俺だけレベルアップな件 × 名探偵コナン 【 水篠旬は、米花町へと迷い込む 】   作:冷凍シャケ

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第十三話 呼ばれずとも、彼は来る

 

 

夏祭りの一件から数日。

 

水篠旬には、相変わらずシステムからクエストが与えられていた。

 

小さな盗難、失踪騒ぎ、偶然別の犯罪へ繋がった依頼。事件の内容こそ違っても、やることはほとんど変わらない。システムが赤く示した手掛かりを見つけ、それを不自然にならないよう警察や探偵たちへ知らせる。

 

そして、そうして手に入れたランダムボックスの中身も相変わらずだった。

 

『破れたメモ帳』

 

『古びたキーホルダー』

 

『片方だけの靴下』

 

「……」

 

旬は最後の一つを見て、無言のままインベントリへ放り込んだ。

 

『帰還の羅針盤』に必要なのは、『次元の残滓』『虚無の涙』『星屑の核』『時の砂』『安定化マナ結晶』の五つ。

 

レシピは完成している。それなのに、肝心の素材は一つとして出てこない。

 

(素材が出る条件が、別にあるのか……?)

 

今のところ答えはない。

 

しかも、クエストの失敗回数は【2/3】のまま。一度成功したところで数字が消えないことも既に確認済みだ。

 

つまり。

 

次に失敗すれば、ペナルティが発生する。

 

そんな状況の中で、旬を取り巻く人間たちの視線も少しずつ変わり始めていた。

 

警察は、事件現場で何度も重要な証拠を見つける旬を明らかに意識している。コナンはもう『偶然』だとは思っていない。安室透や沖矢昴も、おそらくこちらの素性を調べている。

 

そしてもう一人。

 

特に分かりやすく旬へ興味を示している人物がいた。

 

世良真純だった。

 

 

都内のホテルで小規模な窃盗事件が発生した日。

 

クエストに従って現場を訪れた旬は、ロビーを歩いている途中で聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

「あれ? やっぱりシュンさんじゃないか!」

 

振り返ると、世良が軽い足取りで近づいてくる。

 

「また会ったな。こんなホテルで何してるんだ?」

 

「用事だ」

 

「へえ、用事ねえ」

 

世良は笑っている。

 

だが、その瞳は旬の立ち方から視線の動きまで、細かく観察していた。

 

「シュンさんってさ、行く先々で事件が起きるよな」

 

「偶然だろ」

 

「毎回?」

 

「そういうこともある」

 

あまりにも平然と返され、世良は少しだけ口元を引きつらせた。

 

「……コナン君と同じくらい、偶然に好かれてるみたいだな」

 

旬は答えない。

 

そのまま横を通り過ぎようとした瞬間、世良が僅かに身体を傾けた。

 

足を滑らせたように見せかけて、肩から旬へぶつかる。

 

だが、旬は避けることさえしなかった。

 

ほんの僅かに重心を動かしただけで衝撃を逃がし、その場から一歩も動かない。

 

「あ、ごめん!」

 

世良はすぐに身体を離した。

 

旬が一度だけ彼女を見る。

 

「気をつけろ」

 

それだけ言い、再び歩き始めた。

 

世良はその背中を見送りながら、目を細める。

 

(やっぱりな……。全然軸がブレなかった。格闘技をやってるって程度じゃないぞ)

 

その直後、ホテル内で事件が発覚した。

 

客室から重要な書類が盗まれ、室内には僅かな争った跡が残っている。

 

ただ、この事件そのものは長引かなかった。

 

現場へ来ていたコナンが状況を調べ、警察が関係者への聞き込みを進める中、旬は被害に遭った部屋の入口近くにある換気口へ赤い光を見つけた。

 

格子に引っ掛かった、細い繊維片。

 

犯人の衣服から落ちたものらしい。

 

旬は直接警察へ伝えず、近くにいたコナンとすれ違う際、ほんの一瞬だけ換気口へ目を向けた。

 

それだけで。

 

コナンは気づいた。

 

(……上?)

