ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
後書きにアンケート取ってみてます。
第31話:月下の歓楽街と
没収したアポロンの旧居城を改装した、温泉付きの新たなホーム
普段であれば日帰りで温泉を堪能しにやってくるはずのタケミカヅチ・ファミリアのヤマト・命とヒタチ・千草の二人が、この日に限って「今日はコテージに泊まる」と真面目な顔で宣言した。
その夜、周囲の目を盗むようにしてホームの裏門から外へと抜け出していく二人の不審な動きを、ベル・クラネル、リリルカ・アーデ、そしてクライヴとディオンの4人は静かに追跡していた(※ヴェルフはヘファイストス・ファミリアの工房に籠もっており今回は不在である)。
「――ベル様、あの方たち、やっぱり何か隠しています。行き先は……オラリオの南東。歓楽街です」
「歓楽街って神様が僕は近付いちゃいけない場所だってたしか…」
追っていく内にだいたい二人が何処を目指しているのか検討をつけたリリは断定する。そんなリリの言葉に思い出しながら神様とのやり取りを語った。
「いいかいベル君。オラリオの南東にある歓楽街には絶対に近付いたらダメだからね!これは主神命令だよ。絶対…──」などと何故だか説教をされるように言われていたのだった。
「リリとしても反対ですよ。今からでも引き返して欲しいぐらいです。ですが、そんな事をすれば勝手な事をするのがベル様です」
「そ、そんなことは…──」
リリが鋭い眼差しで告げる。リリの考えに否定しきれないベル。
「大きな都市にはだいたいこのような場所がやはりあるな」
「そのようだ。我がザンブレクでも公にはなくてもあったと聞いている」
後方から着いてきてくれているクライヴとディオンも元の世界のことを思い出しながら、呟き合っていた。
命たちの後を追ってたどり着いたその場所は、陽が落ちてからが本番となる、妖艶な魔力の灯火がギラギラと輝く大人の性域だった。
───
一歩足を踏み入れた瞬間、一行を歓楽街の凄まじい洗礼が襲った。
「キャーッ! 見て、今話題の『
「本当だわ! ウォーゲームの英雄サマ、お姉さんのお店で遊んでいかない!?」
アポロン・ファミリアを正面から粉砕し、世界最速の系譜として一躍時の人となったベルは、一瞬にして目の色を変えた高級娼婦たちやキャッチの男たちに四方から激しく揉みくちゃにされ、完全に動きを封じられてしまう。
だが、それ以上に凄まじい熱視線に晒されていたのは、ベルの後ろに控える二人の大人の男だった。
明るめの黒のいつもの服をシックに着こなすクライヴと、ベージュを基調とした高貴な佇まいを崩さないディオン。
獲物は持ち歩いているが、戦闘は想定していないので鎧は2人とも身に着けてはいなかった。
オラリオのどの第一級冒険者すら置き去りにするほどの圧倒的な美貌と覇気を放つ二人に対し、イシュタル・ファミリアの
「ねえそこのお兄さんたち、アポロンのウォーゲームで後ろにいた人たちでしょ? 強い男は大歓迎だよぉ!」
芳醇な香水の匂いと肌の露出を武器に迫る女たち。種族的特徴からか褐色肌のアマゾネスたちが多くを占めていた。
だが、元の世界に最愛の女性を遺してきた二人のドミナントの心は、微塵も揺らがなかった。
クライヴは「こちらには人探して来ている申し訳ないがな…」と言いながらフレイムタンの柄に静かに手を置いており、ディオンは「気品というものを身に着けてからにしてもらおう。私も人探しで来ている」とハッキリと言いつつザンブレクの精鋭部隊の騎士団長としての冷徹な一瞥だけで、その妖艶な誘惑を完膚なきまでに一蹴する大人の佇まいを見せるのだった。
───
その人混みの激しい混乱の最中、揉みくちゃにされていたベルが原作通り完全に一行から迷子になってしまう。
「あっ、あれ?みんなは何処に!?僕はもしかして迷子!!」
路地裏へと迷い込んだベルは、怪しげな神ヘルメスに遭遇。
「おや?そこにいるのはベル君かい?こんな所で会うとは君もお年頃ということかな?」
「ヘルメス様!?違いますよ!人を探していて!」
知り合いに会えた事に安堵しかけたのも束の間、あらぬ疑いを持たれ否定しようとするベルにヘルメスは軽薄な笑みを浮かべながらたたみかける。
