俺だけレベルアップな件 × 名探偵コナン 【 水篠旬は、米花町へと迷い込む 】   作:冷凍シャケ

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第十七話 刑事の疑念

ある組織犯罪に関する重要な証言を控えた男性が、警察の厳重な保護下に置かれていた。

 

安全確保のため、彼は都内のホテルの一室に滞在し、複数の警察官が交代で警護に当たっている。

 

その担当者の一人が、高木渉刑事だった。

 

ホテルのフロアそのものも警察によって監視され、一般客が自由に出入りできる状態ではない。

 

万全を期した警護体制。

 

そのはずだった。

 

だが。

 

その証人を狙う者たちは、既に動き始めていた。

 

     ◇

 

同じ頃。

 

ホテルの一室で、水篠旬は『帰還の羅針盤』のレシピを眺めていた。

 

必要な素材は五つ。

 

そのうち手に入っているのは、未だ『次元の残滓』だけ。

 

『虚無の涙』

 

『星屑の核』

 

『時の砂』

 

『安定化マナ結晶』

 

残る四つについては、手掛かりすら掴めていない。

 

クエストを成功させ。

 

ランダムボックスを手に入れる。

 

今のところ。

 

それ以外に方法はなかった。

 

旬がレシピを閉じた。

 

その時だった。

 

――ピコン。

 

聞き慣れた電子音。

 

青白いウィンドウが開く。

 

『緊急クエストが発生しました』

 

【狙われた証人を守り、襲撃者の真相を追え】

 

『警察の保護下にある証人への襲撃を阻止、あるいは襲撃犯及びその黒幕の真相解明に貢献してください』

 

報酬:ランダムボックス×1

 

失敗条件:

 

・事件解決前に現場を離脱する。

 

・真相解明への直接的な貢献が認められない。

 

旬は表示を見つめた。

 

(……証人への襲撃? 警察の保護下で、か)

 

面倒な気配がする。

 

だが。

 

クエストを無視するという選択肢はない。

 

旬はシステムが示した場所を確認し、すぐにホテルを出た。

 

     ◇

 

現場となるホテルへ到着した時には。

 

既に空気が変わっていた。

 

ロビーでは警察官たちが慌ただしく動き。

 

一部のエレベーターも封鎖されている。

 

どうやら。

 

襲撃は既に始まっている。

 

旬はフロア表示を見る。

 

証人がいる階は。

 

当然。

 

一般人が簡単に入れる場所ではなかった。

 

警察官がエレベーター前に立ち。

 

階段側にも人員が配置されている。

 

旬は僅かに目を細めた。

 

「隠密」

 

小さく呟く。

 

瞬間。

 

旬の姿と気配が周囲から消えた。

 

警備の警察官たちの横を抜け。

 

旬はそのまま証人がいるフロアへ向かう。

 

そして。

 

廊下へ出た瞬間。

 

大きな音が響いた。

 

ガンッ!

 

ドアが。

 

外側から蹴破られようとしている。

 

証人がいる部屋。

 

その前には。

 

覆面をした男が一人。

 

既にドアの一部が破損し。

 

男はそこから無理やり室内へ押し入ろうとしている。

 

中から。

 

証人の悲鳴。

 

そして。

 

高木刑事の声が聞こえた。

 

「くっ……来るな!」

 

高木が必死にドアを押さえている。

 

だが。

 

相手は素人ではない。

 

力任せに押しているだけではなく。

 

高木の抵抗を崩すように、身体の使い方を変えている。

 

(間に合ったか……!)

 

旬は隠密を解除せず。

 

廊下の陰から状況を見る。

 

他の警官が応援に駆けつけるまで。

 

まだ少し時間がある。

 

ここで証人が殺されれば。

 

当然。

 

クエストどころではない。

 

旬が。

 

僅かに指を動かした。

 

支配者の権能。

 

目には見えない力が。

 

男の腕へ作用する。

 

ドアノブを掴んでいた手が。

 

突然。

 

横へ弾かれた。

 

「なっ!?」

 

男の身体が崩れる。

 

同時に。

 

室内で高木が咄嗟にサイドテーブルを蹴り出した。

 

そのテーブルへ。

 

旬が僅かに力を加える。

 

本来なら横へ逸れていたはずのそれが。

 

不自然なほど正確に。

 

男の足元へ滑り込んだ。

 

「ぐっ!?」

 

男が転倒する。

 

「今だ!」

 

高木が飛び出し。

 

そのまま男へ組み付いた。

 

直後。

 

廊下の奥から。

 

複数の警察官が駆けてくる。

 

「高木君!」

 

佐藤美和子だった。

 

さらに数人の警察官が加わり。

 

襲撃犯は。

 

