「状況はどうなっている!」
「敵の侵攻を阻害できません!」
「ゲヘナのお得意な電撃戦か……!」
本校司令部でオペレーターをしている私は、その喧騒に飲まれていた。
数時間前、同盟校だったゲヘナが突如こちらに宣戦布告。
自治区境界に集結していた機甲部隊が越境してきたのだ。
ゲヘナ学園が得意とする戦術「電撃戦」。
主力部隊で真っ直ぐ司令部を無力化する為に突き進み、戦力や指揮系統をズタズタにする。
後は後続の部隊で残党を掃討する。
それがゲヘナのドクトリンだ。
「モビルスーツは何をやっている!」
「敵MSと交戦中です。ですが……」
「対MSの経験のなさがここで出てくるか……」
ゲヘナは、モビルスーツを戦場に投入していた。
一方的にやられてる訳じゃないけど……
MSとの戦闘経験がないせいで対処しきれていないパイロットが多い……
「司令! 会長が来られました!」
「?!」
自動ドアが開き、アマネ会長が入ってくる。
傍らには、黒い制服を纏った生徒……最近出来た親衛隊だろう。
司令部にいた全員が立ち上がる。
かく言う私も、直立不動で立っていた。
「全員、職務に戻って。それから、有事の際には立たなくていいから」
「はっ。全員、職務に戻れ!」
司令の言葉に、私は椅子に座って再び画面と向き合った。
***
「戦況はどうなってるの?」
「ゲヘナの進軍が止まりません。同盟校という事で、境界付近の戦力を集めていなかったのが仇になっています」
「一応、私の方から親衛隊を何人か向かわせたけど……校舎の防衛に当たってる戦力を幾らか回せる?」
「問題ありません。通達しておきます」
「それと、トリニティ方面の部隊にも第1種戦闘配置に着かせておいて」
「第1種ですか?」
「絶対に来るよ。トリニティとゲヘナは仲が悪いけど、別に戦争状態じゃないからね」
「連中なら来そうですね。分かりました、通達しておきます」
「よろしくね」
ふぅっと、息を吐く。
でも、まだ終わってない。
「会長、こちらが敵MSの写真です」
「ありがと」
この写真……多分交戦しながら撮った物なんだろう。
綺麗に捉えられている。
青を基調にした、スリムでヒロイックな外観。
そして手に持っているのは……
「光る剣?」
「観測員が粒子反応を確認しました。恐らくビームかと」
「ビームサーベルかぁ……うちでも作れてないよね?」
「はい、我が校のビーム兵器は現状、最近配備されたハイザックのライフルか、プラネットのジンが使っているビーム砲くらいです」
「ソルちゃん、鹵獲するよう伝えておいて」
「了解」
後ろにいるソルちゃんにそう言って、もう一回写真を見る。
それにしても……カッコいいな。
うちのMS、基本悪役な見た目なのが多いから……
そこら辺はニアちゃんの趣味なんだろうけど。
「会長! トリニティが越境してきました!」
「予想通り……事前に準備しておいたあれ、実行してって言っておいて」
「分かりました!」
フフフ……我ながら、鬼畜な作戦を思いついたんだ。
これで越境してきた部隊は殲滅できる。
「悪い顔してるぞアマネ」
「そうかなぁ?」
「後、トリニティにもMSを確認した」
「鹵獲命令出しておいて」
私の口からすぐにその言葉が飛び出した。
***
「トリニティ部隊、越境してきました!」
「全軍がラインを超えた瞬間、システムを起動させろ!」
「はっ!」
ゲヘナの攻撃に併せて侵攻。
策としては悪くない。
二正面作戦を強いれば有利なのは向こうだからな。
「大佐、敵軍が指定ラインを越えました!」
「よし、全部隊、私が3つ数える。システムが起動した瞬間、全軍、攻撃を開始しろ!」
そう通信先に叫んで、モニターを注視する。
私の手元には、保護カバーの開かれたスイッチがある。
「3……2……1……
0」
その瞬間、私の手がスイッチを押し込んだ。
***
『な、なんだ?!』
「地震?」
突然の揺れに、私は思わずそう呟いた。
その揺れが起きたのは……私達の後方。
『?! 地面が……』
さっきまで私達が移動してきた道。
そこが見事なまでに陥没していた。
あの幅じゃ、MSや空軍はともかく、戦車や歩兵が飛び越えるのは不可能だ。
『隊長! 敵軍が塹壕から飛び出してきました!』
『後方の窪みからもMSが次々に出てきます!』
『挟み撃ちか……各員、迎撃しろ!』
隊長の命令に、私も乗機のマシンガンを取り出す。
敵はザクの他に……近接戦型のグフと高機動型のドム。
プラネットのジンやディンも多数。
戦車や歩兵はこっちの野砲や戦車がやる。
だから……私達MS部隊は、敵MSを墜とす。
『射撃開始!』
隊長の言葉とともに、周囲の僚機が一斉に射撃を開始する。
死角が生まれないように、四方八方に別れて。
ザクやジンは比較的簡単に撃破出来た。
ただ、あっちも撃ってきてる。
こっち側の棒立ちだったMSが幾らか爆炎を上げるのが見えた。
それに、グフはしっかり射撃を防いでくるし、ドムは速いから当たらない上に当たっても殆ど効かない。
「っ……」
気付けば、私の部隊は自分を除いて全滅していた。
囲まれている上に物量も違う。
まだMSの数が揃ってないのに突撃命令を出した上層部を恨めしく思う。
それでも、乗機であるリーオーの装甲が厚い部分で、なんとか敵の攻撃を弾く。
『貰った!』
「っ?!」
グフ……!?
