ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
戦争遊戯『ウォーゲーム』の完全なる決着。
デナトゥスの特設会場に展開された『神の鏡』の画面がヘスティア・ファミリアの圧倒的な勝利を告げた瞬間、ロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』で観戦していたアイズやティオナ、ティオネたちは大歓声を上げてその栄誉を喜んでいた。
「アルゴノゥト君やったよ!凄いピカッて雷降らしてた。やっぱりアルゴノゥトみたいだよ!!凄いねアイズ!!」
「うん…ベル。頑張ってた。諦めなかった」
ティオナは火の魔法に雷を扱う剣というベルの姿から、本当にアルゴノゥトみたいだと満面の笑みで喜んだ。
アイズもまた乏しい表情ながら笑顔であった。心の中のチビアイズは立派にお座りする兎の背後から火と雷が映っているのを見て目を輝かせていた。
「あの時、直談判に来てどうしようかとも思ったけどカッコよく勝ったわね。やるじゃない」
「ハッ!舐めてた雑魚が這い上がって昇っていく奴に狩られた。当然だろうよ」
ティオネもまた、冷静でありながら勝利を称え、口では褒めてなくても珍しくベートは目をギラつかせながら笑っていた。
ただ一人山吹色の髪をした妖精は「ぐぬぬぬぬ…ベル・クラネル」と小さく唸っていた。きっと素直に喜べないお年頃なのだろう。
しかし、その喧騒の傍らで、団長フィン・ディムナだけは、冷や汗を流しながら画面を凝視していた。
ベル・クラネルが最後に放った、あのゼウスの雷霆を思わせる大落雷。その黄色い光条を目撃した瞬間、フィンの脳裏には、【7年前の暗黒期の大災厄】で目撃した“ある凄絶な落雷”の光景が、不気味にフラッシュバックしていた。
(何かがおかしい……。あの戦場で、僕は確かにあの雷を見たはずだ。だが――)
フィンは隣にいるリヴェリアとガレスへと視線を向け、静かに問いかけたが、二人の反応は「そんな落雷の記録は、アストレア・ファミリアの戦いにもない」という全く異なるものだった。同じ暗黒期を前線で潜り抜けてきたはずの三首領の記憶が、完璧に食い違っている。
狂い始めた歴史の因果。フィンは自身の親指が激しく疼くのを感じながら、ヘスティアの元にいる灰色マントの男――クライヴ・ロズフィールドの底知れぬ影を、強く危険視し始めるのだった。
───
「――よくやったな、ベル。お前はもう、立派な英雄だ」
「ああ、見事な縦一文字であったぞ、少年」
開戦日の夜、ボロボロになりながらも勝利を掴んだベルに対し、クライヴとディオンの二人のドミナントは、その健闘を心から称えていた。
二人は城の中庭で繰り広げた、互いの技を尽くした『大剣×長槍の本気の鍛錬』に、衣服の乱れこそあれど傷は一切なし、という圧倒的な格の違いを見せつけ、久々に広い場所で思う存分に刃を交えられたことに深い満足感を覚えていた。
翌日、ヘスティアによる戦後処理が執り行われた。
アポロンに対し、クライヴやディオンがこれまでに稼いできた莫大な資金、さらにロキ・ファミリアやフェルズから受け取った裏の報酬の余裕もあり、ヘスティアは原作以上の『深い慈悲』を見せた。
アポロンの全資産を95%没収しつつも、残りの5%をアポロンのこれからの生活のために残し、アポロン・ファミリアの団員たちの中で改宗を望むものは受け入れ、望まぬものはそのまま共に居させるよう配慮。アポロンのオラリオ追放に関しても、『都市の呼び出しやクエストがあれば、一時的な帰還・滞在を認める』という、炉の神ならではの深い器を示し、惨めに泣き叫ぶ変態神を都市から放逐したのだった。
続いて、リリルカ・アーデのステイタス更新。
ダフネを完璧にキルゾーンへとハメ倒し、カサンドラとの意地のタイマンに勝利したレベル1としてあり得ない大金星。その結果、リリの基本能力は【器用:A(810)】【敏捷:B(720)】という限界領域へ跳ね上がっていた。
「リリくん、今回の君の頭脳は完璧な『偉業』だよ。だけど、もっともっと強固な“器”を作ってから、次のレベルへ進もう!ランクアップまでもう少しに感じるよ!!」
ヘスティアの愛に満ちた言葉に、リリはレベル2への昇格が近いことを涙を流して深く頷くのだった。
一方で、クライヴとディオンの二人の基本アビリティの伸び率はやはり「しわい」。
だが、高潔な信仰心を胸に秘めたディオンだけは、神への純粋な祈りが経験値に換算されたのか、クライヴよりも「ほんの、ほんの少しだけ」能力の伸びが良かった。
