第4話です。
「本来の意味での学園……か」
元帥さんから言われた言葉を、私は自分の中で反復させていた。
ぶっちゃけ、ここまでノリと勢いで走ってきた自覚はある。
いやノリと勢いで数年間準備してここまで来たのか私は。
ピトッ
「ひゃっ?!」
「何を辛気臭い顔で悩んでるんだ?」
「そ、ソルちゃん……」
「ほれ、これでも飲んで頭冷やせ」
ソルちゃんが置いたのはオレンジジュース。
自分は一丁前にアイスコーヒーを飲んでいる。
まぁ、コーヒーよりかはいいけど。
「それで、何を悩んでたんだ?」
「……戦争嫌いな人間が、なんで戦争やってんだろって」
「今更なんだ」
声には半分呆れが含まれていた。
実際、ソルちゃんの言う通り今更だ。
一週間前の戦闘以降、トリニティとは一進一退の泥沼が続いている。
戦争を遂行してるのは……2,3年の先輩達。
1年は絶対に関わらせたくないと言わんばかりに、前線には非戦闘要員としても連れていっていない。
「先に聞いておく。今更辞めるなんて言わないよな?」
「知ってる癖に。私のモットーが有言実行だって」
「それに俺もニアも苦労させられてきたがな」
「最後のは余計」
ソルちゃんは、毎度毎度一言余計だ。
「……」
「……お前がやる戦争は、政治の延長線上か?」
「え?」
「まっ、お前の主義・主張を広める為の政治活動って言っても間違っちゃいないわけだが」
「……」
「今のお前は、最初に自分が言った事と、心の奥底から覗いてきた別の自分がせめぎ合いいにでもなってるんじゃないか?
んで、その矛盾に悩んでる。好き勝手、自分勝手に自由気ままに生きたい。でも、本質では誰かをほっとけないお人好しなアマネもいる」
「……凄いね。セラピストとか向いてるんじゃない?」
「お前限定じゃボケ」
なんだろう。
ソルちゃんが言った事がストンと私の心に落ちた感覚。
私の心を、上手いこと言語化してくれたみたいな。
「で、どうすればいい?」
「自分で考えろ、自分の事なんだから……って言いたいところだが、お前がそんなんだとこっちまでそんな気分になる。
だから、今回だけだ。お前は選択に固執し過ぎだ。お前自身が演説で言ってただろ、欲望を解放しろって」
「結局、何が言いたいの?」
「わかれよこれで。要は、どっちか選ぶんじゃなくて両方取るのもありだっつってんだ。後は自分で考えろ。そもそも、数年経って初心を忘れたのか?」
「うーん……」
「結局、全員が全員自由気ままに生きたら、必ずどっかで衝突する。
それに、お前が嫌いな事をやるのだって、本人達からしたら自分がやりたい事を勝手にやってるだけだしな」
ソルちゃんが言いたい事がわかった気がする。
自己矛盾するくらいなら……自分のやりたい事を通せってことかな。
「今のお前は、現状の体制を壊した無政府状態を作るってとこで止まってんだ」
「ならその先を考えろ……」
「そうそう。今のとこで止まってたらそりゃ自己矛盾を起こす。なにせ、自分が嫌いな事も全肯定しなきゃならんからな。おまけに、誰かをほっとけないお前がそんな社会で犠牲になる人間を許容できるようには見えん」
ソルちゃんの言葉が、再びストンと落ちた。
漸く、心の中にあったモヤモヤが消えた気がする。
「……」
「整理……ついたか?」
「うん」
「答えは?」
「単純」
ニッコリ、私は笑ってみせた。
大体わかった。
「本心を曝け出せない人、力がなくて何も出来ない人、そんな人達の為に」
「前者と後者が相容れない場合は?」
「私が守ればいい」
単純な話。
なーんで悩んでたんだろ。
「気に入らない奴はぶっ飛ばして、そんな連中に縛られてる人間を解放する。何でこんなシンプルな答えに気付かなかったんだろ」
「本当に、な」
「
「それが頭に思い浮かんだのか?」
「うん」
リバティ。
束縛、抑圧から解放された自由。
植民地支配から脱却したパクスにはピッタリ当てはまるスローガン。
そして、私はいつかこれを
「ねぇソルちゃん」
「どした?」
「特訓、付き合って」
「それまたなんで?」
「だって……強くなきゃ、何も成し遂げられないでしょ?
