ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
体調不良とストック切れとなりました。
良かったら読んでやってください。
雨が未だ降りしきるオラリオの夜。
ディアンケヒトファミリアの治療院は喧騒に満ちていた。
次々と運び込まれるアマゾネスの者たちや娼婦。
そんな中でベートは粗方の治療はされて後は『
近くにはアイズもおり、リヴェリアは魔法を使ってディアンケヒトファミリアの者たちと治療に従事しており、別室であった。
アイズは始めはベートに声をかけて、せめて濡れた体を拭こうとも言うが、ベートに反応はなかった。
その後は俯いたまま無言となるアイズ。元々口下手でもあるが、
今は余計にベートとどう接するか分からなかったのだ。
お互い何も話さない時間からしばらくして、部屋の扉が控え目に開かれた。
「すいません、遅れました」
入ってきたのはアミッドであった。彼女の衣服は血で汚れ、表情も疲れが溜まっており、汗も流し続けている。
アイズは一目でわかった。アミッドは
「アミッド…『魔法』を…ずっと…?」
心配して駆け寄り、アイズは声をかけた。
「例の『
アミッドは今までずっと治療に専念しており、正に疲労困憊であったが、努めて平静な態度で答えた。
そして、純白の魔法光を持ってベートの治療に取り掛かる。
「………アマゾネスどもと白髪の
「救える命は、救いました。ですが、ここへ運び込まれた時に手遅れだった方々は、もう…」
彼女の出来る範囲は命がまだある者たちであり、既に絶命していた者たちの命までは救うことは出来ない。
アミッド自身も様々な感情を滲ませていた。
「白髪のというのは貴方と居た【
ベルは何とか一命を取り留めていた。アイズたちが治療院に運ぶ間も治せる傷は治し続けたのも助かった要因であった。
運んでいる最中も彼の意志が折れてないように握られた剣を決して手放すことは無かった。
その後押しするように体温も下がらず、アイズが祈るように握った手も微かに握り返すような動きも見せていた。
アイズはその事に涙ぐみながらもベルはまだ死んでいないと願いそして、助かると信じ続けた。
「そうか…ガキの
「…亡くなられた方の遺体は勝手ながら『第一墓地』に既に埋葬しました」
今の当院には、ベッドに余裕もありませんのでとアミッドは付け加えてこの話を終わらせた。
そこからは暗殺者たちは、
今度こそ『魔法』行使により疲労が限界に達したのか、アイズに支えられて、アミッドは退室していく。
そんな2人の背中に向けて、ベートはベルが眠る場所だけ聞いて自身も部屋を出た。
「………」
窓からは未だ月明かりが差し込むこともなく部屋の明かりはほのかな魔石灯の光のみであった。
目の前であらゆる所に包帯を巻かれて眠るベルをベートは何も発することなく、その琥珀色の瞳で見ていた。
やがて、目を瞑り意識と呼吸を整えるように静かになることしばらく。ゆっくりと開いた両眼でもう一度ベルを見た後、彼は結局何も言うこともなく、部屋を出た。
今も眠り続けるリーネの部屋には行かない。ベートは何も成し遂げてない。
その後、別の部屋から窓が割れる音がした───
───
彼はもう誰にも止められないと
その決断に冷徹さを感じる者もいたが、結局は団長であり『勇者』であるフィンを信じた。
フィンの決定は治療院に滞在中のリヴェリアとアイズにも伝令としてきたレフィーヤから知らされた。
「フィンめ…全く、やってくれたな」
リヴェリアの重苦しい声が雨の音の中に溶けて消えていく。
レフィーヤの知らせに他の
そんな2人の会話の中で、アイズが奥の廊下から来た。
「リヴェリア!」
「ベートさんがいない、ベルの部屋に行ったきり!」
ベートはベルの部屋にいると思って気を遣ったアイズは焦っていた。
「ああ…そうか。そうだろうな」と彼はもう止まらないとリヴェリアは瞑目する。
「アイズ。追いかけろ。お前だけはあやつから目を離さないでやってくれ」
「うん…分かった!」
動揺するレフィーヤや他の団員たちをよそにリヴェリアはアイズを行かせた。
アイズは出発前に少しだけベルの部屋を覗いて、治療院をあとにする。
そんな気配を察したのか、ベルの瞼が僅かに動いた。
未だキズは癒えきっていないなか、外を歩くベートは見知った存在が近付いてくるのを察した。
そのものは朱髪の主神ロキであった。どんな考えにせよ心配であり、背中も押してくれた主神に対してベートは感謝することもないが、胸に刻んだ言葉に先へと進んだ。
「悲しいなぁ…」
ロキは自身の眷族である銀狼にそんな呟きを漏らした。
そして、最後に問いかけた。
「ベート、もう『牙』の意味は分かったか?」
───そんなもの、もうとっくにわかっている。
───
「あぁ?フィンたちが地下水路に陣を取っただとぉ?」
歓楽街、復興区。
他にも『ダイダロス通り』と『バベル』も同様に監視されているという報告を受けた。
「フィンの野郎、相変わらず手が早ぇ。私達を
