ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
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第37話:銀狼の咆哮と未帰還の知らせ
イシュタル・ファミリアの崩壊から一夜明けた、ヘスティア・ファミリアの新ホームの居間。
アイシャ・ベルカは「ベルの貞操にとって肉食系すぎて危険すぎる」というリリとヘスティアの絶対的な判断により加入ならず、本人は「そうか、残念だよ」とアッサリ引き下がりながら舌なめずりをしてベルを見て、それから春姫の娼婦としての真実を告げて、そして、最後に「オスとしての欲望が抑えられなくなったらいつでも相談しな」と再度の舌なめずりと妖艶な目配せをして、今度こそ待機していたアイシャを慕うアマゾネスたちと共に去っていった。
春姫は涙ぐみながら、アイシャたちが見えなくなるまで頭を下げ続けた。
コテージ側では春姫救出に命を懸けたヤマト・命が、タケミカヅチや千草たちに囲まれて「よくやったな、命!」と大絶賛の温泉日和を迎えていた。
そんな中、ヘスティアの部屋である主神室では、ヘスティアによるサンジョウノ・春姫への正式な改宗、そしてベルとリリのステイタス更新が執り行われていた。
ベルの能力値は短期間のレベル3にもかかわらず、フリュネ戦で発現した新アビリティ『意地』の不屈のゾンビ耐久が凄まじい経験値となり、早くも【耐久:S】に達しているバケモノ成長を叩き出していた。
そこから更新が終わった者からステイタスが写された用紙(ベルの【
そこから全員が揃い、最後の春姫が出て来た後のヘスティアは審議に望む裁きの神のような雰囲気をしていた。
ベルは自分の成長率に相変わらず、首を傾げながらも耐久の所だけは彼自身でも理由は分かるため、また1つ強くなれたと誇り、リリは少しずつ成長するステイタスに勇気を貰い、春姫は用紙に顔を覆ってプルプルと震えていた。
何事だろうかとベルとリリは思ったがとりあえずヘスティアの言葉を聞こうと待った。ベルの成長に対してやはり誰もが
「ここに審議を問う。スキル内容についてどのような想いがあるのか聞かせて貰おうか春姫君?」
ヘスティアによる緊急のファミリア審議会が執り行われる事になった。
「……あ、あの……わたくし、あの夜伽の部屋で、上半身を……胸の、全てを…、すべてベル様に見られてしまいました……っ。その、あの後は下まで脱ぐつもりでしたので、色々と、その……っ」
「な、何だいそれはぁぁぁーーーーーっっ!?」
ヘスティアの絶叫が居間の壁をビリビリと震わせた。
「そもそもそんな事を聞くために聞いたんじゃないやい!!」と追加で叫び、リリも「べ、ベル様!? レベル3になった途端にそんな不純異性交遊に手を染めたのですか!?」と、氷点下のジト目を向ける。
「ち、違います! 僕は本当に見ていません! あの時は月光の逆光で、春姫さんの姿はシルエットしか見えていなくて、本当に、本当に見てないんですっ!」
顔を爆発しそうなほど真っ赤にして手足をバタバタとさせて弁明するベル。だが、神の嘘を見抜く権能で二人の言い分を聞いていたヘスティアは、目を白黒させて髪を掻き毟った。
「う、嘘を吐いてない……! 神の目に誓って、春姫くんもベルくんも、1ミリも嘘を吐いてないよ! どういうことなんだえぇぇーーーっ!?」
「あ、あの……ということは、ヘルメス様から貰ったというあの『精力剤の黒い小瓶』は、リリたちが回収したとき空っぽでしたが……もしやベル様、あの夜、春姫様に使うために……?」
「違うよリリ!? あれはダイダロス通りでレフィーヤさんの頭にぶちまけちゃって空になったんだよぉ!」
涙目で絶叫するベル。
しかし、その『精力剤』という言葉の本当の意味をリリたちの説明で初めて知った春姫は、ポッと頬をこれ以上ないほど紅潮させ、両手を胸の前で合わせてウットリと、とんでもない天然の爆弾発言をのたまわった。
「まあ……ベル様、そんな破廉恥で、熱い準備をしてくださっていましたのですか……。それなのに、わたくしが不甲斐ないばかりに、お応えできず……。――分かりました! それでは今宵、今度こそベル様の御部屋へお伺いし、夜伽の続きを――」
ポカァァァンッッ!!!
