ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか   作:巡理愛

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太陽神の陰謀と戦争遊戯(ウォーゲーム)
第26話:世界最速の系譜と沈黙の戦慄


オラリオの遥か外、エルソス遺跡での神話級の死闘を終えた数日後。

寂れた廃教会の地下室――アルテミス様のために新調された、純白のベッドが置かれた小さな専用の部屋の横で、主神ヘスティアによる手作業のステイタス更新が執り行われていた。

 

「――よし、これでよし……って、何だいこれはぁぁぁ!? ベル君、君の背中に、またボクの知らない独自の理を孕んだ新しいスキルが刻まれているよ!」

 

ヘスティアが最初に神の血を垂らした、ベル・クラネルの背中。そこには、アルテミスとの奇跡が、不気味な神聖文字のノイズとなって刻まれていた。

 

《スキル》:【月女神夢想(ルナ・アルテミス)】

 

※ヘスティアの知識では後半の文字が歪んで隠されており、【アルテミスの加護】という詳細不明の一文しか解読できない。

・【真実の効果】:

・夢の中の湖畔でアルテミス様と過ごすことで、就寝時にも全基本アビリティが永続的に極小ずつ上昇。

 

・夜間、月が出ている場所で全ステイタスに高補正。満月の夜にはランクアップに相当する超高補正。

 

・ 一度のみ、致命の一撃を完全に無効化・回避。

 

・槍系武具の使用時、および投擲・投槍の際に青白い光と共に爆発的な高威力を発揮。

 

さらにベルの基本アビリティは、中層サバイバルでの3つの重量級の武装(ショートソード、灼牛、フレイム・オックス)を目まぐるしく切り替えて戦ったことで、

 

【器用:B(715)】。

 

ヘルハウンドの凶悪な火炎を新スキルの加護で耐え抜き、ボコボコにされながらも泥臭く生還したことで、

 

【耐久:C(610)】。

 

さらに漆黒のゴライアス戦での内地チャージ連弾の負荷により、最大の伸び率を叩き出した

 

【魔力:A(860)】へと爆増。

 

発展アビリティ【幸運】が『G』へとランクアップを果たしていた。

 

「アルテミス様との夢?何だか嬉しいです。今でも見守っていくれてるのかな」

 

「きっとそうだよ。良かったねベル君。後半を解読出来ないのは申し訳ないけどアルテミスのことだから悪いスキルではないと断言できるよ!」

 

ベルとヘスティアは話しながら、今も純白のベットで眠るアルテミスを見て微笑んだ。

しかし、その直後にヘスティアの絶叫が本当に地下室を震わせたのは、その後に続いたクライヴとディオンの更新だった。

古代の怪物アンタレスを宇宙空間で完全滅失させた『規格外の偉業』を以て、ファルナのロックが次々と解除される。

 

「次は俺かヘスティア。よろしくたのむ」

 

「さてさて、クライヴ君はどんな事になって…─!?」

 

基本アビリティは一律で【0】へとリセットされ、再びしわい成長の時へと戻る。

だが、二人の背中には、新たなる力が神聖文字となって厳かに刻まれていた。

 

・【クライヴ・レベル3初期】

 

・《発展アビリティ》:

 

【神造器(ミュトス):H】

 

【炎撃:I】

※火属性攻撃の威力を恒常上方補正。

 

・《スキル》:【神光の聖竜(バハムートライト)】

 

・通常時、リミットブレイク中にバハムートのアビリティ複合行使可能

 

ヘスティアはクライヴの背中の上で騒ぎ回る。

 

「またオールS!!?、ランクアップが出来るよ!またメモリーストーンとか言う奴の影響かい?何なんだどんな試練をやったのさ〜!!?」

 

「試練?ドラゴンを倒しまくったな。それだけだ」

 

「アルテミスの事で僕もそれどころじゃなかったけど、あの旅でそんなことしていたのかいクライヴ君。あぁ、ホントに無茶苦茶だよ」

 

「とにかく更新ありがとうヘスティア」

 

クライヴは何事もなかったように衣服を着なおしていく。

ベルは「アハハハ」とヘスティアの騒ぎように苦笑いしながら、早速自分のレベルを超えてきたクライヴに更に尊敬の念とドラゴンを倒しまくったことに憧れを抱いた。

 

「最後は私かよろしくたのむ神ヘスティア」

 

「最後はディオン君だね。かなりアンタレスの時に頑張ってくれてたし、結構伸びて…─!?」

 

 

・【ディオン・レベル2初期】

 

