ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか   作:巡理愛

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第5話:抗う者の剣と理の外の死闘

 

ベルとヘスティアを二人きりにし、祭の喧騒から一歩退いたクライヴは、大通りから一本外れた薄暗い路地へと足を向けていた。

執拗に背中を刺していた視線の主が、音もなく彼の前に姿を現す。

 

「――そこまでだ、異邦の戦士よ。我が主の観劇の邪魔をさせるわけにはいかない」

 

静かに退路を断つように立ちはだかったのは、巨大な黒い大剣を背負った、猪人(ボアズ)の第一級冒険者――オラリオ最強の男、『猛者』オッタル。その背後には、フレイヤ・ファミリアの幹部たちが完全に包囲網を敷いていた。

 

「……なるほど。ベルを試すために、わざわざ俺の足止めか。過保護な神もいたものだな」

 

クライヴはフッと不敵に笑うと、背中から大剣『インヴィクタス』を引き抜いた。

ファルナの基本能力は未だ『I』の数値を彷彿とさせる鈍色の器。しかし、神殺しを成し遂げたクライヴの肉体そのものの完成度は、オラリオの枠組みを超越している。

 

「ハッ――!」

 

オッタルが地を爆ぜさせ、黒き大剣を容赦なく振り下ろす。Lv.7の絶対的な質量。

クライヴはそれを真正面から受け止める愚を犯さず、インヴィクタスの刃を僅かに傾け、受け流し(パリィ)の技術だけでその一撃の軌道を逸らした。

ガギィィィン!!

凄まじい衝撃波が路地の壁を砕く。オッタルの目が驚愕に細まった。

自分の渾身の一撃を、完璧な重心移動と超技術だけで冷徹にいなされたのだ。それはかつてクライヴが元の世界で死闘を繰り広げた、タイタンのドミナントであるフーゴの猛攻を凌いだ時のような、鉄壁の防御とカウンターの応酬。

 

「…俺の剣を……! 面白い、やはりお前はただの人間ではないな」

 

「買い被るな。俺はただ、生きるために抗い続けてきただけだ」

 

互いにスキルも魔法も使わぬ、純粋な『剣士』としての火花散る剣戟。一撃交わすたびに路地が崩壊していくほどの、理の外の死闘が幕を開けた。

 

───

 

オッタルとの激しい刃の交錯の最中、街の別区画から一般市民の悲鳴と、肉を裂くような不気味な咆哮が轟いた。

クライヴの鋭敏な知覚が、その方向から漂う『アルテマの残滓』に酷く似た、どす黒い悪意の波動を察知する。

 

「くっ……悪意の波動が、あちらの化け物どもに引かれて暴走しているのか!」

 

「……主神の観劇の邪魔になるな。行け、ここは退こう。異邦の戦士よ。我が主は“そちら”の不浄には興味がない」

 

オッタルはクライヴの実力を十分に測ったと判断したのか、大剣を収めて静かに退いた。

クライヴはベルの無事を信じて一度シルバーバックの元へと向かわせつつ、自身はより強烈な悪意が湧き上がる植物型モンスター『ヴィオラス』の密集地帯へと、インヴィクタスを手に跳んだ。

現場の商業区画では、ロキ・ファミリアが未曾有の苦戦を強いられていた。

祭の観覧というプライベートの最中ゆえに誰も重装備を持っておらず、ティオネやティオナのヒュリテ姉妹は武器を持たずに素手での応戦を余儀なくされ、第一級冒険者である2人の打撃でも破壊できないヴィオラスの硬い外殻に阻まれて続けている。

さらに最悪なのは、同じく第一級冒険者である『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインだった。

彼女は愛剣『デスペレート』をゴブニュ・ファミリアの定期整備に出していたため、手元にあるのは貸し出された代品の華奢なレイピアのみ。

強引に自身の風の付与魔法『エアリエル』を纏わせてヴィオラスを斬り裂いていたものの、武器がその超絶的な出力に耐えられるはずがなかった。

 

パキィィィンッ!