「この、バカ狐ーーーッッ!!」「お止めなさいこの天然エロ狐ーーーッ!!」
ヘスティアの怒りの拳と、リリのサポーター仕込みの強烈なツッコミが春姫の脳天へと炸裂。
「コンっ!!」と頭を押さえて涙目になる春姫を、二人の女が「やはりベルくんに危険な感情を抱いているようだね!」「これからのホームの戸締まりを厳重にします!」とさらに問い詰め、ベルと春姫があの夜を思い出して二人で顔を真っ赤にするという、ファミリアの最高に温かく、騒がしい新しい団らんが勃発するのだった。
ちなみに、春姫救出作戦で『ファイラ』を連射して大暴れし、疲れ果てていた魔獣リズンは、この大騒ぎを一切気にせず、自らの部屋の特製小屋のベッドの中で「きゅぅ……」と小さく丸くなって、最高に気持ちよさそうに爆睡を貪っていた。
───
だが、その家族の賑やかな笑い声を切り裂くように、新ホームの重厚な鉄扉を激しく叩く、不穏な足音が響き渡った。
来訪したのは、ロキ・ファミリアからの正式な使者の冒険者だった。
息を荒くし、顔を青ざめさせた使者の口から、ヘスティアたちの前でもたらされたのは――あまりにも信じがたい、日常を奈落の底へと叩き落とす戦慄の報せだった。
「――緊急の、伝令です。……昨夜の、ダイダロス通り地下『クノッソス』の潜入作戦において……我が派閥の全軍を地上へ逃がすため、
「な……っ」
ベルの、ヘスティアの、リリの、そして今しがた救われたばかりの春姫の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
下界の如何なる怪物、アポロンやきっとイシュタルの大軍すら正面から完膚なきまでにすり潰してみせた、あの世界最強の二人のドミナントが、下界の迷宮の闇の中に囚われ、行方不明になったという、受け入れ難い最悪の現実。
居間に漂っていた温かい空気は一瞬にして凍りつき、ヘスティア・ファミリアに、かつてない激動の暗雲が垂れ込めるのだった。
───
描写は移り変わり、ロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』の内部は、完全なる荒れ地と絶望の空気に包まれていた。
団長フィン・ディムナはアミッドの規格外の解呪治癒魔法【ディア・フラーテル】と集中治療によって何とか一命を取り留めたもののその表情は重苦しく職務に復帰はしたが、ファミリアの雰囲気は最悪なのは誰でも分かる状態であった。
「レフィーヤ達が加入して以来、初めての死者を出してしまったな」
その重苦しい雰囲気を代弁するように壁に佇むリヴェリアが口に出した。場所はフィンの執務室。その主たるフィンとガレスがその場にはいた。
「どこかで慢心しとった。すまん」
「僕も心の何処かで『アレ』も一つは偶然にも手にした者がいて、こちらの戦力も充分。例え罠があろうといざとなれば撤退すればいいと甘さがあった」
ガレスとフィンは後悔と黙祷を捧げるように目を閉じて語った。
「別に責めているわけではない。あれ程のクノッソスと言ったか。あんなものがあって対抗しきれたものでは無かった。そして、私もまた何処かで大丈夫だと考えがあったのだろう」
リヴェリアは翡翠の瞳を伏せたながら、床を見ていた。
「あの血の海でリーネだけは
リヴェリアもまたあの時の自身の決断を悔い入るように語った。
「ここまでにしよう。これからどうするかだ」
「そうじゃな」
「ああ、切り替えよう」
三人は後悔も責念も置いておき、これからについて考えた。
