ユリモニニニヨニヨスルミヨ 作:岡ノ下
ミヨですッッッ
「死ねぇえええええっ!!!」
ゴゴォンッッ--!!
「おおう!」
大臣目掛け先手必勝で繰り出した刺突は脇から割り込んだ兵士の盾で阻まれる。
あれは──『大盾』か。
……UZEEEEEEEEE! 大人しくしてれば殺さないでやったのによぉ!(蛮族)
って、なんだこのオッサン!? 盾の両手持ち!?
ゲームシステムに無いことしてんじゃねえよ卑怯者!(自分を棚に上げる屑)
「危ない危ない……数多の刺客を見つけるなり屍に変えてきた無拍子の一突き。何度か目にしたが、こうして向けられる側になると恐ろしいものだ」
兵士の陰に隠れた大臣がヘラヘラと笑う。
うーん。大車輪か双龍波※でも閃いていれば諸共に吹き飛ばしてやるのだが。
※槍の全体攻撃技と前衛後衛同時攻撃技。
22年も鍛え続けて覚えたのは〚足払い〛〚二段突き〛くらいだ。あれらだけは"閃いたっ!"という感覚があった。
他の技は、説明やエフェクトやドットキャラのモーションから推察できる動きをいくら繰り返しても閃かない。ほんへが始まらないと駄目な制約でもあるのか……アビスゲートの影響とか。
まぁ考察は後にしよ。今はこの状況をどうやって乗り切るか、だ。
「……」サッ
「……」スッ
後ろ手で、今は私の後ろでじっとしているようモニカ様に合図した。
13年付き合ってきた主従だ。これだけで通じる。
「刺客殺しの一突きねぇ。そんな大したもんじゃないけど……
ミカエル様を裏切ったらアンタもこうなるぞ、ってわからせるためにあえて見せてたんだよ。
でもどうやら理解できるほどの頭がなかったらしいね。残念だよ」
槍の柄で肩をトントンしながら大臣との会話を続け、モニカ様を背に庇いやすい位置へ移動する。
ちなみにこの肩トントン、単なる余裕アッピルではない。大きく動くものに注目してしまう人の眼の性質を利用して、立ち位置の変化を意識させないためにやってる。
どう見ても大臣の位にある者への態度じゃないが、彼は気を悪くした風もなく、話を続けた。
人数的優位な立場がその余裕を生み出しているのだろう。
「そう虚勢を張るな。先の躊躇が無い攻撃からして、状況はわかっているのだろう?」
「まあね。アンタとゴドウィンがつながってるのはわかっていた。そのうえで、ゴドウィンの動きさえ監視してればいいと油断したんだ。
継承権があるのはあっちで、アンタはロアーヌ侯家の人間じゃない添え物だ……と、思考をロックして楽観に逃げた結果がこれ。
フランツ様とミカエル様にはゴドウィン・エドウィン兄弟のどっちかがそれぞれ当たってるんでしょう? 後手に回った自分のミスは認めるよ」
ちなみにエドウィンというのはゲームで唐突に生えてきたゴドウィンの弟である。
影が薄いとはいえ腐っても貴族の類。千人単位の兵を動員することはできる。
もっと言えば、ゴドウィンすら黒幕の手駒に過ぎず、『悪鬼』という高位モンスター?に己の野心を誘導されていたというのがこの件の真相なわけだが……
そっちに関しては気配を掴むことができなかった。
言い訳をさせてもらうと、所詮平民の侍女ゆえに人事の権限はほとんど持たず、ミカエル様に相談してお願いしようにも、誰かをゴドウィン領に潜入するという危険な任務に行かせたくなかった。取れる手がほとんどなかったのだ。
このガバが原因でモニカ様に万が一のことがあれば腹でも切るか。切るべきだろう。
「そこまで読めているなら、これ以上の問答は必要あるまい? 大人しく降参しろ。
モニカ様にはフランツかミカエル、または双方が無事だった場合の人質になっていただく。
そして、我らが手の者たちを散々に殺してくれた忌々しきミヨ・ベント。
貴様には"相応の"お返しをさせてもらおうか……命は助けてやるのだ。ありがたく思うがいい」
大臣の言葉に付き従う兵士たちが私を見て下卑た笑いを浮かべる。ヴォエ!
