俺を馬鹿にしてくる女全員の好感度が100%なのだが――よし、下げてみよう 作:冷凍シャケ
翌朝。
「橘、ちょっといい?」
「何?」
教室に入ると、橘が男子に呼び止められていた。
「今度の日曜、暇?」
「……まあ」
「よかったら水族館行かない?」
「…………」
橘が固まる。
「二人で?」
「うん」
「…………」
ちら。
なぜか俺を見る。
「?」
目が合った瞬間。
橘はすぐに視線を逸らした。
「……別に、いいけど」
「ほんと?」
「うん」
少し赤い。
「…………」
なんだ。
普通に他の男にも、ああいう顔するんじゃん。
やっぱり俺への100%は、そういう意味じゃなかったらしい。
弄ると面白い。
何を言っても言い返す。
都合のいいおもちゃ。
多分、それだけだ。
「まあいいか」
この前ので橘はもう0%まで落とせた。
翌朝には意味不明なくらい戻っていたが。
攻略法そのものは分かった。
つまり。
もう次へ進んでもいい。
「うわ、須加じゃん」
「…………」
ちょうど来た。
「何その顔! 朝イチでウチ見れたんだから、もうちょい喜べよ!」
「ハズレ引いた顔」
「普通に失礼かよ!」
姫川莉愛。
明るい茶髪。
派手めのメイク。
制服も校則ギリギリまで着崩している。
そして。
朝からうるさい。
「てか今日も顔死んでんじゃん。ちゃんと寝た?」
「お前見たから」
「ウケる! 人のせいにすんなって!」
【好感度:100%】
「…………」
「何?」
「いや」
「その真顔マジでキモいって!」
こいつが次の攻略対象だ。
姫川は俺を見つけると、ほぼ毎回絡んでくる。
「須加、それ一口ちょーだい」
「嫌」
「ケチ!」
「自分で買え」
「一口じゃん!」
「減るだろ」
「当たり前のことドヤ顔で言うなよ!」
以前、友達に聞かれていた。
『莉愛って何でそんな須加に絡むの?』
姫川は笑って答えていた。
『だって須加、反応おもろいじゃん?』
それから。
『ウチが何言っても態度変わんねーし。変に気ィ使わないじゃん?』
なるほど。
やはり。
おもちゃである。
「絶対0にしてやる」
「何を!?」
◇
その日の体育。
種目は。
ドッジボールだった。
「よっしゃー! 須加、ぶっ殺す!」
向こうのコートで姫川が手を振っている。
「体育の授業で殺害予告するな」
「当てるって意味だし!」
「言葉を選べ」
「今からお前に言われたくねー!」
クラスは二チームに分かれていた。
俺と橘が同じチーム。
姫川は敵チーム。
「…………」
俺は姫川を見る。
【好感度:100%】
そして。
その顔を見る。
今日もばっちりメイク。
「なるほど」
「何が?」
隣にいた橘が眉をひそめた。
「攻略法を思いついた」
「嫌な予感しかしない」
「姫川は自分の見た目に気を使っている」
「まあ、そうね」
「ならば」
俺はボールを拾った。
「ドッジボールの風圧で、メイクを崩壊させる」
「…………」
橘が黙った。
「最終的には、見るも無残な山姥メイクだ」
「は?? アンタ、なに言って……」
ピーッ!
教師の笛が鳴った。
「始め!」
試合開始。
ボールが転がる。
俺は。
拾った。
「…………」
「須加?」
橘が俺を見る。
その瞬間。
俺の中で。
何かが切り替わった。
「――まずはテメェからだ」
「え?」
敵チームの男子を見る。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
全力投球。
バァン!!
「ぎゃああああああ!?」
腹に直撃。
男子が崩れ落ちた。
「えっ」
「ちょっ」
「須加!?」
俺は次のボールを拾う。
「ドッジボールはなぁ!」
構える。
「戦場なんだよ!!」
「何で急にキャラ変したの!?」
橘の声が聞こえる。
だが。
今の俺には関係ない。
「このボールに当てられた瞬間!」
投げる。
「テメェらの人権など簡単に消し飛ぶ!!」
バァン!!
