「凄い編隊だな。入学以来初めてだぞ」
「演習ですら見たことないレベルだよねー」
パイロットの反応を聞きながら、窓の外に目を向ける。
外には、我が校の主力戦闘機であるP-47 サンダーボルトと急降下爆撃機のSB2U ヴィンディケイターが大量に飛んでいた。
そして、サンダーボルトに守られるように飛行する大型の機体。
B-17 フライングフォートレス。
アマネ会長の友人だという技術者が設計図を持って来た爆撃機。
爆撃目標は敵部隊じゃない。
発電所や住宅、工場などの生産地帯やインフラそのもの。
なるほど、生産拠点やらインフラを潰せば敵は勝手に干上がる。
合理的な発想だ。
「にしても、あの技術者。会長と同い年なんだろ?」
「幼馴染って言ってたよー」
「パクスの将来は安泰だなあ」
「だね~……っと、そろそろ目標地点だ」
「対空砲や敵戦闘機やサンダーボルトに任せろ。あたしらは市街地を狙う」
「了解」
眼下に、トリニティ自治区が見えてきた。
あそこに今から大量の爆弾が落ちる。
「羽根付きども、花火の時間だ」
そして遂に、トリニティ領空に侵入した。
その瞬間、編隊を激しい対空砲火が襲う。
「5番機がやられた!?」
「構うな! 護衛機に任せろ!」
私は爆撃手に対してそう叫んだ。
B-17は爆撃機だ。
対地攻撃はむしろ専門。
だが、今回の目標は対空砲陣地じゃない。
それを分かっているのか、ヴィンディケイターの群れが対空砲陣地に向かって急降下していった。
私達も、仕事の時間。
もう市街地の上空だ。
「投下開始」
爆撃手はそう呟き、スイッチを押した。
***
「敵機が爆撃を開始しました!」
「本校からユウ様が増援を連れて向かってきている! それまで耐えろ!」
慌ただしく動く境界線警備部隊基地指令部で、私はみんなを鼓舞するように叫んだ。
対空砲による迎撃は行われているが、肝心の新型らしき大型機は2機しか墜とせず、急降下してきたヴィンディケイターやサンダーボルトの迎撃に手を回してしまっている。
「連中……市街地を……」
連中が狙ったのは市街地だった。
百歩譲って工場や発電所を狙うなら分かる。
生産力に打撃を与えたいという分かりやすい目標だ。
だが、連中が爆撃を行ったのは……住宅地や商業区域などの民間区域だ。
私は拳を握りしめていた。
市街地で爆発や銃撃戦など、このキヴォトスでは日常だ。
だが……明確に市街地を目標にしての攻撃を正規軍がやるなんて前例にない。
「奴らめ……」
「フューリー、及びグラディエーター隊。迎撃に出ました!」
「よし、我々地上軍は、対空部隊を除いて敵地上部隊を迎撃する」
あの大型は対空砲の攻撃を避けようともしなかった、恐らく機動力は高くない。
戦闘機部隊で充分迎撃出来る。
「先輩! 敵の地上部隊が動きました!」
「各部隊、迎撃だ! 一歩たりともトリニティの地を奴らに踏ませるな!」
「敵部隊、正体不明の兵器が多数!」
「トラックで輸送されていたものか……対戦車部隊に優先的に排除させろ! 戦車隊が来るまで堪えるんだ!」
私の目には、パクス軍の機甲部隊や歩兵部隊と共に突撃してくる一つ目の緑のロボットが映った。
***
「なにあれ!?」
「いいから黙って撃て!」
「わ、わかった!」
私は2ポンド対戦車砲の砲口を緑のロボットに向ける。
照準を合わせ、対戦車砲を発射した。
発射された対戦車砲弾が緑のロボットの顔に命中した。
さっきまで光っていた一つ目が消えている。
だけど顔はほぼほぼ原型を残しており、当たったのが顔だからか平気で動いている。
ただ、動きが鈍くなった。
それでもこっちを目指してきているけど。
次の瞬間、他の対戦車砲の一撃がそのロボットの胴体に直撃する。
それでも動くロボット。
まるでゾンビだ。
そこから集中砲火を浴びて漸く機能停止した。
だが、奮闘した私達を嘲笑うように十数機の緑のロボットがトレーラーからたちあがってきた。
「ひっ」
「撃て! さっき倒せたんだ……倒せないはずがない!」
先輩はそう鼓舞してくれるが、その声からは恐怖が漏れていた。
私だって怖い。
でも、私達の後ろには一般人がいるんだ。
ここで踏ん張らなきゃ正義実現委員会じゃなくて軍に志願した意味がない。
緑のロボットがマシンガンと思わしき銃をこちらに向ける。
発射された弾丸が他の対戦車隊を襲った。
悲鳴が聞こえる。