ソルちゃんにおんぶ抱っこもやだし」
「はぁ……しょうがないな」
モヤモヤは取れた。
後は、ただ進むだけ。
***
パクス連邦学園:兵器工廠
「おぉ、これが噂のモビルスーツですか」
「おう」
感嘆の声を上げる技術者に対して、私は相槌を打った。
こいつらはパクスの分校「プラネット」の技術者だ。
技術力と生産力はかなりのもので、この学園の軍事力の一端を担ってるほど。
「はい、これ設計図」
「コピーを作れということですか?」
「いんや……プラネットは分校の中だと最大規模だ。わざわざ本校製を使うほど技術力も生産力もない訳じゃないだろ。その設計図と技術を基にして、オリジナルを作れってことだ」
「なるほど」
そんな感じで技術者は納得し、帰路についていった。
残った私は、ゆっくりするために椅子に座り込んでいた。
これで、すぐにでもMSはパクス軍全体に広がるだろう。
安定した供給ルートは他の仕事だし。
私はゆっくりコーヒーでも……
ピロン♪
「ん?」
誰から……って、アマネからか。
なになに……
『モビルスーツの用途、色々考えてみたの。開発お願いねニアちゃん』
……あいつ、今度しばくか。
まぁそれは置いといて……色々考案したなあいつ。
まぁ、4年後にやること考えれば、色んな用途のMSはあっても困らないか。
全部ザクで完結できねえかな……完結できなかったら新規設計するかぁ……
***
「結局……和解は出来なかったな……」
「何を黄昏ているのですか……まぁ、言いたい事はわかります」
あの戦闘からかなりの時間が経った。
あそこまで市街地を徹底的に攻撃された以上、トリニティとしては報復をしなければならず、戦闘の数週間後にはパクス自治区に侵攻した。
結果は惨敗。
戦車隊はモビルスーツに沈められ、航空隊は迎撃に出て来た敵空軍と交戦して敗退。
何とか抜けた機体も、ゲヘナから輸入したであろうアハト・アハトに撃ち落された。
あそこまで一方的にやられるのは、少し予想外だった。
開けた場所での野戦だったからかねぇ。
「カナ……戦争は終わると思うか?」
「無理でしょう。既にトリニティ内でのパクスの扱いはゲヘナと同じ……いえ、それ以上でしょうか」
「そっか……ユリは?」
「挨拶回りでしょう」
そっか……
私は、テラスから外の景色を眺める。
トリニティ総合学園、その敷地から自治区までが一望とはいかないが、見る事が出来た。
もう、この景色を見るのも最後だ。
今月は3月。
もう、卒業なんだ。
これが最後の公務である。
「今思えば……あなたとは対立してばっかでしたね」
「急にどうした」
「最後の、ちょっとした感傷ですよ」
「そうかい。……進路はどうするんだ?」
「私は実家の会社を継ぎますので、進路は既定路線です。なので、キヴォトスの外の法律を大学で叩き込んでおこうかと」
「名家のお嬢様ってのは、窮屈そうだよな。敷かれたレールの上の人生なんて」
「確かに、そうですね……そう言う意味では、ゲヘナが羨ましくも思えます」
本当に、連中は自由だ。
何かに縛られている感じもない。
……私は、どっちかというとゲヘナの方が性に合ってたのかもな。
***
数週間後、トリニティ総合学園
「んじゃ、後の事は任せたぞ」
「はい、ユウ様もお疲れ様でした」
卒業式を終えた私は、次の首長に挨拶を済ませていた。
引継ぎも問題なく終わったし、後は問題ないだろう。
「あっ、ユウ姉いた!」
「ちょっ、ミカちゃん!」
何やら聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
目線の先には、二人の初等生。
「ルキナ、それにミカ様まで、どうかなさいました?」
「はい、卒業のお祝い!」
「ありがとうございます」
聖園ミカ様
パテルの名門、聖園家のご令嬢。
天真爛漫を絵に描いたような人物。
「綺麗な花束ですね」
「私とルキナちゃんで、買ったの」
「それは……ありがとうございます」
ガーベラに、スイートピー、それとフリージアか……
綺麗だ。
「はぁ……もうミカちゃんったら」
「ガーベラは私が選んで、スイートピーはルキナちゃんで、フリージアがナギちゃん」
「ありがとうございます……ナギサ様は?」