さっすがー大臣様は話がわかる! ってここはタクティクスオウガの世界じゃねぇよ殺すぞ。
「話聞いてた? 頭悪すぎて理解できなかった?
「「自分のミスは」認める」と言ったんだよ。負けを認めるなんて言ってない。
〚ムーランルージュ!!〛
「ぐわぁああぁああっ!!?」
「どっちの手札が強いかで決まるもんでしょうがっ! ホラホラホラホラ!」
大臣たちの背後に紫色の斬撃の嵐が発生、何人かを斬り倒したことで生まれた混乱に乗じて突撃。
ホラホラッシュで突きまくり突ぅずるっこんで一度に4人殺す。残りは9人といったところか。
「カタリナ! グッドタイミング!」
「先輩もモニカ様もご無事ですか!」
技名でお察しの通り、頼れる後輩カタリナのマスカレイドによるダイナミック・エントリーだ。
この聖剣は普段ナイフのようなナリをしているが、ウェイクアップすることで大剣になる。
それで敵を薙ぎ払ってくれたわけやね。
カタリナが近付いてきているのはおなじみ(言うほど使ってない)ステータス閲覧機能を透視能力のように使って確認した。
彼女のステータス欄は最初モニカ様の居室にあったが、兵士のステータス欄が3つ近付いていって消失した後、高速でこちらへ向かってきていた。
「ラウラン家の……! 貴様ら! 私を守れ!」
大臣が兵士を集めて陣形を再構築する。でもこの程度ならカタリナと挟撃すればいける!
……ゲームではすでにゴドウィンが入城していて、玉座の間で大臣と密談していたのをモニカ様が見つけたことから彼女の脱出劇が始まった。
でもゴドウィンがここにいないことは情報でも能力(ステータス閲覧)でも確定させてる!
ヤツと連動して動いた大臣さえ討てばこの城は──なんだ? 大臣は何を手に持って
ピピィィイイイイイイイイイイイーーー(114.514db)
「うるさっっっ!!?」
自動車のクラクションを間近で聞いた時くらいうるせぇ! 大臣が持っていたのは笛か!
その音の余韻が消えないうちに、城内へ地狼、ゴブリン、アルカノイドと鬼火※といったモンスターが突入してきた。
※それぞれ獣・獣人・昆虫・亡霊系モンスターのザコ。
一部の兵士たちや使用人・侍女の悲鳴が響き渡る。
「はぁあああ~~~!? 展開が速すぎるッピ!
なんで城内にモンスターがいんだよ見回りはどうなってんだ見回りは!」
「これがあのお方から授かった……すばらしい。
どうだ? ミヨ・ベント。モンスターさえ我らが手の内なのだ! 今度こそ敗北を認めざるを得まい!」
「あの……急なオリジナルアイテム登場とか白けるんでやめてもらっていいですか……?」
そりゃゲームでミカエル様が城に帰還した時は人間系の敵がおらずモンスターだらけだったけどさぁ!
あれは黒幕の悪鬼が呼び寄せたものかと思えばこんな……これは……これはお前……ダメだろ……。
「何を言っているかわからんな! だがお前が悔しがっていることはわかるぞ!」
ピピィィイイイイイイイイイイイーーー(114.514db)
ピピィィイイイイイイイイイイイーーー(114.514db)
ピピィィイイイイイイイイイイイーーー(114.514db)
大臣は調子に乗って怪しくてうるさい笛を何度も吹いた。
モンスターがどんどん集まってくる。コイツへの殺意もどんどん高まっていく。
モニカ様は私の背後で声をあげず、剣に手をかけつつ状況を見ていたが、今はこの爆音に両手で耳を塞いで苦しそうにされている。
この騒音ジジイ絶対殺す……!
