ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
オラリオ中が固唾を呑んで『神の鏡』の画面を見つめる中、全面抗争『ウォーゲーム』の開戦を告げる鐘の音が響き渡った。
ヘファイストス・ファミリアの工房では、ヴェルフ・クロッゾがただ一人、鏡の前に立ち、ベルへと託した己の最高傑作――雷魔剣『
「――【ルミノス・ウィンド】ッッ!!」
開戦と同時に、唯一の公式助っ人であるリュー・リオンが、その『疾風』の神速でアポロン・ファミリアが籠もる巨大な居城の城壁を縦横無尽に駆け巡った。放たれる風の広範囲魔法が敵の陣形と視界を完全に狂わせる、最高級の戦場攪乱。
その一瞬の隙を突き、ベル、リリ、クライヴ、ディオンの4人が正面から突撃を開始した。
「リュー様が動きました。こちらも作戦通り行きましょう!!」
「うん!!リリ頼りにしてるよ!」
「はい!ベル様!!」
リリは自身の変身工作を封じ、ベルの【敏捷:SSS(1210)】という異次元の爆速に命懸けで並走する『専属サポーター』としての役割に徹していた。
ベルの速度を100%活かすため、リリはベルから預かった短刀『灼牛』を自らの左側面に帯びて近接防衛用とし、背中の大型バックパックには重量級の大剣『フレイム・オックス』を完璧に固定して背負っている。
ベルの腰の後ろには『ヘスティア・ショートソード』、左側面には『鳴牙』。
リリはベルの超高速戦闘の軌道を完璧に先読みし、適切な間合いでマジックポーションを投げ渡し、状況に応じて背中の大剣を素早く引き渡すという、完璧なコンビネーションで最前線を駆け抜けていった。
「【
「開始早々の突撃による速攻ね!!なるほどあっちの覆面は撹乱と陽動」
「みんな狼狽えないで、まだ距離もある指揮に従って!!」
城壁の上で指揮を執るダフネ・ラウロスは、突っ込んでくるクライヴとディオンの二人の姿を見て、頑強な鉄製の城門を完全に閉鎖するよう叫んだ。
だがその隣で、予知夢を見たカサンドラ・イリオンが、青ざめた顔で頭を抱え、絶望の叫びを響かせた。
「ダフネちゃん!!今すぐここから逃げよう!!兎さんを見つけたら逃げないと地獄の炎と殲滅の光にみんなが…」
「何バカな事を!!また夢の話??いい加減にして!!みんな城門閉鎖急いで。魔道士隊は詠唱開始!!」
「ダフネちゃん信じてよ…ああ、もうダメだ太陽は沈むの…大いなる顕現を持つ
顔を押さえて、大粒の汗をかきながらカサンドラはその場に座り込む。
ダフネは個人として心配であったが、前線の指揮を任される者として構ってはいられなかった。だが、その実、先日のヘスティアファミリアの廃教会の出来事がずっと頭を離れない。
こちらは100人近くの団員を抱え、上級冒険者も複数名在籍しており、団長のヒュアキントスに至ってはレベル3であり、レベル4も近いのではと言われている。
それだから、大丈夫と思いたかった。そう、この時既に彼女は心の何処かで天秤がどちらか気付いていたのかもしれない。
「――『イグニッション』ッッ!!」
カサンドラの警告を置き去りにして、空中から炎の螺旋槍と化したクライヴが突進した。
レベル3の最高出力となった『イグニッション』の凄まじい紅蓮の渦巻く炎轟。その一撃が巨大な鉄門へと直撃した瞬間、アポロンの守備隊ごと、強固な鉄門はドロドロに融解し、跡形もなく木端微塵に爆散・完全開放された。
金属が溶ける臭いと轟音それがたった一度だけ感じ取れただけであった
「はっ!?はぁああ!!?」
思わず、唖然としながら叫ぶダフネ。慌てて城内戦闘へと作戦を切り替えようとするが、何もかも始まりから手遅れだった。
伝播したように動揺し、城壁の上から一斉に魔法を放とうとするアポロンの魔導士隊。
「─遅いな。先日の1件で少しは学んだかと思ったが…。速さとはすなわち光。我が竜槍術をもう一度その身に刻め」
そこへディオンがザンブレクの竜騎士槍を手に垂直跳躍を敢行した。高度補正スキル『
重力を無視した竜騎士の槍撃が城壁の上を瞬く間に蹂躙し、魔導士隊を文字通り一瞬にして全滅、完全沈黙へと追いやるのだった。