懐が取り出した『D』の文字が浮かぶ
「このままでは、いかがなさるのですか?ヴァレッタ様っ!!」
「落ち着けぇ~。タナトスもあの
「慌てりゃ、フィンの思う壺だ。【|凶狼】だけは仕留めて今回は終いだなぁ。小ウサギはくたばったと思いてぇが所詮はオマケ…」
ヴァレッタたちは元イシュタルファミリアのホーム『女神の宮殿』の廃墟を根城にしていた。
ヴァレッタとしてはベートはアマゾネスのガキから何かしら情報を得たと確信していた。
ベルに関しても死んでいてくれと思いつつも、火の無詠唱魔法に頭と腕が疼くのを感じるため、微かに被りを振った。
「とりあえずは【凶狼】の居場所を…」
その時、『狼の遠吠えが』が確かに聞こえた。
「……ははっ、あっちからお呼びじゃねぇか!」
ヴァレッタたちは狼狩りに向けて動き出す。
───
「始まったか…」
それぞれの場所で開戦の狼煙となる遠吠えを聞きつけたフィン、ガレス、リヴェリアは呟いた。
ベートの『悪』を討つ復讐劇が始まったのだ。その遠吠えはベートにとっての誓いであり、敵は必ず狩るという意思表示だ。ここに『
その遠吠えに反応しながらアイズも先を急ぐ。そうやって外側にみなの意識が傾く中で、『忘却の夢』の中から少年が目覚めようと瞼が動き出していた。
あのいつもの美しい湖畔に美しい夜空に輝く満月と水面に映る満月の景色。
そこでいつもと変わらず、青色の髪の美しき女神様が佇み待っていた。
「オリオン。今回はとても危なかったな。私も本当に心配したぞ」
その女神は心配する眼差しを自分に向けている。今回は何故だが上手く喋れない。だから、会話とはならず女神様の言葉を聞くのみだった。
「出来ることならオリオンには下界に蔓延る『悪』という存在に関わってほしくなかった。でも、オラリオにいる以上は遅かれ早かれだったかもしれない」
そうやって語る女神様はどこまでもオリオンの事を想っていた。
「オリオンが行く道に私は一緒に居続ける。君はまたきっと誰かを守るために涙を流し傷付きながらでも自分の道へと進んで行くのだろう。私の時のように…」
女神様は儚い笑顔で微笑みかける。
「そんなオリオンだからこそ、私は私で居られてここで『一万年の約束』を持って過ごせている」
女神様の笑顔は次には恋をする少女の笑顔であった。
「だから、君の歩みが途切れないように私はいつでも君の側にいる。この忘れる夢でも忘れないでくれ『
夜空に浮かぶ満月が月光を煌めかせて注がれる。
「さぁ、君の願いのまま行くといい。オリオンまた会おう」
そうやって意識は遠ざかっていく。ベルは遠ざかる意識の中で女神の名前を呼んだ。
「アルテミス…様…」
目が覚めた時に映った景色は知らない天井だった。自分は治療を受けて眠って居たのだと分かった。
まだ治りきっていない体を動かし始める。周りには誰も居なかった。幸いにも
痛む身体中を無視して、ベルは装備を身に着けた。武器は『ヘスティアショートソード』のみであった。朧げであるが、『灼牛』は戦闘中に落としてそれきりだ。
周囲に誰も居ないことを再度確認して、ベルは治療院を抜け出した。外では狼の遠吠えのような声が響いていた。それが誰なのかはすぐに分かった。だから、自身も急いだ。
今はアマゾネスの少女のことは考えない。ただ、銀の狼の戦士の事を考えて駆け出した。
───
ベートは襲い来る暗殺者たちをひとりまたひとりと消して行った。流石の暗殺者たちにも精神的な動揺が広がった。
こちら側が狩るのでなく、あちら側が一方的にこちらを狩っている状態。ずっとその状態であった。そして、狩られる度に遠吠えが響く。
そうして、暗殺者たちは全て狩り尽くされた。ここに先ずは1つ『絶狩』は果たされた。
ヴァレッタの血文字の誘いを受けて、イシュタルファミリアのホーム地下へ向かおうとするベートの前に、同じく傷が癒えきってないベルが立ち塞がる。
「――どけ、兎野郎。足引っ張るなら、ここでテメェを噛み殺すと言ったはずだ」
「嫌です! 僕も行きます!」
咆哮するベートに対し、ベルはヘスティア・ショートソードを握り締め、引かずに叫んだ。二人の胸を満たしていたのは、共通の『絶望』と『飢え』だった。
クライヴは曲がりなりにも、あの死線の中でリーネの命を繋ぎ止めてみせた。なのに、自分たちの炎では、あの健気に願いを込めたレナ・タリーを救うことができなかった。ただ自らの無力さに、胸を焦がしていた。
「オメェはモンスターを屠る『冒険者』としての殻は破り、『弱者』を超えると吠えた。敵を倒す戦士にもなってる。……だが、オメェはこっち側は無理だ」
ベートが雨に濡れた銀髪を払い、鋭い牙を剥いてベルの胸元へ言葉を叩きつける。
「――てめぇは敵を『殺す戦士』にはなれねぇ。それは、俺や、あのオッサンたちの領分だ。てめぇの綺麗な手を血で染めるんじゃねぇ。だから邪魔するな、こっから先は俺が一人で行く」
かつてクライヴが語った、強さへの渇望、飢え、そして過酷な運命に抗い続けて殻を破るという誓い。