 

「――あ」アイズの目の前で、代品のレイピアが木端微塵に砕け散る。

丸腰となったアイズの隙を突き、地中から現れたヴィオラスの凶悪な触手が、詠唱中だった後衛の魔導士レフィーヤ・ウィリディスへ向かって、肉を貫かんと鋭く突き出された。

 

「レフィーヤ――っ!」アイズの悲痛な叫び。

レフィーヤが絶望に目を瞑った、その刹那――。

「――下がれ!」詠唱などない。ただ魂から直出された魔力の弾丸――『ファイア』の連弾が、無詠唱でヴィオラスの触手を次々と正確に撃ち抜き、爆炎の中に焼き狂わせる。

 

「え……っ!? 詠唱なしの、炎の魔法……っ!?」

 

唖然とする魔導士レフィーヤの前に、灰色のマントを翻したクライヴが着地した。

植物型への炎の相性は抜群だ。間髪入れず、クライヴはヴィオラスの群れへと単身で突撃する。

 

「ギシャァァァッ!」

 

割れ鐘のような奇声を上げる『ヴィオラス』たちは暴れまわりながれ、すべての個体がクライヴを狙う。

 

ガキィィン! ズバァァァン!

 

大剣『インヴィクタス』が赤黒い炎を纏いながら縦横無尽に狂い咲く。

 

「な、何あれー! おじさん、炎纏った拳でそのまま殴り飛ばしてるんだけど!」

 

「何なのあの膂力!?」

 

ヒュリテ姉妹が驚愕する中、クライヴはインヴィクタスで斬って斬りまくる傍ら、剣の引けない間合いでは、フェニックスの炎を纏わせた強烈な拳をヴィオラスの顔面へと叩き込み、外殻ごとドロドロに焼き溶かしながら殴り飛ばしていく。

原作を遥かに超える数の植物型モンスターが地中から湧き上がろうとも、ロゴスの残滓を持つ男の前では、ただの燃えやすい薪に過ぎなかった。

レフィーヤを軽傷すら負わせずに救い出し、焦土と化していく戦場で、クライヴの圧倒的な無双劇がロキ・ファミリアの冒険者たちの目に焼き付けられていく。

 

 

───

 

一方、街の大通りから被害が出ぬようにダイダロス通りまで逃げたベルとヘスティアは、フレイヤに仕掛けられた凶獣シルバーバックと対峙していた。先ほどまでお姫様抱っこにてヘスティアを抱えていたベルは必死であったが、ヘスティアは妙に嬉しそうにしながら、もっと堪能していたかったとこの場では場違いな考えを抱いていた。

シルバーバックの猛攻が開始されるのに対し、ベルは満身創痍になりながらもギルドの支給品の短刀で泥臭く粘り続けていた。やがて噛み付きを間一髪で回避した際に短刀の刀身は見事に噛み砕かれた。その直後に強烈な一撃を食らいながらその勢いを利用して再度の逃走、ヘスティアと共に一旦シルバーバックの視線を撒いて路地裏へと逃げ込む。

行き止まりの隠れた空間。追ってくる巨獣の足音。ヘスティアは意を決し、背中に隠していた包みから、ヘファイストスに土下座して作らせた最高傑作の一振り――ナイフよりもしっかりと“剣”として戦える、美しい紅(あか)と漆黒が混ざり合った『短剣』を取り出した。

 

「ベルくん、背中を出しておくれ! 今からここでステイタス更新をしよう!限界まで能力の底上げをするんだッ!!」

 

ヘスティアが神の血を垂らし、ベルの背中の神聖文字を限界まで書き換える。

その瞬間、少年の手の平にショートソードの柄が吸い付くように収まり、世界の理を書き換えるほどの爆発的な熱量がベルの身に満ち溢れた。

今作のベルは、クライヴへの強烈な憧憬バフによって、原作の同時期を大きく引き離す驚愕の数値を叩き出していたのだ。

 

「神様、僕行ってます。必ずあのモンスターを倒します!」

 

