つぎはぎだらけの一本槍   作:・ダクエル・

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第3話:一人という現実

 

 

パーティを離れて二ヶ月。

 

俺の冒険者生活は――惨憺たるものだった。

 

「……くそっ!」

 

目の前から迫ってくるオークへ向け、俺は右手を突き出す。

 

「『風刃(ウインドカッター)』!」

 

緑色の魔力の刃が飛翔し、オークの肩口を切り裂いた。

 

ザシュッ!

 

「グオオッ!」

 

確かに傷は負わせた。

 

だが、巨体は止まらない。

 

以前なら、ここでカイルが飛び込んでいた。

 

俺が足を止める。

 

カイルが斬る。

 

ディアナが追撃する。

 

傷を負えば、ルミアが癒してくれる。

 

四人なら、それでよかった。

 

でも――今は一人だ。

 

「……来る!」

 

オークが棍棒を振り上げる。

 

俺は横へ飛んだ。

 

ズドンッ!

 

地面が砕ける。

 

その隙に剣を抜き、脇腹へ斬り込む。

 

浅い。

 

「ちっ……!」

 

オークが振り返る。

 

俺は距離を取って、再び魔法を詠唱する。

 

「『筋力強化(ブースト)』……!」

 

身体能力を底上げする。

 

同時に、オークが突っ込んでくる。

 

(速い……!)

 

いや。

 

以前なら、そうは思わなかった。

 

カイルが前にいたからだ。

 

俺は自分が攻撃することだけを考えればよかった。

 

だが今は違う。

 

敵の動きを見る。

 

自分の体力を見る。

 

魔力を見る。

 

地形を見る。

 

逃げ道を見る。

 

次の魔法を考える。

 

その全部を、一人でやらなければならない。

 

「くっ……!」

 

間一髪。

 

棍棒を横跳びで躱した。

 

だが、着地した足が泥に取られる。

 

「しまっ――」

 

体勢が崩れた。

 

オークの巨体が覆い被さる。

 

「――ッ!」

 

死ぬ。

 

そう思った瞬間、身体が勝手に動いた。

 

剣を盾がわりに差し込み、衝撃を受け流す。

 

ガキィンッ!

 

腕が痺れる。

 

そのまま地面を転がり、泥だらけになりながら立ち上がった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

もう一度、剣を握る。

 

「……まだだ」

 

俺は走った。

 

オークの懐へ潜り込み、今度こそ喉元へ刃を突き込む。

 

ドスッ!

 

「グ……オ……」

 

巨体が崩れ落ちた。

 

「……はぁ」

 

勝った。

 

勝ったはずなのに、嬉しくなかった。

 

剣を見る。

 

刃は欠けている。

 

魔力もほとんど残っていない。

 

傷だらけの身体を引きずりながら街へ戻る。

 

報酬を受け取る。

 

そこから武器の手入れ代。

 

治療費。

 

宿代。

 

食費。

 

残った金を見て、思わず笑いが漏れた。

 

「……これだけかよ」

 

◇

 

その夜。

 

宿屋のベッドへ倒れ込む。

 

天井を見つめる。

 

「極めるどころか……」

 

声が漏れた。

 

「生き残るだけで精一杯じゃないか」

 

目を閉じる。

 

浮かんできたのは、三人の顔だった。

 

カイル。

 

ディアナ。

 

ルミア。

 

今頃、どうしているだろう。

 

俺が抜けたことで、立ち回りも変えたはずだ。

 

新しい仲間を探したかもしれない。

 

あるいは――俺がいなくても、三人で上手くやっているのかもしれない。

 

そう思うと、胸が痛んだ。

 

俺だけが、前に進めていない。

 

いや。

 

正確には――

 

前へ進んでいるつもりで、同じ場所をぐるぐる回っている。

 

「……最強の冒険者、か」

 

呟いた言葉が、やけに遠く感じた。

 

あれほど近くにあった夢が。

 

今は、手を伸ばしても届かない場所にある。

 

「俺は……何をすればいいんだ」

 

答えてくれる人はいなかった。

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