死なないのなんて当たり前なのに……いつこっちに攻撃が来るのかがわからなくて怖い。
「倒れて……倒れて!」
砲弾が装填された瞬間から撃ち込む。
最初のうちは当たってたし、2機くらい倒れるのが見えた。
だが、段々と右肩にある盾みたいなので砲弾が防がれ始めた。
そして……段々と肉薄していき……
「あっ……」
その一つ目が、目の前まで来ていた。
「い、いやぁ……」
「装填、早く装填して!」
マシンガンの銃口がこちらを向く。
ロボットの指が引き金を引こうとするのが見えた瞬間、装填が装填が終了した。
躊躇わずに、引き金を引いた。
発射された砲弾がマシンガンの銃口に直撃し、破壊する。
「あっ」
「や、やった……」
武装を破壊できた……なんとか……
……えっ
ロボットの腕に斧が握られたのを見た瞬間、私の意識は途絶えた。
***
パクス連邦学園:軍司令部
「会長、間もなく境界線は突破出来そうです」
「凄いですね。まるで死兵です」
私の目には、撃たれても撃たれても立ち上がって突撃する生徒達の姿が映っていた。
いくらキヴォトス人でも、銃弾を受ければ痛いで済むだけで気絶はする。
あれだけの砲火なら尚更だ。
戦車兵も、撃破された瞬間に持ち込んでいたと思わしき銃器を手に歩兵部隊に参加していた。
「あなたの想像とは違ってましたか?」
「……いいえ。皆さんの思いを解放していいと言ったのは私です。これが先輩方のやりたいこと。そう解釈しています」
そう、これは私が背中を押した結果だ。
彼女達を突き動かしているのは、トリニティへの敵愾心。
倒れても倒れてもゾンビの如く立ち上がってくる。
その様子が敵愾心の根深さを悠々と語っていた。
「……アマネ会長、一ついいでしょうか」
「なんですか?」
元帥さんが、何やら真剣な顔で私を見ていた。
私も、ふざけずに真面目に聞くことにする。
「これまでパクスは長い戦争状態でした。独立後もトリニティの脅威により準戦時下。その後は言わずもがな」
「……」
「当初は初等部や中等部ですら戦時体制を強いられていたと聞きます。それがここ十数年で、漸く本来の姿に戻りました。高等部は違いますが」
「……なら、私を排除しないのですか? 私がやろうとしていることは、わかっているでしょう?」
「はい、良く分かっていますとも。ですが、あなたなら、このパクスを、本来の意味での学園に出来ると、私は確信しています」
「……」
元帥さんが、私に目線を合わせるためか片膝立ちになる。
その目は、私に対する期待、希望で溢れていた。
「あなたが目指す世界。誰もが自由に生きられる、やりたいことをやれる社会。そこは弱肉強食なのかもしれません。ですが、間違いなく、パクス生達は笑顔のはずです。好きなものを食べて、友達と学校帰りにどこかに寄り道をして、好きなスポーツをして……勿論、戦いたい生徒もいるかもですが……」
「私なら、そんな学園を作れると?」
「はい。だって、別に戦争が好きって訳じゃないですよね?」
「まぁ……はい」
確かに、真正面から殴り合ったらスッキリする。
だから戦闘は好き。
でも、戦争は嫌いだ。
それこそ、机の下で蹴り合う政治の究極系だから。
「あなたが4年後、どんな選択をするのか、言った通り連邦生徒会に宣戦布告するのか、それとも……」
「……今更、自分の言ったことを曲げる気はないです」
ごめんなさい。
私、自分の言葉は曲げたくない。
「……そうですか」
「ごめんなさい」
「大丈夫です。でしたら、その戦争が悲惨なものにならないよう……憎悪は今在学している我ら2、3年が卒業証書と共に持っていきます。後輩達には。私達のようにはなって欲しくないので」
「先輩……」
「どうか、パクスをよろしくね、アマネちゃん。それから、決して道だけは外さないで」
元帥さんのその声は、部下としてではなく、先輩としてのものに聞こえた。
***
「……」
「ま、街が火の海だ……」
大急ぎで急行したはず。
敵の進軍が思ったよりも早かったようだな。
「ユウ様、各部隊は既に市街地で交戦中」
「例のロボットとやらは?」
「対戦車部隊が3機撃破したそうですが……何発も撃ち込まないと撃破できなかったとのこと」
不味いな……配備されている対戦車砲は40㎜。
この砲はトリニティの現行戦車にも採用されている。
戦車でも一撃撃破は厳しいか……
新型の6ポンド砲なら行けるか?