自分たちには一つだけ『カギ』がある。だが、あちらは複数と地の利もあった。
闇雲に再戦しても意味がないのは分かりきっていた。
「ヘスティアファミリアへの伝令の件はどうなったのじゃ?」
「僕も生憎で治療中であったけど、神ヘスティアからの返信は貰っていた。共有出来ていなくてすまないね」
「それで返信は?」
ガレス、フィン、リヴェリアと気になる話題を遂に口に出した。
「神ヘスティアからは2人とも生きてるとファルナは一つも消えていないと返信があった。最もファミリアの雰囲気はあまりにも辛そうだったと伝令の子から聞いたよ」
フィンの共有にガレスもリヴェリアも押し黙り沈痛な面持ちになる。
「つまりは彼らは未だあの迷宮で息を潜めてるのか徹底抗戦しているか。あるいは囚われの身か。もしカギを奪えていたなら脱出してるだろうしね」
「何れにもしても生きているというのなら必ずや救い出さなければ」
「フィン考えの一つや二つはあるんじゃろ?」
「一応はあるけど、その前に問題もある」
リヴェリアは直ぐにでも動きたい気持ちを抑えて、決意していた。ガレスはもう策はあるはずだと踏んでフィンに問いかける。
フィンはその碧眼を細めながら指を組んだ。
「アイズたち…とりわけベートのことか」
リヴェリアが当たりをつけてフィンの言葉の先を紡いだ。
「あやつだけで、先走りおって…」
「全くだ…本当に頭が痛くなる」
「彼には珍しく、クライヴ・ロズフィールドを慕っているようにも見えたからね。仕方ない所もあるさ」
三人ともファミリア内の問題をさらに話そうとして、件のことでホーム内は騒がしくなった。
まだ早朝という時間だと言うのにその喧騒は広がるばかり。
ヘスティアファミリアへ伝令が届けられて、3日後の朝であった。
───
朝の食堂内は騒がしかった。
リーネはなんとか助かったが他の団員たちはあの人の悪意の地獄で命を落とした。
「これからやることは山積みなのはわかるっすけど…」
「まだ、辛いわね。時間は待ってくれないけど」
ラウルとアナキティを筆頭に団員たちはそれぞれで悲しみや辛さと
「あの…アイズさんはあの事はどう思ってますか?…ベートさんも帰って来てないらしいですし」
「私は──」
自分の感情を上手く口に出来ず、そんな自分に怒りすら覚えるアイズ。ベートの気持ちもよく分かった。
「レフィーヤはどう思うの?」
「私はその場に居なかったので上手くは言えないですけど、やっぱり悔しいです。何度もお世話になった人を置いていくしか無かったなんて」
レフィーヤからすれば、そんなに多くを過ごしたわけではない。それでもクライヴの誠実さ、どんな時でも前を行く佇まいと周りへの鼓舞。そんな人とたった一度一緒になっただけのクライヴの友人をも置き去りしたのはレフィーヤに取っても悔しさを募らせた。自分に置き換えるならば、リヴェリア様とフィルヴィスさんを置き去りして行くようなものだ。
「私も上手くは言えないけど、悔しい…それに──」
「アイズ〜!レフィーヤ!おはよう!!」
「朝からもう少し静かに出来ないのかしら…」
アイズが全てを口にする前にティオナとティオネが現れた。
2人は普段通りに見えたがどこか空元気さもあった。
「2人は何、話してたの?」
ティオナの質問に言い淀む2人。
「えっと…」
「それは…その…先日の…」
そこへはっきりとティオネが答えた。
「死んじゃった仲間のこともあるけど最後の事でしょ?」
2人の沈黙は答えであった。
「ベートだけ先に出て行っちゃったけどさ。アタシだって戻ってぶっ飛ばしに行きたいよ」
