俺だけレベルアップな件 × 名探偵コナン 【 水篠旬は、米花町へと迷い込む 】 作:冷凍シャケ
その日の午後。
水篠旬の前に、システムウィンドウが現れた。
――ピコン。
『緊急クエストが発生しました』
【消えた証拠の真相を追え】
『都内で発生した窃盗事件に関与し、その真相解明に貢献してください』
報酬:ランダムボックス×1
失敗条件:(同上)
旬は表示された場所を確認する。
「……また事件か」
短く呟き。
ホテルを出た。
◇
現場は、米花町にある小さな事務所だった。
事務所内から高額な現金が盗まれ。
その時間帯に建物へ出入りした人物も限られている。
既に警察が到着しており。
高木刑事が関係者から事情を聞いていた。
そして。
なぜか。
毛利小五郎とコナンもいる。
「だから言ってるだろう!」
小五郎が腕を組む。
「これは内部の人間の犯行だ! 外から入った痕跡がないんだからな!」
「でも毛利さん、まだ決めつけるのは……」
高木が困ったように答える。
コナンはその横で。
室内を見回していた。
「ん?」
入口から入ってきた人物に気づく。
黒い服。
長身。
見間違えるはずがない。
「水篠さん……」
旬だった。
コナンの表情が僅かに変わる。
また。
事件現場に現れた。
旬もコナンに気づいたが。
特に何も言わない。
そのまま室内を見る。
「おい兄ちゃん」
小五郎が旬を見る。
「またあんたか。最近よく会うな」
「ええ…」
「事件のある場所ばっかりでな」
「偶然です」
「その偶然、何回目だよ……」
コナンが小さく呟いた。
旬は気にせず。
クエストの手掛かりを探す。
赤い光。
ほどなくして。
事務所の隅。
コピー機と壁の間に落ちている小さな金属片が、淡く赤く光っているのを見つけた。
何かの鍵の一部。
あるいは。
留め具のようにも見える。
旬は少し考え。
近くにいた高木へ声をかけた。
「高木刑事」
「はい?」
「コピー機の横だ」
「え?」
「あそこに何か落ちている」
高木が覗き込む。
「あっ……本当だ」
手袋をつけ。
金属片を拾う。
「これ……鍵の一部でしょうか?」
コナンがすぐに近づいた。
「見せて!」
「コナン君、触っちゃダメだよ」
「分かってるよ!」
コナンは金属片を凝視する。
そして。
何かに気づいた。
「これ……」
視線が。
事務所奥の棚へ向く。
そこには。
現金が盗まれた金庫が置かれていた。
「高木刑事! 金庫の鍵、もう一度調べて!」
「え?」
確認すると。
金庫の鍵穴内部に。
不自然な傷が残っていた。
さらに。
回収された金属片は。
事務所関係者の一人が所持していた特殊な工具の一部と一致した。
そこから捜査は一気に進んだ。
犯人は。
事務所の従業員の一人。
合鍵を使ったのではなく。
特殊な工具で金庫を開け。
外部犯による窃盗に見せかけていた。
◇
しばらくして。
小五郎が。
いつものように。
椅子へ座り込んだ。
「ん……?」
プシュッ。
コナンは物陰へ移動する。
そして。
蝶ネクタイ型変声機へ手を伸ばした。
『犯人は、外から侵入した人物ではありません』
高木が振り返る。
「毛利さん……!」
眠りの小五郎。
そこからは。
いつもの推理ショーだった。
金庫の傷。
工具の破損。
金属片。
そして。
犯人の供述。
全てが繋がる。
最後まで否定していた男も。
証拠を突きつけられ。
やがて観念した。
――ピコン。
『クエスト成功』
『真相解明への貢献を確認しました』
報酬:
ランダムボックス×1
旬は。
表示を確認する。
事件は終わった。
なら。
ここにいる理由もない。
旬は何も言わず。
その場を離れた。
◇
「ふわぁ……」
小五郎が目を覚ます。
「ん? 終わったのか?」
「はい」
高木が苦笑する。
「さすがでしたよ、毛利さん」
「そうかそうか!」
小五郎は満足そうに胸を張る。
「まあ、この名探偵にかかれば当然だ!」
高木も。
これから犯人の連行と書類仕事が残っている。
「それじゃあ僕も戻ります。毛利さん、ありがとうございました」
「ああ!また何かあったら呼びなさい」
「はは……」
高木が離れていく。
その間。
コナンは。
別の方向を見ていた。
旬の背中。
既に。
事件現場から離れようとしている。
「おじさん!」
「ん?」
「僕、ちょっとトイレ!」
「勝手に行ってこい!」
「うん!」
コナンは。
すぐに旬を追った。
◇
「水篠さん!」
旬が足を止める。
振り返る。
少し離れた場所。
人通りの少ない路地。
そこに。
コナンが一人で立っていた。
「……なんだ?」
「ちょっといいかな?」
