ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
オラリオの遥か外、不気味な黒紫色のエーテルに侵食された古代の遺跡『エルソス』。
その薄暗い迷宮の入り口で、無数に湧き出すアンタレスの眷属モンスターに包囲されていたベルたちの前に、元『疾風』のリュー・リオンが鮮やかに合流を果たした。
「――クラネルさん、遅れてすみません! アンドロメダ、援護を!」
「ええ、助かります!リオン!」
「リューさん!!」
しかし、リューやアスフィたちの的確な連携を必要とすらしないほどの、圧倒的な「暴力」が戦場を支配していた。
前線を爆走するのは、18階層でイフリートの完全掌握を成し遂げ、その炎の親和性によって愛剣を『フレイムタン』へと進化させたクライヴ・ロズフィールド。そして、白銀の竜騎士槍を携えたディオン・ルサージュの二人のドミナントだった。
「――そこを退け。……『フェニックスシフト』!」
クライヴが赤い残像となって空間を飛び越え、炎を纏うフレイムタンの一閃で一列の怪物を両断。
「…次!」
そのまま地を叩き、激しい炎の柱を突き上げる『ライジングフレイム』で斬り上げる。
「前へ出るぞ!ディオンたのむ!!」
さらにイフリートの『ウィル・オ・ウィクス』の火の玉を周囲に旋回させ、群がる雑魚を一切無視して肉肉しく焼き尽くし、超高速突撃『イグニッション』で防衛線を強引に抉り開けていく。
「――光の理よ、我が槍の軌道となれ!『フレア』!」
ディオンの放った清冽な光の魔球が爆発し、怪物の群れを跡形もなく消し飛ばす。
「我がザンブレクの竜槍術をくらうがいい、不浄なる蠍ども!!」
そのまま重力を無視して遙か天井へと跳躍する『ジャンプ』。
上空から流星の如き速度で急降下し、無数の光の残光の槍を地上の怪物の脳根へと正確に突き刺す至高の絶技――『ミラージュダイブ』。
「ガルーダ!!」
ガルーダの神速の連撃『ガウジ』や『ガルーダストライク』をも織り交ぜた、下界のファルナの枠に囚われない二人の大人の「完璧な並行波状攻撃」。
「ロズフィールドさんは変わらず圧倒的な炎ですね…隣の方は誰なのですか?アンドロメダ?」
「あの方はロズフィールドさんの旧知の仲だと聞いてますが…はじめはこの遺跡近くで恩恵なしで孤軍奮闘されてるのをヘルメス様がスカウトされて、今はヘスティア・ファミリアです」
「そうでしたか。どちらも第一級冒険者並の強さだ。頼もしい限りだ」
通常であれば大苦戦を強いられるはずの遺跡のトラップや物量を、二人は魔法と槍術の嵐で文字通り塵一つ残さず蹂躙・更地へと変えていき、原作の歴史を大幅に前倒しした爆速で、最深部の結晶の間へと到達するのだった。
───
「……何、あれ……っ」
たどり着いた最深部の巨大な結晶の間。
そこでベルたちが目撃したのは、目を背けたくなるような残酷な現実だった。
アルテミス・ファミリアを全滅させた古代の怪物『アンタレス』。
その禍々しい胸の魔石の中央に、本物のアルテミス様が完全に囚われ、一体化させられていたのだ。
そして、早く到着しすぎたがゆえの、最悪の『デメリット』が遠征隊を襲う。
原作の歴史であれば、アンタレスは
しかし今回は、クライヴたちの爆速の進軍に危機感を覚えたため、その砲撃を完全に中止。
『その場にいるベルたちを確実に殺害するため』だけに、その強大な戦力の100%を差し向けてきたのだ。
全身からどす黒い『アルテマの残滓』をギラつかせ、かつてないプレッシャーを放つ、完全な『最強状態のアンタレス』。
『シ、シャアァァァッッ!!!』
『闇よ覆え。深淵より見えたる闇。覗きし者に現れし闇。有を生み、無へと帰す。無が迎え、有へと成らん。統べる我が名は
ヴェルフが怒号と共に引き抜いた大剣。
ベルから借り受けた『フレイム・オックス』の一撃、そしてリューの放った風の広域魔法『ルミノス・ウィンド』。
「な、なんだ!?すり抜けた!?」
「物理攻撃が聞かないのならば!!【──星屑の光宿し敵を討て】!!」
「【ルミノス・ウィンド】!!」
「チッ!魔法もダメか!!なんと無法な!!」