ベートの胸に宿る、弱者を、そして自分自身を徹底的に喰らい尽くすための『
そして、ベルの胸に宿る、どんな逆境であっても泥を啜って『己』を貫き通すための『
二人の男の
「…てめぇはてめぇで吠えろ。これが片付いたらオッサンたちを探すぞ」
ベートは俯いたままのベルの横を通り過ぎる時に立ち止まって言葉を添えた。
そうして、彼は単独で地下に向かうのであった。
やがて、俯いたベルが頭上を見上げると雨は止もうとしていた。濡れた白髪から見える深紅の双眸を今も覆われる灰色の雲に向けた。その先の光に願うのように。
しばらく佇んだまま、先ほどのベートとの会話が胸中で渦巻く。ベートを見つけて行動を共にするようになってからずっと、心の奥底にあったものが一気に浮かび上がってきたのだ。
(クライヴさんやディオンさんならどうするか)
そんな問いかけにも答えは出なかった。否、ベルの中で答えは最初から出ていたのだろう。それを今回真正面から突き付けられた。
「僕はどうしても人を殺す選択は出来ない…」
ベルは小さくとっくに答えとなってあった自身の考えを小さく呟いた。
きっとベートはそんなベルの考えと踏み込めない領域にいるのだと、もっと言えば優しさ、甘さにはじめから気付いていたのだろう。
その場から動けず待つことしか出来ないベルはそろそろベートはイヴィルスの残党たちとヴァレッタに戦い始めたのだろうかとぼんやりと考えていた。夜風に寒さすら覚えるかという時に別の『風』がベルを包むように吹き抜けた。
「ベル!」
いつもの戦士としての装備を纏ったアイズが跳躍してきたかのように軽い身のこなしで近づいてきた。
「…アイズさん」
上を向いたままだったベルが声のした方向に向き直った。
「ベル…治療院抜け出して来たんだね。まだ傷は治ってないってアミッドも言ってた。無理しちゃダメ…だよ」
アイズは心配そうに眉尻を下げてベルと向き合っていた。
「すみません、どうしてもベートさん1人には出来ないと思ってたんですが…」
そこでベルは言葉が続かなかった。
「そっか、ベートさんは…見つけた?」
「この廃墟の地下に向かいました。僕は…僕も…アイズさん聞いてもいいですか?」
アイズの質問に首肯しながら、ベルは言葉に迷いながらアイズに問いかける。
「うん…いいよ?」
「ベートさんに言われたことがあって、それで一緒に地下には行けれなくて、僕はずっとここで立ち止まってしまった。アイズさんは人を…──!!」
ベルがアイズに聞きかけたその時、空間がパキィンと歪んだ。そして、空間から詠唱が響いた。
『闇よ覆え。深淵より見えたる闇。覗きし者に現れし闇。有を生み、無へと帰す。無が迎え、有へと成らん。統べる我が名は
ベルもアイズもこの現象を見たことがある。ベルの横で起こったそれは歪んだあとは空間が渦巻き始めた。
「ベルッ!!」
アイズに呼ばれるのと同時に彼女の横に飛び除き並び立つ。
2人は抜剣して戦闘態勢となり、空間から何が出てくるかと固唾を飲んだ。
「…全く呼び出されたと思えば、ここは地上か?」
空間から禍々しい赤黒い長剣を携え、赤髪の鋭い目付きの女が現れた。
ベルは戸惑った。モンスターが来ると思ったからだ。だが、目の前の存在は人の姿をしていた。
「…アリア奇遇だな、こんな所で会うとは。隣の白髪のガキは知らないな」
周りをゆっくりと見回していたと思うと女は口を開いた。
ベルはここでも『アリア』という誰かの名前にも戸惑いを覚えた。
「あ、あなたは…誰ですか?」
戸惑うベルの問いにアイズが答える。
「
ベルは赤髪の女レヴィスを改めて見た。
「人とモンスターのハイブリッド…?」
ベルにはわけが分からなかった。そんな存在がいるのかと。だが、すぐに考え方を受け入れつつもあった。身近なクライヴたちも人の身でありながら、精霊とも神ともとれる力を宿した存在だ。顕現した時の見た目で言えばモンスター、階層主に近い。
「ベル、気を付けて彼女は強い。私も手加減なんて出来ない。ベルも人の姿だからって油断しちゃダメ」
「分かりました!」
アイズの言葉に気を引き締めたベル。相手は敵対する存在というのは感じ取れた。あの手に持つ禍々しい赤黒い長剣は恐らく『
「あの女の回収の為の面倒なおつかいで気乗りしなかったがどうやら楽しめそうだな。行くぞ!!」
ヴァレッタを救出するために送り込まれた怪人レヴィスが急襲を仕掛ける。
───
一方地下空間での戦いはヴァレッタの仕掛けた悪辣な『罠』
により、ベートは劣勢へと追い込まれていた。
ヴァレッタの
「やれぇ!お前らぁ!!」
「殺れる!殺れるぞ!『ロキファミリアの幹部』を!後少し!!その次は…待ってろよ〜フィ〜ン!!」
ヴァレッタは何時になく凶笑を浮かべて、ベートの様を笑った。
「もう一丁!!」
配下の者たちも僅かながらの興奮を覚えながら、様々な属性の魔剣を振るい続けた。その間にもボロボロになっていく、ベートの呻き声が聞こえていた。それでもベートは倒れない。
「チィッ中々しぶてぇなったく…」