その場で取り押さえられた。

 

「高木君、大丈夫!?」

 

「は、はい! なんとか……今、犯人が急にバランスを崩して……」

 

高木自身。

 

何が起こったのか理解できていない。

 

その少し離れた場所で。

 

旬は隠密を解除した。

 

そして。

 

最初に気づいたのは。

 

佐藤だった。

 

「水篠さん!」

 

鋭い声。

 

旬が視線を向ける。

 

佐藤の表情には。

 

これまでとは明らかに違う。

 

強い疑念が浮かんでいた。

 

「あなた、また現場に……! 今、ここで何があったか見ていたの!? いいえ、それだけじゃない……今、何かしたでしょう!? どうしていつも、こんな重大事件の現場に、こうも都合よく現れるの!? あなた、一体何者なの! 答えなさい!」

 

廊下に。

 

一瞬。

 

静寂が落ちる。

 

並の人間なら。

 

思わず後退したかもしれない。

 

だが。

 

旬は表情一つ変えなかった。

 

「……偶然だ。騒ぎを聞きつけて、来てみただけだ」

 

「偶然ですって!? これが何度目だと思っているの!?」

 

「さあな。数えたことはない」

 

「あなた……!」

 

佐藤が一歩前へ出る。

 

「ま、まあまあ佐藤さん、今は犯人の確保が……」

 

高木が困ったように間へ入った。

 

佐藤は。

 

まだ何か言いたそうだった。

 

しかし。

 

今は確保した襲撃犯。

 

そして。

 

保護対象である証人の安全確認が先だった。

 

     ◇

 

ほどなくして。

 

目暮警部もホテルへ到着した。

 

そして。

 

その少し後。

 

毛利小五郎。

 

毛利蘭。

 

江戸川コナンも姿を見せる。

 

今回保護されていた証人の男性は。

 

以前。

 

別件で小五郎へ調査を依頼したことがあった。

 

その際に小五郎が確認した人物関係の一部が。

 

今回警察が追っている組織犯罪とも繋がっている可能性があり。

 

目暮から事情確認のため呼ばれていたのである。

 

「水篠さん……?」

 

廊下へ出たコナンが。

 

旬の姿を見つける。

 

そして。

 

すぐに。

 

佐藤の空気が普段と違うことにも気づいた。

 

「それで」

 

佐藤が再び旬を見る。

 

「あなたは本当に、偶然ここへ?」

 

「ああ」

 

「警察が警備しているこのフロアへ、どうやって?」

 

旬は僅かに間を置く。

 

「普通に来た」

 

佐藤の眉が動く。

 

「普通に入れる場所じゃないんだけど」

 

「通れた」

 

「……」

 

それ以上。

 

旬は説明しない。

 

コナンは。

 

少し離れたところから二人を見ていた。

 

(佐藤刑事……俺が聞きたかったことを、全部ぶつけてる。でも……やっぱりダメか。この人は、どんな追及も平然とかわしちまう……)

 

そして。

 

もう一つ。

 

コナンには気になることがあった。

 

高木から聞いた。

 

犯人が。

 

突然。

 

不自然にバランスを崩したこと。

 

宝石店の時。

 

拳銃が。

 

不自然な方向へ逸れた。

 

あの時と。

 

よく似ている。

 

コナンの視線が。

 

旬へ向く。

 

だが。

 

当然。

 

旬は何も答えない。

 

     ◇

 

襲撃犯は確保された。

 

しかし。

 

事件は終わっていなかった。

 

重要証人を。

 

警察の警護が付いたホテルまで襲撃する。

 

あまりにも大胆だ。

 

男一人の独断とは考えにくい。

 

背後に。

 

指示した人間。

 

あるいは。

 

同じ組織の仲間がいる可能性が高い。

 

警察は。

 

男の所持品。

 

ホテルまでの移動経路。

 

通信機器。

 

周辺の防犯映像。

 

順番に調べ始める。

 

コナンも。

 

当然のように周囲を観察していた。

 

旬も。

 

少し離れた場所から現場を見る。

 

佐藤の視線を。

 

背中に感じながら。

 

探すのは。

 

赤い光。

 

やがて。

 

それは見つかった。

 

男が転倒した場所。

 

壁際。

 

床の隅。

 

一本の。

 

煙草の吸い殻。

 

普通なら。

 

清掃の行き届いたホテルの廊下に落ちている時点で。

 

多少は不自然だ。

 

だが。

 

旬の目には。

 

それが淡く赤く光っていた。

 

(……あれか)

 

今度は。

 

迷わなかった。

 

佐藤が。

 

ちょうどすぐ近くにいる。

 

「……それで、あなたはこの事件について何か知っていることは?」

 

佐藤が問い詰める。

 

