

 

「礼など不要だ」

 

ディオンの無骨な気遣いに、クライヴは自嘲気味に、しかし心の底から救われたように口元を緩めた。 

そして、2人は人数的に少々狭い主神ヘスティアが待つ地下室に向かった。

 

「――では、始めようか。主神ヘスティア様、私にそなたの『ファミリアの証』を」

 

ディオンは美しい所作で静かに衣服を脱ぎ、白銀の引き締まった背中をヘスティアへと向けた。

ディオンは主神ヘスティアの神血を受け、ヘスティア・ファミリアへと正式に加入した。

背中に刻まれたファルナは、すべてが初期化された純潔なる【0】の数値だった。

 

【発展アビリティ】:なし

 

【魔法】:なし

 

【スキル】:『光の顕現者(ドミナント・オブ・ライト)』

 

※現在は完全顕現も半顕現も不可のため、ヘスティアの目にはスキル効果は白紙、あるいは機能していないように見える

 

「これがファルナというものか僅かだが力の胎動を感じる。感謝する神ヘスティア」

 

そう言って、またもや美しい所作で礼を言う彼の立ち振る舞いは正に貴公子といった所であった。

続いて、ヘスティアの手によってベルとクライヴの『ゴライアス連戦後』のステイタス更新が執り行われた。

あの漆黒のゴライアス戦におけるファイアボルトの連弾、そして最大出力の『英雄昇火(アルゴノゥト)』を黒剣に宿して消し飛ばしたこと。

何度もスキルを行使して疾走したことにより、ベルの魔力と敏捷は爆増。

さらに発展アビリティ【幸運】が『G』へとランクアップし、ヘスティアを大喜びさせる。

一方、クライヴの能力値の伸びはやはり『しわい』。

2体目のラージゴライアス戦において、本物のタイタンと戦ったわけでもないため、イフリート完全顕現による圧倒的な暴力で『ほぼ一方的にボコボコにして蹂躙しただけ』という理由により、ファルナの経験値としてはほとんど加算されなかったのだ。

 

───

 

翌朝。

ヘスティア・ファミリアの一行は、ヘルメスの手引きにより、オラリオの巨大な市壁の上から、ガネーシャ・ファミリアが調教したという小型ドラゴンの背へと乗り込んでいた。目的地は、古代の怪物アンタレスが眠るオラリオの外の地――『エルソス遺跡』

 

「もう! アルテミス、ボクのベルくんにばっかりベタベタくっつくんじゃないよー!」

 

「何処がいけないの、ヘスティア。オリオンは私のものよ」

 

純潔の女神たるアルテミスがあの天界でも男嫌いであり、恋愛というものも、いつも喧嘩ばかりしていたと(・)あ(・)る(・)女(・)神(・)から聞いたことしかなく、不純異性交友(アンチ)の絶対者がベルにぴったりと引っ付いて愛を囁き、ヘスティアが飛竜の上でギャーギャーと大騒ぎする賑やかな空中遠征。

その足元で、リズンが風を浴びて「きゅぅ!」と楽しそうにパタパタと羽を揺らしていた。

数日間の飛行の末、遠征軍はエルソス遺跡に近い、美しい青の湖畔が広がる広大な森へと到着し、野営の準備を開始した。

 

───

 

その少し離れた別の湖畔の草陰では、ヘルメス・ファミリアのアスフィを筆頭にした女性陣、そしてアルテミス様が水浴びをしていることを察知したヘルメスが、最悪な悪だくみの笑みを浮かべていた。

 

「おいおい、男としてこれを逃す手はないだろぉ? ヴェルフくん、ヘルメス・ファミリアの諸君! 男の義務って奴を果たしに行こうじゃないか!」

 

夜の野営地の一角で男たちを集めて、演説をするヘルメスがそこにはいた。

 

「いいかい…みんな。これは単なる覗きではない──『聖戦(ジハード)』だ!」

 

「ジハード、だと……!?」

 

そんな演説を聞く一人にヴェルフもおり、驚愕の表情を浮かべていた。

 

「そうだ。神の仕組んだ大いなる試練、男たちが超えねばならない大いなる壁!」

 

ヘルメスの演説は更に熱がこもっていく。

 

「向こうには、女神たちの、そして、乙女たちの、眩き神秘が待っているのだよ……!」

 

ボルテージは最高潮に達する。

 

「恐れるな、進むのだ!我が同胞(はらかた)たちよ!!」

 

「「「おおおおおおおおお!!!」」」

 

集いし男たちの図太い閧の声が轟く。

この演説に、最初は困惑していたヴェルフやヘルメスファミリアの男たちも次第に「おおおおお!」と熱狂し、ヘルメスを先頭に岩肌を全力で駆け上がって突撃していく。

 

「勇者たちよ!我に続け!!」

 