ヴァレッタは毒づきながらもベートを追い込めれている事にも確信していた。ここは地下。
「…──アイツに手札はねぇ」
ヴァレッタは嘲笑する。そして、配下の者たちも勢い付きながら魔剣を振るった。
「…ちっ、くそが…くそが…くそが!!」
ベートも毒を吐いた。苛立ち続けた。怒りに燃え上がっていた。
仲間たちを殺された怒りの火。少女傷つけ、また少女を失わせた怨嗟の炎。
守れずとも。失おうとも。
少年へとぶつけた強者としての意地とその牙。
世界に抗い続けた弱者の咆哮を。
世界に屈した弱者達の涙を。
ベートは知らぬことであるが騎士たちもまた世界へと抗い続けた者たち。その炎は絶やさない。意地と牙にこの
「──くそったれ」
ベートは己に吐き捨てた。
たった今、己への『戒め』を解くことにした。
少女たちへと捧ぐために。決意を込めて紡ぐ。
「【戒められし、
詠唱が始まる。
「…何!?【凶狼】が…魔法?」
ヴァレッタの驚愕していた。ベートが魔法を使うなんて情報はなかったからだ。このまま発動させるわけにはいかない。
配下たちに叫び、詠唱を止めようとする。
「【一傷、
『並行詠唱』など出来ないベートは両腕を垂らし、目を瞑り、詠唱を専心した。魔剣の魔撃が飛んで来ようが避けるつもりもない。
「【癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】」
ベートはこの『魔法』が嫌いだ。本人の『想い』が反映するから。
「【
この呪文はベートの『弱さ』を見せるから。
目を背けてきた『傷』に気付かされるから。
「【傷を牙に、
ベートはこの『魔法』が大っ嫌いだ。そして、背中を見せた炎の騎士もかつては認められず、炎が『傷』そのものだった。だが、炎とは──
「何やってんだ無能共!!」
ヴァレッタは中々倒れないベートを見て配下たちに当たり散らしていた。配下たちもちゃんと当たっていると釈明するが、倒れない。屈しない。炎は絶えない。
「【解き放たれる縛鎖、轟く天叫。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」
詠唱が加速していく。傷負いし狼の声は止まらない。
ヴァレッタの指示の元、配下たちは今度は『呪道具』の武器にて、直接殺りに突撃する。
「【その
だが。
その突撃は許されない。
琥珀色の双眸を開けた狼の『巨狼』が解き放たれた。
「【ハティ】」
短い魔法名。発動する猛炎業火の獣。それは凄まじき怒りの炎。
ただの
すべてを平らげんとする巨狼。魔法を。魔力を。全てを喰らう魔法は遂にはその一撃で炎柱を立て獄炎の世界を地上まで現界させる。
───
「【
ベートの怒りの炎が地上に昇り夜空まで突き抜ける少し前。
アイズとベルは怪人レヴィスと剣戟を交えていた。
「そうだ。力を示せアリア!!」
振るわれる長剣に『風』を纏ったアイズの『デスペレート』を真っ向からぶつけた。
2人の速さについていけないベルは剣を構えるだけで動けずにいた。
(2人とも早過ぎてついていけない。これが戦う時のアイズさんの強さ!)
「そこのお前はただ見ているだけか?どうやらロキファミリアでも無さそうだが、アリアにとってのなんだ?」
そう言うや否やアイズを蹴り飛ばしたレヴィスがベルに迫った。
「ベル!!」
アイズは叫ぶがそれで状況は変わるものでも無かった。
「…グッ!!」
レヴィスの攻撃を受け止めきれずたたらを踏むベル。あまりにも膂力が身体能力の差が違いすぎた。
さらに追加でくる横薙ぎを『ヘスティアショートソード』で何とか受け流して、開いた距離に魔法を撃ち込む。
「【ファイアボルト】!!」
「無詠唱の魔法か!あの男に似ているな」
ベルの炎龍の加護が乗った【ファイアボルト】を何なく片手で払いのけて見せたレヴィスはベルの無詠唱かつ火の魔法に興味深けであった。最もダメージはそこまでない。
「ハァアアア」
アイズが跳躍を持って斬りかかる。左手に持ち替えた長剣で受け止めたレヴィスは余裕そうであった。そこへ反対側からベルが斬りかかった。
「そんな力では私は斬れんぞ?」
ベルの一撃は見向きもされないまま素手で掴まれて止められていた。
「素手で!?クソ!!」
剣を離して次は咄嗟に【ファイアボルト】を纏った右拳で殴りかかるも簡単にいなされ、手首を掴まれ引き寄せられた。
ベルが捕まり、アイズも迂闊に次の行動を取れずにいると身体を密着するような状態からベルの深紅の瞳を黄緑の瞳で見つめた後、アイズに向けて突き飛ばした。
ベルを受け止める形でアイズも一緒に大きく後退した。
「ふん、どうやら何も慣れてない小僧といった所か」
レヴィスは半眼になりながらベルへの期待は下落した。
「すみません、アイズさん」
「大丈夫だよ…戦える?」
ベルは頷くと態勢を立て直した。何気にボディラインが際立つレヴィスとの密着とアイズとの受け止めで女性の柔らかさを感じなくはなかったが、普段ならともかく今のベルにそんな事を考える余裕はなかった。
