転生先がサイヤ人だったので、好きに生きることにした 作:二次創作マン
丸い宇宙ポッドが、暗い宇宙空間を静かに滑っていく。
窓の外を流れる星々の光を眺めながら、俺は座席で大きくひとつ息を吐いた。
狭いポッドの中は、独特の保温液と無機質な機械の匂いが満ちている。背中に伝わるかすかな振動を感じながら、俺は自分の小さな拳を見つめた。
惑星ベジータの爆発。
知識として知っていた出来事だが、実際に目の当たりにしたあの圧倒的な光と衝撃波の余韻は、今も皮膚の表面にピリピリとした感覚を残している。
(……逝っちまったか)
悲壮感がないと言えば嘘になる。だが、それ以上に俺の胸を占めていたのは、これから始まる新しい生への高揚感だった。
地球までの航海は長い。
普通のサイヤ人の子供ならコールドスリープで眠って過ごすところだが、俺は意識を保ったまま、ポッド内の狭い空間で「気のイメージトレーニング」に時間を費やした。
目を閉じ、自分の体内に流れる気を極限まで細く、小さくしていく。
針の穴を通すように気をコントロールし、心拍数を限界まで下げる。地球の神様やミスター・ポポが教えてくれるような「静」の修行。それを、原作知識をヒントに自分なりに噛み砕き、実践していく。
「あー……やっぱ動かないで気だけ動かすのって、地味に疲れるな」
時折り軽口を叩きながら、汗を拭う。
ただ強大な気を爆発させるだけなら超サイヤ人になれば済む。だが、俺が目指しているのは「強さを自在にコントロールできるサイヤ人」だ。
力を隠すためだけじゃない。繊細な気の操作こそが、結果として戦闘の幅を劇的に広げることを知っているからだ。
そうして、どれほどの時間が過ぎただろうか。
「――ピピピッ。目的地に接近」
機械的なアナウンスとともに、ポッドのフロントガラス越しに、息をのむほど美しい青い球体が見えてきた。
地球だ。
「うわ……マジで青いな。画面越しじゃなくて、本物かよ……」
前世でアニメやゲームのスクリーン越しに何度も見たあの星が、今、目の前に広がっている。
大気圏に突入すると、激しい振動と摩擦熱の赤い光がポッドを包んだ。ゴォォという轟音が狭い室内に響き渡る。
ドォォォン……!
激しい衝撃とともに、ポッドはどこかの山奥の地面へ深く突き刺さった。
ハッチがゆっくりと開き、外の空気となだれ込んでくる匂いに、俺は思わず目を細めた。
「ッ……すげえな、おい」
鼻をくすぐるのは、豊かな土の匂い、濡れた草木の香り、そして済んだ風の冷たさ。
惑星ベジータの荒々しい機械油と血の匂いとは根底から違う、圧倒的な「生命の気」が世界中に満ちち溢れていた。
ポッドから這い出し、小さな足でしっかりと地球の土を踏みしめる。
ぐっと背伸びをすると、全身の細胞が歓喜の声をあげるようだった。S細胞がさらに喜んでいるのが分かる。環境ってのは本当に大事だ。
「よし、まずは……自分の足で歩くか」
スカウター? そんなものは惑星ベジータを出る時にポッドの隅で踏み潰して壊した。あんなものに頼っていたら、繊細な気を感じ取る感覚が鈍ってしまう。
集中して目を閉じ、周囲に気を探る。
遠く離れた場所に、いくつか小さくも暖かな生命の反応があった。そして、遥か遠くに――まだ生まれたばかりの、けれど力強い小さな気の芽。
(カカロット……無事に着いてるな)
孫悟空となる赤ん坊の気を感じ取り、俺は口元を緩めた。
あいつは孫悟飯じいさんに拾われ、頭を打って大人しくなり、やがて世界を救うヒーローへと育っていく。その歴史の歯車を俺が狂わせる必要は全くない。
じゃあ、俺はどうするか?
「とりあえず……腹が減ったな」
お腹が鳴る音とともに、俺は笑った。
まずは、この広大な地球で生きていくための拠点を確保することだ。
◇
それからの数年間、俺はパオズ山から遠く離れた、四季折々の自然豊かな山林で一人暮らしを始めた。
小さな丸太小屋を自分で建て(丸太を素手で切り倒し、気を微調整して組み立てる作業はいい気のコントロール修行になった)、川で魚を捕り、山で巨大なイノシシや熊を狩る。
「いただきまーす」
焚き火でこんがり焼いた巨大な肉にかぶりつく。
「うん、美味い! やっぱり地球の飯は最高だな!」
サイヤ人の底なしの胃袋を満たすのは大変だったが、生き物の命をいただき、美味いものを食い、ぐっすり眠る。そんな当たり前の日常が、俺の心と身体を驚くほど健やかに育ててくれた。
もちろん、修行も怠らない。
毎朝の気のコントロール。
山奥での一人組手。
そして、人知れず行う「超サイヤ人」の変身維持トレーニング。
「はぁぁぁぁ……っ!」
黄金のオーラを纏い、超サイヤ人へと変身する。
だが、ただ変身するだけじゃない。前世の知識――セル編で悟空たちがやっていた「超サイヤ人を超サイヤ人として日常化する」修行だ。
荒々しい興奮状態を抑え、超サイヤ人の状態のまま静かに目を閉じ、心を鎮める。
最初は身体が熱暴走を起こしそうになって荒い息を吐いたが、何度も繰り返すうちに、黄金の光を放ったまま小鳥と戯れることができるくらいにはコントロールできるようになっていった。
「ふぅ……よし、こんなもんか」
変身を解き、黒髪に戻る。
ふと、自分の成長した手を見る。
身体はいつの間にか少年期から、10代半ばほどの姿へと育っていた。
そんなある日のことだ。
修行の最中、ふと遠くの空から異質な気が近づいてくるのを感じた。
地球の野生動物や人間とは明らかに違う、禍々しく、荒々しい気。
(……ん? なんだこの気……?)
脳内の原作データベースを検索する。
ピッコロ大魔王? いや、まだ封印されているはずだし、気の質が違う。
サイヤ人の襲来? まだ数年早すぎる。
空を見上げると、巨大な宇宙船が静かに雲を割って降りてくるところだった。
「……あー、なるほどね」
俺はニヤリと口角を上げた。
原作のメインストリーム(ドラゴンボールのストーリー)には登場しない、劇場版か、あるいはゲームのオリジナル敵キャラの類だ。
「原作の流れを壊さない敵」の登場に、俺のサイヤ人としての血が俄然、騒ぎ出した。
「待ってたぜ……地球の平和を脅かす不法侵入者さんよ」
俺は首をゴリゴリと鳴らし、地面を軽く蹴った。
普段抑え込んでいる膨大な気が、身体の奥底で心地よく渦を巻く。
原作を守るために力を隠す日常も楽しいが、たまには思いっきり暴れないと、サイヤ人の身体が訛ってしまう。
「さーて……久々に、本気で遊ばせてもらうとするか!」
風を置き去りにして、俺は黄金の光の予感を纏いながら、遠くの空へと飛び立った。