「先輩!」
カタリナがモンスターの間を縫って私の傍に来てくれた。
正しい判断だ。もはやこの状況で大臣をすぐに討つことはできない。
まずはモニカ様の安全を確保するべき……となれば。
結局、こうなる運命だったのかもしれない。
近寄ってくるモンスターを弾き飛ばし、突き殺す。
カタリナもこの程度の相手なら造作もなく捌くことができる。
大臣と取り巻きの兵士は私たちが疲れて果てるまで待つ構えのようだ。モンスター群の後ろでニヤニヤしながらこちらを眺めている。
ムカつくが、これだけ離れれば向こうに聞こえないよう小声でカタリナと会話することも可能だ。
「カタリナ。モニカ様を連れて逃げて。幸い、厩舎の鍵はまだ閉めていないから……
馬に乗って、距離が近いミカエル様の駐屯地へ向かうの」
「そんな! 先輩はどうするんです!」
「フランツ様かミカエル様の軍が敵を破って帰還されるまで、どうにか持ちこたえてみるよ。
味方の兵士や、侍女のみんなも逃さなきゃいけないしね。
さすがに一晩じゃ勝負がつかないだろうから、逃げ隠れしてゲリラ戦を仕掛ける。
カタリナはモニカ様を最優先に──ああもうこの蜘蛛(アルカノイド)邪魔!」
「ミヨ……」
悲壮な表情を浮かべながら、モニカ様がこちらを見つめてくる。
「今の話、聞こえていましたよね。
付け加えるならミカエル様の駐屯地に向かう途中で私の故郷に寄ってください。
村の酒場に行って私の名前を出せば、仲間が護衛に加わってくれるはずです」
「以前話してくれた、開拓村シノンね。こんな形で行くことになるなんて思わなかったけれど……いえ、今はそんな場合ではないですね。わかりました。あなたの言うとおりに」
「えぇ。追跡は私がさせません。どうか夜道で落馬したりすることのないよう、お気をつけください……カタリナも、ね?」
カタリナはまだ納得がいっていない表情だったが、念を押すと頷いてくれた。
「それじゃあ、道を空けますよ──入ってきた扉から鍛錬場に出て、厩舎まで走って!」
大臣たちに背を向けて走り出し、外に通じる扉まで、間にいるモンスターを次々に仕留めていく。
外にモンスターがどの程度いるかわからないが、兵士の類がいないのはステータスで確認済だ。
「! 逃げるつもりだ! 追えええ!」
「気付くの遅すぎるってはっきりわかんだね」
バンッ!
扉を勢いよく開け放ち、脇に避けてモニカ様とカタリナを通す。
外はもう大雨が降っており、雷が鳴り響く嵐になっていた。
「行ってください!」
「はい……ミヨ! 必ず無事でいてね!」
「もちろん!」
二人が抜けた後、扉を閉めてその前に立ちはだかった。
兵士とモンスターが押し寄せてくる。
生きて耐え抜くと言っちゃったし、弁慶の立ち往生になるつもりはない。
とはいえ、彼女たちが逃げおおせるまでの時間は稼がないとね。私を倒さなければこの先には進めないとはっきり理解してもらうため、声を張り上げる。
「さぁさぁ、死にたいやつから──いいよ、来いよ!」
飛びかかってきた地狼の群れを打ち、払い、そこらに転がす。
次にゴブリンが、ってブラザー※が混じってる! ショボい敵とはいえ持ってる盾が邪魔だ!
※獣人系でゴブリンより一つ上のレベルの敵
〚二段突き!〛
邪魔されないように真っ先に技を使って処理する。
次の敵はと槍を抜き取った瞬間、頭上に殺気……鬼火か!
「おっぶえ!(危ない)」
突きの撃ち終わりを狙われた! 構え直しては間に合わない──
その瞬間、自分の体の各パーツが歯車のように噛みった感覚がした。クォレハ……?