相手は単純に腕試しとして自分をあしらっている。これがそのまま殺意を持って挑まれていたら、今頃どうなっていたか分からない。
そして、感じ取れたのはレヴィスと言われる目の前の存在は確かに異質な気配であり、どこか退廃的にも思えた。
「小僧。貴様は邪魔だ。死にたくなければ今すぐ去れ。これではアリアとの戦いも興が乗らん」
そう言って、地面に転がるヘスティアショートソードをベルの足元に投げつけた。
「…貴女はどうして戦うんですか?それにアイズさんはアリアという人ではありません!」
「さぁな。戦う理由などどうでもいい。その『風』はアリアのものだ。だから、アリアだ」
存外無視されるかともベルは思ったが彼女は答えてはくれた。
「お前はモンスターに襲われるのにいちいち理由がないと戦わないのか?お前は殺しにかかってくる相手に理由がないと剣を振れないのか?」
逆に問い返されたベルはすぐに答えることが出来なかった。
「答えることも出来ないお前が何故戦うのか私には分からんな。お前には意地や誇りなどというそんなくだらんもの1つすらないのか?」
「僕は…」
ベルは目を瞑り、少し考えていた。つい最近も本質は似たやり取りをしたから。
「お前から先に殺しておけば、少しはやりやすいか?地上ではあまり派手にはいきたくなかったが、アリアもそれで連れていけるならそれもいいか」
そんなレヴィスの呟きにアイズは金の瞳で睨む。ベルを殺させないと。そんなことはさせないと。そうして、再び剣を交えようと動こうとした時にベルが声を上げた。
「僕にも…『
「ベル…」
危ないから下がってとはアイズはこの時言えなかった。ベルの背中から伝わる決意はとても力強くそして、暖かい気がした。自分の冷たい剣とは違う、炎の系譜。
思い浮かべるはクライヴさんの背中。炎を纏い、炎剣を持って戦う勇姿。騎士であり、戦士であり、
クライヴさんのように炎を全身に纏えないけど、ファイアボルトを拳に纏うことは出来る。昨日の戦いで『英雄昇火《アルゴノゥト》』のチャージをこまめに連続使用をやったことが偶然だけど活かせるかもしれない。
ヘスティアショートソードでファイアボルトを大火力にして打ち出さずに炎龍の力を剣に注げばどうなるのか。
大きな炎でなくても、僕は僕の『意地』と『炎』を込めて。
リンリンと小さな鈴のような音が鳴り始める。
「その音は何かのスキルか?お前の意地とやらを見せて貰おうか」
レヴィスは攻撃を仕掛けずに余裕を持って構えるのみとなった。もう遠い擦り切れた記憶振りの地上ということもあり、いつものような鬱屈さもなく、アイズ以外との戦いが楽しめるのならそれもまた良いかと何故だが普段とは違う趣向を持った。目の前のベルの目付きも変わり、何かをしてくる。
それもまたレヴィスにとって、興味を持てたのかも知れない。ここ最近はアイズとの戦い以外はあまりにも退屈でもあったことも大きい。
それは『未知』を楽しむ神々にも似た考えかもしれない。
クライヴさんやディオンさんのように相手を視認しただけで魔法は撃ち出せないけど。これなら──
ベルはスキルのチャージを両足に施すと共にファイアボルトを両の拳に纏う。そして、纏った先からヘスティアショートソードの炎龍の素材による紅くなっている剣先に添えるようにファイアボルトを押し込む。そのまま魔力を注ぎ続けた。
ベルが思い浮かべたものが具現化したように、剣身全てが明るい赤色に染め上がり炎を纏う炎剣となった。
「炎の付与魔法?やはりあの男に似ているものを感じるな。そろそろ来るのだろう?見せてみろ!!」
レヴィスはベルの炎を見てより興味を深めた。
「アイズさん!行きます!!」
「分かった。ベルに合わせる!」
ベルは先ほどよりも迷いもなく圧倒的な速さを持ってレヴィスと剣を交えた。
動きはクライヴの『フェニックスシフト』を──
「速くなったな!いいぞ!小僧!!」
「ハァッ!!」
交えた剣と拳は『ライジングフレイム』を──
「
ベルとレヴィスの剣戟を縫うようにアイズも合わせて畳み掛ける。市壁での訓練。アポロンのパーティーの時のように、不思議とベルとは合わせられた。何より風が暖かく感じる。
身のこなしがいつもより楽で軽く、動きやすい。
「アリアも調子が上がってきたか!おもしろい!!」
レヴィスは歓喜の笑みを浮かべて、2人を同時に相手取る。
ベルの炎剣がレヴィスの肌を焼く。先ほどのように素手で止められることもなく斬り込んで行けた。レヴィスの肉体は人を斬る感覚とは程遠い。凄まじく硬い。
アイズの風で燃え上がった火の粉が舞う拳ですくい上げるように叩き込む。それを脚で払うように蹴りを見舞うレヴィスに左の炎拳で防いで見せるベル。
空いた左側から滑り込むようにデスペレートを突き入れたアイズの剣技を禍々しい長剣で防ぐが、そこで止まらないのがアイズの剣技と風であり、連撃を持って何合も斬り合う。
両者の剣から幾重にも火花が散り、互いの動きがブレて見えるほどの速さで斬り合った。
横薙ぎと横薙ぎがぶつかり合って距離が開いた所にすかさずベルが接近。