城門前の前線の守備隊はダフネとカサンドラを残し、壊滅した。
───
二人のドミナントが正面の防衛線を完膚なきまでにすり潰す中、ベルは最上階のヒュアキントス・クリオの待つ玉座の間へと到達した。
「リリ。大丈夫?着いてきてくれてホントにありがとう」
「ハァッハァッ……何とか…ハァッ…ついて行けました。ベル様速すぎます。たぶん、レベル3の平均的な方よりも、あるいはレベル4も…ハァッ」
城内でずっとスピードを緩めず、全力疾走ということは無かったが、レベル1にしてサポーターのリリにとってはとんでもないマラソンとなったここまでの道中であった。
ベルはしばし考えながら玉座の間の扉前で立ち止まる。リリを休憩させる意味も持たせていた。
ショートソードでの炎龍の親和性+『
黄色い光条と化した稲妻が、玉座の間の巨大な装甲壁と鉄扉を音速で穿ち抜き、綺麗な風穴を開けてそこから堂々と乗り込む。
「……赫灼の白兎ォォォッ!!」
前回の襲撃で大人の本物の殺意を刷り込まれ、狂気的な恐怖に駆られていたヒュアキントスは、本来の愛剣である『太陽のフランベルジュ』に加え、使い捨ての『火の魔剣(フランベルジュ型)』を左手に構えた二刀流で、最初から全力の魔剣の炎を放ってきた。
「──【放つ火輪の一投】【来たれ、西方の風】」
「【アロ・ゼフュロス】!!」
さらに、フリスビー状の火属性追尾魔法【アロ・ゼフュロス】を乱射してベルを圧殺せんと迫る。
「あっちは迎撃準備万全ですか!!ベル様ー!!」
「リリ、大丈夫ここからは下がってて」
ベルは直前に命から習ったタケミカヅチ式の大刀術・居合の体捌きを駆使し、黄色い刀身の雷魔剣『鳴牙』を引き抜いて迎撃した。先ほども使った『英雄昇火』の魔力軽減と雷親和のバグが強制連動。
放たれた雷の居合の一閃が、ヒュアキントスの追尾魔法『アロ・ゼフュロス』を真っ二つに切り裂いて空間ごと両断する。
ガキィィィン!カン!と激しくぶつかり合う武器。
ヒュアキントスの持つ火の魔剣は数発で自壊していくが、ベルの持つ『鳴牙』はスキルの影響で壊れるどころか、刀身に黄色い稲妻を纏ったまま強度を増していく。
「何なんだ貴様のその魔剣は〜!!」
「ハァア!!」
苛つきながら、己の折れた魔剣を投げ捨て愛剣で迫るヒュアキントス。それに応戦するベル。
一方では中継を見た工房のヴェルフは「俺の打った魔剣が、なんで折れねぇんだ……!?」と『神の鏡』の前で驚愕に目を剥いていた。
───
ベルとヒュアキントスの戦いの戦場は魔法を撃ち合い激しい戦闘で崩壊した玉座の間から移り変わり城内の広めの場所による一騎討ちとなっていた。
そのベルの振るう最速の雷の軌道を見つめながら、後方で戦況を見守っていたクライヴは、静かに目を細めていた。
(黄色い最速の雷、か……。
自分が夢を見つけて抗う旅路へと歩んでいくきっかけとなった亡きシドルファス・テラモーンの背中をベルに重ねる、クライヴの渋いモノローグ。
ベルがタイマンを張っているまさにその頃、城の広大な中庭では、クライヴとディオンの二人が静かに向かい合っていた。
「ベルの邪魔をさせない」という名目で周囲を封鎖しつつ、二人は「広い場所で本気で手合わせできる機会など早々ない」と、お互いの大剣と長槍を構えた。
「私の前でよそ見とは随分と余裕そうだな。クライヴ・ロズフィールド卿」
「不意打ちなどという品がないやり方など好まないだろう。ディオン・ルサージュ卿」
2人は薄く笑いながらも一切の隙がない状態であった。
「少年が…ベルが心配か?クライヴ」
「…ただ、少し想い馳せていただけさ。ディオン」
2人は呼吸を合わせるようにお互いが同時に動いた。
「行くぞ!!」
「来られよ!!」
完全顕現は封印。
だが、純粋なレベル3の剣術とレベル2の竜騎士槍術による、下界の神々が「おい、あいつら引き分けという名目で完全に殺し合いをしてるぞ!?」と恐怖するほどの、凄まじい風圧と火花を散らす大人の鍛錬を裏で繰り広げるのだった。
───