いつの間にこんな近付いて……
「このっ……」
咄嗟にマシンガンを投げ捨てて、左肩からビームサーベルを抜く。
そして、振るわれたヒート剣を受け止めた。
でも、汎用機のリーオーじゃ格闘機のグフには白兵戦では不利。
実際、じりじりと押し込まれ始めた。
「(こっちは両手でサーベル持ってるのに……片手でそれに対抗どころか優勢ってそんなのズルじゃん?!)」
少しずつ後退して、サーベルが押し込まれるのを防ぐ。
ただ……敵は目の前のグフ1機だけな訳ではないので……
『そのまま抑えてて。こっちで仕留めるから』
後方でジンがライフルを構えている。
動きが制限されている以上、装甲の厚い部分で受け止めるのも無理。
詰み……
『終わっ……?!』
ライフルの銃口が光った瞬間、ジンが一条のビームに貫かれた。
『なっ!?』
「いい加減……どいて!」
グフの意識が一瞬ビームに向いた隙に、私はヒート剣を弾いた。
そのままグフを斜めに袈裟斬りにする。
「はぁ…はぁ…」
『大丈夫?』
「なんとか……」
目の前に降りて来たのは、騎士みたいな見た目の白いモビルスーツ。
トールギス……リーオーのプロトタイプでとんでもないじゃじゃ馬。
キヴォトス人ですら、リミッターなしだとGで気絶するレベル。
それを十全に扱えた唯一の生徒が、今乗っている娘。
……同い年の筈なんだけどなぁ。
『ねぇ、名前は?』
「えっ……マナだけど……?」
『そっ、私はヒバナ。鳥居ヒバナ。私はこれから、戦場を回って味方の撤退を支援する』
「えっ?! でもどうやって? 来た道は……」
『そこでマナの仕事だよ。時間はかかるかもだけど、地上部隊を対岸に運んで、敵は私が足止めする』
「待って! 一人で!?」
私の叫びも虚しく、トールギスはバーニアを吹かして突貫していってしまった。
***
「っ……相変わらず……じゃじゃ馬だなぁ」
私はトールギスの加速に対して、そういう感想を抱いた。
目の前には、パクス軍が多数。
窪みから出て来た敵は倒したけど、まだまだ前方にいた防衛部隊が大量にいる。
前方でバズーカを構えたザクをドーバーガンで撃ち抜き、その横にいたパーシングをすれ違いざまに蹴りで破壊する。
戦車や歩兵に一々ビームを使ってたら弾とかエネルギーが勿体ないからね。
節約の意味がある。
それはそれとして、通常兵器散らし用の装備を技術局にお願いしておこう。
バルカン砲くらい付けて欲しかった……
『敵の特機を確認!』
『撃破しろ! ここで逃せば、今後の脅威になる!』
わーお、うじゃうじゃと出て来たよ。
……あれだけカッコつけて言ったんだからさ、後には引けないよね!
私は、現状唯一の射撃武器であるドーバーガンを構える。
最初は、後ろからチマチマ撃ってきていたザクキャノンを仕留めた。
「まずは1……」
次に、お得意の機動力で後ろを取ろうとしていたドムを撃ち抜く。
これで2。
上空からミサイルを撃ってくるディンで3機目。
足元に近付いてきたチャーフィーを蹴り飛ばして、味方の航空機を攻撃していたM19にドーバーガンを撃つ。
節約はどうしたって?
味方を攻撃してる遠距離の敵に一々近付く方が非効率的じゃ。
ただ……やっぱ数が多い。
折れそう……
現実は無双ゲームのようには行かないんだよぉ……
『マシンガンが……効かない!?』
『クソッ?! なんなんだあいつは!?』
トールギス……防御力は本当に高い。
これに機動力と火力も盛られてるんだから……
設計局はなにをとち狂ってこんなじゃじゃ馬を開発したんだろう。
随分と余裕そうに見えるけど……こうでもしないと本当に折れそう。
考えてる間も敵を倒してるんだよ?
