ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
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白に輝く『クロノスの石塔』に手を触れた瞬間、クライヴの意識は眩い光の奔流に呑まれ、雲海の広がる白銀の精神世界へと引き込まれていた。
前方にそびえ立つ空間の奥。そこに鎮座していたのは、かつて世界の頂点で激突した、あまりにも巨大な絶対強者――召喚獣『バハムート』の上半身の幻影だった。
しかし、その光の巨体は幾重もの不気味な黒い鎖によってがんじがらめに縛り付けられており、身動きが取れない状態にある。
「ルサージュ卿の力を解放するには、まずあの鎖を断ち切る必要があるということか……!」
ガアァァァッ!と咆哮を上げ、クライヴの周囲に元の世界の『アカシア・アカドラゴ』や竜種の怪物の群れが無限に湧き出し、牙を剥いた。
クライヴは一人、フレイムタンを両手で握り締め、殺到する竜の群れへと突撃を開始した。
先ずは手数を増やせる『ガルーダスタイル』で臨むクライヴ。
「ガルーダ!!」
『ガウジ』の超高速連撃が竜の鱗を切り刻み、『ウィキッドホイール』の回転斬撃が空中の群れを一網打尽にする。バハムートが時折、鎖に縛られながらもクライヴに向けて放つ、光の奔流『メガフレア』の精密な狙撃。
「フェニックス!!」
クライヴはそれを『フェニックススタイル』に瞬時に切り替えて、フェニックスシフトで完璧に回避し、『ライジングフレイム』で周囲の雑魚を各個撃破していった。
一匹、また一匹とドラゴンを討ち倒すたび、バハムートを縛る黒い鎖がパキィィンと音を立てて解き放たれていく。
次はと身構える中、より多くの強大な力を持つドラゴンが次々と現れる。
「イフリート!!」
『イフリートスタイル』に切り替えて『ウィル・オ・ウィクス』で攻防一体の火球を展開させる。そこらの『イグニッション』で小型ドラゴンモンスターを蹴散らす。
「大分減らしたが、まだまだ多いな!!」
残す、中型、大型のドラゴンたちはバハムートの咆哮とともに動きが活発となる。
ブレスや火球をかいくぐるクライヴだが、流石に多すぎたので、視覚からの一撃、二撃と被弾が増えていく。
そして、狙い澄ました『メガフレア』と相手のドラゴンを撃破していく度に出てくる竜たちも強い個体が増えていく。
正にドラゴンラッシュといえる試練であった。数多のドラゴンを屠り続けて、竜の王たる『バハムート』を解放する。
これはそんな試練だった。
「これ以上はやらせるか!!バハムート!待っていろ!!」
「ハァアアアア!!」
『リミットブレイク』を発動する。クライヴは底上げされた己の能力を思う存分、縦横無尽に振るい出していく。
『フェニックスシフト』も移動距離も速さも別格となり、次々とドラゴンたちを斬り伏せる。『ライジングフレイム』も炎を纏わせた拳一つで中型ドラゴンの顔面を砕き燃やし尽くしていく。
その勢いのままに、空中から斬撃の嵐で隣のドラゴンを焼き殺した。着地と同時に『イグニッション』による、渦巻く炎の槍と成りて、纏めて3体の中型ドラゴンを抉り穿ち、撃破した。
ブレスを吐こうとする個体には容赦なく『ファイラ』の連弾を浴びせて『フェニックスシフト』の一閃で首を落とした。
倒れ込む様を見届けることなく、次の標的にも『ファイラ』を浴びせて接近。『アビリティ』を使うことなく剣技のみで撃破。
残りは2体の大型種のみ。洗礼とばかりに2体の大型種とバハムートの同時ブレスに炎を纏わせた『フレイムタン』で強引に横一文字斬りで受け流す。
流石に無茶が過ぎたか、バハムートの『メガフレア』は受け流しきれずに被弾を重ねた。
「グゥウウ…クソ!!」
片膝を付き、息を切らすクライヴは闘志が下がるどころか更に燃え上がらせた。