しかし、アンタレスが空間を歪めて放った闇の穴が、それらの物理・魔法のすべてを完全に無効化して亜空間へと消し去ってしまう。
ヴェルフが驚愕する中で、リューが得意の疾さを持って畳み掛けるが、結果は得られず毒づく。
あまりの理不尽な暴力の前に、リリのボウガンも、アスフィのマジックアイテムも一切通用せず、原作メンバーは手も足も出ずに戦慄する。
「一体何なら効くと言うんですか!?」
「何かからくりや魔法を無効化…そもそもモンスターが魔法を使ってくるとは…」
リリもまた喚き、アスフィは冷静に分析しながらも額に汗を浮かべた。
「あの空間転移の魔法。
「何か知ってるのか?クライヴ?」
「あの魔法を見たことがある。アルテマの残りカスのような浮遊モンスターが行使していた」
クライヴは『ダークホール』に心当たりがあり、何か策と何処かに最低でも4体潜んでいるモンスターを発見しようと知覚をフル動員する。
そんなクライヴを見て、察するように当たりの景色を確認しながら戦闘を継続した。
「そ、そん…な。アルテミス様が…どうしたら」
ベルもまた、アルテミスが人質となっている残酷な真実の前に絶望し、全く実力を発揮できずに蠍型であるアンタレスの鋭い針の前に吹き飛ばされる。
「しっかりしろベル!!あの魔法を…!ヴェルフお前の魔法を転移されるタイミングで使え!からくりを炙り出す」
「そんな簡単に…。あぁ!!分かったやる!【燃え尽きろ外法の業──】」
吹き飛ばされるベルの身を案じながら、矢継ぎ早に指示を出すクライヴに背中を合わせるようにディオンも援護していた。ヴェルフも無茶ぶりに頭を掻きながらも覚悟を決めて詠唱する。
「私が仕掛けます。リオン合わせなさい!!」
「言われなくても!ハッ!!」
「【ウィル・オ・ウィスプ】」
意図を瞬時に察したアスフィとリューが仕掛けて、ヴェルフが魔法を撃ちやすいタイミングを作って発動させた。
『ギッ!!?』
突然の移動不可と爆発に驚いたような反応を見せたアンタレス。アンタレス自身も
「クライヴあれか!」
周囲を注意深く観察していたディオンが目線を向ける。そこには浮遊する幽鬼のような青白い光を出すモンスターがいた。
「そいつだ!最低でも4体は居るはずだ!!」
「見つけましたあそこに!!」
ディオンに次いでリリも発見する。
「上に見えたよみんなーー!!」
涙ぐみ顔を腫らすヘスティアが指を指しながら叫ぶ。
「この蠍は俺が抑える。ディオン1箇所をたのむ、あと1箇所も発見出来ればたのむ」
「承知した!」
一番距離が近い東よりをヴェルフとリリが請け負い、最も遠い西をディオンが受け持ち。頭上をアスフィとリューが撃破に向かう。
───
アンタレスは、自分を殺しうる唯一の天敵である『オリオンの矢』を持つベルを、明確に最優先の排除対象として狙いを定めていた。
「蠍野郎。お前の相手は俺だ!!」
執拗にベルを狙おうとするアンタレスに向けて啖呵を切るクライヴ。例え転移されようとも必ず喰らいつく。そんな気迫があった。
『ファイア』を連発するクライヴ。転移されるがそれを織り込み済で仕掛ける。次は『イグニッション』による突撃にて
削りに行った。アンタレスの強靭な甲殻と鋏に抑えられるが、『ガルーダストライク』に瞬時に切り替えて掴みかかる。そこから『ガウジ』と行きたかったがまた転移された。
だが、クライヴは転移の揺らぎを敏感に感じ取り、『フェニックスシフト』で一閃する。狙い通り転移してきたアンタレスの尻尾に剣閃が掠めた。
「外したか。まだまだ!!」
そんなクライヴの動きに警戒を深めたアンタレスは転移を繰り返して移動する。都合4回の移動。そこからの強襲。
クライヴは4回来ると既に数え終わっていたので『ウィル・オ・ウィクス』でアンタレスの鋏と尻尾の針を防ぐ。
強靭な甲殻故に大したダメージはないが、対応力と一撃の重さにアンタレスもまたクライヴを厄介な存在として認定していた。
一方、幽鬼モンスター討伐組はようやく辿り着く感じで対峙していた。
幽鬼モンスターたちに攻撃能力はない。ただ、回避と隠密に優れた存在であった。
「また姿が見えなくなった…めんどくせぇな!!」