コナンは。
努めて冷静に。
しかし。
強い意志を込めて話し始めた。
「……博士のことなんだ」
旬の目が僅かに動く。
「あの日、博士は見えない何かに刺されたって言ってる。でも、現場には傷一つなかった……それどころか、刺された場所の皮膚が、妙に新しくなってたんだ」
旬は何も言わない。
「それに、誰かが匿名で救急車を呼んでる」
コナンが。
旬を見る。
「……水篠さん。あんた、あの時近くにいなかったか? 何か、見てないか?」
旬は。
しばらく黙っていた。
「……俺は何も見ていない」
「じゃあ」
コナンの声が少し強くなる。
「なんでそんな言い方するんだ?」
旬は答えない。
「水篠さん」
コナンが一歩近づく。
「救急車を呼んだのは……あんたじゃないのか?」
短い沈黙。
やがて。
旬が答えた。
「……そうだ」
コナンの表情が変わる。
「俺が駆けつけた時には、博士は既に倒れていた。救急車を呼んだのは俺だ」
「それだけ?」
「ああ」
「……とぼけるな!」
コナンの声が鋭くなる。
「あんた、一体何者なんだ!?」
旬は黙ったまま。
コナンを見る。
「いつもいつも事件現場に現れて、僕らにしか分からないようなヒントを出して……!」
声が。
少しずつ強くなる。
「この前の廃工場だってそうだ! どうやって僕があそこに一人でいるって分かったんだ!? あの時の、人間離れした力は一体なんだ!?」
旬は。
何も答えない。
「あの商業施設でも、急に何かに気づいたみたいに走っていった!」
さらに。
博士。
灰原。
見えない何か。
全てが。
頭の中で繋がる。
「博士を襲った見えない奴の正体は!?」
コナンの拳が握られる。
「あんたが敵じゃないって灰原は言う!」
それでも。
疑問は。
消えない。
「俺だって……敵じゃないって信じたい!」
旬の目が僅かに動く。
「廃工場じゃ、実際に俺を助けてくれた! 博士だって……たぶん、あんたが助けたんだろ!」
コナンの声が。
さらに強くなる。
「でも、何も話さない! 何も分からない!」
一歩。
前へ出る。
「そんなあんたを、僕にどうやって信じろって言うんだ!」
静寂。
旬は。
その言葉を黙って聞いていた。
そして。
ゆっくりと。
コナンへ背を向けた。
「待てよ!」
旬が足を止める。
振り返らないまま。
言った。
「……まだ、話せることはない」
「またそれかよ……!」
「だが」
旬が。
ほんの少しだけ。
コナンの方へ顔を向ける。
その目が。
鋭く。
コナンを捉える。
「君が、その小さな体で大きな嘘を抱えているように」
「……!」
「君が本当のことを話せないように」
旬は。
静かに続けた。
「俺にも、話せないことがある」
「なっ……!?」
コナンは息を呑んだ。
心臓が。
一瞬。
大きく跳ねる。
この男は。
分かっている。
自分が。
ただの小学生ではないことを。
「どういう……意味だよ」
旬は。
答えない。
だが。
その沈黙が。
何より雄弁だった。
「……いつから」
コナンの声が僅かに低くなる。
「いつから気づいてた?」
旬は。
それにも答えなかった。
再び。
前を向く。
「だが」
足を止めたまま。
言う。
「俺は君たちの敵ではない」
コナンは。
黙って旬の背中を見る。
「……俺には、俺の目的がある」
「その目的ってやつに……!」
コナンが。
思わず声を上げる。
旬の足が止まる。
「俺や、博士や、蘭……俺の周りの奴らを『護る』ことも、入ってるのか……?」
一瞬。
沈黙。
旬は。
振り返らなかった。
「……それもある」
短い言葉。
そして。
続ける。
「だが、それだけではない」
旬は。
そのまま歩き出した。
コナンは。
追わなかった。
ただ。
その背中を見送る。
(俺の嘘を……知っていた……?)
いつから。
どこまで。
気づいている。
(だとしたら……)
今までの。
あのヒントも。
廃工場での救出も。
全て。
自分が。
普通の小学生ではないと。
分かった上で。
やっていたのか。
「君と同じように話せないことがある」
その言葉が。
頭から離れない。
旬の秘密は。
自分と同じくらい。
いや。
それ以上に。
重いものなのかもしれない。
敵ではない。
そう言い切った灰原。
そして。
旬自身も。
同じ言葉を口にした。
それでも。
まだ。
全てを信用することはできない。
ただ。
一つだけ。
以前とは違う。
水篠旬という存在は。
単純な「危険人物」ではない。
何かを隠し。
何かと戦い。
そして。
自分たちを。
護ろうとしている。
その理由だけが。
まだ。
分からなかった。