試合を見守るデナトゥスの会場では初めはアポロンは余裕の笑みでヘスティアに向けて「降伏するなら今しかないぞ」、「ベル君や2人の子も今日から私のものとなると胸が高鳴るな」、「ヘスティア、慈悲として一緒に子どもたちへの愛を語る機会をほんの少しは作ってやってもいい」などと口にしていたが、開幕直後から驚愕の表情を見せ、「バカな」、「ヒュアキントスが押されている??何故だ!!?」と焦りだし、今は唇をワナワナと震わせて黙り込んでいた。
一方のヘスティアは開幕前から彼女としては珍しくシリアスな雰囲気で全くアポロンの戯言に付き合ってはいなかった。
おバカな罵り合いを期待していた
ちなみにオラリオの広場ではガネーシャファミリアの主神ガネーシャとその眷族のイブリ・アチャーが熱の籠もった暑苦しい実況をして、大衆を沸かせていた。
ガネーシャは「俺がガネーシャだぁああ!!」しかほとんど言ってない。しかし、実のところはその像の面に隠された眼差しは。子どもたちを見守る眼差しは真剣そのものであった。彼もまた、彼なりの神としての神意を持っているのだ。
ヘスティアは趨勢を真剣な眼差しで見守りながら、ここで初めて自分たち陣営側の神たちに声をかける
「みんなありがとう。タケ、ミアハ、ヘファイストス」
「俺は大したことはしちゃいないさ。
当時の事を思い出しながら、タケミカヅチは語っていた。大したことはしてないと言いつつもベルの癖や得意を瞬時に把握して、都度アドバイスをしていたのは流石は武神か。
「私もいつも通りに懇意にしてくれるベルたちにポーションを授けただけだ。ナァーザが珍しく張り切ってはいたがな」
ミアハもまた謙遜はしていたが、的確に此度の戦いで必要そうな要素を医神としての
ナァーザは「常連がいなくなるのは困るよ」と言いながら、普段お金に厳しいのにタダで渡してくれた。その代わり今度中層の『大樹の迷宮』に行くようになったら、沢山素材を取ってきてほしいとちゃっかり約束を取り付けていた。
「私も何もしてないわよ?ヴェルフが『友のために』って張り切ってたから、少しだけ頑張る子のために素材を渡してみたら、まさかあんな魔剣が出来上がったみたいだけどね」
ヘファイストスも何もしてないと言いつつも最高級のアダマンタイトなどを渡したりしていた。
ひと作品出来たら良いかな程度の量であったが、ヴェルフとしても傑作と言える魔剣が出来上がったが現状のベルが扱っている状態の魔剣は
ヘファイストスとしてもそのバグと言える違和感は抜きにしても今回の『鳴牙』はヴェルフの純粋な想いによる邪念や不純物が取り払われた中々な物と認めていた。本人には
何故だが、鍛冶神の直感からもう少しあの作品はイケそうと気がすると思っていた。
「それでもさ!ベル君たちの代わりに主神としてお礼を言わせてほしいみんな」
そんなヘスティアの態度に微笑む3柱であった。
そんなヘスティアたちの所へ近付く神が一人。
「ヘスティア。ベル君のことについて聞きたいことがあるがいいかい?」
「なんだいヘルメス?畏まって?」
いつもの飄々とした軽薄そうな雰囲気でなく、真面目なトーンでヘルメスは話しかけた。
「誰も突っ込まないから聞くが、ベル君の成長スピードが異常だと思ってね。その秘訣は答えなくていいからステイタス教えて貰ったりとかどうかなと思ってね。明らかにレベルにおいて格上のアポロンの子を圧倒してるからさ」
「まぁ、そのくらいならいいけど。敏捷に関してはアビリティトリプルS」
ヘスティアはてっきりベルのスキルの秘密やクライヴたちの出自を聞かれるのではないかと身構えていたが、そんなことは無かったので、小声ながらなんてことのないように答えた。
「はっ!?マジ!?」
「マジ。話はそれだけならボクは観戦に戻るよ」
あまりにも素っ気なく、なんて事も無いように答えたので余裕を持っていると自身の事を思っていたヘルメスは固まり、それ以上はもう聞くなとヘスティアのオーラを察して追求はしなかった。本命はクライヴたちの事であるのだが、これはもう次回以降にヘスティアが口を滑らせてくれる機会の時に決めたヘルメスだった。
(ゼウスあなたの
ヘルメスは余裕を無くした己の表情を隠すように、帽子のツバを下げた。
───
