俺を馬鹿にしてくる女全員の好感度が100%なのだが――よし、下げてみよう   作:冷凍シャケ

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第5話 嫌われたままでいい

放課後。

 

 姫川に呼び止められた。

 

 場所は、人気のない校舎裏。

 

 俺と姫川。

 

 2人だけだった。

 

「……須加」

 

「何」

 

 姫川は俺を見なかった。

 

 いつもの笑顔もない。

 

「もう、関わんないで」

 

「…………」

 

「ウチさ」

 

 少しだけ間が空く。

 

「須加は違うと思ってた」

 

 それだけで。

 

 何を言いたいのかは分かった。

 

 ギャルだから。

 

 遊んでそうだから。

 

 男慣れしてそうだから。

 

 周りは勝手に姫川莉愛を決める。

 

 でも。

 

 俺だけは違うと思っていた。

 

「普通に接してくれてると思ってたんだけどな……」

 

「馬鹿言うな」

 

 姫川が顔を上げる。

 

「誰も本当のお前なんて理解してねぇよ」

 

「…………」

 

「俺だってそうだ」

 

 人間なんて都合のいい生き物だ。

 

 見たいものを見る。

 

 信じたいものを信じる。

 

 事実だって、自分の都合のいいように書き換える。

 

「多分、これからもずっとそうだ」

 

 姫川は何も言わない。

 

「普通の人間として接してた?」

 

 俺は鼻で笑った。

 

「俺だって俺の都合でお前を見てただけだ」

 

 俺を見つければ寄ってくる。

 

 馬鹿にする。

 

 笑う。

 

 勝手にパンを食おうとする。

 

「俺を馬鹿にしてくる、自己肯定感低めの腹立つ女」

 

「…………」

 

「それくらいにしか思ってねぇよ」

 

 姫川の目が僅かに揺れた。

 

「だから勝手に俺に期待して、勝手に苦しむな」

 

 俺は。

 

 こいつが思っているほど。

 

 まともな奴じゃない。

 

「でもな」

 

 姫川を見る。

 

「お前が良くても、俺は嫌なんだよ」

 

「…………」

 

「何言われてもどうでもいいみたいな顔して、全部投げるのは」

 

 俺の生き方に反する。

 

 誰も自分を理解しないから。

 

 何を言っても無駄だから。

 

 本気で。

 

 そんな人生を歩きたいなら。

 

 そうすればいい。

 

「けど」

 

 一歩だけ近づく。

 

「他人にやられっぱなしで、1人で勝手に終わるな」

 

「…………」

 

「くだらねぇ噂流すような連中のために、お前が人生棒に振る必要なんかない」

 

 長い沈黙。

 

 風だけが吹いた。

 

「……ほんと」

 

 姫川が小さく呟く。

 

「自分勝手じゃん」

 

「知ってる」

 

 俺は背を向けた。

 

「だから俺は勝手に動く」

 

「…………」

 

「嫌なら意地でも止めろ」

 

 一歩。

 

「それか」

 

 もう一歩。

 

「さっさと自分で、この騒動終わらせろ」

 

 返事はなかった。

 

 俺も。

 

 それ以上は何も言わなかった。

 

      ◇

 

 とは言ったものの。

 

 まだ足りない。

 

 元の写真は見つかった。

 

 切り取られていたことも分かった。

 

 だが。

 

 誰が切り取ったのか。

 

 誰が悪意を持って広めたのか。

 

 その証拠までは掴めていない。

 

「……坂井先輩か」

 

 昨日の調査で。

 

 かなり早い段階から画像を持っていたことまでは分かっている。

 

 3年の男子生徒。

 

 坂井。

 

 ただし。

 

 画像を回していた。

 

 それだけだ。

 

 本人が加工した証拠はない。

 

 誰かから送られてきただけかもしれない。

 

 決めつけるわけにはいかない。

 

「直接聞くしかないか」

 

【好感度:9%】

 

「低っ」

 

 普通に聞いても喋らない。

 

 なら。

 

 上げるしかない。

 

 俺は少し考えた。

 

 そういえば。

 

 こいつ。

 

 犬好きだったな。

 

「よし」

 

      ◇

 