「ひいいいいいいい!!」
二人目。
「いや消えないから!!」
橘が叫ぶ。
「ただ外野に行くだけだから!!」
「甘いな橘!」
「何が!?」
「戦場にルールなどない!」
「今まさにルールの中でやってんのよ!!」
敵チームがざわめく。
「何なんだよアイツ……!」
「目がマジだぞ!」
「怖えよ!」
いい。
恐怖で動きが鈍っている。
「見ろ!」
俺はコート脇を指差した。
「そこにいる女を!」
「は?」
体育教師。
二十代後半。
独身。
「ちょっと須加?」
教師が嫌な顔をした。
俺は構わず続ける。
「いい年こいてろくに彼氏もできず!」
「おい」
「居酒屋で一人酒を飲み!」
「おい待て」
「後輩の女教師に、自分に男ができないのはつまらない男としか出会えないからだと愚痴り!」
「なんで知ってんだお前!?」
「自分のプライドを必死に守りながら!」
「やめろ!!」
「先週ついに!」
「言うな!!」
「マッチングアプリに渋々登録した!」
「言うなあああああああああああ!!」
体育館に絶叫が響いた。
「これが!」
教師を指差す。
「このボールに当てられた者の末路だ!!」
「ボール関係ねええええええ!!」
「ひいいいいいいい!!」
敵チームの女子が悲鳴を上げる。
「誰も当たりたくねえ!」
「人生終わる!」
「違う! 当たってもそうならないから!!」
教師が必死に否定している。
その時。
「……その通りじゃ」
知らない声がした。
全員が振り返る。
体育館の入口。
一人の老人が立っていた。
腰は曲がり、白い髭を生やし、杖を持っている。
「……久々に」
老人がゆっくり顔を上げる。
「血生臭い戦場で、戦いとうなった」
「誰!?」
橘が叫んだ。
【謎のジジイ 好感度:21%】
老人が俺を見る。
【39%】
「…………」
【58%】
「上がってる」
「何が!?」
すると。
「……へっ」
今度は。
別の声。
「アンタのような老いぼれにゃ、アイツは倒せねぇよ」
「また誰!?」
体育館二階。
手すりの上に。
一人の男が立っていた。
上裸で下は道着、素足。
腕を組んでいる。
「何で上裸なの!?」
橘のツッコミが止まらない。
男は飛び降りた。
「ふっ!」
ドンッ!!
「普通に入ってくんな!!」
【謎の男 好感度:34%】
「…………」
【48%】
「こいつも上がってる」
「だから何がよ!!」
老人が杖を構える。
「若造。邪魔をするでない」
上裸男が拳を鳴らす。
「悪いなジジイ。あの男を倒すのは俺だ」
「…………」
なんだこいつら。
だが。
好都合。
俺は鼻で笑った。
「ふん」
ボールを片手で持ち上げる。
「今さら俺を倒しに来たところで遅いんだよ!」
「乗るな!!」
橘が叫ぶ。
「その女のメイクを!」
俺は姫川を指差した。
「お前らに守れるとでも!?」
「はぁ!?」
姫川の声が響いた。
「何でウチ狙われてんの!?」
「しかも!」
俺は。
隣を見る。
橘。
「こちらには俺だけじゃない!」
「…………嫌な予感する」
「ツンデレという生きる化石となった、彼氏いない歴イコール年齢という最終兵器がいるんだよ!!」
「誰が化石よおおおおおおおお!!」
橘の拳が俺の後頭部に飛んできた。
「痛い」
「当たり前よ!!」
「味方への攻撃は禁止だぞ」
「今のお前は人類の敵よ!!」
「うるさい!」
俺は姫川へ向き直る。
「馬鹿な奴らめ!」
「何キャラだよお前!」
姫川が叫ぶ。
俺はボールを大きく振りかぶる。
「その女のナチュラル100均メイクなど!!」
「誰が100均メイクだ!!」
「このボールの風圧で見るも無残な山姥メイクに変えてやるよ!!」
「できるわけねえだろ!!」
橘と姫川の声が重なった。
「喰らええええええええ!!」
俺は。
投げ――。
◇
「…………」
「…………」
「…………」
十分後。
体育館の壁際。
俺。
謎のジジイ。
謎の上裸男。
三人並んで。
正座。
「…………」