瞬発力を爆発させた、両手に持った炎剣の大きく振りかぶった袈裟斬りを見舞う。
距離を殺し、切り込まれる寸前にレヴィスも長剣を両手に持ち替えて受け止める。だが、そこがベルの狙い目だった。
「ファイアボルト!!」
「──なッ!!?グッ!アァアアア!!」
ベルはヘスティアショートソードに纏った炎を炎の斬撃として撃ち出したのだ。両手の炎と合わせた炎龍の加護からの大火力の一撃。
「ハァッハァッ…」
常に行使を続けた『チャージ』とファイアボルトの渾身の一撃にいくらスキルの影響で燃費が良いと言ってもかなりのマインドと体力を持っていかれたベルは玉のような汗を流しながら荒い息を吐いた。
「ベルッ!」
超近距離からの魔法の砲撃のような斬撃に心配して駆け寄るアイズはベルの状態にホッとしていた。多少の火傷をあるようだが軽傷であった。普通に考えるなら魔法を近距離で発動など自爆も覚悟という所である。
ベルの魔法は付与魔法のように今回は使ってみて偶然上手くいっているが、本来は射撃系の魔法である。
「大丈夫?」
「はいッ何とか…。思い付きだったのでコレっきりで次は上手く行かないでしょうけど」
2人は油断なく構え直す。地面が燃え盛り奥の方は視認が難しかった。
そこから僅かな時を持って、影が歩き出して来た。
「中々やるじゃないか…核に届いていたら私もここで終わっていた所だ」
現れたレヴィスは衣服が所々と破け、燃えたあとは煤けていた。胸周りはより露出が大きくなり際どい服装を描く。
火傷と裂傷により胸の中心部以外は大きな傷を負っていた。
だが、傷の端の方から薄っすらと肉体の再生が始まり始めていた。火傷傷もあってかその再生は遅い。
「極彩色の魔石…?」
ベルは胸の中心に僅かに輝くものを見つけて呟いた。
「そう、アレがモンスターでもある証明」
アイズがベルの呟きに答えた。
改めて相手が人の姿をしたモンスターだと自覚したベルは息を呑んだ。
「お前は溜めは必要だが、凄まじい力を秘めているな。さて、再戦と行こうか」
レヴィスは己の再生しきっていない身体を気にすることなく未だ健在の禍々しい長剣を構え直した。
ベル、アイズ、レヴィスとが見合い仕掛けるタイミングを伺い三者が動こうとした。
だが直後に、ダイダロス通りの地面が爆発するように大音響と3人のちょうど中心を起点にした地面もが隆起し、ほぼ同時に天の雲すら焦がすほどの『
「「「~〜──ッ!!!」」」
三者とも凄まじい熱波と熱風から視界不良の中で顔を覆いながら飛び退く。
しばらくの後にベルはその熱風を浴び、アイズと共に再び立ち上がる。レヴィスもまた立て直したようだった。
天の雲が焼き払われ、月光が地上と大穴が空いた地下空間を照らし出す。
月下の元で先ほどとはまた違う青白い光をベルは纏い始めた。スキル『
「ベル…??」
「まだ何かを隠していたか…。面白い小僧だ…だが…」
青白い光に覆われるベルにアイズは驚き、レヴィスも僅かながらの驚きの表情をした。
「アルテミス様…」
ベルは頭上の月を少しだけ見上げた。
「アリア!!勝負をお預けといこう」
爆炎の音に紛れながらも声を張り上げた怪人はもう一方の炎柱を視界の端に捉えた為にそちらに向かうため背を向けて早々に去っていった。
「地下からということはベートさん?それともイヴィルスが??」
「ベル行こう。風で覆いながら行くから掴まって」
獄炎と化した地下空間を覗きながら、疑問符を浮かべるベルをアイズは風を纏って確かめに行くために隣に立った。
少し迷った末にアイズはベルと腕組みと手繋ぎをして降りることにした。
抱っこにおんぶでは両手が塞がるし何となく、自分がやるのでなく、それをするならベルにやってもらった方がいいやと心の中のチビアイズも意見書を書いていた。
だが、アイズもベルも熱気に焼かれながらも少し恥ずかしそうにしながらの腕組みといわゆる恋人繋ぎをして、足場を確認しながら大穴へ飛び込んで行く。
───
「待ってください、ベートさん!」
ベルのそんな声が響いていた。
地下空間は地上から見た通りの獄炎の窯と化して、今もなおほぼ全域に炎が燃え盛った空間となっている。
「…ベートさん!!」
ベルが真っ正面から割り込んで制止し、アイズもまた後ろから慌てたように止めようとした。
「どけぇ!兎野郎!!邪魔をするなと言っただろ!!」
「アイズ、お前でも止めるならブチ殺す!!」
ベートは怒りの炎そのまま、2人の制止を聞こうとはしなかった。
イヴィルスたちの中で、生き残っているのは首謀者であるヴァレッタのみ。
「うそ、だ…うそだぁ!?」
今や無残でしかない自分たちの状態と生き残っているのが自分だけの状態に恐慌と化す女はベートの1人で己を潰すという啖呵に逆に次は怒りに燃え始めていた。
「ふざけやがってぇ、ふざけやがってぇ、ふざけやがってぇ!!」
怒りを言葉に出すことで奮い立てるのもある。そして、やってやると。イヴィルスの二つ名【
だが、彼女の心を折る出来事が立て続けに待っていた。