「そんな隠そうとしなくていい。ベル君も男だからね。俺から良いものを渡しておこう!」
「ここぞという時に使い給え!」と不気味な『精力剤』の小瓶を無理やり手のひらに握らされた。
さらにその直後、運悪くイシュタル・ファミリアの幹部アイシャ・ベルカ率いるバーベラたちの一団に完全に包囲されてしまう。
「見つけた〜噂の子だ〜! 迷子のウサギちゃん捕まえた! 悪いようにはしないから、うちのホームへ連行だよ!」
「う、うわあぁぁぁっ!?」
原作の歴史であれば捕まりホームまで連れて行かれる絶体絶命のシーン。だが、今のベルは【敏捷・魔力SSS(1250オーバー)】の限界突破を果たした後にランクアップした異次元のレベル3だった。
ベルはヘスティア・ショートソードの鞘に手をかけると、地を爆ぜさせた。アイシャの目が驚愕に見開かれた瞬間、ベルの肉体は一本の白銀の雷光と化し、バーベラたちの包囲網の『死角』を電光石火のステップで完璧にすり抜けた。
そして、念のために『英雄昇火』のチャージをほんの僅かに脚力へ行使した。
「な……っ!? 速すぎ――消えたァッ!?」
アイシャたちが呆然と立ち尽くす中、ベルは一瞬にして彼女たちを完全に見失わせ、夜の街の奥へと逃げ切ってみせたのだ。
一方、ベルを見失ったことでサポーターのリリが素早く機転を利かせた。
「ベル様のあの速さなら、バーベラ程度に捕まることはありません! リリは一度ホームへ戻り、ヘスティア様にこの異常事態を知らせてきます!」
リリが裏道を通って先にホームへ帰還する中、残されたクライヴとディオンの二人は、複雑に入り組んだ歓楽街でのベルの本格的な捜索を開始した。
クライヴは大剣を背負ったまま地上から人混みを掻き分け、ディオンはスキル『信仰天撃』を持つ竜騎士らしく、ひょいと軽やかな跳躍で「遊郭の屋根の上」へと飛び乗り、高度のある高い場所から鋭い眼光で街を見下ろす立体的な捜索を試みた。
しかし、複雑に交錯する歓楽街の熱気と魔力の灯火に阻まれ、白き兎の気配を捉えることができない。それどころか、地上を歩くクライヴは「なんて逞しい背中だねぇ」、屋根の上のディオンは「月明かりに映える美しい騎士様かい?」と、行く先々で度々女たちに絡まれるという、大人の最高に賑やかな受難を強いられるのだった。
───
アイシャたちを爆速で撒き散らしたものの、複雑な歓楽街の迷宮の前に、ベルはやはり自分がどこにいるのか完全に分からなくなってしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ! ここは、どこだろう……」
疲れ果てたベルは、どこか周囲から隔離されたように静まり返った、一軒の巨大な遊郭の敷地へと辿り着いた。誰の気配も、喧騒もない。静かに息を潜められそうな場所を探し、ベルは開いていた一つの部屋の窓から、すっと音もなく内部へと侵入した。
しかし、そこは、ただの空き部屋ではなかった。
極東の布団という寝具、妖艶な香の匂い。そこは、イシュタル・ファミリアの娼婦が客を迎えるための、もっとも奥まった『夜伽の部屋』だった。
格子窓の向こうから、オラリオの夜空に浮かぶ巨大な『満月』の蒼白い光が、静かに寝所の上へと差し込んでいる。
その美しくも冷たい月光を浴びながら、布団の傍らに、どこか儚げに、悲しげな表情を浮かべてポツンと佇んでいる一人の少女の姿があった。頭からは美しい狐の耳が生え、豊かな尾を揺らす狐人の少女が居た――
「――……あ」
窓から転がり込んできたベルの姿に、春姫が驚きにその翡翠の瞳を見開く。
その瞬間、ベルの脳裏に、先日の夢の中でアルテミス様から告げられた「満月の湖畔の約束」のビジュアルが、理由も分からぬまま激しい
忘却の夢の中の永遠のヒロインのアルテミス。そして、現実に目の前に現れた、過酷な宿命を背負わされた狐人の少女の春姫。
───
ベルが人が居たことに戸惑っていると少女は自らを名乗り始めた。
「今宵の夜伽を務めさせていただく、わたくしはサンジョウノ・春姫と申します」
そういって畳の上で正座を組み手を合わせて頭を下げる極東の挨拶をした狐人の少女は春姫と言った。
「ええっと…これはご丁寧に…」
「貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ…はい!ベル・クラネルと申します」