あれは57㎜だ。
「ユウ様?」
「考えている時間はないか……ロボットの数は?」
「最初に確認できたのは15機です」
「そこから3機撃破した……それでも多いな。戦車隊に固まってロボットの相手をしろと伝えてくれ」
「敵戦車はどうするんです?」
「相手はM3だ。それなら対戦車部隊で相手に出来る。それに私も出る」
私は上着を脱ぎ捨て、愛銃を構える。
訛ってないといいが、なにせ実戦は久しぶりなんだ。
「ユウ様……」
「お前ら、私に着いてこい!」
「お、おお!」
前時代的だが、指揮官が死なないキヴォトスじゃ有効だ。
さて……散々暴れたツケを払ってもらうぞパクス軍。
私は飛び出し、真っ先に敵陣に突っ込んだ。
「なっ?!」
「桐谷ユウ!?」
「よくもやってくれたな。こいつは高く付くぞ」
「撃て! 羽付きどもの親玉だ!」
全く、敵愾心剝き出しで……どんだけ怨んでるのやら。
まぁ、それとこれとは話は別だ。
愛銃である「エクスペリエンス」で一人の頭を撃つ。
そのままもう一人を回し蹴りで蹴り飛ばし、最後の一人は接射して黙らせる。
「ん?」
キャタピラ音……戦車だな。
予想は的中。
建物の影からM3スチュアートが顔を出した。
「対戦車の基本は……」
『こいつぅ!』
「乗組員を潰すだ」
まず狙うは操縦士。
スチュアートに真正面から突っ込み、その動きを止める。
『は? はぁ?!』
「悪いな、常識外れで」
そのまま覗き窓にライフルを撃ち込み、操縦士を気絶させる。
まだ砲塔は生きてるが、後は簡単だ。
私は手榴弾のピンを抜き、ハッチから投げ入れた。
『わっ?! 手榴弾!?』
『脱出しろ!』
「させないが?」
逃げられないようにハッチを踏みつける。
そして直ぐに離れた。
手榴弾が起爆する音と同時に、スチュアートが吹き飛ぶ。
そのまま中の弾薬に引火してボンッだ。
「さて……次はお前か?」
私が後ろを向くと、手にマチルダを持った緑色のロボットがそこに立っていた。
投げ付けられたマチルダを軽く避け、足元に肉薄する。
潰される危険はあるが、あのマシンガンを相手にするよりかはいい。
そう思ったが、そのロボットは突如跳躍した。
「驚いた……」
戦車砲を何発も撃ち込まないといけない防御力。
そして今の機動性。
なるほど、ただのデカい的ではないということか。
撃ち込まれるマシンガンを回避しつつ、再度肉薄する。
背部のバックパックらしきものが点火される。
また跳ぶつもりだな。
だが、知っていればどうとでもなる。
『!?』
「ひゅー」
足をしっかり掴み、振り落とされない内によじ登る。
これが私が考え付いた攻略法。
こいつの高さは大体、4~5mくらい。
登れない高さじゃない。
っと!?