 

旬の視線を追い、換気口を見る。

 

やがて繊維片が発見され、犯人の逃走経路と服装が判明。ホテルの防犯映像や関係者の証言と合わせ、犯人は間もなく特定された。

 

――ピコン。

 

『クエスト成功』

 

旬は表示だけを確認すると、人知れずホテルを後にした。

 

その背中を。

 

二人の探偵が見送っていた。

 

「見たよな、コナン君」

 

世良が声を潜める。

 

「うん」

 

「あの人、換気口に何かあるって分かってた」

 

コナンも否定しなかった。

 

「僕に気づかせるみたいに見てた」

 

「なのに、自分じゃ何も言わないんだよな」

 

世良は腕を組む。

 

「それに、さっきちょっと試してみたけど……やっぱり普通じゃないぜ。ほとんど動いてないのに、全然体勢が崩れなかった」

 

「世良姉ちゃん、何やってるの……」

 

「確かめただけだよ」

 

悪びれない。

 

「それよりコナン君。アンタもあの人のこと、かなり調べてるんだろ?」

 

「え?」

 

「顔に書いてある」

 

「……」

 

誤魔化そうとしたが、世良相手では難しい。

 

「まあいいや」

 

世良はニッと笑った。

 

「ボクももう少し調べてみる。どっちが先に正体を掴むか勝負だな!」

 

「一人で無茶しない方がいいよ」

 

コナンが少し真面目な顔で言う。

 

世良は一瞬だけ目を瞬かせた。

 

「……そんなに危ないのか?」

 

「分からない」

 

それが。

 

今のコナンに言える全てだった。

 

危険なのかどうかすら。

 

まだ。

 

分からない。

 

 

さらに数日後。

 

旬はホテルの部屋で、『帰還の羅針盤』のレシピを確認していた。

 

結局、あのホテルで手に入れたランダムボックスもハズレだった。

 

必要素材は五つとも未入手。

 

他に手掛かりもない。

 

旬がレシピを閉じようとした、その時。

 

ふと。

 

意識の奥に、違和感が走った。

 

「……?」

 

声ではない。

 

言葉でもない。

 

旬が顔を上げる。

 

自分の影と繋がる無数の感覚。

 

その一つが。

 

普段とは違う動きを見せている。

 

場所。

 

距離。

 

そして。

 

影兵士が護衛対象の近くで、明確に警戒状態へ入ったことが旬にも伝わってきた。

 

旬は目を閉じ、意識を集中する。

 

この世界へ来てから。

 

旬は少年探偵団の子供たちの影へ、気づかれないよう数体の影兵士を潜ませていた。

 

監視するためではない。

 

あの子供たちは。

 

あまりにも事件へ巻き込まれすぎる。

 

本人たちが自分から危険へ近づいている場合も多い。

 

特に。

 

江戸川コナン。

 

そして灰原哀。

 

二人は普通の小学生ではない。

 

だからこそ。

 

命に関わる事態へ踏み込む可能性も高かった。

 

念のため。

 

それだけのつもりで配置した影だった。

 

だが今。

 

そのうちの一体が。

 

明らかな異常を知らせている。

 

言葉はない。

 

ただ。

 

護衛対象の近くに複数の敵意ある人間がいる。

 

それだけで十分だった。

 

旬は立ち上がる。

 

「……また何かやってるのか」

 

ほぼ同時に。

 

――ピコン。

 

システムウィンドウが表示された。

 

『緊急クエストが発生しました』

 

【廃墟に潜む危険の真相を追え】

 

『少年探偵団が遭遇した事件の真相解明に貢献してください』

 

報酬:ランダムボックス×1

 

旬は表示を最後まで読むことなく、部屋を出た。

 

今回は。

 

クエストがなくても向かっていた。

 

 

「だから言っただろ。勝手に入るなって!」

 