「いや、何もない。ただ……」

 

旬の視線が。

 

僅かに床へ向く。

 

「あそこに何か、落ちているようだが……刑事さん、あれは?」

 

「え?」

 

佐藤が振り返る。

 

床の隅。

 

煙草の吸い殻。

 

「これは……?」

 

佐藤は近づかず。

 

すぐ高木へ声をかけた。

 

「高木君」

 

「はい」

 

「鑑識に回して」

 

「分かりました」

 

高木が証拠袋へ回収する。

 

旬は。

 

それ以上何も言わない。

 

だが。

 

コナンは。

 

その一連の動きを見ていた。

 

(まただ)

 

やはり。

 

旬は最初から。

 

そこに何かあると分かっていた。

 

     ◇

 

煙草そのものは。

 

国内ではほとんど流通していない海外銘柄だった。

 

それだけなら。

 

珍しい煙草を吸う人間がいた。

 

ただそれだけで終わる。

 

だが。

 

鑑識による詳しい確認で。

 

フィルター部分から。

 

ごく微量の特殊な薬品成分が検出された。

 

それは以前。

 

警察が捜査していた犯罪グループの拠点から押収された薬品と。

 

同じ成分だった。

 

さらに。

 

煙草に残されていたDNA。

 

襲撃犯の携帯電話に残された通信記録。

 

ホテル周辺の防犯映像。

 

それらを辿った結果。

 

警察は。

 

襲撃犯が単独で動いていたのではないことを突き止める。

 

証人の証言を阻止するため。

 

組織側から派遣された実行役。

 

そして。

 

ホテルの外には。

 

襲撃後の逃走を支援する仲間まで待機していた。

 

警察は。

 

その人物も確保。

 

さらに通信記録から。

 

襲撃を指示した人物へと捜査線を伸ばしていった。

 

その瞬間。

 

旬の前へ。

 

システムウィンドウが現れる。

 

――ピコン。

 

『クエスト成功!』

 

『真相解明への貢献を確認しました』

 

報酬:

 

ランダムボックス×1

 

旬は表示を確認した。

 

「……では、私はこれで失礼する」

 

軽く会釈し。

 

その場を離れようとする。

 

「待ちなさい!」

 

佐藤の声。

 

旬は足を止めない。

 

そのまま廊下の向こうへ歩いていく。

 

「……必ず、あなたの正体を突き止めてみせるわ……」

 

佐藤は。

 

旬が消えた方向を睨んでいた。

 

その隣で。

 

高木が困ったように頬を掻く。

 

「でも佐藤さん……今回も、水篠さんのおかげで手掛かりが見つかったんですよね」

 

「分かってるわよ」

 

「だったら……」

 

「だから余計に気になるの」

 

佐藤は短く答えた。

 

何度も。

 

事件現場へ現れる。

 

毎回。

 

重要な手掛かりを見つける。

 

そして。

 

今日。

 

警察が警備していたはずのフロアへ。

 

いつの間にか入り込んでいた。

 

水篠旬。

 

助けられている。

 

それは事実。

 

だが。

 

だからといって。

 

何者か分からないままでいいわけではなかった。

 

少し離れたところで。

 

コナンも。

 

黙ってその背中を見ていた。

 

     ◇

 

ホテルへ戻った旬は。

 

インベントリから。

 

今回のランダムボックスを取り出した。

 

机の上へ置く。

 

「……」

 

狙うのは当然。

 

『帰還の羅針盤』の素材。

 

既に手に入れた。

 

『次元の残滓』

 

残りは。

 

『虚無の涙』

 

『星屑の核』

 

『時の砂』

 

『安定化マナ結晶』

 

四つ。

 

旬は箱を開けた。

 

――ピコン。

 

『アイテムを獲得しました』

 

表示を見る。

 

『曇ったサングラス』

 

「……」

 

旬は。

 

無言で。

 

手元に現れたサングラスを見る。

 

レンズは曇り。

 

特別な力も。

 

当然。

 

感じない。

 

詳細を開く。

 

『曇ったサングラス』

 

『視界がやや悪い。特別な効果はありません』

 

「……やはり、ハズレか」

 

旬はサングラスを。

 

インベントリへ戻した。

 

素材は。

 

一向に出ない。

 

『次元の残滓』を一つ手に入れて以降。

 

再び。

 

ガラクタばかりが続いている。

 

帰還への道は。

 

確かに存在している。

 

そのはずだ。

 

だが。

 

システムは。

 

本当に自分を。

 

元の世界へ帰すつもりがあるのか。

 

旬は。

 

完成したレシピを見つめる。

 

その胸の奥に。

 

ほんの僅か。

 

疑念と焦りが。

 

生まれ始めていた。

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