俺を馬鹿にしてくる女全員の好感度が100%なのだが――よし、下げてみよう   作:冷凍シャケ

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第4話 俺、ギャルになります

翌朝。

 

「…………は?」

 

教室へ入った瞬間、姫川莉愛が固まった。

 

「おはよう」

 

「いやいやいやいや」

 

姫川は俺を上から下まで見る。

 

長い髪。タンクトップ。黒く焼けた肌。若干テカった顔。

 

「…………何それ?」

 

 

 

 

 

 

 

「ギャル」

 

 

「どこが!?」

 

即答された。

 

「見れば分かるだろ」

 

「分かんねーよ!」

 

姫川が俺の周りを一周する。

 

「須加さぁ!昨日まで普通だったじゃん!何で一晩で日サロ帰りのおっさんになってんの!?」

 

「ガングロだ」

 

「ガングロなめんな!!」

 

「同じだろ」

 

「全然違うっしょ!?」

 

姫川が俺の顔を覗き込む。

 

「…………ん?」

 

鼻をひくつかせた。

 

すん。

 

「須加」

 

「何だ」

 

すんすん。

 

「……醤油くさくね?」

 

「気のせいだ」

 

「絶対違うって!」

 

俺の頬を指差す。

 

「何塗ったの?」

 

「ファンデーション」

 

「商品名」

 

「…………」

 

「商品名は?」

 

「…………さしみ用」

 

「やっぱ醤油じゃんか!!」

 

教室中に響いた。

 

「何で顔に醤油塗ってんの!?」

 

「色が似てた」

 

「発想が小学生じゃん!」

 

「塗っただけだと薄かった」

 

「だから!?」

 

「焼けば濃くなると思った」

 

「…………待って」

 

姫川の動きが止まる。

 

「まさか、そのまま日サロ行った?」

 

「ああ」

 

「アッハハハハハハハハ!!」

 

爆発した。机を叩いて笑っている。

 

「無理無理無理!!」

 

「何がだ」

 

「焼きおにぎりじゃん!!」

 

「誰がおにぎりだ!」

 

「醤油塗って焼いてんだから焼きおにぎりじゃん!!」

 

「俺は米じゃない」

 

「ツッコむとこ、そこじゃねーし!!」

 

【好感度:100%】

↓

【好感度:116%】

 

「…………上がった」

 

「何が!?」

 

失敗だった。

 

昨日、俺は姫川の攻略法を考えた。

 

姫川はメイクにこだわりがある。なら、姫川以上に目立つギャルになればいい。自分より目立つ俺を見て腹を立てる。好感度が下がる。

 

完璧な作戦。

 

ネットで検索した。

 

『ギャル 最強』

『ギャル 派手』

『ギャル 伝説』

 

そして辿り着いた。

 

ガングロ。

 

問題は、俺が化粧品を持っていなかったことだ。

 

ファンデーション=茶色い。

 

醤油=茶色い。

 

同じだと思った。

 

違ったらしい。

 

「いやマジでヤバいって!」

 

まだ姫川が笑っている。

 

「写真撮っていい?」

 

「嫌だ」

 

「一枚だけ!」

 

「嫌だ」

 

「焼きおにぎり君こっち向いて!」

 

「誰が焼きおにぎり君だ!」

 

【好感度:116%】

↓

【好感度:124%】

 

「また上がった」

 

「だから何が!?」

 

その時。

 

バサッ。

 

窓の外に、一羽の鳩が止まった。俺を見ている。

 

バサッ。

 

二羽。三羽。五羽。十羽。

 

「何あれ?」

 

姫川が窓を見る。

 

全部、俺を見ていた。

 

嫌な予感がする。

 

「須加」

 

「何だ」

 

「今日、朝から鳩に追いかけられてなかった?」

 

思い返す。

 

家を出た時、一羽。駅で三羽。学校の前で二十羽。

 

「いたな」

 

「その時点で気づけよ!!」

 

バサバサバサバサ!!

 

「うおっ!?」

 

鳩が一斉に飛び込んできた。

 

頭。肩。背中。腕。

 

「痛い痛い痛い!!」

 

「アハハハハハハ!!」

 

「笑ってないで助けろ!」

 

「焼きおにぎり食われてる!」

 

「だから俺は米じゃねえええええ!!」

 

教室を飛び出す。

 

だが。

 

「クルッポー!」

「クルッポー!」

「クルッポー!」

 

「まだ来るのかよ!!」

 

廊下を走る。鳩も追う。

 

角を曲がった瞬間。

 

ドンッ!