ヴェルフが『フレイム・オックス』で斬りに行くも直ぐに転移されてしまっていた。リリもボウガンで狙うも避けられる。中々に苦戦していた。
「当たらないですね。コンチキショーです!!」
アスフィ、リューの二人も苦戦していた。アスフィは既に『タラリア』にて浮遊している。リューも器用に足場を確保して『アルヴス・ルミナ』でアタックをかけるが当たらなかった。
「クッちょこまかと!!アンドロメダ!何かいいアイテムは!?」
「無茶言わないでください!!リオン!詠唱を当たるか分かりませんが貴女の魔法は範囲が広い」
「分かりました【今は遠き森の空──】」
リューの美しい歌が紡がれ始めた。その間にもアスフィはつぶさに分析を怠らなかった。
最も遠い位置にして、足場も悪い西の幽鬼モンスターはディオンが二撃決殺の元、撃破完了していた。
一撃目を神速の突きにて強襲。避けられたので、投槍にて命中させてアッサリ撃破していた。
「攻撃がないのなら、容易い。あと一体を探すかそれとも他の援護に回るか…」
ディオンはしばし顎に手をあて考え、闇雲に探しても意味がないとアンタレスの戦場に戻ろうとした矢先。時間稼ぎとばかりにアンタレス眷属モンスターが湧いて出たきた。
「雑兵がいくらいようと我が槍を止めることなど叶わぬと知れ!!」
ディオンにより眷属モンスター解体劇が始まった。
「【──星屑の光宿し敵を討て】アンドロメダあとは撃つだけだ!!」
詠唱完了を伝えるリューを見てアスフィ決断する天井と東の距離は比較的に近い。リューの魔法で巻き込む形で不意をつければ出来れば背後を狙えれば。
「速度は緩めに撃ちなさいリオン!!」
「何か策があるのですね。【ルミノス・ウィンド】!!」
リューの魔法が幽鬼モンスターに向かって炸裂する。
「ヴェルフ様、あとは作っていただいた矢型の魔剣だけになりました」
「なら、絶対当てるぞリリスケ!!」
リリのボウガンの矢はあと一つだった。切り札として取ってあった矢型の『クロッゾの魔剣』である。切り札というだけあって範囲は狭いが威力と貫通力。何より速度は通常の矢の比ではない速度を誇る。
そこへアスフィが全員の装備を把握してたことによる指示を飛ばした。
「リリルカ・アーデ!!それをこちらに撃ちなさい!!」
「アスフィ様!!?いいんですね!行きますよ!!」
雷光を発した矢型の魔剣が天井側の幽鬼モンスターの背後を突く。そして、一撃で消し飛ばした。
「やった!!」
「ヴェルフ・クロッゾはそのまま斬りなさい!!」
「クロッゾは言うなよ!!おりゃあああ!!」
リリの歓喜の声と同時にヴェルフの斬撃が東の幽鬼モンスターに向かうが避けられる。だが、もちろんそれは計算済であり、
リューの魔法に紛れたアスフィがマジックアイテム『ハデスヘッド』で透明化して背後から短剣で頭を串刺しにした。
「これで!!」
見事に天井と東の幽鬼モンスターを同時撃破した。
「なるほど、私の魔法は目くらましと囮でしたか。やりますねアンドロメダ!!」
3体を撃破することでアンタレスの転移は一回に減っていた。
だが、残り一体は発見出来ていない。
「一体何処にいるんだぁあ」
ヘスティアがまだ涙で赤くなった顔で周りをしきりに見渡す。
その隣で静観しているヘルメスはずっと考えていた。
(あの
考え巡らすヘルメスの隣にタラリアでアスフィが舞い戻ってきた。
「ヘルメス様、残り一体は…」
「アスフィ俺の考えてたこと分かったのかい?いやぁ正解!たぶんだけど俺は
「やはりですか。厄介ですね。今から下に戦力を割いて索敵となると時間がかかり過ぎます」
ヘルメスとアスフィの予想は2人とも下を予想して、尚かつどちらも厄介と考えていた。
───
未だにベルの動きは緩慢であった。
「オリオン…」
こちら側に立つ思念体のアルテミスは胸を痛めながら、彼の呼び名を呟いた。
この真実はとても残酷でベルに対して下界における禁忌『神殺し』を突き付けているのだから。
これが相手が
「すまない。遅くなった」
「大丈夫だ。ありがとうディオン」
ディオンが雑兵を全滅させて、戦場に帰還する。横目でクライヴもまた感謝を告げながら、アンタレスを見据えていた。