命から伝授された縦一文字の遠心力を乗せ、ベルはバックパックのリリから引き渡された大剣『フレイム・オックス』と『鳴牙』による怒濤の二刀流猛攻へシフト。
「リリ!」
「はい!!ベル様!!」
2人は阿吽の呼吸で武器シフトを成し遂げる。
猛攻を受けて怒気を全開のヒュアキントスが叫ぶ。
「レベル2風情が私を追い込むなどふざけるなよ!」
「レベルで判断してるのならベル様には負けるのは決まってますよ」
ヒュアキントスの叫びに聞こえても聞こえなくてもいい程度の声量でリリは呟いたのだった。
ベルはいつだって、レベルなんて関係なく誰かのために走り続けて来ている。それが何なのかはリリにはよく分からないがそんなベルの側を自分も歩むと決めているリリであった。
「クッこのまま押されるわけにはアポロン様の為にも!!」
その叫びが通じたのか、ヒュアキントス側に2人の影が現れる。
「ヒュアキントス!随分なやられようね。一応、ウチら以外は全滅。リッソスの部隊も覆面一人にやられた」
「ダフネちゃん、もう戦うのは止めた方が…」
ダフネとカサンドラの登場にヒュアキントスは少し持ち直し、ベルは警戒心を強めた。何となく2人が上級冒険者と掴めたからだ。こちらにはリリがいるが相手の出方が分からない以上は3対1の戦いを強いいられる。
「…そうか分かった。ならば3人で大将の首を取る。目の前の小僧だ。それもちょうど良かったぞ。イリオン」
「回復魔法を使え!ラウロスは私の援護をしつつ、小賢しい
ヒュアキントスの命令の元、カサンドラが詠唱を開始する。ベルは一瞬詠唱を止めるために動くかと思ったが止めた。
こちらも回復に徹した。それに2対1を相手が選択するのなら勝機はあると考えた。
アイズとティオナ、クライヴとディオンの二人を相手にするよりはマシであるからだ。
「ベル様。最後のデュアルポーションです。それからあのヒーラーはリリが受け持ちます。勝って見せます」
リリは並々ならぬ決意で格上に挑むと宣言した。そんなリリをいつもなら心配するベルであるが、今回は何故だが確信するように信じられた。
「じゃあ、頼んだよリリ」
「はい!」
そうしてお互いの作戦は決まった。
「──【願わくば破滅を退けよ】」
詠唱の完成。震えつつも淀みなくカサンドラは詠唱を成し遂げた。
「【ソールライト】」
短文詠唱の範囲型回復魔法という
カサンドラのマインドが残り少なくそんなに大きな回復は見込め無かったが、ヒュアキントスもダフネも仕切り直すには十分な回復を得られた。
「良くやった。お前は戦闘では邪魔だから下がれ、マインドが回復すれば都度詠唱しろ」
「はい…」
ヒュアキントスからの命令に俯きながら答えたカサンドラ。
「待たせたなベル・クラネル。決着といこう」
その言葉と共に冷静さと動きのキレが戻ったヒュアキントスが仕掛ける。
ダフネもまた、動き始めた。先ずは邪魔をしかねないリリを仕留める算段だ。
「ハァア!おもっ!!」
ベルは大剣と刀の二刀流という無茶苦茶をしながらもヒュアキントスに挑むように動いた。
『フレイム・オックス』で防ぎカウンターに『鳴牙』を振るう。振るうたびに稲妻が迸るために中々に攻めあぐねるヒュアキントス。
その一方でダフネの動きを察知しながらスルーして、リリもまた無視を決行。カサンドラを狙いにボウガンと『灼牛』を手に動いた。
「きっ来ちゃった!!?」
慌てるカサンドラの前にリリがボウガンを容赦なく放つ。
「危ない…!!」
頭を守るようにしゃがみ込む。彼女に対してやはり戦闘向きではないと判断するリリはそれでも油断はなかった。相手はレベル2の上級冒険者。基礎ステイタスでは負けていることは確実。ならば奇策と速攻で仕留めに行く。
「カサンドラ!!」
リリの速攻を危惧したダフネが割り込みに行く。その動きを横目にベルは彼女の背後の背後、死角になった瞬間を狙い。
撃ち放つ。
「ファイアボルト!!」
「ラウロス後ろだ!!」
剣を握ったままでも撃ち放った。ベルの無詠唱魔法がダフネに迫る。ベルはヒュアキントスのフランベルジュを片手で受け止めながら、撃ちやすい方向と距離にヒュアキントスを引きつけていたのだ。
