ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか   作:巡理愛

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第25話:炎と光の災禍、1万年の約束 "Ascension"

 

「ヘルメス様!!本当にベル・クラネルに『神殺し』をさせるおつもりですか!?こんなのあんまりです。何か他の手はないのですか!」

 

アスフィが縋るような勢いで悲痛な表情を持って訴えかける。

 

「違うぞアスフィ。これは『神殺し』をする物語じゃない。一人の泣いてる女の子を救う物語なんだ。俺は、俺たちはいつだって下界の未知に飢えていて、期待もしている。アンタレスは絶対に討たねばならない。だから、ベル君と彼らに賭けてみるよ」

 

そう言ってヘルメスは最近癖になりつつある帽子を降ろして、表情を隠した。

ヘルメスとて、アルテミスを殺したくなどない。『天界への送還』ではなくこのまま行けば本当の意味で『神の死』が訪れるのだから。

 

「――おおおぉぉぉーーーッッ!!!」

 

「アルテミスーーーッッ!!!」

 

ベル・クラネルが涙を流しながら放つ。

それと重なるようにヘスティアが大粒の涙を振りまきながらアルテミスの名を叫んだ。

スキル『英雄昇火(アルゴノゥト)』のフルチャージを纏う『オリオンの矢』が、結晶の間の大気を引き裂いてアンタレスの巨体へと突き刺さっていく。

それと同時に、リミットブレイクを維持するクライヴとディオンの二大トップが、電光石火の連携を仕掛ける。

クライヴの進化せし『フレイムタン』が紅蓮の軌跡を描き、アンタレスの最も頑強な部位であった肩関節から『大鋏(おおばさみ)』を豪快な逆袈裟斬りで吹き飛ばす。

 

「往生際が悪いぞ。蠍野郎!」

 

「誇りなき蛮族よ。潔く散れ!」

 

もう片方のハサミも、ディオンのザンブレク竜騎士槍による容赦なき強撃によって粉々に叩き潰され、多脚をすべて削ぎ落とされた古代の怪物は、身動きを完全に封じられた。

そこへベルの『オリオンの矢』が胸元の核心を完璧に射抜き、アンタレスの肉体と、アルテミスが囚われた青黒きクリスタルが、一時的に完全に分離させられた。

勝負は決した。誰もがそう思った、次の瞬間だった。

 

「シャァァァ……ガァァァッッ!!」

 

核を失い、大鋏を失ってもなお、アンタレスの飛び散った肉片が地脈の濃い魔力を吸い尽くし、再び急速に再生を始めようとしていた。

 

「ここまでやってもまだ再生するのですか!?」

 

「なんて頑丈なやつだ!?」

 

「あんなのどうすれば…」

 

「やはり核を破壊するしかないということですか…」

 

リュー、ヴェルフ、リリ、アスフィが驚愕する中、ヘルメスはじっとアンタレスを見据えて、ヘスティアは顔を覆ってしゃがみ込んだ。そして、ベルは隣にいるアルテミスの思念体の横で地面に手をついて泣いていた。涙のあとが地面に染みを作った。

あとはもう、クリスタルを砕くしか方法がないからだ。今なら砕くことは出来る同じ神造武器の『ヘスティアショートソード』なら。

 

「僕にはどうしても出来ない…」

 

「オリオン…」

 

地面に手をついたままベルは一言だけ呟いた。そんなベルにアルテミスの思念体はただ、名前を呼ぶことしか出来なかった。

アンタレスの再生能力は、取り込んだアルテミス様の『神の力(アルカナム)』を吸い尽くすことで成されている。傷を負えば負うほどアルテミス様が苦しみ、かつ肉片一つでも残せば融合したまま無限に蘇る、下界の理。

 

「……地上でこいつを完全に消し飛ばせば、オラリオごと下界が滅ぶな」

 

「ならば、戦場を移すまでだ。クライヴ!」

 

二人のドミナントは静かに目を合わせると、同時に本物の力を全開で解き放った。

 

「――来い、イフリートォォォオオオオオッッ!!」

 

ドゴォォォォンッッ!!!