「あっぶね」
こいつ……手で叩き落としに来やがった。
だが……好都合だ。
手に飛び移り、そのまま駆け上がる。
『お、落ちろ!』
「流石に首元は脆いよな? チェックメイトだ」
そのまま、首にライフル弾を何発も撃ち込んだ。
ショートして配線がイかれたのか、一つ目が消えた。
だが、目を潰しただけじゃこいつは動く。
人間と同じだな。
「てぇ!」
そう思ってたらマチルダとMk.1の部隊がロボット目掛けて撃ち始めた。
退避しないと行けないと思い、近場の建物に飛び移る。
戦車砲を受け続けたロボットはそのまま倒れて機能停止した。
……これでも原型が残ってるのか。
「ユウ様、大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
下に降りたら、1輌の戦車から顔を出した車長に心配されたが、見ての通り大丈夫だ。
……こいつ1機に戦車が複数当たらなきゃ行けない。
戦争が変わるな……
「ユウ様、信号弾が」
「上がったのは……パクス側か?」
パクス自治区の方から上がった信号弾。
それを見た上空のパクス軍が、一斉にパクス側に飛び去っていく。
戦闘音も徐々に小さくなっており、地上部隊も撤退した事がわかった。
「終わり……ですかね」
「だな……負傷者の手当と逃げ遅れの捜索。行け!」
「はい!」
車長は戦車の中に顔を引っ込め、その後戦車達は散っていった。
元帥
パクス軍の最高司令官。
アマネなら今のパクスを変えられると希望を抱いている。
トリニティへの憎悪を、自分達2,3年の代で止めるつもりでいる。
MS-06 ザクII
機動戦士ガンダムに登場したジオン公国軍の主力モビルスーツ。
無改造で宇宙や重力下、短時間ながら水中での活動が可能な驚異の汎用性が特徴。
今作ではパクス軍が主力として運用。
B-17同様、今回の戦いが初陣となり、4機撃破されたものの、それを覆い隠す戦果を上げた。
今回出てきたのはC型。
M3 スチュアート
第二次世界大戦でアメリカ含めた連合国軍が運用した軽戦車。
装甲は軽戦車にしては厚く、傾斜装甲もあって防御力はかなりのもの(あくまで軽戦車の中では)。
イギリス軍が放棄した同車を日本が鹵獲して主戦力としたらしい(誰が言ったか実戦投入された日本軍戦車最強は鹵獲されたスチュアート)。
今作ではパクス軍が主力の軽戦車として運用している。
P-47 サンダーボルト
第二次世界大戦後期にアメリカ軍が運用した主力戦闘機。
開発は同国のリパブリック・エイヴィエーション社。
主にヨーロッパ戦線で投入され、同戦線での損失率は0.7%と生存性に優れていた。
今作ではパクス軍がアメリカ同様主力として運用している。
SB2U ヴィンディケイター
アメリカのヴォート・シコースキー社が開発した艦上爆撃機。
折りたたみ式の主翼や引き込み脚を持つ当時としては近代的な急降下爆撃機であった模様。
今作でもパクス軍が運用している。
が……地上部隊への近接航空支援機として運用されているらしい(一応空母の艦載機としても運用はされている)。
B-17 フライングフォートレス
第二次世界大戦でアメリカが運用した戦略爆撃機。
開発は旅客機でも有名なボーイング社。
4発のエンジンを搭載する冗長性・信頼性の高さに加えて強固な防弾装備と多くの防御火器で身を固めていたため、零戦の機銃では撃墜困難だったらしい。
今作ではパクス軍が今回の戦闘で初運用。
設計はニアが担当。これまでのキヴォトスで爆撃と言えば敵軍への空中からの攻撃を指していたが、シオンの案で対建築物機としてニアが設計する。
結果、キヴォトス初の戦略爆撃機として鮮烈なデビューを飾った。
マチルダ歩兵戦車
第二次世界大戦前期にイギリスが運用した歩兵戦車。
マチルダIとIIがおり、今回出てきたのはIIの方(ザクに投げられたのもII)。
旧版でも序盤に出てきている。
今作ではトリニティが運用。
Mk,I巡航戦車
第二次世界大戦でイギリスが運用した巡航戦車。
ダンケルクの戦いや北アフリカ戦線で活躍している。
作中ではトリニティが運用している主力として登場。
フューリー
戦間期から第二次世界大戦まで運用されたイギリスの戦闘機。
開発はホーカー社。
優秀な性能だったが、高価なことやエンジンの供給不足により量産は見送り。
それでも第二次世界大戦ではアフリカで第1戦で活躍している。
作中ではトリニティの戦闘機として(名前だけ)登場。
こっちでは量産されている。
グラディエーター
第二次世界大戦でイギリスが運用した戦闘機。
当時のどの戦闘機よりも高速で強力な武装を求められ、開発。
胴体の前半が金属製で、密閉式の風防を採用するなど、複翼機としては進歩的。
作中ではトリニティの戦闘機として(名前だけ)登場。
2ポンド対戦車砲
イギリスが第二次世界大戦で運用した対戦車砲。
開発はヴィッカース社。
Mk.I巡航戦車の主砲として開発されたもので、これはその対戦車仕様。
今作ではトリニティが正式採用している。
6ポンド砲
こちらもヴィッカース社製。
2ポンド砲は早々に陳腐化すると考えたイギリスにより1938年に開発がスタート。1941年に生産開始。クルセイダーやチャーチル、クロムウェルと言った著名なイギリス戦車にも主砲として採用されている。
今作ではトリニティの新型砲として登場。
ここから増産が進んでいく。
エクスペリエンス
ユウが使っている小銃。
モデルはジェームス・パリス・リー王立小火器工廠が製造したリー・エンフィールド。
エクスペリエンスは英語で経験を意味する。
ユウのモットーである「何事も経験」が由来らしい。