ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
引き続きアンケート取ってます
オラリオの夜空には、雲一つない巨大な『満月』がその清らかな光を放っていた。
ヘスティア・ファミリアの新ホームを出発したその瞬間から、ベル・クラネルの背中では、新たなるスキル『
基礎アビリティにランクアップ相当の超高補正が上乗せされ、ベルの内部ステイタスは一時的に事実上の【レベル4相当】へと跳ね上がる。
ベルはアポロン戦でも常套手段となった、腰の後ろの『ヘスティア・ショートソード』と、リリのバックパックから引き抜いた短刀『灼牛』の不壊の二刀流を構えた。
「――行くよ、みんなっ!」
レベル3となり、その上でスキルの補正がかかった限界突破の神速が歓楽街の石畳を爆ぜる。
ベルを先頭にした少数精鋭の突撃は、殺到するイシュタル・ファミリアの
だが、その進軍の途上、怪しげな魔導士たちの煙の向こうから、妖艶な薄衣を纏った最悪の神が姿を現した。イシュタル・ファミリアの主神――美の女神イシュタル。
「おやおや、今話題のヘスティアの所の坊やが、自らわたしの箱庭へ飛び込んできてくれるなんてねぇ……。さあ、大人しくわたしの虜になりなさい」
イシュタルが歪んだ笑みを浮かべ、その金色の瞳から神の絶対の権能――『
向けられる、下界の如何なる英雄とて抗えぬ絶対の精神汚染。
――だが、今のベルには、通じない。
ベルの魂には、アイズ・ヴァレンシュタインへの一途な想いが生んだ『
「――……は?」
魅了の光を全身に浴びながら、少しも瞳を濁らせず、ただ真っ直ぐに自分を睨み返してくるベルの姿に、イシュタルは息を呑んで絶句した。
「な、何故……何故わたしの魅了が効かない……っ!? あり得ない、あり得ないぞ!」
取り乱し、プライドを打ち砕かれて激怒する美の女神。
ベルはその一瞬の隙を見逃さず、電光石火のステップでイシュタルの真横を文字通り駆け抜け、さらなる上階へと爆速で離脱するのだった。
「タンムズ追え!逃がすな。ヘスティアの所のガキめ!コケにしやがってぇ!」
「ハッ!」
イシュタルは逆恨みでしかない怒りを滾らせ、副団長のタンムズにベルの捕縛を命じた。
手に持ったキセルを折りながら、何とか溜飲を下げて思いつく。
「そうか…確かヘスティアは処女神だったか。何かのスキル?…それだからか?フレイヤが狙ってるという噂をヘルメスがしていたな。フフッ、なら私が骨抜きにして奪ってやろう。魅了でなくてもあんなガキでも男だからな。フフッ」
落ち着きを取り戻したイシュタルは、フレイヤの当てつけにベルを自身の美貌と肉体を持ってして虜にしてやろうと考え付き妖しく笑った。
───
ベルが正面からバーベラたちの注意を派手に惹きつけたことで、魔法『シンダー・エラ』で姿を消したリリと、ヤマト・命の二人は、裏ルートから空中回廊への潜入に成功していた。
「後少しです。命様!」
「ベル殿に感謝ですね!」
しかし、回廊の手前でリリの変装が看破され、リリはその場で複数のバーベラを相手に応戦を余儀なくされる。
「バレましたか。そりゃそうですよね。
「感謝しますリリ殿ご武運を!」
命は単身、空中回廊に到着。そこで囚われた春姫を発見した。だが、春姫は自身の身体が汚された娼婦であるという深い自責の念から、幼馴染の必死の救出を涙ながらに拒んだ。
「命ちゃんにはわからないよ! こんな娼婦のわたしが、どうしてあの子に助けてなんて言えるの!?」
春姫の絶望の悲鳴。
その直後、回廊に乱入してきたのは、アイシャと行動を共にするレベル2の狂暴なアマゾネス――『サミラ』だった。
「おいおい、見事に抜かれてんじゃん!やるなぁ。お前。確か【絶影】とか言ったか。かと言って見逃すわけにもいかねぇ。アイシャ〜。コイツは俺が貰うぜ!」
「好きにしな!やって来たのは立派だが、大事な妹分を任せるにたるか見せてみな」
サミラの
同じレベル2でありながら、実戦経験とアマゾネス特有の圧倒的な腕力の前に、命の体勢は強引に崩される。ボコボコに殴り飛ばされ、命はそのまま空中回廊の桟橋から、遥か下の暗闇へと真っ逆さまに叩き落とされ、一時的に戦線離脱を余儀なくされてしまう。
「み、命ちゃ〜〜ん!!」
桟橋から落下していった命を見た春姫は泣き崩れるのだった。
だが、落とされる瞬間、命の瞳の火は消えていなかった。
「クッ、無念。ですが諦めてたまるものか……っ!」
一方、下層の広場では、リリの救援に回った魔獣リズンが牙を剥いていた。
衣服の奥から飛び出したリズンは、その小さな身体から異世界のロゴスの魔力を滾らせ、中級火属性魔法『ファイラ』を広場へ向けて豪快に連射した。
ドゴォォォォン!!!