 

「きゃっ!」

 

誰かとぶつかった。相手が尻餅をつき、その衝撃で鳩が散る。

 

「悪い。大丈夫か?」

 

手を差し出す。

 

少女が顔を上げた。

 

氷室だった。

 

「…………」

 

氷室が俺を見る。

 

黒焦げ。長髪。タンクトップ。全身、白い羽だらけ。ほんのり醤油臭。

 

「大丈夫?」

 

一歩近づく。

 

「氷室?」

 

「ぎ」

 

「ぎ?」

 

「ぎゃああああああああああああ!!」

 

バタン。

 

「ファ!?」

 

気絶した。

 

「またかよおおおおおおおおお!!」

 

      ◇

 

放課後。

 

「橘」

 

「嫌」

 

「まだ何も言ってない」

 

「アンタが頼み事してくる時点で嫌」

 

橘朱里は、こちらも見ずに帰り支度を続けていた。

 

【好感度:1%】

 

「頼む」

 

「嫌」

 

「一生のお願いだ」

 

「一生使わないで」

 

「俺を」

 

「嫌」

 

「ギャルにしてくれ!」

 

橘の手が止まった。

 

ゆっくり振り返る。

 

「…………は?」

 

「ギャルにしてくれ!」

 

「聞こえてたわよ!」

 

「なら話が早い」

 

「早くない!!」

 

俺の顔を指差す。

 

「そもそも今日のアレ何!?」

 

「ガングロに決まってんだろ。なんで分かんないんだよ」

 

「いや、黒焦げ以外分からないわよ!醤油臭い変質者かと思ったわよ!」

 

「姫川にも似たようなこと言われた」

 

「でしょうね!」

 

「メイクに失敗したんだよ」

 

「言わなくても分かるわよ!逆にどう見たら成功したように思えるのよ!?」

 

俺は頭を下げた。

 

「頼む。俺一人ではギャルになれない」

 

「そんな悲壮な顔で言うことじゃないから」

 

「姫川に勝ちたい」

 

「何で勝負してんのよ、アンタ……。」

 

「メイクだ」

 

「メイクを醤油塗りたくることと勘違いしてるアンタが勝てる相手じゃないわよ」

 

「もうしないからさぁ」

 

「当たり前よ!」

 

橘が深いため息をつく。

 

「…………一回だけだからね」

 

「助かる」

 

「その代わり、メイクしてる時は動かないでよ!」

 

「何で?」

 

「嫌な予感がするから」

 

「気のせいだろ」

 

「アンタ相手だと大体当たるのよ」

 

      ◇

 

「目閉じて」

 

「分かった」

 

放課後の教室。

 

俺は椅子に座り、橘が正面からアイライナーを構えている。

 

「動かないでね」

 

「刺すなよ」

 

「動いたらぶっ刺すわよ」

 

「怖い」

 

「じゃあ動かないで」

 

顔が近づく。

 

【好感度:1%】

↓

【好感度:2%】

 

「…………」

 

「何?」

 

「いや」

 

「目閉じて」

 

閉じる。

 

筆先が目元をなぞる。

 

近い。息遣いまで聞こえる。

 

「橘」

 

「何」

 

「顔近いな」

 

「メイクしてるんだから当たり前でしょ」

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

その時、鼻がむずむずした。

 

「橘」

 

「何?」

 

「ちょっと」

 

「動かないで」

 

「いや、ちょっと本当に」

 

「あと少し」

 

「無理だ」

 

「何が――」

 

「はっ」

 

「え」

 

「はっくしょん!!」

 

ぶしゅっ!!

 

静寂。

 

ゆっくり目を開ける。

 

橘。ブラシ。パレット。机。

 

全部、微妙に濡れていた。

 

「…………橘」

 

「…………」

 

「事故だよ」

 

「…………」

 

「不可抗力だから」

 

「…………」

 

「鼻が勝手に」

 

「須加」

 

「はい」

 

「死ね」

 

「ちょっと前に聞いたのに懐かしく感じるな」

 

「三回死ね!!」

 

      ◇

 

数分後。

 

「今度やったら殺す!」

 

「努力するから」

 

「絶対だからね!」

 

「善処するよ」

 

「全然信用できない…」

 

メイク再開。

 

今度は俺も黙った。

 

しばらくして、橘が小さく口を開く。

 

「……ねえ」

 

「何だ」

 

「この前、私に言ったでしょ」

 

「何を」

 

「他の人にも好き勝手言えって。嫌な時は嫌って言え、とか」

 

「ああ」

 

「優等生ぶってないで噛みつけ、とか」

 

「言ったな」

 

「クソガキとも言った」

 

「確かに言った」

 