目の前には体育教師。
腕組み。
笑顔。
ただし。
目が笑っていない。
「須加」
「はい」
「反省した?」
「しました」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ」
教師がしゃがむ。
「何を反省したか言ってみて」
「個人情報を大声で公開したことです」
「よろしい」
「先生」
「何?」
「マチアプ、まだいいね二つのままですか?」
「殺すぞ!!」
「反省してないじゃない!!」
遠くから橘が叫んだ。
隣の老人が小さく呟く。
「……二つか」
「黙れジジイ!!」
「先生」
上裸男が顔を上げる。
「俺なら右に――」
「お前も黙れ!!」
「ところで」
俺は左右を見る。
「お前ら誰なんだ?」
「今さら!?」
第1作戦。
失敗。
◇
翌朝。
「これ、姫川じゃね?」
「え……?」
教室がざわついた。
「何?」
姫川が顔を上げる。
誰かが見ていたスマホを。
周囲の生徒たちが覗き込んでいる。
「これ……」
「姫川だよな?」
「何の話?」
姫川が席を立つ。
俺も。
少し離れた場所から画面を見る。
SNSに。
一枚の写真が上がっていた。
夜の繁華街。
姫川。
かなり年上の男。
そして。
男から封筒を受け取っている。
『うちの高校の姫川莉愛じゃね?』
『パパ活?』
『やっぱ遊んでんだ』
『まあ見た目通り』
「…………」
視線が。
一斉に姫川へ集まる。
「莉愛」
友達の女子が不安そうに声をかけた。
「これ違うんだよね?」
「…………」
姫川は。
スマホを見る。
「…………」
少しだけ。
表情が止まった。
でも。
すぐに。
「別によくね?」
笑った。
「え?」
「好きに言わせとけば?」
「でも――」
「ウチが何言っても」
姫川は肩をすくめる。
「みんなもう答え決めてんじゃん?」
「莉愛……」
「いいっていいって」
笑っている。
いつもの。
軽い調子で。
「こんなん気にするとかダルいし」
「…………」
それだけだった。
◇
その日の放課後。
姫川は教師にも呼ばれた。
「事実と違うなら説明しなさい」
「別に」
「姫川」
「何?」
「学校としても確認する必要があるの」
「じゃあ好きに確認すれば?」
「あなたから説明してくれれば――」
「何言っても一緒じゃね?」
「…………」
「もうみんな」
姫川は。
いつものように笑った。
「ウチがやったってことにしたいみたいだし」
それ以上。
何も言わなかった。
◇
そして。
翌日。
明らかに変わった。
「莉愛ー! ネイル変えた!」
「……かわいいじゃん」
「え」
「何?」
「いや……反応薄くない?」
「そ?」
普段なら。
最低でもそこから五分は騒ぐ。
「姫川」
教師が声をかける。
「またスカート短いぞ」
「はーい」
「……直しなさい」
「はいはい」
「…………」
普段なら。
最低でも二分は揉める。
廊下で。
「例の写真の子じゃん」
「やっぱそうなんだ」
声が聞こえても。
姫川は振り返らない。
昼。
俺は。
パンを持ったまま。
姫川を見る。
「姫川」
「何?」
「俺のパン狙わないの?」
「いらない」
「…………」
「何」
「いや」
【好感度:18%】
「…………」
下がっている。
一気に。
俺が何もしていないのに。
「…………」
本来なら。
喜ぶところだ。
俺への興味がなくなる。
それが目的だった。
あと18。
もう少し。
なのに。
何か違う。
「姫川」
「何?」
「昨日の体育教師」
「ん?」
「いいねが三つに増えたらしい」
「…………」
「一つ増えた」
「…………」
「快挙だ」
「……そ」
「…………」
笑わない。
いつもなら。
『本人に聞こえるからやめろ!』
くらいは言う。
でも。
何も言わない。
「…………」
俺だけじゃない。
友達にも。
教師にも。
自分を馬鹿にしてくる奴にも。
姫川は何も返さなくなっていた。
【好感度:18%】
「…………」
これは。
