俺を馬鹿にしてくる女全員の好感度が100%なのだが――よし、下げてみよう 作:冷凍シャケ
放課後。
姫川に呼び止められた。
場所は、人気のない校舎裏。
俺と姫川の、二人だけだった。
「……須加」
「何」
姫川は俺を見なかった。
いつもの笑顔もない。
「もう、関わんないで」
「…………」
「ウチさ」
少しだけ間が空く。
「須加は違うと思ってた」
それだけで。
何を言いたいのかは分かった。
ギャルだから。
遊んでそうだから。
男慣れしてそうだから。
周りは勝手に姫川莉愛を決める。
でも。
俺だけは違うと思っていた。
「普通に接してくれてると思ってたんだけどな……」
「馬鹿言うな」
姫川が顔を上げる。
「誰も本当のお前なんて理解してねぇよ」
「…………」
「俺だってそうだ」
「人間なんて都合のいい生き物だ。見たいものを見るし、信じたいものを信じる。」
「事実だって、自分の都合のいいように書き換える。」
「多分、これからもずっとそうだ」
姫川は何も言わない。
「普通の人間として接してた?」
俺は鼻で笑った。
「俺だって俺の都合でお前を見てただけだ」
俺を見つければ寄ってくる。
馬鹿にする。
笑う。
勝手にパンを食おうとする。
「俺を馬鹿にしてくる、自己肯定感低めの腹立つ女」
「…………」
「それくらいにしか思ってねぇよ」
姫川の目が僅かに揺れた。
「だから勝手に俺に期待して、勝手に苦しむな」
「俺は、お前が思っているほど、まともな奴じゃない。」
「ここで、はい分かりました。と言うほど俺は単純じゃないんだよ」
姫川を見る。
「お前が良くても、俺は嫌なんだよ。ここでテキトーに終わらせるのは」
「…………」
「何言われてもどうでもいいみたいな顔して
全部投げるのは違うだろ」
俺の生き方に反する。
誰も自分を理解しないから。
何を言っても無駄だから。
「本気でそんな人生を歩きたいなら、そうすればいい。」
「けど」
一歩だけ近づく。
「他人にやられっぱなしで、一人で勝手に終わるな」
「…………」
「くだらねぇ噂流すような連中のために、お前が人生棒に振る必要なんかない」
長い沈黙。
風だけが吹いた。
「……ほんと」
姫川が小さく呟く。
「自分勝手じゃん」
「知ってる」
俺は背を向けた。
「だから俺は勝手に動く」
「…………」
「嫌なら意地でも止めろよ」
一歩。
「それか」
もう一歩。
「さっさと自分で、この騒動を終わらせるんだな」
返事はなかった。
俺も。
それ以上は何も言わなかった。
◇
とは言ったものの。
まだ足りない。
元の写真は見つかった。
切り取られていたことも分かった。
だが。
誰が切り取ったのか。
誰が悪意を持って広めたのか。
その証拠までは掴めていない。
「……森か」
昨日の聞き込みで。
かなり早い段階から画像を持っていたことまでは分かっている。
二組の男子。
森。
ただし。
画像を回していた。
それだけだ。
本人が加工した証拠はない。
誰かから送られてきただけかもしれない。
決めつけるわけにはいかない。
「直接聞くしかないか」
【好感度:9%】
「低っ」
普通に聞いても。
多分、喋らない。
「…………」
そういえば。
こいつ。
猫好きだったな。
「よし」
◇
十五分後。
「森いいいいいいいい!!」
「は!?」
俺は廊下を全力疾走していた。
その後ろから。
「ニャー!」
「ミャア!」
「ニャーン!」
「フシャアアア!!」
猫。
猫。
猫。
猫。
猫。
大量の猫。
「お前、猫好きだろ」
「だからってこんなに要らねえええええ!!」
森が叫ぶ。
「何でこんな集めてきたんだよ!」
「途中で好感度高い猫に餌やってたら増えた」
「意味分かんねえよ!」
猫たちが俺の周りに集まってくる。
「ニャー」
「ニャア」
「ミャー」
「…………」
森が。
ふと。
動きを止めた。
「…………」
「どうした」
「いや」
森が猫の群れを見る。
「…………」
猫。
猫。
猫。
猫。
「…………」
その中に。
ちょこん。
「…………」
一人。
猫の格好をしたおじさんが座っていた。
「誰だああああああああ!?」
森が絶叫する。
「なんで猫に紛れてんだ!!」
「ニャー!」
猫が鳴く。
「ニャアアアアアアアアアアアア!!」
おじさんも鳴いた。
「お前だけ声量おかしいんだよ!!」
「…………」
「ニャー」
「ニャアアアアアア!!」
「だからうるせえ!!」
森が俺を見る。
「猫だけでいいんだよ!」
「こいつも猫じゃん」
「いや、猫だけど猫じゃないんだよ!!」
「?」
「見りゃ分かるだろ!!」
「けど、ほら」
おじさんを見る。
おじさんは。
無言で。
自分の腕をぺろぺろ舐めていた。
「毛繕いしてるよ」
「いや猫がレオタード着ねぇだろうが!!」
「…………」
「あとなんで片手に魔法のステッキ持ってんだよ!」
「…………」
「どこの魔法少女だ!!」
俺は。
おじさんの頭上を見る。
【好感度:123%】
「…………」
「何だよ」
「好かれてる」
「どうでもいいわ!!」
森が叫ぶ。
「ていうか、こんなやつどこで見つけたんだよお前!」
「ある部屋で出会ったんだよ」
「ある部屋?」
「ああ」
◇
回想。
薄暗い部屋。
猫耳。
レオタード。
魔法のステッキ。
そして。
「ニャアアアアアアア!!」
パァン!