結晶の間が爆炎で吹き飛び、地獄の火床の中から召喚獣『イフリート』が完全顕現。同時に、ディオンの肉体が眩い白銀のエーテルに包まれ、大空を統べる光竜『バハムート』が完全顕現を果たした。

イフリートとバハムートは、再生を始めようとするアンタレスの不気味な肉塊と、アルテミス様の眠るクリスタルをその巨体で力任せにとっ捕まえると、エルソス遺跡の天井を粉砕し、天を突く光と炎の柱となって、遥か上空――大気圏を突破し、星のきらめく『宇宙空間』へと一気に急上昇していった。

 

「一気に行くぞクライヴ。振り落とされるなよ!!」

 

地上で呆然と見上げるヘスティアやヘルメスたちの視界から、巨大な光が夜空の彼方へと消えていく。

 

───

 

大気も、重力もない、音のない宇宙の深淵。

放り出されたアンタレスの肉塊は、宇宙空間の過酷な環境に晒されながらも、クリスタルの中のアルテミスの力を貪欲に吸い続け、なおも執念深く再生しようと足掻いていた。

 

「諦めの悪い蠍だ。ディオンたのむ」

 

「くらえ!!」

 

バハムートが上空から光の極大飽和砲撃『テラフレア』を撃ち下ろした。

 

「ダメか。どうするクライヴ。『ゼタフレア』を使うか?」

 

「それは辞めておこう。地上ごとこの世界を焼き尽くしかねん。次は俺がやってみる」

 

イフリートが灼熱の拳でその肉肉しい触手を引き裂く。『地獄の火炎』も試すが、ロゴスとなっていた時より出力も数段落ちている今では理を焼き切るには至らなかった。その後も交互にあらゆる手口を尽くす中、二人のドミナントの魔力が、宇宙の静寂の中で完璧に一つへと同調し始めた。

 

「クライヴ。この感覚は!!」

 

「俺とお前の魔力が同調しているのか!!ならば!!」

 

かつて元の世界で、アルテマを打ち倒すために放った三属性合体魔法『トライディザスター』。

その魂の記憶を逆手に取り、二人のドミナントが「炎」と「光」の魔力を極限まで融合させた、二属性合体大魔法。

――『ダブルディザスター』。

 

「これならば、慎重に行くぞディオン」

 

「もちろん承知している。今度こそ不浄を滅する」

 

キィィィンと宇宙の闇が鳴動し、紅蓮の地獄の火炎と、白銀のエーテルの奔流が、巨大な一つの『滅尽の光条』となって放たれた。

二人の魔力制御は完璧だった。アンタレスがアルテミスの力を吸い尽くそうとするその瞬間、クリスタルの表面だけには絶対に当たらないよう、計算し尽くされた『楕円形のディザスター』の光線が、アンタレスの肉塊部分だけをピンポイントで抉り、焼き、蒸発させ続けた。

 

「ギガ、ア、ァァァァァッッッ!!!」

 

アンタレスの細胞が、分子レベルで、塵一つ残さず融解していく。

耐えながらアルテミスの力を吸い続けようとした怪物だったが、ついにアルテミスの力が底を突き、アンタレスは宇宙の深淵で完全に焼滅、完全滅失を遂げたのだった。

 

「再生がなくなった。思いつきでしかなかったが、理を砕けたか」

 

「そのようだな。こんな所まで来てやることになるとはあの時以来だ」

 

2人は再生が完全になくなり、活動を停止したのを見て深く安堵した。いつだってクライヴは理に抗ってきた。そんなクライヴに随分感化されてしまったと思うディオンだった。

消滅の直前、アンタレスの最も頑強だった右腕の部位――『アンタレスの大鋏』だけが、二人の極限の炎と光によって鍛え上げられた一級の希少素材として焼き固められ、ゆっくりと地上へと落下していった。

クライヴは、宇宙空間に残された、無傷のクリスタルをその大きな手でしっかりと回収すると、バハムートと共に、再び静かに地上への帰路へとつくのだった。

 

───

 

完全顕現を解除し、魔力と体力を著しく消耗して倒れ伏すクライヴとディオンの傍らで、鍵となる、アルテミスの『思念体』という僅かに分離されたアルカナムが、優しく揺らめいていた。

 

「ありがとう。異邦の子どもたち。私の子どもたちの仇を。アンタレスを討ち取ってくれて」

 

「それはつまり、アルテミスが囚われてないということかい!?」

 

感じ取れる感覚のままにクライヴとディオンへ、感謝を伝える、思念体のアルテミスにヘスティアが問いかけた。

クライヴとディオンはかなり消耗しているのかいつもの大人の余裕はなく、今も息が絶え絶えであった。

 

「私の本体がどうなっているかまでは確認してみないと分からない。それでも囚われた苦しみを感じない」

 

「オリオン。もう泣かなくても大丈夫だ。君の剣でクリスタルを割ってくれないか?」

 

膝を抱えて泣き続けていたベルはこの時始めて顔を上げた。

 

「…大丈夫なんですか?アルテミス様が助かったということですか?」

 