薄暗い廃ビルの一室。

 

コナンは声を潜めながら、元太たちを睨んでいた。

 

「だって、お化けが出るって聞いたからよ……」

 

「本当にいるか確かめたかったんです」

 

「ごめんね、コナン君……」

 

元太、光彦、歩美が揃って小さくなる。

 

灰原は壁に背を預けながら、呆れたように息を吐いた。

 

「お化けだったら、まだ良かったわね」

 

廊下の向こうから、男たちの声が聞こえている。

 

この廃ビルを根城にしていたらしい数人の男。

 

周囲には大量の段ボールや家電、時計、バッグなどが積まれており、どう見ても普通の保管品ではない。

 

おそらく盗品。

 

子供たちは偶然それを発見し、さらに男たちが戻ってきたため、現在は物陰に身を隠していた。

 

外で待っている阿笠博士には既に連絡を入れてある。警察も向かっているはずだ。

 

問題は。

 

それまで見つからずにいられるかどうか。

 

「おい」

 

廊下から低い声がした。

 

「今、何か聞こえなかったか?」

 

全員が息を止める。

 

足音が近づく。

 

コナンは腕時計型麻酔銃へ手を伸ばした。

 

一人ならどうにかなる。

 

だが相手は複数。

 

後ろには元太たちもいる。

 

(どうする……)

 

足音が。

 

さらに近づいてきた。

 

その時だった。

 

コナンの背後に。

 

いつの間にか。

 

人影が立っていた。

 

「……!」

 

振り返ったコナンが目を見開く。

 

灰原も驚きに息を呑んだ。

 

暗闇の中。

 

黒い服。

 

水篠旬だった。

 

「シュン兄ちゃん……!」

 

歩美が思わず声を上げそうになる。

 

旬が静かに唇の前へ指を立てた。

 

「静かに」

 

それだけで。

 

三人とも口を閉じる。

 

コナンは信じられないものを見るように旬を見上げた。

 

(なんで……)

 

誰も。

 

旬には連絡していない。

 

博士ですら。

 

自分たちがこの建物のどの部屋に隠れているか、正確には知らない。

 

それなのに。

 

旬は。

 

一直線にここまで来た。

 

「どうしてここが分かったの?」

 

コナンが小声で尋ねる。

 

旬は。

 

いつものように。

 

ありふれた答えを返した。

 

「近くにいた」

 

「近くって……」

 

「今は黙ってろ」

 

そこで会話は終わった。

 

コナンは納得していない。

 

だが。

 

確かに今は。

 

追及している場合ではなかった。

 

旬は男たちのいる方向を確認する。

 

子供たちを連れて脱出するだけなら簡単だ。

 

その気になれば。

 

外にいる男たちを全員倒すことも。

 

数秒で済む。

 

だが。

 

クエストには。

 

『真相解明に貢献せよ』

 

そう書かれている。

 

旬は視線を動かした。

 

そして。

 

積み上がった段ボールの下。

 

古い木箱の側面に。

 

淡い赤色を見つける。

 

布の切れ端。

 

特徴的な柄。

 

この男たちと。

 

最近周辺で起きている連続空き巣事件を繋ぐ証拠らしい。

 

(あれか)

 

旬は隣のコナンを見る。

 

少し伝えれば。

 

この少年なら十分だ。

 

「ダンボールの下」

 

「え?」

 

「一番下の木箱。布がある」

 

コナンの目つきが変わった。

 

「……!」

 

なぜ旬に分かったのか。

 

今は後回し。

 

言われた方向へ視線を向ける。

 

確かに。

 

段ボールの隙間から。

 

僅かに布が覗いていた。

 

その時。

 

「誰だ!」

 

男の一人が。

 

こちらへ気づいた。

 

「ガキがいるぞ!」

 

三人の男が一斉に動く。

 

「下がってろ」

 

旬が子供たちの前へ出る。

 

「何だ、てめえ!」

 