(……お互い、こうして地道な鍛錬でステイタスを高めていくしかないようだな、クライヴ)
(ああ、地道な泥仕合なら、俺たちの得意分野だ、ディオン)
しわい成長を前に、二人のドミナントは内心で大人の渋い苦笑いを交わし合うのだった。
「よし、それじゃあ最後に……我がファミリアの団長、ベル君の番だ。うつ伏せになりたまえ!」
ヘスティアが細い指先を針で突き、神の血をベルの背中へと垂らした瞬間、ヘスティア部屋の空間そのものが、かつてないほど清冽な白銀の魔力の光によって満たされた。
神聖文字がベルの白い背中へびっしりと浮かび上がり、その数値を見たヘスティアの手が、カタカタと激しく震え出す。
「オ、オールSS(1000オーバー)……! いや、それどころか『敏捷』と『魔力』の欄は……【SSS(1250オーバー)】を叩き出しているよ……っ!? 下界の限界の壁を、君はまたしても自らの渇望で粉々にブチ壊したんだね、ベルくん!」
その場に居合わせたリリや、大剣を傍らに置いて見守っていたクライヴ、ディオンの二人の王もまた、少年の命懸けの特訓の結晶に深く頷いた。これほど強固に鍛え上げられた器は、オラリオの歴史のどこを探しても存在しない。
ヘスティアは深い愛おしさを瞳に宿しながら、神としての権能を解放し、ベルの背中の文字を力強く書き換えた。ベル・クラネル、正式にレベル3への『
基本アビリティのすべての数値が【0】へとリセットされ、新しき白銀の器が誕生したその背中。空欄だった発展アビリティの欄に、ベルのこれまでの泥臭い『生き様』をそのまま形にしたかのような、新たなレアアビリティの文字が厳かに浮かび上がった。
《発展アビリティ》:【意地】
・効果:逆境時における全補正アビリティ。
・格上の強敵、あるいは絶望的な「数の暴力」に晒された際、ベルが装備している防具の防御硬度、武器の刃こぼれ耐性、そして自身の【耐久】能力に対して、高補正。
「【意地】……か。フッ、あの地獄のサバイバルを、文字通りボコボコにされながらも泥臭く生き抜き、巨人と戦い、先日はレベルが上の奴をぶっ飛ばした。これ以上ないほどふさわしい力だな、ベル」
クライヴが静かに笑い、ディオンもまた「逆境を覆す、騎士の不屈の心だな。誇るといい、少年」と、その新たな覚醒を称えた。
「はい……! 神様、クライヴさん、ディオンさん……僕、もっともっと強くなります!」
誇らしく佇むベルはレベル3の『赫灼の白兎』として、これ以上ないほど洗練された戦士の風格を漂わせるのだった。
ランクアップの手続きを終えたその日の夕方、ベルが久しぶりにオラリオの巨大な市壁の上へと足を運ぶと、そこには夜風に金髪を揺らす『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインが佇んでいた。
「──あっ、アイズさん!来てたんですね!」
「――ベル…?うん、何となく。ウォーゲーム凄かったね。それにもしかして…かな?ランクアップ……おめでとう」
ファミリアの外で、一番最初にベルのレベル3昇格に気づき、静かに祝ってくれたアイズ。
二人は市壁の上で、一合だけ、刃を交わせた。キィィンと澄んだ金属音が響く。ベルの無駄のない鋭い踏み込みに、アイズは金色の瞳を丸くし、
「……凄く、強くなってきているね、ベル」
と、心からの賞賛の笑みを向けた。ベルは顔を赤くし、嬉しさに胸を詰まらせながら、はにかむのだった。
───
数日後、没収したアポロンの巨大な旧居城(ヘスティアファミリアの新ホーム)への引っ越しと、ゴブニュ・ファミリアの手による大々的な改装工事が開始された。
クライヴの部屋は、彼の好みを反映した、落ち着きのある明るめの黒を基調としたシックな内装。一方のディオンの部屋は、ザンブレクの気品を感じさせる、荘厳でありながらも決して豪奢ではない、ベージュに近い色合いの洗練された美しさに仕上がっていた。
ベルの部屋はほとんど変更はなく。リリルカの部屋も同様であった。
アルテミスの部屋は天蓋付きの純白の高級ベッドに旧ホームから持ち込まれた『オリオンの矢』と『アルテミスファミリアの団旗』。クローゼットにはヘスティアとお揃いのドレスがしまわれている。個人部屋単体では一番豪華にしてある。
リズンにも『小屋』という名目であるが部屋が与えられていて遊び道具や爪研ぎなどいろいろ置かれていた。ベッドもあるし本当に小屋もある。ゴブニュファミリアの面々は深くは聞かず、これからペットを飼うんだな思っていた。