「私もあの時選ぶしか無かったとは言え、悔しいわ。クソ共を今すぐぶっ飛ばしに行きたいのも山々よ」
ティオナもティオネも気持ちはあった。
特にティオネはと言うと想い人のフィンと仲間のリーネの命と他人の命とどっちを選ぶかと言われていた状況で選んだことに悔しさはよりあったかもしれない。
そして、現在ロキファミリアでは情報収集を先として、実質的な報復などと言った行為は禁止、待機ということになっていた。
「リーネの為にもこうなったら、アタシたちもフィンに直接言いに行って今からでも…」
「団長を説得に行くなら私も行くわ。カギはあるんだから行けなくはないんだから」
ヒュリテ姉妹が決意を固めようとした時に食堂の扉が開いた。
「朝から騒がしいね。みんな」
「ちぃと騒ぎ過ぎじゃのう」
フィンとガレスが入ってきて、食堂に居る者たち全員によく届く声で発した。
「仲間たちの死を悲しみ、慎むのは構わない。しばらく動きたくないというのなら暇もだそう。だが、与えられた事以外での報復行為や勝手な真似は一切を禁ずる。これは命令だ」
フィンは改めて、厳命しつつ最後に切実に語った。
「これ以上は仲間たちに死んでほしくない。無駄死になるようなことは許さない」
「本当に頼む。儂らも思うことはある。じゃが、今は分かってくれぃみんな」
「どうしても言いたいことがあるのなら私に言ってくれ。最後に撤退を決めたのは私だ」
ガレスもまた切実に願い。最後に入ってきたリヴェリアが締めくくった。
その後、主神のロキも入ってきていつも調子でこの話は終わりだと朝食の時間となった。
「リヴェリア済まない」
「すまんのぉ」
「謝ることではない。フィン、ガレスも事実だからな。勝手をするのはベート一人で勘弁してもらいたい」
泥を被る役目を担ったリヴェリアにフィンとガレスが謝る中でリヴェリア自身はため息混じりに事実であり、ベートの事を言及する。
そんな三人の苦労がより、重なるかのようにこの日白髪の少年がロキファミリアホーム『黄昏の館』を訪ねて来るのであった──
───
治療院にてカースウェポンの呪いを受け、さらにその傷口を内側からクライヴのイフリートの炎で強引に焼き切られたリーネ・アルシェは、凄絶な火傷を負ったまま深い昏睡状態に陥り、治療院の純白のベッドの上で未だピクリとも目を覚まさない。
「――……っ」
その治療院のベッドの傍ら。
自分の背中を健気に追いかけてくれていた大切な少女の無残な姿、そして、何よりもファミリアの誰よりも実力を認め、己を上の次元へと引き上げてくれた『
その名はベート・ローガ。
彼はファミリアのホームへはクノッソスから帰還して以来帰らなかった。
ただ一人、拳を血が出るほどに強く握り締め、自分をコケにしたイヴィルスの残党を、リーネを傷つけたヴァレッタ・グレーデの首を、自らの足の牙で文字通り噛みちぎり、肉片に変えるために――。
「――オラァァァアアアッッ!! 待ってろよゴミクズどもがぁぁーっ!!」
暗闇のオラリオの路地裏。銀狼の狂暴な咆哮が夜風を引き裂く。
クライヴたちを救い出すため、そしてリーネの仇を討つため、たった一人でイヴィルスの闇へと乗り出していくベートの、最悪の『復讐劇』への孤独な歩みが、今ここに開始される。
そしてこの銀狼の歩みに、ヘスティア・ファミリアの新たなる英雄、レベル3となったベル・クラネルが、すべての規律を破って完全参戦を決意する、次なるレベル4への大いなるランクアップへのカウントダウンを残して、第三十七話の幕が下りるのだった。