「信じてるぜ!ベル君!!」

 

ベルの決意の言葉にヘスティアは元気よく送り出した。

 

「――うおおおおおおおッ!!」

 

路地裏から飛び出したベルの身体が、大通りを赤い残像となって駆け抜ける。

クライヴの『フェニックスシフト』や『ライジングフレイム』のような、ファルナなしで発動する魔法の固有技術は使えない。だが、その動きの“形”は、誰よりもその背中を見てきたベルの肉体に焼き付いている。

目にも留まらぬ鮮やかな剣技の連撃が、シルバーバックの巨体をズタズタに切り裂いていく。そして、クライヴのライジングフレイムを模倣するかのように、地を走るような低い姿勢からの凄まじい『切り上げ』を放ち、シルバーバックの巨体を宙へと高く打ち上げた。

 

(最後は……これだッ!!)

 

落下してくるシルバーバックを見据え、ベルはショートソードを真っ直ぐに構えた。それは、クライヴがフェニックスシフトの際に見せる、あの限界突破の突進の形。魔法の火の粉は出なくとも、少年の高まりきったアビリティの全てを一点に爆発させた、身体ごと弾丸、あるいは鋭い『槍』と化した渾身の突撃。

 

「シィィィィアァァァーーーッッ!!」

 

ドゴォォォォンッ!!!

 

少年の放った槍の如き一撃は、シルバーバックの胸の魔石を正確に貫き、粉砕した。凄まじい爆風と共に、銀色の巨獣が完全なる塵へと還っていく。紅き短剣を握りしめ、昼間の光の中で息を荒くする少年。その姿は、紛れもなく新たな英雄候補の誕生を告げていた。




【名前】:ベル・クラネル

【レベル】:1

【所属】:ヘスティア・ファミリア

【基礎アビリティ】
力:D(512) → B(720) (原作:E 400台)
耐久:F(335) → C(610) (原作:H 100台 ※シルバーバック戦時)
器用:D(520) → B(735)
(原作:G 200台)敏捷:C(640) → A(890) (原作:E 400台 ※圧倒的な超スピード)
魔力:I(0) → I(0)

【魔法】なし

【スキル】『炎純一途(リアリス・フレーゼ)』


【名称】:ヘスティア・ショートソード

【種別】:短剣(ショートソード)

【価格】:400,000,000ヴァリス(※本来の価値は7億ヴァリス以上)

【製作者】:ヘファイストス

【解説】:主神ヘスティアが、鍛冶の最高神ヘファイストスに命懸けの直談判(土下座)をして打たせた至高の神造兵器。当初は原作通りナイフとして打たれていたが、「クライヴのような剣士になりたい」というベルの意志を汲んだヘスティアが途中で「片手剣(リーチの長いもの)」を要望。既に基本のミスリル材の追加が不可能な段階であったため、ヘファイストスは火山地帯に棲まうという『炎龍のドロップアイテム』を急遽鋳込み、刀身を限界まで引き延ばして完成させた。

【デザイン特性】:刃の根元から中ほどまでは、原作のヘスティアナイフを踏襲した無光沢の『漆黒の刀身』。そこから切っ先にかけて、炎龍の素材が混ざり合ったことで、ベルの瞳の色と同じ『深紅の刀身』へとグラデーション変化している。刃文には燃え盛る炎のような揺らめく波紋が刻まれており、持ち主の魔力が注がれると、刀身全体が眩い太陽のような明るい炎の色へと染まり変わる。

【能力特性】:原作同様、ヘスティアの神血(イコル)が神聖文字(ステイタス)として刻まれており、『持ち主(ベル)と共に成長する』『他の者が握ればただの鈍らになる』という特性を持つ。さらに今作では炎龍の素材が追加された影響で、『火属性への親和性』が極限まで高まっており、後にベルが手にする力(ファイアボルトなど)と奇跡的なシナジーを生み出すことになる。

※挿絵よりも若干短くナイフと片手剣の間ぐらいのリーチをイメージしております



【挿絵表示】

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