結界魔法の【シャルドー】が瓦解して、吸収される様を見てしまったのだ。
(まだ、まだだ!…バカな兎を利用しよう!ちょうど背も向けてる…。ひひっ)
「た、助けてくれ。どうか、どうかぁああ!」と言いながら俯きベルの方へと這い寄るように近付くヴァレッタにベルは振り向こうとして、彼女が隠した短剣が死角になり見えていないようだった。
「…チッ、バレバレなんだよ!クソ女がぁ!!」
「──ガッ!!?」
「がっっァ!」
『
ベルに容赦ない左炎拳の裏拳を持って吹き飛ばし、ヴァレッタにはすくい上げるような右炎拳を打ち込む。
そこからの女がくの字に曲がった所への回し蹴りと牙の
「いっ!?ぎゃああああああああああ…──」
骨は砕かれ、皮膚は焼かれ、流した涙は蒸発しても止まらないヴァレッタへの炎狼からの猛襲、両の
最後は大気さえ抉りながらの左の
「べ、ベートさん!」
我に返ったアイズがベルの所に駆け寄りながら、これ以上はと制止の声を必死に上げた。
それでもベートは石床を踏み燃やしながらゆっくりと歩いていく。
「ベル!」
「ア、アイズさん…。べ、ベートさん容赦が…ない…」
余りのダメージと衝撃に意識が飛びかけたベルは発展アビリティ【意地】とスキル【月女神夢想】が無ければ、胸部の骨か顎の骨が砕け散っていたかもしれないと思いゾッとしていた。
おかげで胸部アーマーは大きくひしゃげ融解していた。後日、ヴェルフに謝る事案が確定した。
「あぁあああ」
「立て」
のたうち回るヴァレッタに向けて、ベートは理性の力で炎を抑えながら見下す。
よろめきながらも立ち上がり、ふらつくヴァレッタの半身は黒焦げであった。
「もう嫌だ。死にたくない。もうやめてくれ【凶狼】ぉ…!?痛いッ、熱いッ!」
「そ、そうだ…。炎が…腕が…頭が!!」
何かを思い出したように被りを振り始めたヴァレッタを冷めた目で見続けるベートは女の叫びを待ってやっていた。
ヴァレッタの脳裏には、先日のクノッソスでの戦いで自分を半殺しにした、あの規格外の二人――クライヴとディオンの圧倒的な神殺しの覇気が、未だに強烈な畏怖として焼き付いて離れなかったのだ。
「ふざけんなよ……っ! なんで、なんで私がこんなことでぇよぉ! まだどこかに、あの灰色マントと金髪のことが頭から離れねぇんだよぉぉぉーーーっ!!」
恐慌を起こして泣き叫ぶヴァレッタにベートはただ冷めていた。
「お前は途中、途中おかしな動きをしてたのはそんなことでしかねぇ。オッサンたちはてめぇなんざ何も気にしてねぇ。雑魚でしかないだろうよ」
ひたすらに冷めていくベートにヴァレッタの泣き言は増えていく。
「まだ死にたくないんだよぉ!!あのスカした野郎たちにもフィンにも何も出来てねぇ!頼む!見逃してくれ!」
懇願するヴァレッタとベートのやり取りの中、アイズに肩を担がれたベルも2人の場所にやって来て沈黙していた。
「雑魚どもが同じように泣き言をほざいた時、てめーは何をやった?」
ベートのその言葉にヴァレッタは表情を凍てつかせた。
そこから積み上がる言い訳と泣き言にベルもまたアイズから離れて拳を握り込み震えた。
感情を押さえたベートの持論に女の弁は肯定され、
「なっなら!」と希望を見出した瞬間、
「──だからァ!!」
眦を裂いて、ベートが怒りの形相で咆哮を上げるのを被せるように。今度こそ届くようにとベルが叫ぶ。
「ベートさん!!」
ベートの前に歩み出たベルは俯き頬には涙のあとがあった。
少女を守れなかった悔しさ、少女を失った悲しさ。
握る拳は未だ震えたまま。
「この後に及んでてめぇは!!」
ベートは泣いてるベルを見て怒りのままに殴り飛ばすことはしなかった。それでもその甘さに怒りの眼差しを向けた。
「この人は『鍵』を持ってるはずです!!…コレを知ってますよね!?」
ベルはベートの怒りに震えながらも涙に震えながらも『目的』を果たすために懸命に声を張り上げた。
そうして、ヴァレッタに『ダイダロス・オーブ』を見せる。
「……あぁ、持ってるぅ…」
ヴァレッタも命からがらと言った声で絞り出すように肯定した。
「どこですか!出してください!う、嘘を言えば!ぼ、僕が貴女をこ、殺す!!」
声を震わし、言いたくもない言葉を瀕死の相手に向けて言ったベルは彼女が恐怖する火を撃つ構えを取った。
「い、命の保証がッないとッい、言えねぇ!安全に
必死に言い募るヴァレッタはそのままよろけて尻もちを着いた。
「…ダ、ダメです!貴女はギルドに連れて行く!!罪を償わせる!」
「……」
「…ベル」
右手にマインドを込め始めて下がらないベルと沈黙を貫くベートと心配そうに見守るアイズ。
アイズもまたいつでも抜剣は出来るようにしていた。
「い、言え!う、撃つぞ!!」
そうしてベルの右手が赤く熱帯び始める。
「…や、やめてくれ。もう、炎は勘弁してくれぇ!」
そうやって藻掻きながら、泣き叫ぶヴァレッタは何とか助かろうと考えを巡らす。そして、手に触れた
「わ、分かった。分かったよ!今出すからぁ!!」
