俺を馬鹿にしてくる女全員の好感度が100%なのだが――よし、下げてみよう 作:冷凍シャケ
俺の名前は、須加零也。
17歳。
現在の目標は――。
【橘朱里 好感度:100%】
この数字を。
【0%】
にすることである。
◇
「最悪」
朝。
教室に入った瞬間、橘朱里が俺の顔を見てそう言った。
「おはよう」
「朝から話しかけないで。今日1日の運気が下がりそう」
「まだ何もしてないだろ」
「存在してる」
「存在罪?」
「自覚あるなら反省して」
【好感度:100%】
「…………」
「何よ、その顔。キモい」
やはり意味が分からない。
どう聞いても嫌われている。
好感度が見えなければ、俺はこいつに親の仇くらい嫌われていると思っていただろう。
「それより」
橘が黒板を指差した。
「今日、私たち日直だから」
「知ってる」
「……なんで嬉しそうなの?」
「気にするな」
「キモ」
俺はこの日を待っていた。
今日。
俺はこいつを徹底的に分析する。
何をされれば嫌なのか。
何を言われれば腹が立つのか。
そして。
確実に。
好感度を――。
「ゼロにする」
「は?」
「なんでもない」
「朝から独り言までキモい……」
まずはジャブだ。
◇
「須加」
「…………」
「ねえ」
「…………」
「ちょっと」
「…………」
「聞こえてるでしょ」
「…………」
「おい」
「…………」
第1作戦。
徹底的に無視する。
普段から橘は何かと俺に突っかかってくる。
ならば、一切相手にしなければいい。
「黒板消して」
「…………」
「日直でしょ」
「…………」
「須加」
「…………」
「零也」
「…………」
「……死ね」
「…………」
来た。
声が明らかに低くなった。
これは効いている。
「……ふーん」
橘は腕を組んだ。
「そういう態度取るんだ」
「…………」
「別にいいけど」
「…………」
「私もあんたなんかと話したくないし」
「…………」
「むしろ清々する」
俺は満を持して数字を見た。
【好感度:112%】
「なんでだよ」
「喋った!」
「しまった」
「何なのよ!?」
【好感度:115%】
「上がるな!」
「何が!?」
失敗。
◇
第2作戦。
放課後。
俺は黒板の前に立った。
手にはチョーク。
「……何してんの?」
「待て」
「何を?」
「もう少しで完成する」
「だから何が――」
「できた」
1歩横へ退く。
黒板いっぱいに描かれた巨大な似顔絵。
輪郭。
丸。
目。
点。
鼻。
三角。
口。
ギザギザ。
頭からは謎の2本角。
「…………」
橘が固まった。
「お前」
「…………」
「似てるだろ」
「どこがよ!!!!」
怒鳴った。
「私こんな化け物みたいな顔してないんだけど!?」
「髪型は寄せた」
「角生えてんじゃない!!」
「アクセントだ」
「人の顔に勝手にアクセント足すな!」
かなり怒っている。
これは来た。
【好感度:129%】
「…………」
2度見。
【好感度:129%】
「なんで?」
「こっちの台詞よ!!」
「お前、これ嫌じゃないの?」
「死ぬほど嫌よ!」
「じゃあ下がれよ!」
「何が!?」
その時。
「…………すごい」
「?」
振り返る。
知らない男子生徒が、黒板を食い入るように見つめていた。
「この大胆な線……常識に囚われない造形……」
「ただ下手なだけだ」
「美術部に来ないか?」
「行かない」
「君には才能がある!」
「ない」
「1度だけでいい!」
「嫌だ」
「待ってくれ!」
「離せ!」
美術部からの勧誘を振り払いながら、俺は思った。
世の中には変な奴が多い。
◇
第3作戦。
俺はスマホを見つめていた。
『好きな人 急に冷める 行動』
検索。
「…………」
出てきたのは。
『蛙化現象』
好きだった相手の些細な言動などをきっかけに、気持ちが急激に冷める現象。
「なるほど」
俺はスマホを閉じた。
理解した。
つまり――。
◇
「ゲコッ!」
「何してんだお前はぁぁぁぁ!!」
廊下。
俺は蛙になっていた。
両手を床につき。
腰を落とし。
全身をバネのように縮める。
「ゲコ」
跳ぶ。
「ゲコッ!」
着地。
また跳ぶ。
「ゲコオオオオオ!!」
「やめろ須加!!」
背後から担任が追いかけてくる。
「廊下を蛙跳びで移動するな!」
「今重要な実験中です!」
「何の実験だ!」