一人が旬へ殴りかかる。

 

だが。

 

コナンには。

 

旬が何をしたのか。

 

ほとんど見えなかった。

 

僅かに身体を動かしただけ。

 

それなのに。

 

次の瞬間には。

 

男が床へ倒れていた。

 

「……は?」

 

残った二人が固まる。

 

旬が静かに二人を見る。

 

「子供相手に何してる」

 

低い声。

 

その瞬間。

 

灰原は。

 

あの夜道を思い出した。

 

あの時と同じ。

 

旬は何もしていない。

 

ただ。

 

そこに立っているだけ。

 

なのに。

 

空気そのものが。

 

冷たくなる。

 

男たちの顔から。

 

余裕が消えた。

 

その直後。

 

外からサイレンの音が聞こえた。

 

「警察だ!」

 

一人が逃げようとする。

 

その足元へ。

 

消火器が飛んできた。

 

コナンだった。

 

キック力増強シューズで蹴り飛ばされた消火器が男の足元へ直撃し、派手に転倒させる。

 

最後の一人が逃げようとしたところへ。

 

警察官たちがなだれ込んできた。

 

「動くな!」

 

間もなく。

 

全員が取り押さえられた。

 

その後。

 

倉庫内の盗品。

 

防犯映像。

 

旬が示した布片。

 

複数の証拠から。

 

男たちが近隣で続いていた連続空き巣事件にも関与していることが判明した。

 

――ピコン。

 

『クエスト成功』

 

旬は表示を確認し。

 

静かに閉じた。

 

今回は。

 

間に合った。

 

 

廃ビルの外。

 

元太、光彦、歩美の三人は。

 

阿笠博士から盛大に叱られていた。

 

「まったく! 危険な場所へ勝手に入ってはいかんと、何度言えば分かるんじゃ!」

 

「ごめんなさーい……」

 

三人の声が揃う。

 

その一方で。

 

コナンと灰原は。

 

少し離れたところに立つ旬を見ていた。

 

「水篠さん!」

 

歩美が旬へ駆け寄る。

 

「助けてくれてありがとう!」

 

「シュン兄ちゃん、やっぱ強えな!」

 

「本当に助かりました!」

 

元太と光彦も続く。

 

旬は。

 

少しだけ困ったように三人を眺めた。

 

「次からは、ああいう場所に入るな」

 

「はーい……」

 

いつもほとんど何も言わない旬から注意されたせいか。

 

三人とも珍しく素直に頷いた。

 

やがて。

 

旬が歩き出す。

 

その後ろ姿を見ながら。

 

コナンが口を開いた。

 

「……どうやって分かったんだ?」

 

「何が?」

 

灰原が尋ねる。

 

「俺たちがあの部屋にいること」

 

「近くにいた。そう言ってたじゃない」

 

「信じてる?」

 

灰原は。

 

少しだけ間を置いた。

 

「まさか」

 

「だよな」

 

コナンも苦笑した。

 

偶然ではない。

 

旬は。

 

自分たちが危険に陥ったことを知っていた。

 

それだけではない。

 

建物の中で。

 

自分たちが隠れていた場所まで。

 

正確に分かっていた。

 

そして。

 

暗い部屋の中。

 

誰にも気づかれなかった布片まで。

 

最初から知っているように指し示した。

 

分からないことは。

 

また増えた。

 

それでも。

 

一つだけ。

 

以前より確かなものもある。

 

水篠旬は。

 

少なくとも。

 

自分たちを助けるために。

 

あの場所へ来た。

 

灰原も。

 

去っていく旬を見ながら。

 

同じことを考えていた。

 

何者なのかは。

 

分からない。

 

どこから来たのかも。

 

何を目的にしているのかも。

 

何一つ。

 

けれど。

 

自分たちが危険な時。

 

あの男は。

 

現れる。

 

それだけは。

 

少しずつ。

 

疑いではなく。

 

事実になり始めていた。

 

 

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