先ほどからアンタレスは何かを狙っているのか、動きに苛烈さは無かった。
「最後の1体はどうする?恐らく下だぞ」
「やはりそうか。下は蠍の巣窟だろうな」
「一回だけの転移となったと言えど、ここぞと言うときに逃げられたらかなわんな」
2人の大人は会話を続けながらもアンタレスを翻弄していた。
「ディオン。これから無理をさせるかもしれない」
「今更の話だ。必要とあらば顕現も『
「察しが良くて助かる。蠍は何かを狙ってる。その時は使うしかない!」
クライヴの考える『無理』が何なのかなど同じドミナント同士察するのは容易であった。
アンタレスもまた何かを察したのか、狙ってることと同時並行で動き出した。
身体の中心から青白い閃光を放ち始めたアンタレス。
「あ、あれはアルテミスの!!」
ヘスティアが叫ぶ。
そうアンタレスは取り込んだアルテミス力の吸収が進み、遂にその力を己の力として振るい始めたのだ。
「う、うぁあああああ!?」
「こいつはヤバい!!」
拡散させるように放たれた閃光がリリとヴェルフを襲う逃げ惑う二人に追尾まで受ける始末であった。
だいぶ瓦礫と化している遺跡内部の崩壊が更に進んでいく。
「デタラメな力を!!」
クライヴが『フェニックスシフト』で強襲をかける。
転移よる移動で攻撃は止むがこちらの攻撃も当たらない。
そこを補うのがディオンでありいつの間にか上空に飛び上がっており『ミラージュダイブ』による強襲を仕掛ける。
一発、二発、三発と垂直落下からの串刺しにしていく。
アンタレスに初めてダメージらしいダメージが入る。ディオンは全ての刺突を関節を狙って穿ちに行っていた。
『グッギァアアアアア!!?』
絶叫を上げるアンタレスであるが、傷口が青白い光で塞がっていく。
そんなアンタレスの中心部の結晶ではアルテミスの本体が苦悶の表情を浮かべて苦しんでいた。力を行使されるたびに彼女に負荷をかけているのだ。このままだと完全に肉体そのものも血肉となり、彼女の尊厳はこれ以上にないほど辱められることになるだろう。
「ダメージ与えてもキリがないというのか!!」
「淑女に対する振る舞いではないな化け物!!」
歯を噛み締め表情を歪めるクライヴと激怒するディオン。
八方塞がりであった。
2人ともアルテミスを救える手段があるのなら、傷付かずに済むのならと諦めてはいない。だが、現状ではそれが見つからない。
ただ殺すだけだと言うのならとっくの昔に不浄を焼き払う『神殺し』の炎。イフリートの力で焼滅させていた。
「ベル君、君は今何を考え何をしている」
突然のヘルメスの冷たい言葉は戦場でも良く通った。
その声に身体を跳ねさせるベル。
「いつもの君なら、諦めずがむしゃらに前を向いて進むと俺は思っていたが、今の君はなんだい?みなが傷付きながらも戦う中、戦いもせず、下を向いているだけか!!」
「ヘルメス!!」
咎めるような口調のヘルメスにヘスティアが懇願するように名前を読んだ。ヘスティアとて分かってはいるのだ。
この状況に終止符を打つにはどうするべきかを。
「『槍』に選ばれた以上、君は選ばなくてはならない。仲間たちの命と世界の命運か、アンタレスを討つかだ」
「このまま行けば、アンタレスはアルテミスの『
ヘルメスは尚も冷たい氷の刃をした言葉を突き付け続ける。
「ぼ、僕は…それじゃあ、アルテミス様はどうなるんですか!!?」
ここで初めてベルは言い返した。それに答えたのはヘルメスでなかった。
「私は死ぬ。天界に帰ることもなく。本当の意味で死を迎える。でも、それで良いんだ。オリオン。本当にすまないな」
思念体のアルテミスがとても申し訳なさそうにそして、何より辛そうに答えた。
「嫌です!!僕はアルテミス様に死んでほしくない!!」
「ありがとうオリオン。それでも下界を。子どもたちを救う英雄になって欲しい。君にしか出来ないことなんだ」
「嫌だ!!そんなの無理ですよ!!何か他に手は無いんですか!!」
駄々をこねるまさに子どもの振る舞いとなるベルに対して困ったようにそして、より一層辛そうになるアルテミス
「ない。これだけは断言する。あそこまで融合したアンタレスを討つには神造武器であるその槍、正確には『矢』を使う他はない」