下界の魔法の常識を凌駕する超高温の爆炎が宮殿の柱を、壁を次々と焼き焦がし、イシュタル・ホームは一瞬にして大火災と猛烈な煙に包まれた。
「ナイスですよリズン!こんなベル様にとって悪影響でしかない建物なんて焼き討ちに限ります。責任は…ギルドに任せます!じゃんじゃん焼くのですリズン!」
『きゃうおおぉん!』
後の始末はギルドに担ってもらうと勝手に決め込んだリリはその混乱の煙に紛れて敵の追手を完全に撒き、単身空中回廊へ向けて駆け上がる。
リズンも残ったモブのアマゾネスたちを鋭い爪撃と体当たりで次々と更地へと叩きのめした後、小さな翼をパタパタと羽ばたかせて空を飛び、軽々と最上階へと先回りするのだった。
───
最上階へと続く階段を駆け上がるベルの前に、ついにあの巨大な怪物――『醜いカエル』ことフリュネ・ジャミールが立ち塞がった。
「見つけたよぉ、クソウサギィィ! わたしの
狭い通路のハンデなど、ベルの跳ね上がったステイタスの速度の前には無意味だった。
ベルは壁や天井を激しく蹴り、重力を無視した超高速の立体機動を描きながら、フリュネの頑強な肉体に『ヘスティア・ショートソード』と『灼牛』による二刀の鋭い傷を幾度も刻み込んでいく。
「アタシの肌に傷をつけたなぁぁ!」と激怒するフリュネ。ベルはアルゴノゥトのチャージを『肉体(脚力)』と『ファイアボルト』へと同時に流し込み、フリュネにまともな戦闘をさせないまま、無詠唱魔法の爆風で上階へと続く階段を木端微塵に破壊。
フリュネを瓦礫の底へと置き去りにして、一足先に空中回廊の最上階へと躍り出た。
壊された階段を力任せにぶち破り、執念で空中回廊へと這い上がってきたフリュネ。
だがその時、オラリオの夜空に美の女神フレイヤ・ファミリアの【猛者】オッタルや副団長アレン。『ガリバー兄弟』など第一級冒険者たちの圧倒的な介入が開始され、イシュタルの本陣は一瞬にして大パニックとなる。
「イシュタル。今までは見逃してきたけど今回は許さないわ。蹴散らしなさい」
「御意。女神の神意のままに!」
炎渦巻く歓楽街を悠然とフレイヤが歩き、フレイヤファミリアの『エイン・ヘリヤル』たちが蹂躙を開始した。
その騒動の隙を突き、ボロボロになりながらも壁をよじ登ってきた命、そして煙を抜けてきたリリが、ついに空中回廊の最上階へと全員集結した。
ベルの熱い啖呵、命の涙の懇願。そして、かつてソーマの闇からベルに命懸けで救い出されたリリが、春姫の目を見つめて、魂の底からその想いを叫んだ。
「春姫さん!僕は貴女を助けたい。また英雄譚のお話を一緒にしたい。僕たちが好きな泣いてる女の子を助けられる英雄に!」
「春姫殿!私は諦めません。いくら貴女が拒んでも助けを願う心がきっとあると信じてます。桜花殿も千草殿も貴女を待っています!また昔のようにご一緒に!!」
「春姫様! リリも、かつては汚れた泥の中で、誰にも助けてと言えずに諦めていました! だけど、ベル様はそんなリリの手を、絶対に離さなかった! 汚れてるなんて関係ありません! 助けてって、言っていいんです!!」
三人の想いの絆、そして『英雄』の姿に、春姫の閉ざされた宿命の殻が打ち破られようとしていた。
「わたくしは、それでも娼婦です!『英雄』にとっての破滅の象徴」
それでも、否定しようと自己嫌悪に飲まれようとする春姫にベルが叫ぶ。
「関係ない!貴女は今泣いてる!!それだけで十分だ!!僕たちの知る英雄たちが貴女のような人を見捨てるはずがない!!」
「…………クラネル…様」
大粒の涙を流して、俯く春姫にベルは答えを待った。
そこへフリュネが立ち塞がる。
「英雄だがなんだか知らねぇが茶番はそれくらいにしておきなぁ。なぁ、春姫。わかってるだろう?アタイの顔に傷を入れたクソガキには思い知らせてやらねぇとなぁ!!春姫!!分かったらさっさと詠唱しな!」と背後からフリュネが刃を突きつける。
俯いたままの春姫が彼女固有の妖術を詠唱し始める。
「【──大きくなれ】【其の力に其の器】──」
「ははっ!それで良いんだよ春姫ぇ!!」
「【鐘の音が告げるその時まで】──」
詠唱が始まり自分の力が飛躍することにフリュネは目の瞳孔を開きながら笑った。
そんな現状に奥に控えるアイシャはフリュネに加勢する気はまるでなく黙って見守っていた。
「【──どうか貴方へ祝福を】【大きくなぁれ】」
詠唱の完成。春姫は涙を流しながら夜空に浮かぶ満月を見上げた。『満月』は微笑むように煌めいた気がした。
そして、涙を流しながらその尾を振るい、聖なる光を授けたのは――真正面に立つ、白き少年の肉体だった。
――「【ウチデノコヅチ】」
『月女神夢想(満月のランクアップ相当の超高補正)』×『ウチデノコヅチ(レベル
二つの規格外のレベルアップがこの満月の夜空の下で完全にシンクロした瞬間、ベル・クラネルは、レベル3の肉体のまま、実質『レベル5』へと完全覚醒を果たした。
彼の全身から、アルテミスの加護たる『蒼白い月の輝き』と、ウチデノコヅチの『金光の光』が激しく混ざり合い、まばゆい二色の閃光が空中回廊の全天を照らし出す。
「春姫ぇ!!!」
「わたくしを…助けてください!!」
「――僕は、春姫さんの英雄になるッ!!」
ブチギレるフリュネ。遂に願いを叫んだ春姫。決意したベル。
後方ではアイシャが静かに微笑んだ。
絶望の夜を統べる真の『満月の英雄』として覚醒したベル。第三十四話の幕が下りる。
今後について
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②投稿頻度減らして完成度上げて
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③自由、活動報告で設定やステイタス書く?