「それを今から確かめる。私が消えていない以上は大丈夫なはずさ」

 

ベルは立ち上がり、慎重にヘスティアショートソードをクリスタルに突き立てた。ほんの小さな亀裂が走った。それを見たベルはそれ以上突き立てると中のアルテミスも砕けてしまうのではと怖じ気ついていた。

 

「ベル、あとは俺がやってみようクリスタルを砕くのは得意なんだ」

 

ちょっとよく分からないことを言うクライヴにみんなは困惑するが、ディオンだけは笑みを浮かべていた。

そうしてクライヴは、回収したクリスタルを中に眠る肉体を傷つけぬよう慎重に、優しく砕き割った。

パリィンと結晶が弾け、中から一糸纏わぬ姿で解放されたアルテミスの本体。

クライヴは視線を逸らし、その場にあった『アルテミス・ファミリアの団旗』をそっと手繰り寄せると、彼女の神聖な肉体を優しく、丁寧に包み込んだ。

その瞬間、残されていたアルテミス様の思念体が、元の肉体へと吸い込まれるようにして還っていった。

 

「……ん……っ」

 

小さな呼吸。アルテミスは、奇跡的にも一命を取り留める奇跡を果たしたのだ。しかし、アンタレスに神の力のほとんどを吸い尽くされた代償は重く、その身体は『人間とそう変わらない繊細な状態』となり、深い昏睡状態へと陥ってしまった。彼女が本当の意味で目覚めるのは、遥か先になるのかもしれない。

ヘスティアは神友の生存に涙を流し、「ウチは手狭だけど、ボクがちゃんと面倒をみるからね!」と宣言。

 

「やれやれ、末恐ろしいというかなんと言うか。アンタレスを討ち取り、アルテミスも救い出した。これは奇跡であり、偉業以外の何物でもないな」

 

「アスフィ、君も感じたはずだ。二人の『(・)強(・)さ(・)』(・)を」

 

深く息を吐きながらこれは奇跡で、偉業だと讃えつつもその目はとても鋭く笑顔の表情と一致していなかった。

 

「正直にあの二人のことを誰も突っ込まないのはアルテミス様が助かって良しと言うことからでしょう。野暮ですしね。18階層のニ体目のゴライアスもロズフィールドさんが討ち取ったということがこれで分かりました」

 

アルテミスを中心に盛り上がる他の者たちを見据えながら、アスフィもまた二人の異常性に畏怖した。

人が階層主のように変身するなど聞いたことがない。

 

「ヘルメス様は彼らはどんな存在だとお考えですか?」

 

「さぁてね。ヘスティア辺りは本人から直接聞いてるかもだが、決して口を割らないだろうな。そうだなぁ。客観的に見たら何か特殊な魔法を習得しているか。あるいは……──」

 

そこで一拍おいて何も言わなくなった主神に対してアスフィは急かした。

 

「あるいは何なのですか?」

 

「これは俺の個人的な考えでしかないが…邪(・)神(・)の眷族だったとかね。それもとびっきりの」

 

唖然とするアスフィにもう話は終わったといつも飄々とした態度になったヘルメスもまたアルテミスを中心に集まるみんなの所に向かうのだった。

 

───

 

エルソスの遺跡を出た頃には日が昇り始めていた。『月』を巡る戦いはこれにて終わりを迎えたのだ。

 

「良かったねベル君」

 

「はい。神様」

 

朝日を眺めながら2人は話す。他の者たちは帰る準備を整えていた。みんなは察して2人だけの時間にしてあげるのだった。

 

「アルテミス様は目を覚ますのはいつか分からないですけど本当に失わなくて、居なくならなくて良かったです」

 

ベルは育ての親を突然失った経験。喪失を経験していた。

それ故に今回はまたそうなると本当に辛い冒険であった。

 

「神様、僕もっと強くなって目を覚ましたアルテミス様に強くなったって言ってもらえるようになります。泣いてるばかりで僕は何もみんなが命懸けで頑張ってるのに何も出来なかった」

 

「じゃあ、約束だね。アルテミス?」

 

ベルの背中で眠るように目を閉じたままのアルテミスにヘスティアは問いかけるようにベルとの約束を胸に刻んだ。

回収された『オリオンの矢』は神造武器ともあって厳重に封印されることになったが、封印と言いつつもヘスティアファミリアのホームの一角に『アルテミス・ファミリアの団旗』と一緒に飾られることになる。

 

迷宮都市オラリオへの帰還後、それぞれがそれぞれの場所へと帰っていく。

 

「改めてこれからよろしくたのむ、神ヘスティア」

 

