私に向けられる、怒りも、嫌悪も、憎悪でさえ。その全てが、まどかを守るためだと思うと、こんなにも愛おしいなんて―。
「まったく。愚かだね、君は。」
「…!」
街頭の青白い光に照らされて、長く黒く伸びる影。そのシルエットを私は知っている。
「あらあら、ごきげんよう。インキュベータ。」
「キュウ?」
インキュベータ。またの名をキュウべえ。
子狐のような可愛い見た目をしておきながら、かつて魔法少女を家畜にし、魔女という最悪を生み出した、憎き相手。
「愚かとは、聞き捨て難いわね。口の聞き方に注意しなさい。」
私の牽制を無視して、インキュベータは続ける。
「まったく、いつまでこんなママゴトを続けるつもりだい?暁美ほむら。」
「永遠よ。彼女が幸せならば、私はどんなに愚かな行為だとしても続けるわ。」
「それが本当に、彼女にとって幸せなことなのかい?あの日、君の力によって、円環の理である鹿目まどかは記録の一部を奪われた。そんな奪った"人形"の手足を操ってたって、彼女は幸せにはなれないんじゃないかな?」
私は、根城へと歩み始めた。
目の前の河川は、夜の明かりに照らされて、ゆらゆらと輝いている。
「あなたに"幸せ"が理解できるだなんてね。是非ともご教示願いたいところね。」
「それに、いずれ限界だって来るはずだ。」
「…。」
私の力。いずれ魔女になるっていうの…?
「でも、構わない…。」
「愚かだね。君は。」
「別に構わないわ。まどかさえ生きていれば、なんだって。」
「…。」
不意にキュウべぇの足が止まる。
それに釣られて私も歩みを止めた。
「やっぱり、愚かだね。君は。」
「?」
真意が見えない。こんな無意味な問答を繰り返すような奴ではない。私の背後から、得体の知れない焦燥が押し寄せてくる。
「一体何が言いたいの?」
「要するに、君はわかってないということだよ。僕が君に対して最も愚かだと思うところはそこじゃない。」
「どういうこと?はっきり言いなさい。」
「これでも、君の忠実な下僕として、かなりヒントを与えたつもりだよ?ここから先は自分で考えてほしいところだね。」
「…。」
「じゃあ、僕はもう行くから。またね、暁美ほむら。」
それだけ告げると、キュウべぇは闇夜へと消えていった。
1人街頭に照らされて、ぽつんと残る私。
っぐっ…!!
胸が…苦しい。
――。
あたしは、美樹さやか。
親友の杏子に誘われて、魔法少女になった新人。
もう一人の親友、まどかが実は魔法少女だったことを後から知った。当時は少しショックだったけれど、今になってみてわかる。平穏な世界のためにナイトメアと戦うのって、凄くやりがいがあるけれど、その分、危険と隣り合わせだ。
でもさ、さやか。
あなたは本当に美樹さやかなの?
本当に本当にあたしなの?
ねぇ、さやか。
暁美ほむらを見ると、どうしようもなく、怒りが煮えたぎるのはどうしてなの?
ナイトメア退治を邪魔されたから?
それとも彼女の挑発が気に入らないの?
いや。どっちでもない。
一体何なの?この感情。
なんであたし、こんなにも憎悪で満たされているの?
どうしてこんなに吐き気がするの?
わからない…わからない…。
わかることは一つだけ。
あの、人を見下すような彼女の目。
あたしたちの戦いを、まるでお遊戯でも見るように楽しむその様は
まるで…まるで…
「悪魔みたいだ。」
はじめまして。
オオトリと申します。
ふと、思いつきで初投稿してみました。
至らない部分もあるかと思いますが、その都度教えていただけると幸いです。
また、楽しんでいただけるととても嬉しいです。
毎日20:00に投稿する予定ですので、よろしくお願いします。