・《発展アビリティ》:【槍士(そうし):I】。

・ 《スキル》:【光の顕現者(ドミナント・オブ・ライト)】

 

・《スキル》:【聖竜騎士団長(ホーリードラグーン・ナイツ・リーダー)】

 

・《スキル》:【信仰天撃(ザンブレクハート)】

 

・効果:発展アビリティ【槍士】の常時強制発動。

および、高低差がある攻撃に高補正。対象との高度の差(高低差)が大きければ大きいほど、その補正値は際限なく加算される。

 

「なんだよ!ディオン君もランクアップ!?僕のファミリアは成長がバグってる子どもたちしかいない!!」

 

「バグとは何かよく分からないが速さとは大事であるな。感謝する」

 

ディオンもまた大して気にもせず、衣服を着なおしていた。

ベルはディオンさんカッコいいとまたもや憧れを抱いた。

 

「クライヴ君はレベル3……!? それにディオン君はレベル2だとぉぉぉーーーっ!? 君たち、オラリオの歴史を何だと思っているんだい! ギルドの職員が卒倒しちゃうよ!」

 

ヘスティアは一通り騒いだ後にそれでも3人の成長、飛躍を心から祝福する慈愛の女神である。

 

───

 

翌日。

ランクアップの正式な申請と、ディオンの新規の冒険者登録を行うため、一行はギルドの本部へと足を運んでいた。

白銀の洗練された鎧を纏い、一国の聖騎士長としての圧倒的な気品と美貌を持つディオン・ルサージュがギルドのロビーを一歩進むだけで、周囲の空気は一変した。

 

「あ、あの超美形は誰……!?」「王子様みたい……!」

 

周囲の女冒険者や受付のギルド職員たちから一斉に熱い視線が集中する。

中には赤面しながら声をかけてくる者もいたが、ディオンはザンブレク最高位の礼節を以て、不器用ながらも一人一人に『丁寧に対応』し、その後の視線などは『気にしない』という大人のスマートさを見せるのだった。

 

「エイナさ〜ん!新しく冒険者登録をしに来ました!」

 

「ベル君久しぶりだね!ロズフィールドさんも変わらずの覇気ですね」

 

ベルは元気よく受付から担当アドバイザーのエイナ・チュールを呼んだ。エイナはベルたちの久しぶりの訪問に笑顔で対応していた。

 

「新しい冒険者登録ということは団員増えたんだねおめでとう!今回もロズフィールドさんのような強そうな方なのかな?」

 

そんな会話をしていると一通り、女性たちに対応が終わったディオンが近付いてきた。

 

「ディオンさん!こっちです!!」

 

「私はディオン・ルサージュと言う。登録の手続きに来た」

 

ベルの呼びかけに手を振り返して、受付まで来たディオンがエイナへと名前を伝えた。

 

「……ディオン・ルサージュさんですね。ギルドにようこそこの書類に簡単に経歴など書いて頂けますか?」

 

「承知した」

 

エイナはまさか先ほどから騒がしい事態を起こしている当事者がベルのファミリアの新しい団員と思うわけもなく。

しばし、間が空いたあと受付嬢としての笑顔と対応に徹していく。

 

「ふむ、冒険者を目指した経緯か…。ロズフィールド卿からの紹介で良いかな」

 

「そういう感じで大丈夫だ。ルサージュ卿」

 

実際に目(ま)の当たりとなり、余りの気品に何処かの王族、皇族かと考えたが深く考えないことにした。筆跡もそれはもう美しいものであった。

そもそも、クライヴもまたどこか所作が洗練されており、元貴族や王族なのではないかと頭を過ぎったがこれも考えないことにしたエイナであった。あとは確定的にもお互いが卿(・)付けをしていた気がしたが忘れることにした。

 

「はい。書類に不備は無さそうですね。改めましてギルドへようこそ!我々ギルドは貴方を歓迎いたします!!」

 

営業スマイルにヒビが入りかけながら何とかギルドの模範的なトークと事務手続きを終わらせたエイナである。

 

「他に何かあるかなベル君?ルサージュさんのダンジョンについての勉強会の日程とか」

 

「えっと、ですね他には実はランクアップの申請に」

 

ベルの発言に目が点になりかけるがベルのアドバイザーであり、年上のお姉さんとして気丈に振る舞うエイナである。

 

「それはめでたい事尽くしだね!…まさかとは思うけどベル君がランクアップしたのかな?」

 

「いや、僕はまだ出来てません今回はクライヴさんとディオンさんです!!」

 