「ナギサはフィリウスの方に行ってるよお姉ちゃん」
「そうか……ルキナ、後でお礼を言っておいてくれないか?」
私はそう言って花束を眺めた。
そんな時に、一つ思い出した事があった。
「そうだった。ルキナ、これ」
「これ……お姉ちゃんの銃?」
「キヴォトスの外じゃ使う機会はないだろうしな。ルキナにやる」
「えっ、いいの?!」
「ああ、物置の肥やしになるよりかは、誰かに使われた方が銃も喜ぶ」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「ああ! ルキナちゃんだけズルい!」
「大丈夫ですよ。ミカ様にもちゃーんとありますから」
そう言って、私はシュシュを取り出した。
「わぁ、可愛い!」
「ああそれと、これはナギサ様に」
「ティーセット?」
「あの子、紅茶が好きですし」
ルキナに、新品のティーセットを渡す。
これで全員かな。
「じゃあ二人共、立派な高校生になれよ」
「はーい!」
「わかってるよお姉ちゃん」
「それなら良し」
パクスの新生徒会長……情報通りならこの子達と同年代だ。
今後、彼女と対峙する時が来る。
その時は、この子達に幸がありますように。
***
「──であるため……」
パクス連邦学園の卒業式。
私は生徒会長として登壇していた。
現在、頑張って祝辞を述べている。
2年生の先輩が代わりにって言ってくれたけど、これも生徒会長の仕事。
つまり私の仕事なので誰かに押し付ける気はなかった。
「最後に、この学園を引っ張ってきて下さった卒業生の皆様に、感謝を。
そして、私はこの学園を、誰もが自由に生きられて、皆が禍根なく笑い合える。そんな学園に、必ずしてみせます。だから、安心して任せてください、先輩」
最後にそう締めた。
卒業生達からの拍手が鳴り響く。
その中に一際大きい拍手……探してみたら、元帥さんのものだった。
私は彼女に微笑み、静かに壇上から降りた。
「お疲れ様、アマネちゃん」
「ありがとうございます」
式が終わった後、私は生徒会室でゆっくりとしていた。
この後も見送りがある。
「……パクスは変われますかね」
「変われますよ、きっと……」
「そうですね……」
変われるだろうか。
今からでも不安になってくる。
でも、やり遂げて見せる。
この学園の変革も、キヴォトスの変革も。
***
「ソルちゃん~疲れたよ~」
「そうか、お疲れ」
卒業式関連の諸々を終えた私は、ソルちゃんの家に突撃していた。
今はスカルマンのぬいぐるみを抱きしめながらゴロゴロしている。
因みにこの人形はソルちゃんの私物である。
戦闘狂だが、意外と可愛いもの好きなのだ、ソルちゃんは。
「あ~、早くソルちゃんが入学する年にならないかなぁ」
「まだ3年も先だぞ?」
「だけどぉ」
ぶっちゃけ寂しい。
生徒会業務が多いから皆との時間も全然取れない。
ソルちゃんと会ってるなんて、特訓の時くらいしかなくなってる気がする。
それでも世間的には充分多い?
それまでは毎日会ってましたが?
まぁ、自分で選んだ道だから、これ以上とやかく言うつもりはない。
ギュッ
「あれ? ソルちゃん?」
「ん? どした?」
「いや……急に抱きついてどうしたの?」
「今日は泊まってくのか?」
「えっ?! いや、その……」
「泊まってくんだな?」
「……はい」
物凄い圧と押しに、私は負けてしまった。
その日は、ソルちゃんに抱き枕にされながら眠りについた。
***
目の前で、アマネがスヤスヤ寝ている。
一応、俺が抱き枕にした筈なんだがなぁ……
可愛いな。
俺は、アマネを抱きしめる力を少し強めた。
圧迫感を感じたのか、アマネの口から少し声が洩れる。
欲しい。
ただ、無理矢理やっても意味がない。
ここは俺らしく、真正面から行くとしよう。
いつか、な。
「おやすみ、アマネ」
アマネの額に、軽く口付けをして、俺も目を瞑った。
プラネット分校
パクスの分校の一つ。
本校を除けば連邦最大の産業学園。
技術力・生産力が高く、パクスの軍事力の一端を担っている。
桐谷ルキナ
ユウの妹。
年齢は原作の3年組と一緒。
ミカやナギサとは幼馴染。将来所属予定の分派はパテルである。