なおも戸惑うベルに彼女、春姫は名前を問うてきたので、素直に答えてしまうベル。
内心でベルは焦っていた不法侵入の末、通報されたらあの褐色肌の獣なお姉さんたちに再び遭遇して今度こそ捕まるのではないかと。
「あの、僕、人がいると知らなくて!!」
「もしかして、クラネル様はこのような場所は初めてでございましょうか?」
「えっと、はい。今夜初めて来ました」
「そのようでしたか。ならば全て春姫にお任せください」
何だか話が噛み合わない中、春姫が意を決したようにベルに近付いてくる。
近付くに連れ薄暗い月明かりだけの部屋で見にくかった春姫の容姿が見えて、可憐で綺麗で髪色がどことなくアイズにも似ている金色であり、ドキドキし始めるベル(ベルは金髪の美人が好みである)。
そして、唐突に抱きつかれて側にある布団に押し倒されるベル。突然の出来事に顔の赤みは増すばかりであり、春姫もまた少し震えながら頬を赤らめていた。
そこからさらに抱きしめられ、声を出そうと藻掻くベルに対して春姫は安心させるように声を重ねる。
「まだまだ不慣れな身でございますが、そのまま安心してわたくしにお任せください!」
一通り抱きしめられ、春姫のボディラインを敏感に感じ取ったベルは混乱し始めていた。
そして、思い出す育ての親のおじいちゃんの言葉。
『よいかぁベル!男なら目指すはハーレムじゃ!どんな時でも機会が訪れたのなら大人の階段を登って男として一皮剥けるのじゃぞ!!』と少し記憶と違うような言葉が話しかけられるように脳裏を過ぎっていく。
『さぁ、行けベルよ。登るのじゃ階段を!!』となおも続くおじいちゃんの言葉。
だが、そこで背中が少し疼くように熱くなり、思い出されるはアイズの顔とアルテミスの顔。アイズが少し悲しそうな顔をしながら自分の元を去っていく姿。
不敬にも思い浮かべてしまった女神。思い出の湖畔にいるアルテミスが涙のあと、氷の眼差しで弓を構える姿。
そんな幻覚を見ながら、少しだけ混乱が落ち着いてきたベル。
だが、しかし。目の前の少女の行動は進んでいった。
「では、今から衣を脱ぎますので春姫をご覧になってください」と極東の赤い着物を脱ぎ始める春姫。
徐々にあらわになっていく彼女の豊かな双丘…。
ベルの頭の中で浮かぶ選択肢。『進む』、『止める』。
ベルはどうすればと思っていると頭の中に稲妻が降り注ぎ『止める』の選択肢がなくなった。
じゃあ、進むしかと考えた時、風と月光が降り注ぎ『進む』の選択肢も消える。戸惑うベルに新たな選択肢が光り輝きながら生まれた『時に身を委ねる』。これしか選択肢はもう無い…──。
「どうでしょうか?クラネル様。わたくしの身体はお気に召していただけそうでしょうか?」
そう問いかけてくる己の腹上にいる春姫を直視出来ないベルに春姫は慣れてないからだと判断。殿方への刺激を増やすために次はベルの衣服へと手を掛けて行く。
「クラネル様もわたくしとご一緒の姿になって行きましょう」
そう言ってベルの衣服に手を掛けて行く中で細身ながらしっかりと鍛えられた男の素肌が目に入った春姫はそれまでのリードとは一転して、声を上げた。
「と、殿方の素肌…あっ。あぁ」
いきなり震え出しかと思うと彼女はそのままベルの横にうつ伏せで倒れ込み動かなくなった。
ベルはある意味『幸運』だった。
ベルは腹上からの誘惑が消え、このまま逃げる事も考えたがそれではアイズの時のような失礼だと。こういう時はと少し考え、紳士な大人たるクライヴとディオンを思い浮かべて、
はだけた上着を整えて上げて次いでに自分の上着を被せるようにして、仰向けに寝かせた。脱がされたインナーを着なおして春姫が起きるのを待つことにした。
(※先ほどまでの上を纏わぬ春姫の姿を直視しなかった事と月光が強く降り注ぎ逆光のようになり、ボディライン以外は何も見えてなかったベル。これも神の御加護か)
───
しばらくすると春姫は目覚めた。そして、衣服を着せられてその上ベルの上着も胸に置かれており、全てを察した春姫。自分は
「クラネル様、先ほどは失礼いたしました。こんなわたくしではお気に召さないかと思いますが、つ、続きは…」
「いえいえ大丈夫です。実は僕ここには訳があって来まして」
顔を赤らめながら続きを伺おうとする春姫に落ち着きを取り戻したベルが慌ててここへ来た経緯を説明した。
