俺だけレベルアップな件 × 名探偵コナン 【 水篠旬は、米花町へと迷い込む 】   作:冷凍シャケ

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第二十一話 探偵の本音

その日の午後。

 

水篠旬の前に、システムウィンドウが現れた。

 

――ピコン。

 

『緊急クエストが発生しました』

 

【消えた証拠の真相を追え】

 

『都内で発生した窃盗事件に関与し、その真相解明に貢献してください』

 

報酬:ランダムボックス×1

 

失敗条件:(同上)

 

旬は表示された場所を確認する。

 

「……また事件か」

 

短く呟き。

 

ホテルを出た。

 

◇

 

現場は、米花町にある小さな事務所だった。

 

事務所内から高額な現金が盗まれ。

 

その時間帯に建物へ出入りした人物も限られている。

 

既に警察が到着しており。

 

高木刑事が関係者から事情を聞いていた。

 

そして。

 

なぜか。

 

毛利小五郎とコナンもいる。

 

「だから言ってるだろう!」

 

小五郎が腕を組む。

 

「これは内部の人間の犯行だ! 外から入った痕跡がないんだからな!」

 

「でも毛利さん、まだ決めつけるのは……」

 

高木が困ったように答える。

 

コナンはその横で。

 

室内を見回していた。

 

「ん?」

 

入口から入ってきた人物に気づく。

 

黒い服。

 

長身。

 

見間違えるはずがない。

 

「水篠さん……」

 

旬だった。

 

コナンの表情が僅かに変わる。

 

また。

 

事件現場に現れた。

 

旬もコナンに気づいたが。

 

特に何も言わない。

 

そのまま室内を見る。

 

「おい兄ちゃん」

 

小五郎が旬を見る。

 

「またあんたか。最近よく会うな」

 

「ええ…」

 

「事件のある場所ばっかりでな」

 

「偶然です」

 

「その偶然、何回目だよ……」

 

コナンが小さく呟いた。

 

旬は気にせず。

 

クエストの手掛かりを探す。

 

赤い光。

 

ほどなくして。

 

事務所の隅。

 

コピー機と壁の間に落ちている小さな金属片が、淡く赤く光っているのを見つけた。

 

何かの鍵の一部。

 

あるいは。

 

留め具のようにも見える。

 

旬は少し考え。

 

近くにいた高木へ声をかけた。

 

「高木刑事」

 

「はい?」

 

「コピー機の横だ」

 

「え?」

 

「あそこに何か落ちている」

 

高木が覗き込む。

 

「あっ……本当だ」

 

手袋をつけ。

 

金属片を拾う。

 

「これ……鍵の一部でしょうか?」

 

コナンがすぐに近づいた。

 

「見せて!」

 

「コナン君、触っちゃダメだよ」

 

「分かってるよ!」

 

コナンは金属片を凝視する。

 

そして。

 

何かに気づいた。

 

「これ……」

 

視線が。

 

事務所奥の棚へ向く。

 

そこには。

 

現金が盗まれた金庫が置かれていた。

 

「高木刑事! 金庫の鍵、もう一度調べて!」

 

「え?」

 

確認すると。

 

金庫の鍵穴内部に。

 

不自然な傷が残っていた。

 

さらに。

 

回収された金属片は。

 

事務所関係者の一人が所持していた特殊な工具の一部と一致した。

 

そこから捜査は一気に進んだ。

 

犯人は。

 

事務所の従業員の一人。

 

合鍵を使ったのではなく。

 

特殊な工具で金庫を開け。

 

外部犯による窃盗に見せかけていた。

 

◇

 

しばらくして。

 

小五郎が。

 

いつものように。

 

椅子へ座り込んだ。

 

「ん……?」

 

プシュッ。

 

コナンは物陰へ移動する。

 

そして。

 

蝶ネクタイ型変声機へ手を伸ばした。

 

『犯人は、外から侵入した人物ではありません』

 

高木が振り返る。

 

「毛利さん……!」

 

眠りの小五郎。

 

そこからは。

 

いつもの推理ショーだった。

 

金庫の傷。

 

工具の破損。

 

金属片。

 

そして。

 

犯人の供述。

 

全てが繋がる。

 

最後まで否定していた男も。

 

証拠を突きつけられ。

 

やがて観念した。

 

――ピコン。

 

『クエスト成功』

 

『真相解明への貢献を確認しました』

 

報酬:

 

ランダムボックス×1

 

旬は。

 

表示を確認する。

 

事件は終わった。

 

なら。

 

ここにいる理由もない。

 

旬は何も言わず。

 

その場を離れた。

 

◇

 

「ふわぁ……」

 

小五郎が目を覚ます。

 

「ん? 終わったのか?」

 

「はい」

 

高木が苦笑する。

 

「さすがでしたよ、毛利さん」

 

「そうかそうか!」

 

小五郎は満足そうに胸を張る。

 

「まあ、この名探偵にかかれば当然だ!」

 

高木も。

 

これから犯人の連行と書類仕事が残っている。

 

「それじゃあ僕も戻ります。毛利さん、ありがとうございました」

 

「ああ!また何かあったら呼びなさい」

 

「はは……」

 

高木が離れていく。

 

その間。

 

コナンは。

 

別の方向を見ていた。

 

旬の背中。

 

既に。

 

事件現場から離れようとしている。

 

「おじさん!」

 

「ん?」

 

「僕、ちょっとトイレ!」

 

「勝手に行ってこい!」

 

「うん!」

 

コナンは。

 

すぐに旬を追った。

 

◇

 

「水篠さん!」

 

旬が足を止める。

 

振り返る。

 

少し離れた場所。

 

人通りの少ない路地。

 

そこに。

 