 20分後。

 

「先輩!」

 

「ん?」

 

「ちょっと聞きたいことが――」

 

「ワン!」

 

「……は?」

 

「ワンワン!」

 

「え?」

 

「バウッ!」

 

「ちょ、待っ――」

 

 廊下の向こうから。

 

 犬。

 

 犬。

 

 犬。

 

 犬。

 

 さらに犬。

 

 そして。

 

 その先頭を。

 

 四つん這いの俺が走っていた。

 

「ワオオオオオオオン!!」

 

「お前も犬側なの!?」

 

 俺は立ち上がった。

 

「先輩、犬好きでしたよね?」

 

「いや好きだけど!」

 

 犬たちが殺到する。

 

「うわっ!」

 

 どさっ。

 

 先輩が床に倒れた。

 

「ワン!」

 

「待て!」

 

 ぺろ。

 

「うわっ!」

 

 ぺろぺろ。

 

「顔やめろ!」

 

「先輩」

 

 俺はしゃがんだ。

 

「姫川の写真のこと、教えてください」

 

「知らねぇよ!」

 

「そうですか」

 

 立ち上がる。

 

「お前たち」

 

 犬たちが顔を上げる。

 

「次、耳」

 

「何で部位指定できんだよ!?」

 

 ぺろぺろぺろ。

 

「うわあああ! 耳の中はやめろ!」

 

「本当に知らないんですか?」

 

「知らねぇって!」

 

「…………」

 

 俺は先輩を見る。

 

「おい」

 

「……え?」

 

「いつまで知らねぇで通す気だ」

 

「急にタメ口!?」

 

「こっちは何十人に聞いて、猫集めて、犬集めて、サッカーで顔面にボール食らってここまで来てんだよ」

 

「知らねぇよそんな苦労!」

 

「吐け」

 

「圧強っ!」

 

「写真どこから手に入れた」

 

「だから知らね――」

 

「よーし」

 

 手を上げる。

 

「次、髪」

 

「待て待て待て!!」

 

「舐め回せ」

 

「指示が怖えよ!」

 

「ワン!」

 

「ぎゃああああ! 整髪料取れる! 今日セットしたのに!」

 

「吐け」

 

「お前途中から完全に取り調べじゃねぇか!」

 

「早く」

 

「言わねぇよ!」

 

「そう」

 

 俺は犬たちを見る。

 

「じゃあ、もっといくか」

 

「もっと!?」

 

 その時。

 

「須加くーん!」

 

「…………」

 

 先輩が固まった。

 

「何だ……?」

 

 犬の群れの奥から。

 

 人影が1つ。

 

 ゆっくり近づいてくる。

 

「須加君! 楽しそうだね!」

 

 校長だった。

 

【好感度:100%】

 

「…………」

 

 俺は黙って先輩を見る。

 

 先輩も。

 

 俺を見る。

 

「おい」

 

「何ですか」

 

「あれ何?」

 

「校長」

 

「それは見れば分かる!」

 

 校長が犬の群れへ突っ込んでくる。

 

「私も混ぜてくれたまえ!」

 

「なんで校長が犬の群れに参加しようとしてんだよ!?」

 

 先輩の悲鳴。

 

 俺は冷静に言った。

 

「先輩」

 

「何だよ!」

 

「情報吐かないと、ひたすらコイツらがあなたの体をペロペロしますよ」

 

「もうされてるわ!」

 

「それと」

 

 校長を見る。

 

「犬に紛れて、うちの校長もペロペロします」

 

「何で校長までペロペロ要員なんだよ!?」

 

「任せたまえ!」

 

「何を快諾してんだよ校長おおおおお!!」

 

 俺はしゃがんだ。

 

「ほら」

 

 先輩の目を見る。

 

「さっさと吐け」

 

「嫌だ!」

 

「校長先生」

 

「なんだね?」

 

「準備」

 

「よし!」

 

「準備すんな!!」

 

「犬たち」

 

「ワン!」

 

「次は髪の毛だ」

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

「校長先生も」

 

「私もかね!?」

 

「お願いします」

 

「承知した!」

 

「承知するなあああああああ!!」

 

「3」

 

「カウントまで始まった!?」

 