ヘルメスに唆され、半ば強引に巻き込まれる形で『覗き(決死の偵察部隊)』として赤面しながら駆け抜けていくヴェルフと、ヘルメス・ファミリアの野郎ども。

だが、そんな男たちの阿呆な狂騒(ギャグ)を、夜の森の深い影から、腕を組んで冷徹に見下ろしている二人の大人の姿があった。クライヴとディオンである。

二人の胸には、元の世界で帰りを待つ最愛の人の姿が常にあり、そんな下俗な誘惑に揺らぐはずもなかった。

ディオンは、草叢を匍匐前進で進んでいき、その後、岩肌を全力で駆け上がって突撃するヘルメスたちの姿を訝しげに睨みつけ、静かに声を漏らした。

 

「……あの神ヘルメスは賑やかなこともやるのだな? てっきり謀略に長けた神と思っていたが……」

 

その言葉に、小さく出した『ファイア』の火でマントの煤を払いながら、クライヴが深く同意するように頷いた。

 

「……くえない神ということだろう、神ヘルメスはな。洞察力は確かだと思っているが、どんな思惑があるか分からない。油断出来ない相手だ」

 

二人の大人が冷徹な分析を交わした、まさにその直後だった。

 

「――死になさいッ!!」

 

水浴びの場からアスフィの完璧な対空探知マジックアイテムの防壁、そして、激怒した女性陣の爆破魔法が容赦なく炸裂した。

ドゴォォォォォンッッッッ!!!

 

「ギャァァァーーーッ!?」

 

夜の森に凄まじい爆発音が響き渡り、「男の義務」を果たそうとしたヘルメスやヴェルフ、野郎ども全員がまとめて特大の煙を上げて吹き飛ばされ、白目を剥いて消し炭になりながら地面へと派手に転がっていった。

クライヴとディオンは、その様子を哀れみの目すら向けず、ただ無言で静観するのだった。

 

───

 

一方その頃、ベルは18階層の時のヘルメスの悪巧みの事もあり、クライヴ、ディオンと同じく『聖戦』には参加していなかった。夜が更けた森を一人歩くベル。

 

「誰だ!!」

 

物陰からの人の物音に素早く反応したアルテミスは問いかける。

 

「す、すみませんアルテミス様、覗くつもりは全く無かったです!!」

 

慌てた様に出てきたベルが18階層でのリューとの遭遇を思い出しながら素直に謝罪する。

 

「…なんだオリオンか。少し待ってもらえるか」

 

そういった彼女は水浴びを終えて、服を着替えて出てきた。先ほどまでの狩人の戦闘衣装でなく、シンプルな白色のワンピースを思わせる服を着ていた。

 

「ここの湖畔はキレイだ。少し歩かないかオリオン?」

 

「確かにきれいですね。アルテミス様も似合ってます!」

 

「そう言って貰えて嬉しいぞ。では、行こうオリオン!!」

 

ベルとアルテミスは二人きりで静かに湖畔を歩き、一万年の恋の約束を予感させる、切なくも美しいロマンチックなひとときを過ごしていた。

 

「散歩は好きかオリオン?」

 

「そうですね。こんな風に夜歩くことは少なかったですが、僕の生まれ育った村はとても田舎だったのでお散歩は良くしてましたよ」

 

「オリオンはどんな幼少を過ごしたんだ?」

 

「育ての親はおじいちゃんでした。元気の良い方でした」

 

全ての言い回しが過去形なのを察したか。アルテミスは少し気づかわしげに上を向いて星空を眺めながら、静かに呟いた。

 

「良いおじいさんだったんだな」

 

「はい!他にはぼんやりであんまり覚えてないのですが、黄金の麦畑をお散歩したのを何となく覚えてます」

 

ベルもまた釣られて上を向きながら、当時のぼんやりとした光景を思い浮かべながら静かに答えた。

湖畔での散歩は静けさと神秘が良く似合う一時であった。

 

「麦畑かこことはまた違う良い景色に思うな」

 

「今度、季節になったら里帰り次いでに久しぶりに見てみたいかもです。その時はアルテミス様も行きませんか?」

 

ベルの問いかけに相変わらず、星空を見ながら少し前を歩き始め表情が伺いしれないアルテミス様は少しだけしんみりととした雰囲気で明るくも感じる声で答えた。

 

「そうだな。それも良いな」

 

そして、振り返ったアルテミス様は神秘的でとても美しかった。

 

「オリオン。良かったら踊らないか?」

 

「踊りですか?やったことはないですがどうすれば?」

 

彼女の誘いに戸惑いながら質問を返すベルにアルテミスは嬉しそうに答える。

 

「実は私もそんなに分からない。狩りばかりの生活だったからな。下界の子供たちや喧嘩ばかりしていた神友から聞いてはいたから今、やってみたかった」

 

「では、僕で良ければお互い良くわからないので上手くは出来ないかもですね」

 