違う。
俺が欲しかった0%は。
こんなものじゃない。
「調べるか」
◇
俺には好感度が見える。
答えが分かるわけじゃない。
嘘を見抜けるわけでもない。
犯人が分かるわけでもない。
ただ。
誰なら話を聞いてくれそうか。
どうすれば少し距離を縮められそうか。
それくらいなら。
使える。
「この写真、最初どこで見た?」
「え?」
【好感度:63%】
クラスの男子。
「クラスのグループ」
「誰から?」
「田中だったかな」
「分かった」
次。
「田中」
「何?」
「この写真、どこから?」
【好感度:27%】
「知らね」
「カフェオレ奢る」
「…………」
【好感度:32%】
「もう一本」
【好感度:39%】
「……二組の森」
「よし」
「何が?」
次。
「森」
「何だよ」
【好感度:12%】
「この写真」
「知らね」
「誰から来た?」
「知らねって」
「…………」
低い。
こいつ。
全然話す気がない。
どうする。
その時。
森のスマホから。
「ニャー」
猫の鳴き声が聞こえた。
「…………」
見る。
猫動画。
「お前」
「何」
「猫好きなのか?」
「まあ」
「なるほど」
「何が?」
「少し待ってろ」
「は?」
◇
十五分後。
「森いいいいいいいい!!」
「は!?」
俺は廊下を全力疾走していた。
その後ろから。
「ニャー!」
「ミャア!」
「ニャーン!」
「フシャアアア!!」
猫。
猫。
猫。
猫。
猫。
大量の猫。
「お前、猫好きだろ」
「だからってこんなに要らねえええええ!!」
森が叫ぶ。
「何でこんな集めてきたんだよ!」
「途中で好感度高い猫に餌やってたら増えた」
「意味分かんねえよ!」
猫たちが俺の周りに集まってくる。
「ニャー」
「ニャア」
「ミャー」
「…………」
森が。
ふと。
動きを止めた。
「…………」
「どうした」
「いや」
森が猫の群れを見る。
「…………」
猫。
猫。
猫。
猫。
「…………」
その中に。
ちょこん。
「…………」
一人。
猫の格好をしたおじさんが座っていた。
「誰だああああああああ!?」
森が絶叫する。
「なんで猫に紛れてんだ!!」
「ニャー!」
猫が鳴く。
「ニャアアアアアアアアアアアア!!」
おじさんも鳴いた。
「お前だけ声量おかしいんだよ!!」
「…………」
「ニャー」
「ニャアアアアアア!!」
「だからうるせえ!!」
森が俺を見る。
「猫だけでいいんだよ!」
「こいつも猫じゃん」
「いや、猫だけど猫じゃないんだよ!!」
「?」
「見りゃ分かるだろ!!」
「けど、ほら」
おじさんを見る。
おじさんは。
無言で。
自分の腕をぺろぺろ舐めていた。
「毛繕いしてるよ」
「いや猫がレオタード着ねぇだろうが!!」
「…………」
「あとなんで片手に魔法のステッキ持ってんだよ!」
「…………」
「どこの魔法少女だ!!」
俺は。
おじさんの頭上を見る。
【好感度:123%】
「…………」
「何だよ」
「好かれてる」
「どうでもいいわ!!」
森が叫ぶ。
「ていうか、こんなやつどこで見つけたんだよお前!」
「ある部屋で出会ったんだよ」
「ある部屋?」
「ああ」
◇
回想。
薄暗い部屋。
猫耳。
レオタード。
魔法のステッキ。
そして。
「ニャアアアアアアア!!」
パァン!
鞭の音。
「ニャアアアアアアアア!!」
女性に鞭で叩かれながら。
満面の笑みを浮かべる猫おじさん。
◇
「女性に虐待されていてね」
「いや、明らかに魔法猫少女プレイ楽しんでるだろコイツ!!」
「だから保護した」
「保護すんな!!」
「けど」
俺は続ける。
「飴をあげたらついてきたよ」
「飴?」
◇
回想。
「…………」
俺は飴を一つ取り出す。
そして。
投げた。
バシッ!!
「ニャアアアアアアアアア!!」
額に直撃。
【好感度:89%】
もう一個。
バシッ!!
「ニャアアアアアア!!」
【好感度:105%】
さらに。
バシッ!!