〚石突き〛
手の中で槍を回転させて跳ね上げ、槍の穂先とは反対側の丸い部分、「石突」と呼ばれる場所で頭上を打ち払った。
……やっぱりほんへが始まってると閃くんだな!(興奮状態)
どんどんかかってこいや、モンスター!
「カスが効かねぇんだよ!(天下無双)」
この調子なら時間を稼げる。そんな自信が出てきたところで、大臣派の兵士がモンスターに混じり攻撃をしてくるようになった。うおお邪魔くさっ!
「ぐっ……このっ……!」
私より身長の低いゴブリンが粗末な剣で切りかかってくる。それを弾くと、今度は大柄な兵士が槍で突いてきた。
連携としての完成度は低いが、どちらも私の隙を突くことだけ執拗に狙ってくるので
ちょっとやばいかも……
「こいつは生け捕りにしろ」「気は強いが」「言動もおかしいが」「いい女だ」「見た目だけは」「オラァ」「李牧死ねェ」「李牧ゥ」
なんか変な奴混じってない?
っていうか私なんぞにまだチョメチョメするつもりでいたのかよこいつら……しつこすぎる……
「男に犯されるなんて嫌よ~!
「ファッ!?」
頭がピンク色の大臣派兵士に対し、猫みたいな課長の真似でバカにしていたら、もうこの場にいるはずの無い人物の声が聞こえた。
「カタリナはん!?」
果たしてその人物は、二階のテラスに立っていた。
そこから飛び降り──
「再びのォ……〚ムーランルージュ!〛」
覚醒して大剣となったマスカレイドで兵士を吹き飛ばし、華麗に着地。
「なっ、なんでここにいるの!? モニカ様は!?」
毎度のことだが、ステータス閲覧は意識して「見るぞ」と念じなければ機能しない。
二人が扉から出ていってから現在地の確認をする余裕もなく、目の前の敵の群れに集中していたのだが……今、モニカ様は視認できる範囲にはいないみたいだ。
「厩舎まではお届けして、ご出発を見送りました。モニカ様に命じられたんです。
「二人とも無事でなければ意味がない。協力して耐えてほしい」って。
……私もモニカ様と同じ気持ちです。実際、今危なかったでしょう?」
「アハハッ……返す言葉もないや」
「先輩が耐えてくれたおかげで、まだ捕まっていなかった兵士や侍女は逃がすことができました。あとは私たちがここから脱出するだけです」
「あなたは……何から何まで本当に最高の後輩だよ!」
ちょっと優秀が過ぎるゾ?
私の陰が薄くなっちゃ^~う(なっていい)
「何をしている! 立て! 立って戦え!……ッ!?」
吹き飛ばされた兵士たちを叱責していた大臣がこちらを向いて目を見開いた。
なんだぁ~? オーラ的ななにかでも見えたか~?
「わ、私は下がる! そいつらを捕らえておけ!」
形勢不利を悟ったのか、一目散に逃げた。
しょうがない。まだ敵は残っているし、今日のところは生かしておいてやるか。
まだ生きていた兵士とモンスターがこちらの様子を伺いながらじりじりと間を詰めてくる。
でも先ほどより数は減ったし、守るべきモニカ様は脱出したし、ここは私たちも逃げるだけでいいので──正直、何も怖くない。
「じゃ、さっさと突破して逃げようか。
今夜は私とあなたでダブル侍女だからな──」
「意味はわかりませんが、お供します」
その後のことは詳しく語る必要もないだろう。
ザコを蹴散らした私たちは包囲を抜けて嵐に紛れ、城下街へ潜伏することに成功したのだった。
──そして。開拓村シノン。
「助けて……助けてください! ロアーヌが……!」
「大丈夫か!? こんな嵐の夜にいったいどうしたって……」
「ミヨが……!」
「! ミヨさんが?」
夜の酒場にて、運命の二人が出会っていた。
次回、死闘。
じゃなかった 他キャラ視点です。