かつての事を想い馳せながら嬉しそうに語るアルテミスにベルは苦笑しながらもやってみることにした。

ぎこちなくお互いが肩を寄せ合い、手を控えめに繋ぎながらお互いの動きと同じ動きで左右に動き始める。

お互いの顔はほのかに赤い。それでも、静けさと心地よさに身を委ねた息の合ったリズム感は様になっていた。

ゆっくりとゆっくりとお互いを確かめるようにリズムを踏んだ。

ずっと続くのでは無いかと思えるほど穏やかな温かい、心がきっと通い合ったひと時がそこにはあった。

 

「そろそろ終わりにしようか。名残惜しいが明日もあるからな」

 

「そうですね。何となく様になって良かったです」

 

「私もだよオリオン!」

 

二人は踊るの辞めて、元来た道を引き返し始めた。ただ、来たときよりお互いの距離も近く、少しだけ手を繋ぎながら、歩く速さもゆっくりと歩みながら戻っていく。

そんな二人を美(・)し(・)い(・)満月の月明かりが照らし出していた。

ベルは必ずやどれだけ強大な古のモンスターであろうと『アンタレス』を討とうと決意を新たにしたのだった。

アルテミスとまたこうやって過ごせるようにと願いながら。

 

───

 

ギャグの喧騒が静まり返り、ベルとアルテミスのロマンチックなひとときも過ぎた夜の静寂が戻った深夜。

クライヴとディオンはみなに迷惑にはならないようにと随分奥地まで行って見つけたこじんまりとした平原で対峙していた。どちらからともなく軽く手合わせしようと言うことになった。正直にお互いの実力に見合った実力者がこの世界ではとても限られている。ただ、それは元の世界でも似たようなものであったが。

見合う二人は同時に動き出した。大剣と長槍のぶつかり合い。

クライヴは新しく変化した『フレイムタン』を振るい。ディオンは愛用する『ザンブレクの竜騎士槍(聖竜騎士団長仕様)』を振り回した。

互いの獲物がぶつかり合う甲高い金属音。お互いの戦いを知る者同士。そう簡単には拮抗は崩れず、ぶつかり合うこと数十合。

 

「腕はなまってはないらしいなクライヴ」

 

「そちらもだなディオン」

 

ここで二人は手合わせが始まってから初の言葉を発した。

実際の所、この二人は手合わせも元世界に居た頃はそんなに頻繁にあったわけでもない。それでもお互いの動きや考えが分かる。だから、力量も推し測れた。

ここでディオンが仕掛た。ザンブレクの竜騎士が得意とする『ジャンプ』垂直落下からの強烈な刺し落としだ。

 

「──ハッ!!」

 

「厄介…だな!!」

 

クライヴも得意の『ライジングフレイム』で落下に合わせて炎を纏った大剣で斬り上げた。

一方でいつも輝かしい光を纏う長槍のディオンの槍は光を纏うことはなくそこが決定打であった。

大剣と長槍の凄まじい衝突で衝撃波が周囲の草木を揺らした。

 

「ディオン…やはりか」

 

「ああ、今の私にはザンブレクの誇り。…聖竜の光はない」

 

お互いのその言葉で勝敗は決した。

お互いが亡国の元身分ある身であったということもあり、クライヴは力強い所作で、ディオンは美しい所作で一礼して手合わせは終わりを迎えた。

武器やバトルスタイルの相性もあると思うが何の力も行使しなければお互いの力はほぼ互角と言えるような状態である。

恐らく、ファルナとの親和性は信仰心が高いディオンの方が良いと思われた。

そこからクライヴは、湖畔のさらに奥深く、手合わせを行った平原の近くの鬱蒼とした大樹の根元から漂う『不自然なエーテルの乱れ』を、自身の『神造器神の残滓(ロゴス・ヴェステージ)』で鋭く感知し、歩みを進めていた。

古い大樹の根の隙間。

そこに隠されるようにして佇んでいたのは、白銀の眩い光を静かに明滅させている、これまでのガルーダの時とは違う――『白に輝く、クロノスの石塔』だった。

その石塔の光を見た瞬間、クライヴの隣を歩いていたディオンが、ハッと自身の胸元を押さえた。

ファルナを授かったばかりの彼の背中の『光の顕現者(ドミナント・オブ・ライト)』の刻印が、呼び合わされるようにピきりと熱く、激しく共鳴を起こしたのだ。

 

「……そこか。ディオン、お前の失われた“光”は、あの石の奥で貴公を待っているぞ」

 

「……あの者の最終決戦で使い果たしたはずの我が力が、この世界の理の中で、私を呼んでいるというのか……」

 

ディオンの瞳に、聖騎士としての確かな闘志の火が灯る。

クライヴが静かに石塔の表面へと手をかけ、かつての戦友を完全復活させるための、『光竜の試練』への絶対的なカウントダウンが始まったところで幕が下りた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。