「蛙化現象!」
「絶対意味間違ってるぞ!!」
ぴょん。
「ゲコ!」
「止まれ!」
ぴょん。
「ゲコッ!」
「職員室来い!!」
「まだ橘の好感度を確認してません!」
「知らん!!」
ついに襟首を掴まれた。
「ゲコッ」
「もう鳴くな!」
そのままズルズルと職員室へ連行される。
俺は抵抗した。
「先生、せめて1回だけ橘を見させてください!」
「駄目だ!」
「実験結果が!」
「お前はまず人間に戻れ!」
その時だった。
「ああ、須加君」
「…………」
前方から。
校長が歩いてきた。
昨日。
女装した俺を追い回した校長である。
「…………」
見る。
【好感度:100%】
「なんでまだ100なんだよぉぉぉぉぉ!!」
「おお!」
校長の目が輝いた。
「今日は蛙なのかい!!」
「見るなあああああ!!」
「待ちたまえええええ!! 少し話をぉぉぉ!!」
「嫌だあああああ!!」
俺は担任の手を振りほどいた。
「須加!?」
走る。
「待ちたまえええ!」
校長が追ってくる。
「校長先生も追わないでください!!」
今度は担任が校長を止めようとする。
「離したまえ! 私は彼と話がしたいだけだ!」
「そのテンションで言われても説得力ないですよ!!」
「須加くぅぅぅん!!」
「来んなあああああ!!」
廊下を逃げる俺。
追う校長。
校長を止めようとする担任。
第3作戦。
失敗。
◇
放課後。
「結局、何も分からなかった……」
「何ブツブツ言ってんのよ」
「お前には関係ない」
「じゃあ喋らないで」
「お前から話しかけただろ」
「うるさい」
まだ日直の仕事が残っていた。
俺が黒板を消す。
橘が教卓の上のプリントをまとめる。
「はぁ……」
「何だ」
「アンタと日直ってだけで疲れる」
「俺は今日楽しかったぞ」
「私は人生で5本の指に入るくらい最悪だった」
「光栄だ」
「褒めてない」
橘がプリントの束を抱えた。
「あっ」
ガッ。
机の角に引っかかる。
バサバサバサバサッ!
「…………」
「…………」
床一面。
紙。
「見るな」
「見てない」
「見てる!」
「派手だったな」
「うるさい!」
橘が慌ててしゃがむ。
「ぷっ」
「笑った!?」
「笑ってない」
「今絶対笑った!」
「面白かった」
「死ね!」
俺もしゃがみ、プリントを拾う。
「……いい」
「何が?」
「私が落としたんだから、自分で拾う」
「2人の方が早い」
「いいって言ってるでしょ」
声が変わった。
いつもの悪態とは違う。
本気で嫌そうだった。
「そういうの、ほんと嫌い」
「そういうの?」
「勝手に助けて、いい人ぶるやつ」
その瞬間。
【好感度:129%】
↓
【103%】
「…………」
【82%】
「お」
【61%】
「きた」
「何がよ」
【43%】
「きた……!」
「だから何!?」
「下がったあああああああ!!」
「うるっさい!!」
「よっしゃあああああ!!」
「何なのよアンタ!?」
129%。
それが43%まで落ちた。
あと少し。
「見つけた……」
「は?」
「お前の弱点」
「意味分かんない」
「親切だ」
「は?」
「親切にすれば嫌われる!」
「何言ってんの!?」
ついに攻略法を見つけた
その時。
橘が俺の手からプリントを奪った。
「……ほんっと最悪」
「?」
「あんたに助けられるなんて」
吐き捨てるように言った。
「最悪……」
かなり本気だった。
だから。
俺も咄嗟に言い返した。
「別に助けてねぇよ」
「……は?」
「お前が盛大にドジったのが面白かっただけ」
「はぁ!?」
「それに俺も日直だし。お前が1人でチンタラ拾ってたら帰るの遅くなるだろ?」
「…………」
「恩売ったつもりもないよ」
最後の1枚を拾って渡す。
「悔しいんなら、次から落とさないようにするんだな」
「…………」
「何だよ」
「……別に」
「じゃあ帰るぞ」
「先帰って」
「はいはい」
「2度と話しかけないで」
「それは助かる」
「死ね!」
俺は上機嫌で教室を出た。
好感度43%。
ゼロまであと少し。
◇
翌朝。
【好感度:120%】
「…………」
橘が眉をひそめる。
「何よ?」
「なんでだあああああああああああああ!!」
「朝からうるさい!!」
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