そんな独り言を心の中で呟き続けていると、敵MSが何機か蜂の巣にされた。
弾が飛んできた先にいたのは……1機のリーオー。
『ヒバナ!』
「マナ?! なんでここに……?!」
『撤退支援は他の残存機に任せてきた。それに、仲間を見捨てられない』
「マナ……」
『それと……1人じゃ、キツいでしょ?』
「はは……正直キツい」
『素直でよろしい』
苦笑しながら、敵の方を見据える。
数は最初より減ってるけど、まだまだいる。
「さて……殿、頑張るか」
『了解!』
その言葉と共に、私のトールギスとマナのリーオーが敵陣に向かって突貫した。
***
『隊長……』
「分かってる」
カメラの先には、戦場が見えていた。
見た感じ、トリニティの部隊は撤退中みたい。
ただ……
『たった2機に……足止めされてますわね』
「あの2機、強いわね」
『では、あの白い機体を相手として頂きますわね』
「ちょっとマユ! ああもう……」
『隊長……』
「あなた達は撤退してるトリニティの追撃。私とマユで敵のエースをやる」
『はっ!』
その返事が聞こえた後、部下達が駆るハイザックの群れは進行していった。
私は、乗機が乗っているサブフライトシステム「グゥル」を降下させる。
目標は……あの角張った機体だ。
『!?』
「悪いけど……墜とさせてもらうよ」
私は機体にライフルを構えさせて、MSに向かって射撃する。
牽制目的とはいえ……結構あっさり回避するね。
『新型……』
「さて、まずは撃ち合いと行こうか」
ライフルの銃口を敵機に向けて、私は交戦を開始した。
***
「っ……!?」
銃声が聞こえた瞬間、私は機体をその場から飛び退かせた。
銃声の主は上から降下してきた1機のMS。
水色のグフ……左腕には煙を上げているガトリングを構えている。
『お手合わせ……願いますわね?』
通信先からそんな言葉が聞こえた瞬間、ガトリングから弾が発射され始めた。
シールドで防御しながら上空に飛び上がる。
防御力の高いトールギスだけど……流石にあの発射レートの弾丸を受け続けたら墜とされる。
私はグフ目掛けてドーバーガンを撃ち込んだ。
向こうも手練れなのかあっさりと避けられたけど。
「ちょっと面倒くさいかなぁ……」
グフは再びガトリングを撃ってくる。
不用意に斬りかかってこないのは良い判断だと思うけど……
相手する私からすれば、厄介この上ない。
それじゃあ、気を抜かずに行こうか
鳥居ヒバナ
トリニティの志願パイロット。1年生。
志願生の中で唯一トールギスをまともに扱えた為、専任パイロットになった。
マナ
トリニティのMSパイロット。1年生。
実力は高く、戦闘終盤まで残れる程。
MS-06K ザクキャノン
MSVに登場したジオン軍の中距離支援用MS。ザクのバリエーション機。
背部の巨大なキャノン砲と独特な形状の頭部が特徴。
パクス軍の現状数少ない支援機として運用中。
MS-07B グフ
初代ガンダムに登場したジオン軍の近接格闘用MS。
見た目だけ言えば、青いザクに似た機体。
射撃兵装は左手に内蔵されたフィンガーバルカンのみで、後は近接武器で固められている。
このせいで扱いが難しく、使ってるパイロットは大抵エース。
一般兵にはドムの方が人気らしい。
格闘機らしく、防御力もそれなりに高い。
因みに陸戦機。
MS-09 ドム
初代ガンダムに登場した陸戦用MS。
ホバー移動による高速移動能力が特徴で、現状のキヴォトスにおける陸の王者(なお、後にバクゥにその座を奪われる)。
汎用機の主力がザクなら、陸戦機の主力がドムである。
RMS-106 ハイザック
Zガンダムに登場したティターンズ及び連邦軍の主力MS。
連邦が運用するザクである。
ジェネレータの問題でビームライフルとビームサーベルの両立が出来ないという欠点を抱えている。
今作のハイザックは、ゲルググ(初代に登場)より先輩である。
現状は親衛隊で運用。
ZGMF-1017 ジン
ガンダムSEEDに登場したザフト軍の主力MS。
装甲・火力・機動性を両立した汎用機。
パクスの分校・プラネットが独自開発した汎用機。
なお、その他の分校にはOSのせいでザクの方が人気な模様。
それを反省してか、後のプラネット製機はザクのOS及び派生OS対応になった。
AMF-101 ディン
ガンダムSEEDに登場したザフト軍の空戦用MS。
飛行能力を高める為に装甲を削っており、防御力は低め。
最高速度こそ亜音速に達しないものの、低速域での運動性がずば抜けている。
プラネットが開発してパクス全体で運用されている機体。
現状キヴォトスで唯一単独飛行が可能なモビルスーツ。
なので、主力機ではないのに「こいつがいない戦場はない」と言わしめられるほどとなった。
M24チャーフィー
第二次世界大戦で米軍が運用した軽戦車。
ずんぐりむっくりな見た目のこれまでのアメリカ戦車に比べ、ドイツ戦車のようなスマートな見た目をしている(なので、味方に誤射されることもあったそう)。
IV号やティーガーを撃破する戦果を上げているので、弱くはない。
M26パーシング
第二次世界大戦で米軍が運用した重戦車。
これまでの米軍戦車の愛称はイギリスが付けていたが、パーシングはアメリカ側が初めて愛称を名付けた戦車である。
M19
第二次世界大戦で米軍が運用した対空自走砲。
ベースとなった車体は上述のチャーフィーと同じもの。
搭載弾薬が少ないのがネック。