俺を馬鹿にしてくる女全員の好感度が100%なのだが――よし、下げてみよう 作:冷凍シャケ
俺はある日突然、自分に対する好感度が見えるようになった。
正確には、相手の頭の上に、
【好感度:○○%】
という謎の数字が表示されるようになったのだ。
なぜ、これが好感度だと分かったのか。
簡単だ。
「みーちゃん。おはよう」
「シャアアアアアアアッ!!」
「今日も元気だな」
近所の公園に住み着いている黒猫、みーちゃん。
俺は毎朝、欠かさず話しかけている。
雨の日も。
風の日も。
雪の日も。
高校受験の日も。
母親が玄関から、
「遅刻するわよ!」
と絶叫している日も。
俺たちは三年間、毎朝欠かさず顔を合わせてきた仲だ。
そんなみーちゃんの頭上には――。
【好感度:-83%】
「…………」
俺はしゃがみ込み、みーちゃんと目を合わせた。
「三年だぞ?」
「シャアアアアッ!!」
【好感度:-84%】
「下がったな」
俺は静かに立ち上がった。
なるほど。
これは好感度で間違いない。
三年間毎日会い続けて、なおマイナス八十四を叩き出せる人間など、そうはいない。
我ながら、信頼できる検証結果だった。
「また明日な、みーちゃん」
「フゥゥゥゥゥ……!」
【好感度:-85%】
「明日が楽しみだ」
俺は学校へ向かった。
◇
それから俺は、身近な人間の数字を確認してみた。
母親。
【好感度:92%】
父親。
【好感度:88%】
高校に入ってからできた男友達。
【好感度:76%】
担任。
【好感度:51%】
昨日、提出物を忘れたことを考えれば妥当だろう。
やはり、この数字。
かなり信用できる。
だからこそ。
一つだけ。
いや。
正確には、四つだけ。
どうしても説明できない数字があった。
◇
「ちょっと」
教室へ入った瞬間、一人の女子生徒が俺の前に立った。
橘朱里。
腰まで伸びた黒髪。
整った顔立ち。
成績優秀。
運動神経もいい。
教師からの評判も良く、男子からも人気がある。
欠点らしい欠点のない優等生。
ただし。
俺に対する態度だけは、野良犬に向けるそれと大差ない。
橘は俺を上から下まで眺め、露骨に眉をひそめた。
「朝からあんたの顔見るとテンション下がるんだけど」
「おはよう、橘」
「聞いてた?」
「聞いてた」
「じゃあ消えて」
【好感度:100%】
「…………」
「何よ」
「いや」
「その顔やめて。キモい」
【好感度:100%】
おかしい。
◇
「うわっ、いた~w」
二人目。
休み時間、廊下へ出た瞬間だった。
派手な茶髪の女子が俺を見て、思いっきり顔をしかめる。
姫川莉愛。
明るくて、ノリが良くて、友達が多い。
いわゆるギャルというやつだ。
「朝からマジで萎えるんだけど~w」
「何が?」
「須加に決まってんじゃんw 存在自体がウケるw」
「なるほど」
「いや、そこで素直に納得すんなし! ウチ普通にクソ煽ってんだけど?w」
「知ってる」
「てかさ~」
姫川は俺の顔をまじまじと見る。
「なんでそんなドヤ顔で生きていけんの~?マジで謎なんだけど~ウケるw」
「?」
「ウチだったら、そのキモ顔で学校来れないわ~」
「かなり言うな」
「え~? 事実言っただけだし~w」
【好感度:100%】
「…………」
「何その死んだ魚の目w ホントキモくて最高なんだけどw こっち見んなしw」
【好感度:100%】
やっぱりおかしい。
◇
「邪魔」
三人目。
昼休み。
図書室で本を取ろうとした瞬間、横から冷たい声が飛んできた。
氷室玲奈。
無表情。
無口。
他人に興味がないことで有名な女子だ。
誰に対しても淡々としている。
ただし俺に対しては、淡々を通り越して冷酷だった。
「そこ。退いて」
「まだ本取ってないんだが」
「遅い」
「三秒しか経ってない」
「三秒もあれば十分」
「何が?」
「あなたに見切りをつけるには」