コナンが一人で立っていた。

 

「……なんだ?」

 

「ちょっといいかな?」

 

コナンは。

 

努めて冷静に。

 

しかし。

 

強い意志を込めて話し始めた。

 

「……博士のことなんだ」

 

旬の目が僅かに動く。

 

「あの日、博士は見えない何かに刺されたって言ってる。でも、現場には傷一つなかった……それどころか、刺された場所の皮膚が、妙に新しくなってたんだ」

 

旬は何も言わない。

 

「それに、誰かが匿名で救急車を呼んでる」

 

コナンが。

 

旬を見る。

 

「……水篠さん。あんた、あの時近くにいなかったか? 何か、見てないか?」

 

旬は。

 

しばらく黙っていた。

 

「……俺は何も見ていない」

 

「じゃあ」

 

コナンの声が少し強くなる。

 

「なんでそんな言い方するんだ?」

 

旬は答えない。

 

「水篠さん」

 

コナンが一歩近づく。

 

「救急車を呼んだのは……あんたじゃないのか?」

 

短い沈黙。

 

やがて。

 

旬が答えた。

 

「……そうだ」

 

コナンの表情が変わる。

 

「俺が駆けつけた時には、博士は既に倒れていた。救急車を呼んだのは俺だ」

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

「……とぼけるな!」

 

コナンの声が鋭くなる。

 

「あんた、一体何者なんだ!?」

 

旬は黙ったまま。

 

コナンを見る。

 

「いつもいつも事件現場に現れて、僕らにしか分からないようなヒントを出して……!」

 

声が。

 

少しずつ強くなる。

 

「この前の廃工場だってそうだ! どうやって僕があそこに一人でいるって分かったんだ!? あの時の、人間離れした力は一体なんだ!?」

 

旬は。

 

何も答えない。

 

「あの商業施設でも、急に何かに気づいたみたいに走っていった!」

 

さらに。

 

博士。

 

灰原。

 

見えない何か。

 

全てが。

 

頭の中で繋がる。

 

「博士を襲った見えない奴の正体は!?」

 

コナンの拳が握られる。

 

「あんたが敵じゃないって灰原は言う!」

 

それでも。

 

疑問は。

 

消えない。

 

「俺だって……敵じゃないって信じたい!」

 

旬の目が僅かに動く。

 

「廃工場じゃ、実際に俺を助けてくれた! 博士だって……たぶん、あんたが助けたんだろ!」

 

コナンの声が。

 

さらに強くなる。

 

「でも、何も話さない! 何も分からない!」

 

一歩。

 

前へ出る。

 

「そんなあんたを、僕にどうやって信じろって言うんだ!」

 

静寂。

 

旬は。

 

その言葉を黙って聞いていた。

 

そして。

 

ゆっくりと。

 

コナンへ背を向けた。

 

「待てよ!」

 

旬が足を止める。

 

振り返らないまま。

 

言った。

 

「……まだ、話せることはない」

 

「またそれかよ……!」

 

「だが」

 

旬が。

 

ほんの少しだけ。

 

コナンの方へ顔を向ける。

 

その目が。

 

鋭く。

 

コナンを捉える。

 

「君が、その小さな体で大きな嘘を抱えているように」

 

「……!」

 

「君が本当のことを話せないように」

 

旬は。

 

静かに続けた。

 

「俺にも、話せないことがある」

 

「なっ……!?」

 

コナンは息を呑んだ。

 

心臓が。

 

一瞬。

 

大きく跳ねる。

 

この男は。

 

分かっている。

 

自分が。

 

ただの小学生ではないことを。

 

「どういう……意味だよ」

 

旬は。

 

答えない。

 

だが。

 

その沈黙が。

 

何より雄弁だった。

 

「……いつから」

 

コナンの声が僅かに低くなる。

 

「いつから気づいてた?」

 

旬は。

 

それにも答えなかった。

 

再び。

 

前を向く。

 

「だが」

 

足を止めたまま。

 

言う。

 

「俺は君たちの敵ではない」

 

コナンは。

 

黙って旬の背中を見る。

 

「……俺には、俺の目的がある」

 

「その目的ってやつに……!」

 

コナンが。

 

思わず声を上げる。

 

旬の足が止まる。

 

「俺や、博士や、蘭……俺の周りの奴らを『護る』ことも、入ってるのか……?」

 

一瞬。

 

沈黙。

 

旬は。

 

振り返らなかった。

 

「……それもある」

 

短い言葉。

 

そして。

 

続ける。

 

「だが、それだけではない」

 

旬は。

 

そのまま歩き出した。

 

コナンは。

 

追わなかった。

 

ただ。

 

その背中を見送る。

 

(俺の嘘を……知っていた……?)

 

いつから。

 

どこまで。

 

気づいている。

 

(だとしたら……)

 

今までの。

 

あのヒントも。

 

廃工場での救出も。

 

全て。

 

自分が。

 

普通の小学生ではないと。

 

分かった上で。

 

やっていたのか。

 

「君と同じように話せないことがある」

 

その言葉が。

 

頭から離れない。

 

旬の秘密は。

 

自分と同じくらい。

 

いや。

 

それ以上に。

 

重いものなのかもしれない。

 

敵ではない。

 

そう言い切った灰原。

 

そして。

 

旬自身も。

 

同じ言葉を口にした。

 

それでも。

 

まだ。

 

全てを信用することはできない。

 

ただ。

 

一つだけ。

 

以前とは違う。

 

水篠旬という存在は。

 

単純な「危険人物」ではない。

 

何かを隠し。

 

何かと戦い。

 

そして。

 

自分たちを。

 

護ろうとしている。

 

その理由だけが。

 

まだ。

 

分からなかった。

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