アルテミス様はキッパリと答えた。その答えに絶望したような表情を浮かべて涙ぐむベル。
「行こうオリオン。私と一緒に私を解放してくれ」
どこかもう諦めたようにアルテミスは笑顔でベルの手を取った。
───
上でベルたちの問答がなされる中、事態は刻一刻と悪化していた。そこら中からアンタレスの眷属モンスターが孵化したのか集まり始めていた。
「ロズフィールドさん、ルサージュ卿!!」
危機感を抱いたリューが2人の大人に頼る眼差しを向けた。
「私が周りのモンスターは蹴散らします。どうかアンタレスを頼みます」
リューは素早く決断して、己が出来る事を選択した。彼女もまたベルの葛藤は
「分かった!!」
「承知した!!」
クライヴとディオンもベルの決断を待ちながら動き出すが、アンタレスはより苛烈に『神の力』を行使していく。
しばらく戦うが思うように力も振るえず、苦戦する2人。
そして、クライヴは決断した。もし、ベルが討てないのならと考えて全てを背負う覚悟で。
「チッ……、ディオン! リミットブレイクだ! これ以上、奴に好き勝手はさせん!」
「ああ、承知した。クライヴ!」
クライヴとディオンの全身から、爆発的な魔力の奔流が吹き荒れた。
二人は同時に『
クライヴの頭部から炎の角が生え、ディオンは背中に光のバハムートの翼を全開に広げ、その愛槍を眩く輝かせる。
ディオンの放つ、上空からの光の豪雨『メガフレア』がアンタレスの死角を焼き、クライヴのフレイムタンが無数の多脚の網を強引に切り刻む。
「ディオンそのまま下を狙え無数に撃てば当たるだろう」
その考えに乗ったディオンの『メガフレア』の方向が下を向く。そして、穴だらけとなった下層にて最後の幽鬼モンスターは消滅した。
「どうやら当たったようだな。これで転移は…何!?」
「まさか、奴め!!」
一進一退の、血を吐くような極限の泥仕合が結晶の間で炸裂する中で消滅する寸前にアンタレスは上空へと転移して青白い閃光を最大出力で放った。
これまでにない巨大な破滅の光線が、動けないベルの脳天へと目掛けて容赦なく振り下ろされた。
ベルの手を引こうと前に居たアルテミスの思念体が自らの命を賭してベルを庇う。ベルは絶望し、アルテミスはどこか決意と穏やかさの半々の表情をしていた。
「――ベルッ! 動くなッ!!」
だが、二人のドミナントの執念が、訪れる悲劇を強引に捻じ曲げた。
クライヴの『フェニックスシフト』による一瞬の割り込み、そしてディオンの長槍が放った光の防壁が、間一髪でその必殺の一撃を真正面から完全に弾き返してみせたのだ。
早く到着したからこその、生存の奇跡。
アルテミス様の思念体は、消滅することなく、健在のままその場に残された。
「いやぁ。ホントにすごいなあの二人。なぁベル君」
ヘルメスはこの場に場違いなほど先ほどと打って変わって明るい声を発した。
着地してきたアンタレスとの攻防を再開するために瞬時にクライヴとディオンは戦場に戻った。クライヴは一瞬だけ涙を零すベルを見た。
「「オリオン」……! お願い、私を、私ごとあの怪物を『オリオンの矢』で貫いて殺して……っ!」
アンタレスの胸の奥で、涙を流しながらベルに『
ベルは涙を流し、ガタガタと手を震わせながら、オリオンの矢を構えることしかできない。
かつて元の世界で、最愛の父シルヴェストルを操られ、自らの手で殺めてしまった凄絶な過去と悲しみを背負うディオン。
そして、実の弟を一度は自ら手にかけ再会しても結局守れず、
二人の王は、その少年の絶望の前に、静かに、しかしどこまでも頼もしくその前に歩み出た。
彼らは、ベルの決断を最後まで待ち続ける。
少年の背中を優しく押しつつも、その過酷な「神殺しの業」のすべてを、自分たち大人が半分背負うという絶対の覚悟をその瞳に宿して。
「――ベル。お前がその引き金を引くというなら、俺がその全てを背負ってやる。……ディオン、行くぞ。あのゴミを完全に焼き切る!」
「ああ、我が槍のすべてを、ザンブレクの誇りを賭して――道を拓こう!」
クライヴのフレイムタンが獄炎を帯び、ディオンのバハムートの光の翼が結晶の間を眩く照らし出す。
ベルが涙を拭い、