「うぇぇぇん……ソルちゃんのばかぁ……」
「来て早々なんだお前は……」
私、高原アマネは、幼馴染である工藤ニアちゃんに泣きついていた。
理由は同じく幼馴染である小沢ソルちゃんと生まれて初めての大喧嘩をしてしまったことである。
「ほれほれ、ちょっと泣き止め」
「ひぐっ」
「んで、何があったんだ?」
「ソルちゃんがね?」
ニアちゃんが理由を聞いてきたので、私は説明をすることにした。
その理由とは……
「『良くも俺のプリンを勝手に食べやがったな!』って怒ったの。良いじゃん一つくらい……」」
「くっだらねえな!? しかもアマネが100悪いし!?」
「なんでよ! 秘密基地の共用冷蔵庫にあったやつだよ!名前書いてない方が悪いじゃん!」
「清々しいまでの開き直りだな!?!? 自分で買ってないやつを勝手に食うな!!」
ニアちゃんまで……
でも……
「仲直りしたい」
「自分の非を認めて謝れ、以上」
「でも、なんか悔しい」
「器が小さいなおい」
「何を言ってるのニアちゃん。私ほど器が大きい人間はいないよ」
「まず器が大きい人間はそんなこと言わないし、そんな人間の言動じゃない」
ニアちゃん……ストレートに言い過ぎだよぉ……
心が折れちゃう……
「大丈夫だ。お前の心が折れるなんてこと世界が終わっても有り得ないから」
「えっ、声に出てた?」
「シンプルに顔に書いてあんだよ。あと幼馴染としての勘」
んー……顔に出やすいのかな?
「はぁ……それなら一回ガチで殴り合いの喧嘩でもしてこい。ほら、拳の友情ってやつ」
「そうかなぁ……」
「まっ、この件はお前が1000%悪いから。覆したいならやってこい」
「分かったよ! ありがとうニアちゃん!」
「はいはい、気持ちだけ受け取っとくよ」
そう言って、私は部屋を飛び出した。
その後、ソルちゃんに殴り合いを吹っ掛けた。
結果? 惨敗。
でも、なんだろこの気持ち。
物凄くスッキリしたような……
「よーす、ソル。アマネは?」
「突然殴り合おうなんて言ってきて驚いた所だ」
「てことは瞬殺かよ……まぁ分かってたけどさぁ」
ニアちゃんが様子を見に来たみたい。
まぁ、結果はこの通り。
「それでアマネ、気分は?」
「……悔しい」
「俺はいつでも挑戦を受け付けるぞ?」
「でも……」
「「?」」
私の呟きに、二人は首を傾げた。
顔にはさっさと続けろと書いてある。
「悔しいけど、なんでだろう。口喧嘩の時はあれだけ何か引っかかった感じがしたのに、殴り合いの喧嘩した後は妙にスッキリしてるの」
「そうかそうかそいつは良かった」
「まぁ、俺も最近ストレス溜まってたし」
「アマネはサンドバッグかよ」
ソルちゃんが酷いこと言った気がしたけどそれはいい。
今感じてることは……
「ニアちゃんソルちゃん。戦いって、楽しいね」
「おいソル。アマネをバトルジャンキーに目覚めさせるんじゃねえ」
「焚きつけたのはお前だよなニア?」
「人間の本質は……闘争?なのかなぁ」
「「いやどうしてそうなる?」」
二人のツッコミが、私に思いっ切り刺さった。
***
「ウマウマ」
「なあ、どうして私は奢らされてるんだ?」
「お前がアマネを焚きつけたのが原因だろう」
そうだけどさぁ……
まぁいいか。
懐は痛まないし。
「で、アマネ。少しは冷静になったか?」
「うん、なったよ」
「ほっ、良かった」
「やっぱりこれだね」
「「いやそうはならんやろ」」
これと言いながら拳を出したアマネに私とソルはツッコミを入れた。
ダメだこいつ……
その後、会計をして店を出た。
今日の街は嫌に騒がしい。
そんな事を思ってたら、原因と思わしき人間がいた。
私達が通う学園の高等部。
パクスの報道部の生徒だ。
「号外、号外だよ。またトリニティと紛争だよ。結果は勝ち」
取り敢えず新聞をばら撒くという古臭いスタイルで新聞を投げまくる報道部。
取り敢えず一枚拾った。
「久しぶりだな、勝つのは」
「どうだかなぁ……」
「戦争……かぁ」
もう開戦してからどれくらい経ったんだっけな。
私らが生まれる前からずっとやってる。
最初は大きめだったのが、消耗したけど和解はしたくないってなって小規模になり、それから延々ダラダラとずっと。
もう、この自治区じゃあ戦時体制が日常だ。
一方で相手のトリニティは、戦時中とは思えないくらいの雰囲気らしい。
「私らが高校に入って卒業しても終わらないんじゃね? これ」
「さて、俺に聞くな」
ソルはあっさりと流した。
まぁ、私もソルも、行こうと思えば他の自治区の学園に進学することは出来る。
行く気はないが。
なにせ……アマネがな……
「平和って、なんだろ」
「お前、この類の新聞を見るたびに呟いてるな」
「言ってやるなよソル。アマネはこういうやつだ」
「……ねえ二人共」
「どした?」
「?」
一瞬、嫌な予感が過ったが、まあ気のせいだろ。
「私、生徒会長になる」
ごめん。全然過ってなかったわ。
***
「私ね、ソルちゃんと喧嘩して分かったことがあるの。争い、いや、闘争は生物の本質なんだって、この世に存在するありとあらゆる生き物は必ず闘争をしている狩りだったり、メスの奪い合いだったり、それこそ生存競争とか。だから、私達人間も戦争をやめられないんじゃないかって」
「「で?」」
「つまりだよ? 本音をぶつけ合って直接戦い合えばスッキリする。それはさっき身をもって体験したの。だからそんな世界になれば一周回って平和なんじゃないかなぁって」
「「……えぇ」」
何言ってんだこいつ……
それが、俺が最初に思ったことだ。
いやまぁ、言ってることが完全に的外れって訳じゃないないんだけどな?