剣を突き立て立ち上がり、2体の大型種と最奥に未だ鎖で囚われたバハムートを鋭く見据え、駆け抜ける。もう一度だと。
「ガルーダ!!」
その叫びと共に、狙いを定めた大型ドラゴンへ『ガルーダストライク』で掴みかかり、藻掻いて抵抗されるも強引にねじ伏せ、炎を纏った『ガウジ』で猛禽類の鉤爪を思わせる炎の爪撃をお見舞いして
隣の大型ドラゴンがお構いなくでのブレスを撃ち放つが『リミットブレイク』状態の怪力を持って倒れ付す、ドラゴンを『ライジングフレイム』で持ち上げてそのままブレスの盾とするクライヴ。
竜鱗を剥がされて肉がズタズタになったその個体はブレスに焼かれた絶叫を上げる
『ギャオオオオ』
ブレスで背中からまる焦げになったドラゴンの胸の急所へフレイムタンの切っ先を突き立て胸から大量の血を噴出させながら息の根を止めた。
そして、残すこと最後の大型竜へと駆けていく。
リミットブレイクの発動限界時間が迫っていることを肌で感じながらも迷いは無かった。バックステップをしながら両の翼で突風を巻き起こすドラゴンに完全に上空へと行かせんと『イグニッション』で追撃していくクライヴ。ブレスを放つ最後のドラゴンにそのブレスよりも早く懐に潜り込んだクライヴはドラゴンの脇腹を抉っていく。
『グオオオオ』
苦悶の声を上げるドラゴンへ抉った傷口へ手を押し当て『ファイラ』を肉の内側へと流し込んでいく。内蔵を焼かれたドラゴンは藻掻き苦しみ、これまた絶叫をあげるが、それを聞き届ける暇もなく、その傷口に『フレイムタン』を突き立て『ライジングフレイム』による斬り上げからの『ウィキッドホイール』による斬りおろし。同じ傷口に何度も傷を与えた。
ダメージに耐えかねたドラゴンがクライヴに掴みかかるが『フェニックスシフト』で避ける。何度も掴みかかり地面を抉る爪撃に全てを見切ったクライヴは顎に向けて炎を纏った拳でアッパーで脳みそを揺らされたドラゴンにそのまま飛び乗り、ディオンが得意の『ジャンプ』の如く飛び上がりドラゴンの脳天目掛けて炎を纏った『フレイムタン』を一直線に突き刺した。
直後に『リミットブレイク』は解除され、大粒の汗を振りまき、荒い息を吐くクライヴ。
しばらく藻掻いたドラゴンもやがて眼から光を失い力尽きて地面へと倒れ込んで消滅し、それと同時にクライヴも着地、大剣に着いた血を拭うように剣を振るって、バハムートの方を見た。
そして、その瞬間、すべての鎖が粉々に砕け散っていく。
「オォォォォォォォオオォォッッ!!!」
自由を得たバハムートが天高く飛び立ち、精神世界の全天を白銀の光で染め上げるほどの咆哮を上げる。
それは、主の力を取り戻した光竜の、クライヴへの最後にして最大の『力試し』。
遥か上空から、視界のすべてを焼き尽くさんばかりの真の『テラフレア』の光雨が降り注ごうとしていた。クライヴもまた、魂の底の地獄の炎を全開で解き放ち、イフリートへと完全顕現。
「イフリートォオオオオ!!」
紅蓮の『地獄の火炎』の極大獄炎を発動し、両手で溜め込んだ極大火球にて上空からの光の豪雨を真っ向から迎え撃つ。
「ォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ハァアアアアアアアアアアアア!!!」
精神世界全体が爆炎と閃光で消し飛ぶほどのすさまじい激突を起こした。
爆炎が晴れた空から、バハムートが静かにクライヴの前に舞い降りる。
光竜はかつての戦友へ向け、威厳に満ちた深い眼差しと、確かな感謝を伝えるかのような静かな咆哮を一つ残し、光の火の粉となってクライヴの肉体へと融け込んでいった。
「バハムート。お前もまた主であり半身を呼びながら待っていたんだな。……任せてくれ」
試練クリア──
それと同時に、現実世界で待つディオンの背中の『光の顕現者』の感覚が完全に解除され、彼の肉体にかつての「聖騎士」としての真の力が全開で呼び覚まされるのだった。