そうやってヨロヨロと立ち上がったヴァレッタは辛うじて残っていた
「…ひひっ、う、動くなよ【凶狼】、【剣姫】!!」
引きつった笑みでいつの間にか握られていた呪いの短剣をベルの首元に押し当てていた。
刃に擦れてベルの首からじんわりと血が滲み出す。
「べ、ベル!!」
「う、動くんじゃねぇよ【剣姫】ぃー!!」
動揺するアイズと喚くヴァレッタ。ベルとベートは互いに沈黙していた。
「このまま…へへっ、『扉』まで案内しろぉお!!」
そうやってジリジリとベルにしがみつく形で動き出すヴァレッタ。
そこへ、赤い影が降り立った──
「…地獄の炎と言った所か」
レヴィスが長剣を構えて着地した。
「お、お前は…おっ遅えんだよ!ははっ!ははははっ!!形勢逆転だなぁ!!」
レヴィスという最強の援軍に助かったと恐怖と安堵が入り混じった狂ったように笑い声を上げ始めるヴァレッタは勝利と生存を確信した。
「さぁ、殺っちまってくれよ。レヴィスーー!!ははっ!」
レヴィスの登場に即座に抜剣したアイズは油断なく構えた。
ベートもまた再び怒りの炎を滾らせる。
「…その体たらくで何言っている。私はお前の回収しか今回は言われていない。こんな所で殺り合ってお前のために命懸けなぞごめんだ。ここは退く。欲張るなら勝手に死ね」
レヴィスは長剣を構える素振りも何も見せず、淡々と事を進めようとする。
「…逃がすと思うのか?化け物女!!」
ベートの怒声と共に狼の炎が膨れ上がる。
「ひひっ、、。【凶狼】ォオ!!良いのかぁ!?哀れな兎が死ぬぞ!!」
「抱えていける
脅すヴァレッタに対して、皮肉と冷静さを持ったレヴィスの声が響いた。
「本当にここで死ぬのなら好きにしろ」
そう言うないなや踵を返そうとするレヴィスにヴァレッタは慌てたように追いすがる。
「わ、わかっ…た。クッ、ははっ。い、痛み分けだぁ。ははははっ!」
だが、ただでは離さんと【殺帝】として、ヴァレッタの意地でベルの喉を裂こうと嗜虐的な笑みを浮かべていた。
そこで瞬間、ベルが動き喉を切れようが、黒焦げのヴァレッタ突き飛ばした。
そこから、ベート、アイズが一斉に飛びかかる。
ベルはタイミングを測っていた。そして、ベートもそれに気付いていた。
「燃えちまぇえええええええええええ!!」
大炎哮。
「う、うぁああああああああああああ!!」
ヴァレッタの大絶叫と共に空間が爆炎猛火に飲み込まれた。
───
狼が辿り着いた終焉の世界が晴れていく。
アイズはその炎の世界を目に焼きつけてしまいながら、救出したベルを見て深く安堵した。
首の傷は致命的ではないが、『呪い』を考えればすぐに治療を必要とした。
ベルの手にはしっかりと
その後、クライヴとディオンを探すため
『壁の融解と固着の跡』を見つけるも2人の足取りが途絶えていた、そのまさにその時。
新ホームの特製小屋で、春姫救出作戦の疲れからようやく目を覚ました魔獣リズンが、クノッソスではなく、地上の「ダイダロス通りの一番奥の奥地」で、二人をアッサリと発見することになる。
ヴァレッタとの戦いから2日後、ベートはレナとベルが抗い続けた広場にいた。
そこからのロキの策略による、ファミリアの者たちへの想い。
そして、姿を現した『少女』とのやり取りにどこまでも青空は輝いていた。
『少女』はそのまま、アイシャたちと訪れた仲間たちの墓と自分の墓を巡った。サミラの仕事は早く多くの新しい墓が作られてしまっていたのだ。
そして、少女の墓にはミオソティスの花束が置かれていた。
「ベート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!!」
青空に向けて明るく愛おしい叫びを『少女』レナ・タリーは叫んでいた。
そして、ディアンケヒトの治療院。
奇跡的に目を覚まし、お腹に凄絶な火傷痕を残しながらも、解呪の耐性を得て覚醒した『少女』が、同じ部屋のベッドにいたレナ・タリーと『ベートさんの話』でキャッキャと明るく笑いながら女子会のように盛り上がっていた。
そんな事態を少しも知らないベートは、仲間を誰よりも大切に想う本音を隠し、彼女のために部屋の扉を開けた。今も彼女は眠ってると思いながら。
「――え? だからベートさんってば、不器用なんです!」
「あはは! 本当に可愛いお兄さんだよねぇ❤」
「……………………」
ベートは完全にその場にフリーズした。
「誰も死んでほしくない」という不器用な銀狼の心の叫び、
その全ては叶わずとも、『少女』リーネ・アルシェが控え目ながら明るく語っていた。
無事に帰還し、呆れ顔でマントの煤を払うクライヴやディオンたちの温かい視線に包まれ、戦いの幕引きとなった。
今話は非常に結末に悩みました。
あとは没設定ですが、ベル君の新しいナイフも考えたのですが、辞めました。
呪いの短剣を打ち直し、ヘスティアとアルテミスの純潔の権能の神血を混ぜて作り上げた水色の短剣
『
ベル「青き清浄なる世界のために!」
となりそうなので辞めました。