「それで……生徒会長になるのとどう繋がるの?」
ニアがそう聞いた。
それは俺も思ったことだ。
「単純だよ。外交、政治なんてものがあるからこんな戦争が起きるんじゃないかと思ったんだよね私」
おいこいつまさか……
「だから生徒会長になって連邦生徒会も既存の体制も何もかもぶっ壊す!」
「どうしてそうなる?!」
ニアが叫んだ。
いや、かなりぶっ飛んだ方向に行ったなこいつ……
「どうしてって、キヴォトスで人死なんてその気にならなきゃ起きないんだよ? つーまーりー、本音を拳で語り合った方が健全なんだよ!」
「拳じゃなくても語れるよな?!」
「ちょっとやそっとの喧嘩で銃やら手榴弾が飛んでくるのに今更何を言ってるの?」
「くっそ、言い返せねえ自分が悔しい!」
まぁ確かに、キヴォトスの日常を考えるとな……
「それにさ、法律だのなんだのがあるから、本当にやりたいことを隠さないといけない。私は闘争がやりたいと思った。でも、やりたい事は皆違う」
「だから政府機能を潰して、各々がやりたい事を好き放題やる世界を作ると?」
「そうだよ。私は真正面から拳で語り合いたいし、他にも治安を維持したいとか、独裁したいとか、それに反抗したいとか、皆が皆、やりたい事は違う。ならさ、それを制限する社会基盤を壊して、好き勝手出来る社会を作るんだよ」
究極の自由主義。
秩序なんてあったもんじゃない世界。
なるほどな……
「おいソル、口元がニヤけてんぞ」
「ん?」
「無意識かよ! お前もこいつのアナーキズムに共感したとか言わねえよな?!」
そうか、俺の口元はニヤニヤしてたのか。
だが悪いなニア。
俺の闘争本能が囁いてくるんだよ。
色んな強者と戦えるぞって。
「くくくっ……良いぞアマネ。乗ってやるよ」
「ソルちゃん……! ありがとう!」
「おい待て! まともなのは私だけか?!」
悪いなニア。
今からでも心が踊るんだ。
「でもニアちゃん。考えてみて?」
「な、なんだよ……」
おいアマネ、こいつに何言う気だ。
「好きに生きて行けるんだよ? 何でも発明し放題実験し放題なんだよ?」
「よし乗った」
「早えなおい」
ニア、お前の手のひらはドリルで出来てるのか?
***
あれから数年後。
私達は11歳になっていた。
「見てソルちゃんニアちゃん! 飛び級の証明書!」
「「えっ?」」
「二人共何驚いてるの?」
二人が素っ頓狂な顔をしているのを見ながら、私はそう思った。
「いや、えっ、飛び級して行くの?」
「そうだよ。キヴォトスに自由な世界をお届けするのは早くても問題ないでしょ?」
「飛び級生徒がいきなり生徒会長になれるわけがあるかぁ!」
ニアちゃんの特技、ツッコミが炸裂する。
でも全然響かない。
「大丈夫大丈夫。現生徒会長本人から『現状を変えてください』って要望が直接来たから」
「大丈夫かようちの生徒会……」
「現状を変えたい派閥と、現状維持な派閥で権力争いしてるとは聞いたことあるが……」
ソルちゃんの言う通り、今のパクス連邦学園は権力争いの真っ最中だ。
現状をどうにか変えたい生徒会長派閥と、
トリニティとは和平したくないけどだからと言って総力戦もしたくない現状維持派閥。
そんな中で、生徒会長派閥に私の考えをプレゼンしてきた。
「参ってる、絶対参ってるよその生徒会長」
「何でも良いから現状を変えたい。そんな思いが伝わってくるな」
「今のつまらない戦争なんてやでしょ? やるなら楽しくなきゃ」
「誰かに強制された戦争、という文脈でも、解釈が別れるものなんだなぁ」
「誰かに
本当に、今のパクスは私にとって都合がいい状況だ。
これは……神様が私にアルティメット自由主義をキヴォトスにお届けしろと言っているのかも!