【好感度:100%】
「…………」
「何」
「氷室って、俺のこと嫌い?」
「嫌い」
即答だった。
【好感度:100%】
「どのくらい?」
「存在を認識すると、少し疲れる程度」
「結構だな」
「だから話しかけないで」
【好感度:100%】
おかしい。
どう考えてもおかしい。
◇
「またあなたですか」
そして四人目。
放課後。
教室に忘れ物を取りに戻った俺を、柔らかな笑顔が迎えた。
桜庭琴音。
クラス委員長。
黒髪を綺麗にまとめた、絵に描いたような優等生だ。
いつも笑顔。
いつも丁寧。
そして、笑顔のまま俺を刺してくる。
「こんにちは」
「こんにちは、ではありません」
にこっ。
「今日も授業中に三回寝ていましたよね?」
「数えてたの?」
「視界に入るので仕方なく」
「そんなに俺が気になる?」
「勘違いしないでください」
にこっ。
「道端にゴミが落ちていたら、気になるでしょう?」
「俺、ゴミ扱いされてる?」
「ゴミに失礼でしたね」
「ゴミ以下になった」
【好感度:100%】
「…………」
「どうしました?」
「桜庭って、俺のこと嫌い?」
「ええ」
にこっ。
「できれば来世では関わりたくありません」
【好感度:100%】
「今世は?」
「諦めています」
「なるほど」
俺は腕を組んだ。
◇
おかしい。
橘朱里。
【好感度:100%】
姫川莉愛。
【好感度:100%】
氷室玲奈。
【好感度:100%】
桜庭琴音。
【好感度:100%】
全員、俺への態度は最悪。
言葉だけを聞けば、俺がこいつらの家族を人質にでも取っているのではないかというレベルである。
それなのに。
好感度は百。
「…………」
俺は考えた。
普通なら喜ぶところなのかもしれない。
学校でも目立つ女子が四人。
しかも全員、好感度百パーセント。
一般的な男子高校生なら、家に帰って布団に飛び込み、足をバタバタさせる案件なのだろう。
しかし俺は違った。
「……だから毎日絡んでくるのか?」
思い返してみれば、こいつらは妙に俺へ絡んでくる。
橘は、顔を見るなり文句を言う。
姫川は、わざわざ俺を見つけて悪口を言う。
氷室は、話しかけるなと言いながら、なぜか俺の近くにいることが多い。
桜庭に至っては、俺の授業中の居眠り回数まで把握している。
嫌いなら。
放っておけばいいのに。
なのに、放っておかない。
「…………」
俺は四人の数字を思い浮かべた。
全員、100%。
「もしかして、この数字が原因なんじゃないか?」
ならば。
もし。
【好感度:0%】
まで下げることができれば。
こいつらも、俺に興味を失うのではないだろうか。
朝から悪口を言われない。
廊下で絡まれない。
図書室で存在を否定されない。
授業中に寝ていた回数を記録されない。
「…………」
悪くない。
いや。
最高だ。
平穏な高校生活が俺を待っている。
「よし」
俺は決めた。
「ゼロにしよう」
四人全員。
俺への好感度。
目標――。
【0%】
そうと決まれば、まずは実験だ。
◇
翌日。
俺は全身ピンクで登校した。
帽子。
シャツ。
ズボン。
靴。
靴下。
鞄。
全部ピンク。
鏡に映った俺は、歩く桜餅みたいだった。
登校すると、さっそく橘とすれ違った。
「…………」
橘が止まった。
俺も止まる。
「どうだ?」
「何がよ」
「俺」
「死ぬほどダサい」
「よし」
数字を見る。
【好感度:101%】
「…………」
二度見する。
【好感度:101%】
「百超えるのかよ」
「何が!?」
想定外だった。
というか。
「上がってる……」
「だから何がよ!?」
失敗。
◇
次の日。
昼休み。
俺は校庭の中央に立った。
そして。
「Mungu ibariki Afri――!」
タンザニア国歌をスワヒリ語で全力熱唱した。
「何やってんの、アイツ……」
「怖……」
周囲の生徒たちが、明らかに距離を取っていく。