現実世界へと意識が戻る。
「戻ったか…感謝するぞクライヴ」
「礼など不要だ…と言わせて貰おう」
ディオンと静かに拳を交わしたクライヴは、再びベルたちの遠征隊へと合流するのだった。
───
試練から翌日。
一行はエルソス遺跡の手前、平原一帯を埋め尽くすアンタレスの不気味な眷属モンスターの大群と対峙していた。
「――っ、ダメよオリオン! その槍をそんな風に使ってはダメ!」
あまりの敵の物量に焦ったベルが、ヘスティアショートソードなどでは距離的に無理があり【ファイアボルト】もアルテミス様を巻き込み兼ねないと手にした『オリオンの矢』を大群に向けて力任せにぶん投げた。
その力は瞬く間に広がりアンタレスの眷属モンスターたちの包囲網に穴は開けることは出来たが、殲滅には至らなかった。クライヴや他の者たちも応戦する中でベルが眷属モンスターたちへ突っ込もうとしたその瞬間だった。
アルテミス様の制止の声をも置き去りにして、遥か上空の雲海を割って、一条の白銀の閃光が戦場へと突き刺さった。
ドズゥゥゥンッッ!!!
すさまじい衝撃波が平原の土を跳ね上げ、アンタレスの眷属数十匹を一瞬にして消し炭に変える。
土煙の向こう側。
突き刺さった長槍を引き抜き、白いマントを夜風に翻して不敵に微笑んだのは、白銀の鎧を纏った金髪の聖騎士――ディオンだった。
その手の中で、彼の愛槍『ザンブレクの竜騎士槍(聖竜騎士団長仕様)』が、かつてないほどの清冽な白銀の光を放って脈動している。
「――槍とはこのように使うのだ、少年!!」
「ディオン……さん……っ!?」
ベルが目を丸くする中、ディオンの肉体が地を爆ぜさせた。
バハムートのアビリティは一切使わない。
ただ純粋な、力を取り戻して極限まで軽くなった自らの肉体と、至高の槍術だけによる、あまりにも華麗で圧倒的な無双劇。
ディオンの長槍が、目にも留まらぬ速度の連続刺突となって空間を埋め尽くした。シュババババッ!と鋭い風切り音が響くたび、アンタレスの眷属たちの急所が寸分の狂いもなく正確に一突きで穿たれ、塵となって消滅していく。
「す、すごい!」
「動きのキレを取り戻したようだなディオン」
ベルが驚愕して、クライヴが笑みを浮かべる中、襲いかかる複数の怪物の爪撃を、ディオンは槍の柄で流れるように受け流し、その勢いのまま身体を反転させて鋭い一閃で敵の胴体を真っ二つに両断する。
重力を完全に無視したかのような、洗練された竜騎士の立体機動。
「動きの軽さが俺たちとは比べ物にならねぇな」
「ディオン様の動きがリリには速すぎて見えません」
ヴェルフとリリもまた、ディオンの軽く鮮やかな槍捌きに魅入られていた。
ディオンは地面を滑るように移動し、跳躍し、空中から彗星の如き急降下突きを繰り出して、平原の戦場をたった一人で瞬く間に完全な更地へと変えてみせたのだ。
「ふぅ……。なるほど、この世界の魔力はあの禍々しいクリスタルに由来しない。これほど力を振るっても、身体にあの『石化』の重税が一切かからんとはな」
ディオンは息一つ乱さず、ザンブレクの竜騎士槍を美しく一回転させて背中へと収めた。
失われた光竜の力を完全に取り戻し、本来の気高き佇まいを取り戻した不壊の聖騎士。
ベルが投げた『オリオンの矢』を回収するため、地面に突き刺さったままのそれに触れようとした瞬間、見えない強烈な力が働いたかのように触れることも出来なかった。
「む?…まさか私の手を拒むような槍がこの世に存在するとはな。よほど持ち主を選ぶものとお見受けする。神に選ばれたとはこれほどまでに力が働くのだな…」
その後、ベルが槍を回収して改めてアルテミスに注意されるのだった。
戦いが一段落して、一行は最後の野営の準備をしていた。
流石にみんな慣れたものでテキパキと準備している。