ディオンがかしこまったと思うと改めてヘスティアに向けて、気品を漂わせた身丈で騎士の誓いを立てるように跪き、想いを込めて宣誓した。

 

「そんなかしこまらなくて良いよディオン君。手狭で零細ファミリアなこんなボクだけどよろしくだ!!」

 

ベルは未だ少し元気はなさそうであるが、新しいファミリアのメンバーに喜んだ。クライヴと合わせて三人しかいない小さなファミリアだ。

 

「ディオンと共にきてくれて本当にありがとう」

 

「私とて恩は返したい。よろしく頼むぞクライヴ」

 

2人は大人として雰囲気で戦友としての頼もしさお互いが感じながら握手した。

アルテミスの部屋をどうするかというお話になり、手分けして地下室の奥を片付けて、増築することを決めた。

ファミリアのなけなしの貯金を叩いて、地下室の一角に『アルテミス専用の純白のベッド』を購入し、彼女のための美しい個室を増築するのだった。

部屋の模様などはまさかのクライヴが繊細な『ファイア』での調整をしながら隠れ家での生活で培った。建築技術を役立て。アルテミスファミリアとしての月明かりの青白い夜空の空間を思わせる内装に仕上げた。

そこからいつも見守っているという意味も込めて奥には『オリオンの矢』と『アルテミス・ファミリアの団旗』が飾られるのであった。

野郎3人と女神が2人という中々な詰め込まれた地下室なので、こちらはあまりお金をかけず、クライヴの努力で質素な男部屋スペースを二人分は作れた。3人は不可能だった。

ということで元々あったソファとベッドに配置変えとアルテミス専用部屋と男部屋とで何とか5人で衣食住を可能にしたメンバーであった(主にクライヴが頑張った。ディオンは静観。ベルが補助。ヘスティア役に立てなかった)

その日の夜、ベッドの横で眠るベル・クラネルは、一つの切なくも美しい『夢』を見ていた。

夢の楽園――あの静かな美しい湖畔。

そこには、健在のまま残されたアルテミス様の思念体が、いつも通り優しく微笑んで待っていた。

 

「私はここで、ずっと待っているから。……一万年分の恋をしよう、私のオリオン」

 

朝、目を覚ましたベルはその夢の内容を『毎回思い出せない』。

それでも、心の奥底(魂の経験値)には、月の女神の温もりと約束が確かに刻み込まれ、これから起こっていく大いなる導き手としての灯火が、少年の胸の中に静かに灯るのだった。

現実のオラリオで追いつくべきヒロインはアイズ、そして夢の中の永遠のヒロインはアルテミス。

大きな切なさと救済を胸に、堂々の大団円を迎える。




イメージです

【挿絵表示】


・アンタレス戦でのステイタス

【名前】:クライヴ・ロズフィールド / ディオン・ルサージュ
【レベル】:2 / 1

【所属】ヘスティア・ファミリア

【基礎アビリティ(共通値)】
• 力:D(500)
• 耐久:D(500)
• 器用:D(500)
• 敏捷:D(500)
• 魔力:D(500)

【ディオン・魔法・スキル】

《魔法》:

【フレア】

・固有魔法:光のドミナントの魔法

【メガフレア】

・細長い光線を周囲に撃ち放つ

・リミットブレイク時のみ限定解放
【フレア】の上位魔法

※完全顕現時のテキストはヘスティア解読不可──────

【ギガフレア】

・収束させた光の熱線を撃ち放つ魔法
【メガフレア】の上位魔法

【テラフレア】

・成層圏から極大熱線を撃ち放つ魔法
【メガフレア】の上位魔法

【ゼタフレア】

・宇宙空間から撃ち放つ究極魔法
【テラフレア】の上位魔法
※ダンまち世界で使用すると神敵認定される可能性大

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《スキル》:

【光の顕現者(ドミナント・オブ・ライト)】

・光のドミナント:『光神聖竜バハムート』

・その固有魔法、固有スキルが使用可能となる

・その完全顕現、半顕現(リミットブレイク)の使用が可能となる

※下界のエーテルを直接循環させるため、元の世界のような肉体の石化は一切発生しない。ただし、通常通りの体力とマインドの消耗は伴う。

【聖竜騎士団長(ホーリードラグーンナイツリーダー)】

・スキル【ジャンプ】、【ミラージュダイブ】を光魔法槍術として使用可能とする。全アビリティの数値による補正

【ジャンプ】

・上空から突き刺しに行く強襲スキル

【ミラージュダイブ】

・上空から突き刺しに行く複数回の強襲スキル
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