「そこは否定しなさいよっ!」

 

「事実だから仕方ないだろ??」

 

「死ね!」

 

「それだよ」

 

「何がよ!」

 

「いつものお前だ」

 

橘が黙る。

 

それから、ほんの少し笑った。

 

「……あれからさ。嫌な時は、嫌って言うようにした」

 

ブラシを動かしながら続ける。

 

「頼まれても無理なら断るし、文句も言う」

 

少し沈黙して。

 

「……ありがと」

 

手が止まった。

 

俺は目を開ける。橘が少しだけ顔を赤くしていた。

 

「何よ」

 

「…………」

 

「何」

 

「プッ」

 

「は?」

 

「お前でも素直に礼言えるんだね」

 

「…………」

 

「驚いたよ、王道ツンデレ女子も成長したのか」

 

「…………死ね」

 

「戻った!」

 

「二度死ね!!」

 

バシッ!

 

「痛い」

 

「もう二度と礼なんか言わない!!」

 

【好感度:2%】

↓

【好感度:3%】

 

「…………」

 

「何よ」

 

「いや」

 

「その顔ムカつく!」

 

      ◇

 

翌朝。

 

「姫川」

 

「んー?」

 

振り返った姫川が固まる。

 

「…………」

 

「どうだ」

 

髪。肌。目元。唇。

 

昨日とは違う。

 

醤油もない。焦げてもいない。

 

橘によって完璧に仕上げられた。

 

正真正銘のギャル。

 

「…………やば」

 

姫川の手が震える。

 

効いている。

 

「どうした」

 

「須加」

 

スマホを取り出した。

 

「めっちゃ盛れてんじゃん!!」

 

「は?」

 

カシャッ!

 

「撮るな」

 

「待って、もう一枚!」

 

「嫌だ」

 

「普通にかわいくね!?」

 

「何でだ」

 

「え、マジで似合ってんだけど!」

 

カシャッ!

 

「やめろ」

 

「朱里がやったっしょ!?」

 

「何で分かる」

 

「須加にこんな技術あるわけないじゃん!」

 

「失礼だな」

 

「昨日醤油塗ってた奴が言うなよ!」

 

【好感度:124%】

↓

【好感度:141%】

 

「…………また上がった」

 

「何が!?」

 

その時。

 

「…………ん?」

 

教室の入口に教頭が立っていた。

 

俺を見る。

 

【教頭 好感度:17%】

 

鼻がひく。

 

すん。

 

【好感度:31%】

 

すんすん。

 

【好感度:57%】

 

目が見開かれる。

 

「…………この香り」

 

「?」

 

昨日、何度洗っても微妙に取れなかった醤油の残り香。

 

それを、教頭はものすごい勢いで吸い込んでいた。

 

「強め……」

 

「?」

 

「強めの……ギャル……」

 

【好感度:89%】

 

「待て……なんか嫌な予感するぞ……既視感が……」

 

教頭が一歩入ってくる。

 

「この香ばしさの中に漂う、少し背伸びした青春の香り……キミ、イイネェ~」

 

【好感度:118%】

 

「何言ってんだこいつ」

 

姫川が引いている。

 

教頭がさらに近づき、俺の肩、首元へ鼻を寄せる。

 

「すぅぅぅぅぅぅ……」

 

「嗅ぐな!!」

 

飛び退く。

 

「待ちなさい!!」

 

「何で!?」

 

「もう一度!!」

 

「何をだよ!!」

 

「匂いを!!」

 

「嫌に決まってんだろ!!」

 

逃げた。

 

廊下へ全力疾走。後ろから教頭。

 

「待ちなさぁぁぁぁい!!」

 

「来んなぁぁぁぁ!!」

 

教室から姫川と橘が顔を出す。

 

「アハハハハハ!!須加また変態に好かれてんじゃん!」

 

「笑ってないで助けろ!」

 

「無理無理!マジウケる!」

 

「須加!こっち見てないで、ちゃんと走りなさいよ!アホ教師に追い付かれるわよ!」

 

「走ってるよ!!」

 

まずい。

 

教頭、思ったより速い。

 

「須加くぅぅぅぅん!!」

 

距離が縮まる。

 

「くそ!」

 

なら、まだ手はある。

 

「目には目を歯には歯をだ!!」

 

俺は大きく息を吸った。

 

「カモン!!」

 

廊下中へ叫ぶ。

 

「校長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ドガァン!!