どちらにしろ早過ぎるランクアップであるが素性がはっきりしない、2人の大人のランクアップの経緯も兼ねてもう少し2人の過去について深堀してみようと考えたエイナは果たして…。

 

「そうだったんだね!ロズフィールドさん、ルサージュさんランクアップおめでとうございます」

 

コホンと改まってクライヴとディオンに祝福の言葉を伝えるエイナは意を決して、2人の過去も含めた冒(・)険(・)について触れてみた。

 

「こちらの書類に記入お願いしますね。ロズフィールドさんもルサージュさんももしかして以前から戦い慣れてらっしゃるのかなという印象なのですが、よろしければ参考にしたく戦いの経緯をお伺いしても良いでしょうか?」

 

「どう説明したものか」と顎に手をあて考え込むディオンはやはりその所作も気品があった。そこでクライヴが大人の話術を今回も披露する事にした。

 

「過去の戦いについて多くは語れないが、俺もルサージュ卿もお互いがそれぞれの亡国の騎士を務めていた」

 

「な、なるほど亡国の騎士ですか」

 

何とか笑顔をいようとしたエイナは聞くべきでは無かったかもしれないと軽く後悔した。

 

「そうだ。俺は元であるが騎士階級でルサージュ卿が亡国きっての精鋭部隊の騎士団長でもあった。お互いの国同士が争った事もあった。なのでお互い旧知の仲ということもあり、今回誘ってみたのが経緯だ。ランクアップについては戦いに明け暮れていた日々でもあったのでエイナ殿が思うほどランクアップに対するハードルが低かったのかもしれないな」

 

クライヴはなんと事はないというように全く嘘はないが核心もない経緯を語った。

 

「分かりました。ではお二人とも元から優秀な方たちだったのですね!ではこちらにレベル2と書いて頂き…」

 

「いや、すまない俺はレベル3だ」

 

「はっ?」

 

エイナは素の声で思わず声を出した。

クライヴ曰く、ロキファミリアの遠征に同行して多くの深層のモンスター、ドラゴンたちと戦ったこと。その帰還の道中でベルたちと合流して階層主ゴライアスのイレギュラーに遭遇して撃破によりランクアップ。

先日、オラリオ外のモンスターでドラゴンを斬りまくったことと珍しい古代種のモンスターをディオンと共に撃破したことで短期間で偶(・)然(・)ランクアップ出来た事を語った。

 

「ホントに2人は凄くて英雄譚に出てくる古代の英雄のようにクライヴさんが炎(・)、ディオンさんが光(・)で次々と!!2人は僕の憧れです!!!」

 

ベルも目をキラキラさせながら、熱く語るのでこれはもう信じるしか、いや、もうどうとでもなれという気持ちで承認したエイナである。

 

「大丈夫だ、ベルも立派な戦士だ」

 

「騎士として誉れであるなありがとうベル」

 

クライヴが大きな大人の手でベルを撫でて、微笑み憧れられていたことに感謝するディオンであった。

そんなこんなで無事に(エイナは無事ではない)手続きを済ました。ヘスティアファミリア御一行はギルドを後にした。

変わらずディオンの事で何事か女子トークをする同僚たち。

同期のミィシャ・フロットは嬉しそうにエイナに話しかけていた。

 

「エイナ羨ましい!!私もさっきのディオンさんだっけ?ギルドにようこそって言いたかったなーー!!」

 

そんなロビーの狂騒の奥、ミィシャの喜色満面を受け流して自分のデスクに戻ったアドバイザーのエイナ・チュールは、提出された書類を前に完全に白目を剥いて頭を抱えていた。

ベルの【赫灼の白兎】の二つ名に続き、新参のクライヴがレベル3、新顔のディオンがレベル2。事務手続きの手が震えるほど、ヘスティア・ファミリアの爆速の系譜はギルドの常識を崩壊させていた。

 

───

 

先日のエルソスでの出来事と地上へと無事に帰還し、ベルの中層進出サバイバルとランクアップの祝杯のため、一行はモブ冒険者たちで賑わう酒場『焔蜂亭(ひばちてい)』を訪れていた。(※ヴェルフは残りの赤い角の加工と整備のため、工房に籠もって不参加である)。

 

「ヴェルフから聞いてここの蜂蜜酒が美味しいと聞いて来たんですよ。僕は薄めの割った物を注文しようと思います。クライヴさんとディオンさんは何にします?」

 

「そのオススメの蜂蜜酒にしよう」

 

「私は葡萄酒割の蜂蜜酒にしてみるか」

 