ヒュアキントスの声に振り返り、何とか回避したダフネの回避先にはリリが待っていた。
「しまった!!」
無防備に背中をリリに晒したことに背後からのダメージを覚悟したが何もなかった。
リリは僅かに立ち止まって『灼牛』で振りかぶろうとしたように見せかけてカサンドラの方に走っていく。
(あの子、しっかり考えてウチら読んでサポートしてる。連携もうまい!ウチの動きも視てた。小人族が視力が良いってのはホントみたいね)
僅かに考え込み判断を下そうとした指揮官としてのダフネのその隙が仇となった。
稲妻の音が一瞬聞こえたかと思うと背後から斬られながら感電して、ダフネは倒れ込んだ。
ベルとリリの三段構えの背後からの一撃だった。
「ぐわぁ…。傷が深い。痺れて動けない…」
ダフネは己の戦闘不能を悟った。
「ラウロス!!チィッ!!」
ベルに攻撃の隙とキルゾーンを設定された事に苛立ち、懐に隠していた最後の武器『連理の短剣』による。刺突を見舞うヒュアキントスであるが、ベルは振り向かずに反応して『フレイム・オックス』の剣の腹で防いでみせた。
アイズから教わっていた『ピンチの時こそチャンス』相手の動きは単純になるというのを横目で把握していたのだ。
「何故それを防げる、つくづく苛つく奴だ貴様は!!」
刺突の衝撃を利用して距離を開けたベルは『フレイム・オックス』を手放して、『鳴牙』を両手で構えた。
「『武士道・一刀流』…」
ベルは静かにそう口にした。ヒュアキントスの言葉にもういちいち付き合う気もない。
静かな呼吸で構えるベルは迷いはなく狙いも技も既に決まっていた。
───
リリは横目でダフネが戦力外になったことを確認するとカサンドラに真っ直ぐに突撃した。
それを見たカサンドラも迎撃の構えだ。お互いの間合いに入る寸前、リリは懐から煙幕弾を転がした。
「煙幕…カサンドラ落ち着きなさい!」
動けずとも何とか友を援護するために声を張り上げるダフネ。
そんなダフネに勇気づけられて、カサンドラも慎重にリリが仕掛けて来るのを待った。
「──【シンダー・エラ】」
「カサンドラ、オイラだよ!!」
「えっ!?」
全滅したはずの団員の小人族の影と声が聞こえてそちらを注視した瞬間飛び出して来たのはリリであった。
リリがここで初めて得意の変身魔法を解禁したのだ。
「フッ!リリだってやる時はやります!」
「ガッ!?ゴホゴホ」
リリの『灼牛』での思いっきり鳩尾への攻撃に身体をくの字にして着痩せしている豊かな双丘を揺らしながら、悶えるカサンドラに追い打ちをかけるように背後からリリが後頭部付近を短刀の腹で殴りつけた。
煙が晴れた頃には倒れ込み気絶したカサンドラと勝利を噛み締めるリリルカの姿があった。
───
時を同じくして、ベルが僅かなチャージによる脚力アップと1秒も満たない『鳴牙』へのチャージを実行。
「チェスットォオオオオ!!」
これまでよりもさらに速い突撃と気迫にヒュアキントスを完璧に圧倒し、最後はアルゴノゥト・チャージの『縦一文字斬り』を叩きつけた。
ズバァァァンッッ!!!
凄まじい衝撃と共にヒュアキントスの持つ『太陽のフランベルジュ』が文字通り真っ二つに破断され、その肩口からバッサリと切り裂かれた。
同時に、限界の出力を放ちきった『鳴牙』の黄色い刀身も、ここで派手に砕け散る。
しかし、血を流しながらも執念で立ち上がり、再びベルへ向けて魔法を唱えようとする満身創痍のヒュアキントス。
「ゼェ…ゼェ。まだだ。私は…【我が名は…愛。光の…】」
刀身を失ったベルは、砕け散った鳴牙の「黒い柄」を真っ直ぐに敵へと突き付けた後に振り上げて、力強く振り下ろした。
その瞬間、ベルの残った魔力とチャージが、空間の魔力と共鳴し、真上から直撃の「天からの裁きの一撃の如くな大落雷」がヒュアキントスの脳天へと降り注いだ。
ドゴォォォォォンッッッッ!!!
それはまるで、ベルの育ての親である大神ゼウスの『雷霆』そのものの如き天罰。ヒュアキントスはその一撃で完全沈黙し、白目を剥いて気絶。デナトゥスの会場でヘスティアとアポロンが対峙する中、ヘスティア・ファミリアの圧倒的な完全勝利が、オラリオ全土へと告げられるのだった。