「それで、就任式はいつだ?」
「来週だよ! その時の演説でバァッと!」
「まぁ……いいけど」
「ニアちゃんは例のロボット、完成したんだっけ?」
「量産体制はバッチしよ。生産部の先輩からのお墨付き」
「ソルちゃんは、仲間集めはどう?」
「同年代で適当にピックアップした」
「フフフ……ここから4年間は、準備期間だよ。そして、ソルちゃん達が入学してきた後……
連邦生徒会に宣戦布告する」
その計画を聞いて、二人も笑みを溢した。
「四年後か……楽しみだ」
「くっくっく……まあ私は今でも充分楽しんでるけど」
「よぉし、じゃあ。計画開始だよ!」
私はそう言って円陣を組もうとしたけど、二人にそれは却下されちゃった……
***
「ここだよアマネちゃん。もう、全員揃ってる」
「ありがと先輩。やっぱ緊張するなぁ」
「……すまない」
「? 何がすまないなの?」
「私は……私達は、自分達の負債を君に押し付けるも同然のことをしているからだ。本来なら、まだ君は小学校を経て中学、そして漸くこの学園に来るはずだったのだ」
ああ、そんなことか。
「大丈夫だよ先輩」
「?」
「私、今すっごく楽しいから!」
「そうか……無責任だが頼む。このどうしようもない現状を変えてくれ」
「まっかせてよ!」
そう言っている内に、舞台に照明が灯る。
眼前には、この学園の生徒会や軍の幹部がズラリ。
カメラも構えられていて、一般生徒や前線にいる生徒にもライブ中継されている。
ふふ……ついにだ。
「皆さん初めまして。新しく生徒会長に就任した高原アマネです。今日は就任の挨拶と、私がこれから行う事を話していきます。内容は口外禁止ですよ♪」
私は演説に一拍置く。
口外禁止というワードに、何が来るのかと皆構えていた。
「皆さんは、現状についてどう思いますか? トリニティとの戦争は、未だ終わりの気配を見せません。我が校は戦時体制のまま数十年経過し続けました。一方でトリニティは、まるで私達のことを忘れたかのように日常を謳歌しています。そこで皆さん一度は考えませんでしたか? あの学園を完膚なきまでに叩き潰したいと」
私の言葉に、一部がざわついた。
現状維持派の人間だ。
でも、そのざわつきが一部ということが、この学園の本音を語っている。
「そして、連邦生徒会。我々が侵略を受けた時も、支配されていた間も、独立戦争の時も、今この瞬間も、彼女達は動く気配すら見せません……本当に、彼女達は必要なのでしょうか?」
再び一拍置く。
ざわめきがあった方から「演説を止めろ!」という叫びが聞こえるが、無視無視。
「どうですか?」
「……一度だけ頭を過ったことがある。トリニティも、連邦生徒会も、潰してやりたいって……」
一人の呟きが、周りに波及していく。
その一陣の風は段々大きくなり、遂には巨大な竜巻へと変わる。
現状維持派の声は、既に天高く吹き飛ばされていた。
「ええ、そうでしょう。それを……解放しましょう。1ヶ月後、パクスから最も近いトリニティ自治区の市街に攻撃を仕掛けます。そして、今から4年後には連邦生徒会にも宣戦布告をします。
これは布石です。皆さんが見ることは出来ません。ですが、私達が必ず打ち砕きます。堕落しきった現体制を破壊し、誰もが思うように、自由に生きられる、そんなキヴォトス。それを、私達が作り上げる!
4年の準備期間を経て、我々は決起します! そして、これまで何も出来ずに卒業していった先輩方の為にも、トリニティの打倒を。1ヶ月後が最初の狼煙です。さぁ、その欲望を解放して……気に入らない連中を潰したい、その欲を!」
「「「「「オオオオオオ!!!!」」」」」
会場が一気に熱気に包まれた。
高原アマネ
リメイク前では一応平和主義者。
こっちでは180度思想が反転した。
なお、それ以外の性格はそこまで変わらない。
小沢ソル
リメイク前ではアマネの単なる護衛だった。
こっちでは幼馴染設定。そして戦闘狂。
俺っ娘なのは変わらない。
工藤ニア
リメイク前と設定が殆ど変わらない。
ソルとの口調の区別は、落ち着いた口調がソル、そうじゃないならニア。
生徒会長
現状をどうにか変えたかった人。
思いもよらぬ変化が起こりそうになっているが、心の奥底ではアマネの演説に共感してたり。
パクス連邦学園
元は単なる中小校だったのが、自治区が交通の要衝に位置してたせいでトリニティに侵攻されて分校化された歴史がある。
その後独立戦争を経て独立。
それ以降、鬱憤晴らしの如くトリニティと他校の離間工作や反トリニティ同盟を組むなどをした結果、トリニティから宣戦されて現在へ。
因みに、連邦学園を構成しているのは反トリニティ同盟に所属していた学園だったりする。