3人の注文が揃った所でささやかながらの乾杯をする3人。

基本的にはベルのこれまでの冒険を聞き入る大人の2人であった。

ベルは異世界の英雄にして、今回お二人が元騎士と騎士団長ということも分かり、いろいろ聞きたかったがこういう場所では2人の経緯を考えたら聞くのは良くないなと他愛もないお話とかでも盛り上がる。

クライヴは酒場に慣れているようだが、ディオンは慣れてない感じで少し戸惑いながらも飲食をしていた。

そうして、楽しいひと時が流れていたのだが、その活気あふれる酒場の空気を切り裂くように、最悪の足音が近づいてきた。

アポロン・ファミリアの団長――ヒュアキントス・クリオたちの一団だった。

彼らは主神アポロンの陰謀の元、意図的にベルたちに難癖をつけ、最悪の喧嘩を仕掛けようと、下卑た笑みを浮かべて抜刀しかける。

ベルたちは最初は耐えていたが、ヘスティアの事に触れられて激怒したベルをきっかけに一触即発となった。

普通であるあれば、ここから大規模な大乱闘へと発展するはずの悪意の舞台。

――だが、今回は、彼らの目の前に座っている大人の格が違いすぎた。

 

「――そこまでにしてもらおうか」

 

クライヴが、背中のフレイムタンの柄に静かに手をかけた。その瞬間、元の世界で無数のドミナントや邪神を引き裂いてきた、心臓を直接掴まれるかのような『神殺しの圧倒的な凄み(大人の覇気)』が酒場全体へと静かに解放された。

さらに隣に立つディオンが、氷のように冷たく、気高き『ザンブレク騎士長としての静かなる眼差し』を、ヒュアキントスたちの瞳の奥へと真っ直ぐに突き刺した。

冷え冷えと大気が完全に氷結する。

 

「あ、足が……動かない……っ!? なんだ、このプレッシャーは……っ!」

 

ヒュアキントスたちの顔面から、一瞬にして血の気が引いた。

喧嘩にすらならなかった。レベル3へとランクアップしたクライヴと力を取り戻したディオン。

二人の『本物の怪物』が放つ圧倒的な格の違いによる戦慄の前に、アポロン・ファミリアの面々はガタガタと膝を震わせ、指一本動かせないまま金縛りに処されたのだ。

みっともなく去っていくアポロンファミリアの一団に周囲の冒険者は面白いものが見れると期待したのに期待外れで元の会話に戻り、3人が飲み直そうとした時に近付く影があった。

その影が何か言う前に事前に察していたクライヴが話しかける。

 

「何かようか?ベート」

 

「チッ、相変わらず察しのいいことで。何でもねぇよ。…おっさんたちなら軽くあんな奴ら潰せたろ。雑魚共を野放しにするとつけ上がるぞ」

 

「どちらにしろ、今回だけでは終わらんだろうからアレでいいんだ。なんだ存外ベルのことを心配してくれたのか?」

 

「そんなんじゃねぇよ!!」

 

クライヴことおっさんの態度に最後は少しキレ気味でその場を後にしたベートだった。

 

「知り合いか?粗暴な獣人というのかあのような種族もいるのだな」

 

「まぁ、少し共に戦った仲だ。ああ言う物言いでもしっかり周りは見えている奴だ。危機感にも敏感でもある」

 

「ふむ、覚えておこう。ベートという者だな」

 

「ベート・ローガ。ロキファミリアという所の所属だ。第一級冒険者と呼ばれる存在で二つ名は【凶狼(ヴァナルガンド)】。格が上がった雰囲気を感じたからランクアップしたようだな」

 

ディオンの興味に自分なりの評価も含めて、ベートのランクアップにも気付いたクライヴであった。

クライヴに取っては慣れたがディオンにとっては人間以外の種族はまだまだ珍しい存在であった。

 

「ベートさん、ちょっと怖いイメージ何ですけど仲間想いなんですね!」

 

先ほどまで少し落ち込んでいたベルが明るくそんなことを言った。ベートに向かって言えばさぞキレられたことであろう。

そうして、3人での祝杯は終わりへと向かっていった。

 

裏では、リリの所属する『ソーマ・ファミリア』の残党たちも不穏な動きを見せ始める中。

アポロンたちの傲慢な太陽の陰謀が、このヘスティア・ファミリアに潜む二人の王の「本当の恐ろしさ」を知らぬまま動き出す、最悪の前触れの中で、第二十六話の幕が下りる。

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