「それは大変でしたね。アイシャさんたちに取り囲まれて無事だったのはある意味幸運かと思います」
説明を一通り聞いた春姫はそんな感想を素直に述べた。何でも場合によってはアイシャたちに捕まるとその日寝る暇もなく頑張る事になるらしいと聞かされたベルは恐怖した。
そして、噂通りのアマゾネスの習性があるのだと同時に思った。
「では、こうしましょう。わたくしと今宵はお話しませんか?」
春姫の提案に喜んで賛成したベルはある問いかけから、春姫との会話が盛り上がっていく。
「――クラネル様はお伽話や英雄譚はお好きですか?」
「はい! 幼い頃から、おじいちゃんにたくさん聞かされて。お伽話はそんなに詳しくないですけど……」
月光が優しく差し込む夜伽の部屋。
ベルと春姫の二人は、客と娼婦という歪な関係ではなく、ただ純粋にお伽話と英雄譚を愛する子供のように、目を輝かせて語り合っていた。
アルゴノゥト、エピメテウス、数々の英雄たちの名。世界の過酷な宿命を前に、それでも「誰かの英雄に側に居たかった」と儚く微笑む春姫の横顔に、ベルは胸を締め付けられるような切なさを覚えていた。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、夜明け前。
春姫はイシュタルの目を盗み、遊郭の複雑な包囲網を掻い潜るための唯一の抜け道として、入り組んだ貧民街――『ダイダロス通り』へと続く隠し通路へベルを案内し、名残惜しそうに手を振った 。
「今宵は大変たのしゅうございました、クラネル様。春姫は好きな物語を語り合えた夜は生まれて初めてでした。どうか、お元気で……」
「あの、僕――」
ベルが別れを告げるより前に、夜空から、ハラリと二つの影が静かに、音もなく地面へと舞い降りた。
灰色のマントを翻すクライヴと、白銀の気高き槍を背負ったディオン。
「うわあぁっ!? ク、クライヴさん! ディオンさん!?」
「静かにしろ、ベル。……夜伽の相手としては、随分と健全な『
クライヴはフッと大人の穏やかな笑みを浮かべ、すべてを屋根の上から見守っていたことを明かした。ディオンもまた、怯える春姫の前で長槍を厳かに収め、ザンブレク最高の礼節を以て、彼女の前に優しく片膝を突いた。
「驚かせてすまない、狐の少女よ。……私はディオン・ルサージュ。こちらの男はクライヴ。……そなたが、この少年の純粋な心に寄り添い、無事にここまで逃がしてくれたこと、戦士として深く感謝する」
ディオンのあまりにも気高き佇まいと優しい声に、春姫は「あ、あの……」と翡翠の瞳を潤ませる。
クライヴは春姫の細い肩を見つめ、かつて自身の隠れ家で世界の理に怯えていたベアラーたちの姿を重ね、静かに語りかけた。
「もし、何か困りごとを抱えているなら、いつでも俺たちを頼ってくれ。……それと、良かったらまた、このベルの『お伽話』の相手をしてやってほしい。俺たちは
「ふふっ……」
二人の大人の、あまりにも不器用で、しかし底知れない優しさに、春姫の張り詰めていた心が融かされるように、小さな、本当の笑みがこぼれ落ちた。
「――ふむ、月が我々を見守ってくれているようだ。何らかの加護かも知れぬな」
ディオンがふと見上げた夜空。
雲間から現れた巨大な『満月』が、かつてないほど清らかな白銀の光(アルテミスの愛の残光)を放ち、ダイダロス通りの薄暗い路地裏で立ち並ぶベルと春姫の二人を、優しく、祝福するように照らし出していた。
(夢の中のヒロインの温もり、そして現実の満月の出会い。二つの絆の胎動を残し、白き兎の新たなる足跡が、ダイダロス通りの迷宮へと踏み出されていく――)
二つの『満月』のキーワードが、次なるイシュタル・ファミリアとの壮大なる抗争への絶対的なカウントダウンを残して、第三十一話の幕が下りるのだった。
今後について
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①今のまま毎日投稿
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②投稿頻度減らして完成度上げて
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③自由、活動報告で設定やステイタス書く?