「ニャアアアアアアアアア!!」
【好感度:123%】
◇
「それからずっとついてきてる」
「いや、飴で鞭与えられて喜んでるじゃねぇか馬鹿!!」
「飴だぞ」
「投げ方が鞭なんだよ!!」
おじさんが。
すっ。
立ち上がった。
「…………」
森を見る。
「…………」
「おい」
一歩。
「無言で近寄ってくんな!!」
一歩。
「おい!」
一歩。
「どうにかしろ! 須加!!」
「?」
「何でそこで首傾げんだよ!」
森が逃げる。
「うわああああああ!?」
おじさんも追う。
「ニャアアアアアアアア!!」
「付いてくるなああああああ!!」
「ニャアアアアアア!!」
「須加あああああ!!」
「…………」
「分かった!」
森が叫ぶ。
「言う! 言うから!」
おじさんがさらに距離を詰める。
「コイツどうにかしてくれええええええ!!」
◇
【森 好感度:45%】
「で?」
「…………」
森が息を切らしながら答える。
「三年の坂井先輩」
「坂井?」
「ああ。俺に送ってきたのはあの人」
「元は?」
「そこまでは知らね」
「分かった」
そこからは。
片っ端から聞いた。
好感度が低ければ。
ジュースを奢る。
荷物を運ぶ。
宿題を見せる。
昼休みにサッカーへ付き合う。
「須加!」
「何だ!」
「パス!」
「ほら!」
「ナイス!」
【好感度:18%】
「…………」
「須加!」
「何」
「もう一本!」
「何で俺こんなことしてんだ……」
自分でも分からない。
でも。
やめなかった。
そして。
ようやく。
「これ」
「?」
「元の写真」
スマホを見る。
「…………」
同じ場所。
同じ時間。
姫川。
年上の男。
封筒。
ただし。
切り取られる前の写真には。
他にも人が写っていた。
女性。
子供。
数人の大人。
「…………」
やっぱり。
あの写真は。
意図的に切り取られている。
問題は。
誰が切り取ったのか。
誰が最初に広めたのか。
そこまでは分からない。
辿れたのは。
かなり早い段階から坂井先輩が画像を持っていた。
それだけ。
「…………」
まあ。
少なくとも。
あの一枚だけで。
姫川がパパ活していたと決めつけられるものではない。
◇
翌朝。
「姫川」
「何?」
「写真」
「…………」
「切り取られてたぞ」
姫川の表情が。
止まる。
「元の写真には、他にも人がいる」
「…………」
「女性も子供も写ってる」
「…………」
「少なくとも、あれだけ見てパパ活って決めつけるのは――」
「須加」
「何」
「もういい」
「でも」
「ウチがいいって言ってんじゃん」
「…………」
姫川は。
笑わなかった。
「放っといて」
「…………」
俺は。
少し考えた。
「分かった」
「…………」
「じゃあ勝手にやる」
「は?」
俺は。
姫川に背を向けた。
「ちょっ」
◇
教師に。
調べた内容を渡した。
「元の写真?」
「はい」
「これ……」
「切り取られてます」
「誰が?」
「そこまでは分かりません」
「そう」
「でも少なくとも」
俺は。
問題の写真を指差す。
「これだけで決めつけるのは違います」
「……分かった」
クラスでも。
「その噂」
「え?」
「多分違うぞ」
スマホを見せる。
「写真、切り取られてる」
「え?」
「ほんとじゃん」
「他にも人いるじゃん」
「じゃあ、パパ活って」
「適当だったってこと?」
「誰が最初に言ったんだよ」
少しずつ。
空気が変わっていく。
「なんだ……」
「莉愛、言えばよかったのに」
「そうだよ」
「めっちゃ誤解じゃん」
「…………」
俺は。
姫川を見る。
「…………」
笑っていない。
【好感度:18%】
↓
【好感度:8%】
「…………」
【好感度:2%】
「お」
下がる。
【好感度:0%】
「…………」
達成。
ついに。
0%。
「…………」
なのに。
止まらない。
【好感度:-9%】
「……え?」
【好感度:-18%】
姫川が。
ゆっくり立ち上がった。
「須加」
声が低い。
「何?」
「誰が頼んだの?」
「…………」
「ウチのこと勝手に調べて」
一歩。
「勝手に人に聞き回って」
もう一歩。
「勝手にみんなに話して」
いつもの笑顔は。
どこにもない。
「姫川」
「ウチさ」
まっすぐ。
俺を見る。
「一回でも須加に助けてって言った?」
【好感度:-23%】
「…………」
初めてだった。
0より下。
ずっと。
目指していた数字。
俺が。
あれだけ。
下げようとしていた数字を。
ついに。
通り過ぎた。
なのに。
「…………」
全然。
嬉しくなかった。