「2」

 

「分かった! 言う!」

 

「1」

 

「言うって言ってんだろおおおお!!」

 

      ◇

 

 結果。

 

 当たりだった。

 

 先輩自身が写真を撮ったわけではない。

 

 だが。

 

 元画像を手に入れ。

 

 姫川と男だけが写るように切り抜いた。

 

 そして。

 

『これパパ活じゃね?』

 

 と面白半分で流した。

 

 そのやり取りも残っていた。

 

『それっぽく切ったらパパ活にしか見えなくて草』

 

「…………」

 

 これで繋がった。

 

 元画像。

 

 加工した画像。

 

 投稿日時。

 

 メッセージ。

 

 全部揃った。

 

「これで十分か」

 

 前なら。

 

 俺がそのまま教師に出していただろう。

 

 実際。

 

 昨日はそうした。

 

 本人が放っておいてくれと言ったのに。

 

 勝手に調べて。

 

 勝手に人に話して。

 

 正しいことをしているつもりで。

 

 姫川の気持ちなんて、一度も聞かなかった。

 

「…………」

 

 今回は。

 

 俺が決めることじゃない。

 

「橘」

 

「何?」

 

「頼みがある」

 

「嫌」

 

「まだ内容言ってない」

 

「須加の頼み事って大体ロクでもないもの」

 

「これ、姫川に渡して」

 

 証拠を渡す。

 

 橘が中を見る。

 

「……自分で渡せば?」

 

「俺から渡したら捨てる」

 

「でしょうね」

 

「だから頼む」

 

「…………」

 

 橘は受け取った。

 

 その時。

 

 ふと。

 

 頭上を見る。

 

【好感度:7%】

 

「…………」

 

 あれ?

 

「何?」

 

「いや」

 

 0じゃない。

 

「何その顔。キモい」

 

「気のせいだ」

 

「?」

 

「頼んだ」

 

「はいはい」

 

 今は。

 

 それどころじゃない。

 

      ◇

 

 翌日。

 

 姫川は自分から教師に話した。

 

「写真は切り抜きです」

 

 元画像。

 

 投稿の記録。

 

 証拠を見せる。

 

「一緒にいた人は親戚」

 

 そこで。

 

 姫川は言葉を切った。

 

「封筒の中身も家のことなんで、それ以上は話しません」

 

 教師は少し黙って。

 

「分かった」

 

 とだけ答えた。

 

 全部話す必要なんてない。

 

 どこまで話すか。

 

 それは姫川が決めればいい。

 

 教室でも。

 

「莉愛、ごめん!」

 

「ウチらも勝手に信じちゃって――」

 

「んー」

 

 姫川が少し困ったように笑う。

 

「次から本人に聞いてよ」

 

「……うん」

 

「あと」

 

 姫川が言う。

 

「ウチがギャルだからって何でもやってそう扱いすんの、普通にダルいから」

 

「ごめん」

 

「分かればよし!」

 

 笑う。

 

 少しずつ。

 

 いつもの姫川に戻っていた。

 

「姫川、スカート」

 

「先生それ今言う!? いい感じだったじゃん!」

 

「校則は校則だ!」

 

「マジ空気読めなさすぎっしょ!」

 

「直せ!」

 

「はいはい!」

 

「返事!」

 

「細かっ!」

 

「…………」

 

 元気だな。

 

 よかった。

 

 俺は。

 

 姫川の数字を見なかった。

 

 見る必要もない。

 

 完全に嫌われた。

 

 それで終わりだ。

 

「…………」

 

 これ以上。

 

 馬鹿にされることもないだろう。

 

 性格最悪だからな、俺。

 

 少しだけ。

 

 胸の奥が重い。

 

「あいつには……悪いことしたな」

 

 まあ。

 

 俺の性格じゃ。

 

 どうしようもない部分もある。

 

「…………」

 

 もうこんなこと。

 

 やめたいんだけど……。

 

 俺はノートを開いた。

 

 次のページ。

 

 バンッ!

 

「さ!」

 

 ペンを握る。

 

「さっさと次の実験開始だ!」

 

 反省終了。

 

 次の標的を。

 

 探すことにした。

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