ここら一帯となると、眷属モンスターに襲われたのか荒れ果てた土地が大なり小なり見かけるようになっていた。
「いよいよ、決戦は近いようだな…」
「そのようだな、先ほどの動き見違えたよ──」
2人の大人はまた他の者たちとは離れしばしの会話をしていた。
「身体が元の世界よりも軽い。身体を蝕むあの感覚もない。清浄と言えばよいのかエーテルの質が違うと感じる。ファルナというものを受けよりそれを実感した」
「この世界にあるダンジョンでは清浄と淀みが入り混じった感覚であるが、外の世界は確かに澄んでいる」
エーテル(魔力)の違いをドミナントとしてお互いが感じていることは同じのようであった。
「クライヴ、神に選ばれるというのは良いも悪いもなく、抗えない。抗う、抗がわないことすらも理が働くかのようだった。先ほどの少年。ベル・クラネルと言ったか。彼は選ばれ運命に対峙しようとしている。そなたもヴァリスゼアでそうだったのだろう?」
「ああ…それでも俺は人が人として生きられる世界があると信じて、抗い続けた。そして、今はこの世界にて生きている。ならばまた歩む道に理が立ちはばかるというのなら俺は抗がい続ける。どれほど困難な道でも。ベルのことで言えばアイツがこの世界でいう『英雄』というものを追い求め続けるのなら、彼の道を俺も共に切り拓いてやりたいとそう思っている」
ディオンが神妙な面持ちで神と理について思うことを話す傍らでベルについてとクライヴのヴァリスゼアでの苦難を気にかけていた。
そんなディオンに対して、クライヴの今も変わらぬ想いとベルに対する心情を想い馳せるように語った。
「ずいぶんと少年…ベルのことを買っているようだな?」
「この世界にきて、露頭に迷っていた俺に手を差し出してくれた少年だ。恩を返したいというのもある。ヘスティアに対してもだが。そして、彼の目は決して折れない力強い抗う者の目をしていると思った。つまり、俺に似た気がして勝手ながら共感して応援したくなったのさ」
ディオンの問いかけにクライヴは苦笑気味にこれまでの出会いから今を思いながら、自分自身にも何故、ベルに肩入れするのかと内観して答えることが出来た。
「そういうことか…ならば私も
「改めてありがとうディオン」
「こちらこそだクライヴ」
2人はお互い大人ならではな輝きではない渋い微笑を浮かべた。
「話は変わるがディオンはヴァリスゼアに戻る
「…ああ、こちらの世界で様々な出会いや別れが待っていようとも、例え名残惜しくなろうともザンブレクのこともある。そして、何よりテランスが待っている」
一度目を閉じて開いた瞳は芯が通り、迷いなどなく答えたディオン。
「クライヴは今後のこともある。あのベルという少年の未来を案ずるなら複雑さもあるか?」
「それはもちろんある。それでも俺も術が見つかれば帰るだろうな。隠れ家の者たち、トルガル、そして…」
「『シヴァ』のドミナント、名前はたしかジル・ワーリックだったかそなたの想い人だろう?」
クライヴの言葉を引き継ぎ、想い人の名前をディオンが出した時確かにクライヴは愛する者に想い馳せる表情を浮かべて答えた。
「ああ、そうだ。そして、もしジョシュアもこの世界の何処かで生きてるなら共に帰りたい。俺たち自身あの戦いで生きていてこの世界にやって来てるのは何かあるからだと思いたい」
「ならばこの世界の者たちが言うところの『冒険』をしなくてはな」
二人は先ほどの渋い微笑と違い確かな希望を持った笑顔浮かべて話を締めくくった。
二人は野営地に戻り、ヘスティアが居らずであったがその後、ステイタス更新を受けたクライヴとディオンは試練を経て、クライヴとディオンの二人の基本アビリティは一律【オールD:500】の評価へと同時に跳ね上がっていた。
全ては、この旅の終着点で待つ古代の怪物『アンタレス』を撃破し、二人同時にさらなる高みへランクアップを果たすための、絶対的な決戦の準備が整った瞬間だった――