つぎはぎだらけの一本槍   作:・オルト・

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第2話:三年後の約束

 

 

その夜。

 

討伐を終えた俺たちは、街道沿いに野営地を作っていた。

 

焚き火を囲み、簡単な食事を取る。

 

「今日のサウザーの補助、マジで助かったわ」

 

ディアナが干し肉をかじりながら言った。

 

「私が魔法を撃つ直前に敵を誘導してくれたでしょ。あれ、結構難しいのよ」

 

「そうか?」

 

「そうよ。自覚ないの?」

 

「……まあ、昔からああいうのは得意だったから」

 

「それが凄いんだって」

 

ディアナは呆れたように笑う。

 

ルミアも頷いた。

 

「ええ。サウザーが中衛にいてくれるから、私も安心して回復に専念できます」

 

「ありがとう」

 

ルミアから温かいスープの入った木製カップを受け取る。

 

手のひらに熱が伝わってくる。

 

……いい仲間だ。

 

本当に。

 

17歳からの付き合いでもう5年になる。

 

誰も俺を馬鹿にしない。

 

俺のことを「中途半端な奴」なんて言わない。

 

むしろ、俺の器用さを必要としてくれている。

 

このまま、このパーティで冒険者を続ければいい。

 

きっと、うまくいく。

 

大きな怪我もせず。

 

そこそこの依頼をこなし。

 

そこそこの名声を得て。

 

そのうち、結婚でもして。

 

仲間たちと笑いながら昔話をする。

 

そんな未来も悪くない。

 

……なのに。

 

胸の奥が、どうしても納得しなかった。

 

(俺は、このままでいいのか?)

 

今日もそうだった。

 

俺がオルガベアの足を止める。

 

カイルが斬る。

 

ディアナが焼く。

 

ルミアが癒す。

 

完璧な連携だ。

 

俺たちは強い。

 

きっと、かなり強い。

 

でも。

 

俺一人で、あのオルガベアを倒せと言われたら?

 

……無理だ。

 

それが、どうしようもなく悔しかった。

 

「……カイル」

 

「ん?」

 

「ディアナ。ルミア」

 

三人が俺を見る。

 

俺はカップを地面に置いた。

 

「俺、このパーティを抜けたい」

 

薪が弾ける。

 

パチッ。

 

その音だけが、やけに大きく聞こえた。

 

「……え?」

 

ルミアの手が止まる。

 

ディアナは干し肉を持ったまま固まった。

 

カイルだけが、じっと俺を見ていた。

 

「……冗談じゃなさそうだな」

 

「うん」

 

「理由を聞かせてくれ。俺たちの立ち回りに不満があるのか?」

 

「違う」

 

「報酬の分配?」

 

「違う」

 

「……じゃあ、何だ?」

 

俺は膝の上で拳を握った。

 

「俺は……最強になりたい」

 

「最強って……」

 

ディアナが眉を寄せる。

 

「サウザー。あんた今でも十分強いじゃない」

 

「違う」

 

「何が違うのよ!」

 

「俺は、強いんじゃない」

 

言葉が、自然と口からこぼれた。

 

「便利なんだ」

 

三人が黙る。

 

「剣も使える。魔法も使える。回復も補助もできる。でも、どれも中級止まりだ」

 

拳に力が入る。

 

「俺は、みんなの穴を埋めることはできる。でも……誰か一人を圧倒する力がない」

 

「そんなの……」

 

「俺は嫌なんだ」

 

自分でも驚くほど、声が震えていた。

 

「みんなが嫌いなわけじゃない。むしろ逆だ。みんなのことが大切だからこそ……このままここにいたら、俺は自分を誤魔化し続ける」

 

カイルが黙って聞いている。

 

「俺は……『最強の冒険者』になりたいんだ」

 

子供の頃からずっと。

 

胸の奥にしまい込んでいた言葉だった。

 

「器用貧乏のまま、誰かのサポートをして、それで満足できるほど……俺は大人じゃなかった」

 

ディアナが唇を噛む。

 

「……あたし達には、あんたが必要なのに」

 

「分かってる」

 

「じゃあ――」

 

「だから苦しいんだ」

 

声が小さくなる。

 

「必要としてくれる場所がある。居心地のいい場所もある。俺を認めてくれる仲間もいる」

 

それでも。

 

「そこに甘えたら、俺は一生、中級の魔法戦士だ」

 

沈黙が落ちた。

 

やがてカイルが口を開いた。

 

「……一人になって、どうする?」

 

「分からない」

 

「その壁をどうやって破る?」

 

「分からない」

 

「……そうか」

 

カイルはしばらく焚き火を見つめていた。

 

そして、静かに立ち上がった。

 

「なら、止めないよ」

 

「カイル!?」

 

ディアナが声を上げる。

 

カイルは首を横に振った。

 

「俺たちがサウザーの夢を決めることはできないだろ」

 

そして俺を見る。

 

「ただし、一つだけ約束してくれ」

 

「何?」

 

「死ぬな」

 

「……ああ」

 

「それと――」

 

カイルが手を差し出す。

 

「三年だ」

 

「三年?」

 

「ああ。三年後、この町で会おう」

 

「……」

 

「お前がどれだけ強くなったのか。そして、俺たちがどれだけ成長したのか。お互いに答え合わせをしよう」

 

俺は差し出された手を見る。

 

そして、強く握り返した。

 

「……分かった」

 

「約束だ」

 

「うん」

 

「三年後、また会おう」

 

ディアナが目を赤くしながら、そっぽを向く。

 

「あたしより弱かったら承知しないんだからね」

 

「分かってるよ」

 

「……絶対だからね」

 

ルミアは寂しそうに笑った。

 

「三年後、無事な姿で会いましょう」

 

「うん」

 

その夜。

 

俺たちはいつも通り、くだらない話をした。

 

まるで明日も同じ日が来るように。

 

 

翌朝。

 

朝もやのかかった街道の分岐点に、俺は立っていた。

 

背中には荷物。

 

腰には剣。

 

それだけだった。

 

「またな、サウザー」

 

カイル。

 

「絶対、強くなって帰ってきなさいよ」

 

ディアナ。

 

「お体に気をつけて」

 

ルミア。

 

「……ああ」

 

俺は三人に背を向けた。

 

歩き出す。

 

一歩。

 

また一歩。

 

振り返らなかった。

 

怖かったからだ。

 

もし振り返ったら――

 

戻りたくなってしまう気がした。

 

俺の手元にあるのは、中途半端な剣技。

 

中途半端な魔法。

 

中途半端な知識。

 

そして、何でもできる代わりに、何一つ極められない自分自身。

 

「……これだけで、どこまで行けるんだろうな」

 

答えはない。

 

ただ一つだけ、決めていることがある。

 

三年後。

 

俺はもう一度、あいつらの前に立つ。

 

そして――

 

今度こそ、自分の力で「最強」という言葉に手を伸ばす。

 

この選択が正しかったのか。

 

それはまだ分からない。

 

分からないからこそ。

 

俺の、本当の冒険が始まった。

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