鞭の音。
「ニャアアアアアアアア!!」
女性に鞭で叩かれながら。
満面の笑みを浮かべる猫おじさん。
◇
「女性に虐待されていてね」
「いや、明らかに魔法猫少女プレイ楽しんでるだろコイツ!!」
「だから保護した」
「保護すんな!!」
「けど」
俺は続ける。
「飴をあげたらついてきたよ」
「飴?」
◇
回想。
「…………」
俺は飴を一つ取り出す。
そして。
投げた。
バシッ!!
「ニャアアアアアアアアア!!」
額に直撃。
【好感度:89%】
もう一個。
バシッ!!
「ニャアアアアアア!!」
【好感度:105%】
さらに。
バシッ!!
「ニャアアアアアアアアア!!」
【好感度:123%】
◇
「それからずっとついてきてる」
「いや、飴で鞭与えられて喜んでるじゃねぇか馬鹿!!」
「飴だぞ」
「投げ方が鞭なんだよ!!」
おじさんが。
すっ。
立ち上がった。
「…………」
森を見る。
「…………」
「おい」
一歩。
「無言で近寄ってくんな!!」
一歩。
「おい!」
一歩。
「どうにかしろ! 須加!!」
「?」
「何でそこで首傾げんだよ!」
森が逃げる。
「うわああああああ!?」
おじさんも追う。
「ニャアアアアアアアア!!」
「付いてくるなああああああ!!」
「ニャアアアアアア!!」
「須加あああああ!!」
「…………」
「分かった!」
森が叫ぶ。
「言う! 言うから!」
おじさんがさらに距離を詰める。
「コイツどうにかしてくれええええええ!!」
◇
「で?」
「…………お前マジで最悪だな」
【好感度:4%】
森が息を切らしながら俺を見る。
「……写真のことだろ」
「ああ」
「…………」
少し黙って。
森はスマホを取り出した。
画面には、元画像・加工した画像・送信履歴。
全部残っていた。
「これ、俺に送れ」
「…………」
「猫」
「送る! 送るから呼ぶな!」
◇
結果。
当たりだった。
森自身が写真を撮ったわけではない。
だが。
元画像を手に入れ。
姫川と男だけが写るように切り抜いた。
そして。
『これパパ活じゃね?』
と面白半分で流した。
そのやり取りも残っていた。
『それっぽく切ったらパパ活にしか見えなくて草』
「…………」
これで繋がった。
元画像。
加工した画像。
投稿日時。
メッセージ。
全部揃った。
「これで十分か」
前なら。
俺がそのまま教師に出していただろう。
実際。
昨日はそうした。
本人が放っておいてくれと言ったのに。
勝手に調べて。
勝手に人に話して。
正しいことをしているつもりで。
姫川の気持ちなんて、一度も聞かなかった。
「…………」
勝手に動くとは言った。
だが、勝手に終わらせるとは言ってない。
証拠をどうするかは、俺が決めることじゃない。
「橘」
「何?」
「頼みがある」
「嫌」
「まだ内容言ってない」
「須加の頼み事って大体ロクでもないもの」
「これ、姫川に渡して」
証拠を渡す。
橘が中を見る。
「……自分で渡せば?」
「俺から渡したら捨てる」
「でしょうね」
「だから頼む」
「…………」
橘は受け取った。
その時。
ふと。
頭上を見る。
【好感度:18%】
「…………」
あれ??
「何?」
「いや」
また増えてる
「何その顔。キモい」
「気のせいだ」
「?」
「頼んだ」
「はいはい」
今は。
それどころじゃない。
◇
翌日。
姫川は自分から教師に話した。
「写真は切り抜きです」
元画像。
加工した画像。
投稿の記録。
証拠を見せる。
「一緒にいた人は親戚」
そこで。
姫川は言葉を切った。
「封筒の中身も家のことなんで、それ以上は話しません」
教師は少し黙って。
「分かった」
とだけ答えた。
全部話す必要なんてない。
どこまで話すか。
それは姫川が決めればいい。
その日のうちに、森は教師に呼ばれた。
その後どうなったかは知らない。
俺が決めることでもない。
◇
教師への説明を終えたあと、姫川は自分の口で、クラスにも話した。
「莉愛、ごめん!」
「ウチらも勝手に信じちゃって――」
「んー」
姫川が少し困ったように笑う。
「次から本人に聞いてよ」
「……うん」
「あと」
姫川が言う。
「ウチがギャルだからって何でもやってそうな扱いすんの、普通にダルいから」
「ごめん」
「分かればよし!」
笑う。
少しずつ。
いつもの姫川に戻っていた。
「姫川、スカート」
「先生それ今言う!? いい感じだったじゃん!」
「校則は校則だ!」
「マジ空気読めなさすぎっしょ!」
「直せ!」
「はいはい!」
「返事!」
「細かっ!」
「…………」
元気だな。
よかった。
俺は。
姫川の数字を見なかった。
見る必要もない。
完全に嫌われた。
それで終わりだ。
「…………」
これ以上。
馬鹿にされることもないだろう。
性格最悪だからな、俺。
少しだけ。
胸の奥が重い。
「あいつには……悪いことしたな」
まあ。
俺の性格じゃ。
どうしようもない部分もある。
「…………」
もうこんなこと。
やめたいんだけど……。
俺はノートを開いた。
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バンッ!
「さ!」
ペンを握る。
「さっさと次の実験開始だ!」
反省終了。
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