 

前方の扉が吹き飛んだ。

 

「呼んだかねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「やっぱり来た!!」

 

「いつの間に校長飼い慣らしてんのよ、アンタは!」

 

校長。

 

【好感度:156%】

 

「消息不明の間に何があった!?」

 

「零也くぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 

猛スピードで突っ込んでくる。

 

前、校長。

 

後ろ、教頭。

 

「須加!!」

 

橘が叫ぶ。

 

右を指した。

 

「…………!」

 

なるほど。

 

「今!!」

 

俺は右へ飛ぶ。

 

「零也くぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 

「ギャルの香りぃぃぃぃぃぃ!!」

 

ドゴォォォォォォン!!

 

校長。

 

教頭。

 

正面衝突。

 

「…………」

 

「…………」

 

顔が、近い。

 

そして。

 

ブチュー!!

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

廊下が静まり返った。

 

校長と教頭。

 

唇を重ねたまま、微動だにしない。

 

やがて。

 

教頭の鼻が、ひく。

 

「……牛乳と……」

 

「?」

 

「お酢を……混ぜた臭い……グフッ……」

 

「匂いを分析して発表すんな!」

 

校長も、震える声で呟く。

 

「これが……須加くんの……」

 

「俺じゃねぇよ!!誤解を招くだろうが!」

 

「トイレの芳香剤のようだ……うっ……」

 

「だから俺じゃねえ!!」

 

ドサッ。

 

二人同時に倒れた。

 

「…………」

 

姫川が口元を押さえる。

 

「むり……」

 

肩が震える。

 

「むりむりむり――」

 

「アハハハハハハハハハ!!」

 

爆発した。

 

「校長と教頭ブチューした!!マジ無理!!」

 

「ジジイの接吻で笑ってる場合か!危うく俺のファーストキスジジイになるとこだったんだぞ!」

 

「ふっ……」

 

橘も顔を逸らす。

 

「お前まで笑ってんじゃねえよ!」

 

「笑ってない!」

 

「肩震えてるぞ」

 

「うっさい!!」

 

その時、ふと廊下の真横、隣の教室の入口が目に入った。

 

「…………」

 

美人教師がいた。

 

「…………」

 

モップを持った清掃員もいた。

 

二人とも、ものすごい顔をしていた。

 

どうやら、最初から全部見ていたらしい。

 

校長を見る。

 

教頭を見る。

 

もう一度、校長を見る。

 

美人教師がゆっくり口を開いた。

 

「…………なるほど」

 

「何が!?」

 

「…………出世って、大変なのね」

 

「何を納得した!?」

 

そのまま何事もなかったように去っていった。

 

「…………」

 

残された清掃員。

 

まだ二人を見ている。

 

「…………」

 

ぽっ。

 

「何で頬染めてんだよっ!」

 

「校長×教頭……」

 

「やめろ! 勝手な想像でBL展開始めんな!!」

 

「逆もアリだねぇ……」

 

「ナシに決まってんでしょ!」

 

橘が即座に言った。

 

「そうだ!よく言った橘!」

 

「校長×教頭は解釈違いよ!やるなら、須加×校長よ!!」

 

「どこにツッコミ入れてんだお前ええええええ!!」

 

「年下攻め、年上受け。こっちの方が収まりいいじゃない」

 

「何で俺が入ってんだよ!!収まるわけねぇだろうが!」

 

「べ、別に興味あるわけじゃないけど!」

 

「めちゃくちゃ詳しい癖に何を言ってんだ!むっつりスケベ!」

 

「一般常識に決まってんでしょ!?誰が、むっつりスケベよ!」

 

「そんな一般常識あってたまるか!!」

 

その時。

 

カツ、カツ、カツ。

 

白衣の男が現れた。

 

生物教師。

 

倒れている二人を見るなり、目を輝かせた。

 

「これはこれは!」

 

しゃがみ込む。

 

「珍しい!」

 

二人を指差す。

 

「チョウチンアンコウの交尾ですよ!」

 

「変態同士の事故だよ!」

 

「しかもオス同士!」

 

「追加情報いらねえよ!!」

 

生物教師は満足そうに頷いた。

 

「ちょうどいい」

 

校長の足首。

 

教頭の足首。

 

両方掴む。

 

ズル。

 

「今日の実験に使えそうな素材です」

 

ズルズルズル。

 

二人はそのまま、生物室へ消えていった。

 

「…………」

 

姫川が俺を見る。

 

「須加!」

 

「何だ」

 

「今日マジで最高じゃん!」

 

【好感度:141%】

↓

【好感度:153%】

 

「…………」

 

俺は天井を見上げた。

 

「最悪のルート突入だよ!」

 

こうして、主人公の活躍により作品初のキスシーンを校長と教頭が飾ることになってしまった。

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