よし。
これだ。
これこそ、俺が求めていた反応。
この調子なら――。
「Oh! You know this song!?」
「?」
ALTのブリトニー先生が猛ダッシュしてきた。
なぜか俺の隣に立つ。
そして歌い始めた。
しかも、俺より上手かった。
【ブリトニー先生 好感度:73%】
熱唱。
【81%】
さらに熱唱。
【89%】
「なんでだよ」
最終的に、二人で肩を組んで歌った。
校庭から拍手が起きた。
失敗。
◇
次。
女装して登校してみた。
スカート。
ウィッグ。
薄化粧。
やってみて分かったことだが。
俺は意外と女装が似合うらしい。
「これなら、さすがに引くだろ」
昇降口を歩いていると。
校長先生と目が合った。
【好感度:42%】
校長が立ち止まった。
【54%】
二度見した。
【67%】
眼鏡を外した。
【81%】
近づいてきた。
【100%】
「…………君」
「まずい」
「少し校長室で、お話を――」
「失礼します」
走った。
「待ちなさい!」
「なんで追ってくるんだよ!!」
その日。
俺は校長から全力で逃げ回った。
失敗。
◇
最後。
体育の時間。
俺はグラウンドを四足歩行で走った。
「ハッ、ハッ、ハッ!」
「おい、アイツ何してんだ!?」
「先生! 止めなくていいんですか!?」
「俺に聞くな!」
砂煙を上げながら全力疾走する。
かなり速い。
自分でも驚いた。
人間として大切な何かと引き換えに、俺は新しい才能を手に入れたらしい。
これは効くだろう。
そう思った、その時。
「ワンッ!」
「?」
校庭の隅から、一匹の野犬が飛び出してきた。
【好感度:18%】
野犬が俺を見る。
【36%】
走る俺を追ってくる。
【61%】
並走する。
【84%】
「嫌な予感がする」
「ワンッ!」
【好感度:100%】
「お前じゃない!!」
「ワンッ!」
「ついてくんな!」
「ワンワンッ!」
逃げる。
追ってくる。
「誰かこいつ止めろ!」
「無理だろ! めっちゃ懐いてるぞ!」
「俺は懐かれたくて四足歩行してんじゃねえ!!」
失敗。
◇
その夜。
「…………」
俺は自室の机に座っていた。
目の前には、一冊のノート。
表紙には大きく、
『好感度低下計画』
と書いてある。
俺は今日までの結果をまとめた。
全身ピンク。
失敗。
スワヒリ語。
失敗。
女装。
失敗。
四足歩行。
失敗。
得られた成果。
好感度は百を超える。
ALTと仲良くなった。
野犬になつかれた。
そして――。
「…………」
俺は窓の外を見る。
帰宅時。
校門の前に立っていた校長を思い出した。
【校長 好感度:100%】
「なんでまだ百なんだよ……」
あれ以降、下がっていない。
怖い。
非常に怖い。
「……まあいい」
俺はノートを開いた。
方法が悪かった。
俺は今まで、不特定多数から嫌われようとしていた。
だが、それでは駄目だ。
相手によって、嫌いなものは違う。
橘に効く方法。
姫川に効く方法。
氷室に効く方法。
桜庭に効く方法。
それぞれ違うはず。
ならば。
一人ずつ。
性格を分析し。
嫌いなことを見つけ。
確実に好感度を下げる。
「なるほど」
完璧だ。
俺はノートの一ページ目を開いた。
そこに大きく、一人の女子の名前を書く。
『橘朱里』
目標。
【好感度:100%】
↓
【好感度:0%】
「まずはお前だ」
明日から。
本格的な実験を始める。
俺はペンを握ったまま、不敵に笑った。
「待ってろよ、橘」
絶対に。
「俺のこと、どうでもよくさせてやる」
これは。
俺を嫌っているはずなのに、なぜか好感度だけは異常に高い四人の女たちと。
そんな彼女たちの好感度を、どうにかしてゼロまで叩き落としたい俺との――。
壮絶な戦いの記録である。
読んでいただきありがとうございます!
感想いただけると励みになります。