リズンはウォーゲーム中は万が一の不届き者のために、アルテミスが眠る地下室の防衛を任せれていた。
そのご褒美だと思った彼女は『きゃうきゃう♪』と嬉しそうに部屋内でパタパタと飛んでいた。
最後にヘスティアであるが、部屋自体は質素に仕上げてあるが暖かみを感じさせる部屋となった。
ヘスティア自身がこだわったのは居間であり、暖炉が設置されていたりと廃教会の地下室であったものやなせなかったものを詰め込んだ『家族』団らんな場所としていた。
そして、団員の少なさを補うため、部屋の多くを懇意派閥(ミアハ、タケミカヅチ、ヘファイストスなど)の倉庫や、温泉付きのコテージとして格安で貸し出す共同運用を決定。温泉大好きなタケミカヅチ・ファミリアが日帰りで頻繁に訪れ、手狭なホームに悩んでいたミアハ、タケミカヅチの面々が毎日のように泊まりにくる賑やかさだった。
その中でも最近の顔見知りと言えば、アポロンの所にいたダフネとカサンドラである。ミアハファミリアへと改宗となったのだ。
リリに対しては悔しさはあったが、恨んじゃいないよとダフネはスッキリとした表情で伝えて、カサンドラは夢で小人族の聖女が〜などと意味が分からないことを言い始めたのでダフネに強制連行されていた。
「ヘスティア様! もっと宿泊単価を上げてください! これじゃあボランティアです!」
「いいじゃないかリリくん、困った時はお互い様、ほとんどサービスなんだから!」
リリがバックパックを揺らして叫び、ヘスティアが笑顔で押し切るコミカルな日常。
離れのヴェルフ専用の特製工房は、各属性への親和性が極限まで高い特別な炉が設置され、マスタースミスの工房すらも凌駕する規格外の聖域と化していた。
ヴェルフは泊まり込みでその工房に籠もり、大満足でハンマーを振るうが、そこへヘファイストスファミリア団長の椿・コルブランドが勝手に上がり込んできて揉めるいつものコメディ。
しかしある日、多忙な身でありながら椿を連れ戻しにやってきた最高神ヘファイストスが、その工房を見て「……あんまりにも良い工房ね、ヴェルフ」と静かに微笑んで褒めてくれた瞬間、ヴェルフの主神への敬愛は爆上がりするのだった。
そして――倒壊した思い出の廃教会の跡地。
そこをそのままにせず、信仰心の深いディオン主導の元、クライヴの建築技術を合わせて、ファミリア全員で小ぢんまりとした『ミニ教会』を建築・復興させた。
その地下室には、原作の漆黒ゴライアスの剛皮だけでなく、今作オリジナルの【ラージゴライアスの剛歯牙】、そして大地の力(タイタンの残滓)が混ざり込んだ、マスタースミスですら現状加工不能と言わしめる、『地属性を孕んだ理外の最高級鉱石素材』が厳重に秘匿されるのだった。
───
ヘスティア・ファミリアがオラリオ最大の「
夜の歓楽街。
アポロンの没落をさして興味を持ち合わせることもなく粛々とある
「フレイヤ、後少しでお前を…」
その娼館の窓から、美しくも儚い夜空を見上げ、満月をその翡翠の瞳に写しながら悲しげな表情を浮かべる狐人の少女――サンジョウノ・春姫。彼女の過酷な宿命の糸が、じわじわとオラリオの闇に蠢いていた。
その夜、ベッドで眠るベルは、忘却の夢の中にいた。
夢の楽園――あの静かな、美しい湖畔。そこには、健在のまま残された月の女神アルテミス様の思念体が待っていた。湖面には満月が美しく波紋を広げ、全天の夜空にも、一条の曇りもない巨大な満月が浮かび上がっている。
『――良くやったな、私のオリオン。フフ、アポロンは本当にただの変態だったから、君が勝ってくれて本当に良かった』
いつもの湖畔で、アルテミス様はいたずらっぽく、しかしどこまでも愛おしそうにベルを褒めてくれた。
(※もし万が一、ウォーゲームでベルたちが敗北していたならば、アルテミス様はたとえ神の力を失った人間並みの身体能力になっていようとも、あの重い『神月の矢』を引きずりながらデナトゥスの会場に乗り込み、アポロンと刺し違えてでもベルの貞操を守る覚悟であったのだ)。
朝、目を覚ましたベルは、その夢の内容を「毎回思い出せない」。
それでも、現実のオラリオで追いつくべきアイズの背中、そして魂に刻まれたアルテミス様との満月の約束。
次なるストーリーのすべてにおいて、あの『満月』が絶対的なキーワードになるという大いなる予感を平原の夜風に残して、アポロンファミリアとのウォーゲームがここに堂々の大団円を以て完全なる幕を閉じた──
そろそろアンケート取ろうかと思ってます。