俺だけレベルアップな件 × 名探偵コナン 【 水篠旬は、米花町へと迷い込む 】 作:冷凍シャケ
ペナルティと、突如として現れ始めたモンスターとの関連を探る――それが水篠旬の当面の最優先事項だった。
三度目の失敗が起きた山荘周辺。
群馬県境付近の、人が立ち入らないであろう山岳地帯や廃墟。
ペナルティが実行された直後から異変が始まった以上、まずはその周辺から調べる価値はある。
それらの情報を得るため、彼は都内でも有数の規模を誇る大型書店に足を運んでいた。専門的な地図や郷土資料が豊富に揃っていると聞いたからだ。
地図コーナーで、人目を避けながら、該当地域の詳細な地形図や古い記録を熱心に調べていると、不意に背後から声をかけられた。
「あれー?シュンさんじゃん!こんな所で会うなんて、またまた奇遇だな!」
振り返ると、そこにはボーイッシュな魅力を持つ女子高生探偵、世良真純が立っていた。彼女は洋書コーナーに用があった帰りらしい。
「地図なんて見て、どうしたんだ?どこか旅行でも計画中?」
世良は人懐っこい笑顔で、しかし探るような視線を隠さずに尋ねてくる。
「…いや。少し、興味があってな」
旬は地図から目を離さずに短く答える。
自分が何を探しているのか、悟られるわけにはいかない。
「へぇ、興味ねぇ。シュンさんって、普段何してる人なんだ?仕事とか、学校とか」
世良は矢継ぎ早に質問を繰り出す。彼女の探偵としての本能が、目の前の男の巨大な謎を解き明かしたいと囁いているのだ。
「…今は、探し物をしている」
「探し物?何を?」
「個人的なものだ」
旬は、いつものように鉄壁のガードで質問をかわしていく。
世良は、ちぇっとつまらなそうな顔をしたが、すぐに別の角度から切り込んできた。
「そういえばさ、コナン君のこと、どう思う?あの子、どう見てもただの小学生じゃないだろ?シュンさんもそう思わないか?」
コナンの名前が出た瞬間、旬の纏う空気がほんの少しだけ変わったのを、世良は見逃さなかった。
旬は、少し考えるように視線を宙にさまよわせた後、口を開いた。
「…ああ。あの少年は、確かに面白い」
その声には、わずかながらも本物の興味の色が窺えた。
「歳に似合わぬ頭脳と、妙な度胸を持っている。それに、あの小さな体で、何か大きなものを背負っているようにも見えるな。…底が見えない」
先日のコナンとの対峙が、旬の脳裏をよぎる。
『君が本当のことを話せないように、俺にも話せないことがある』
あの言葉を向けた時の、コナンの反応。
やはり。
あの少年には何かがある。
「だろー!?やっぱりシュンさんもそう思うよな!」
世良は、旬がコナンの異常性を認識していることに、我が意を得たりとばかりに頷いた。
旬が他人のこと、特にコナンのことについてこれほど話すのは珍しい。
世良は、そこにも彼の謎を解くヒントがあるのではないかと感じていた。
そこで、世良はさらに踏み込んでみることにした。
「そういえばさ」
世良が、旬の顔を覗き込む。
「最近、コナン君と何かあったのか?」
旬の視線が僅かに動く。
「あの子、前よりずっとシュンさんのこと気にしてるみたいなんだよな。」
探るような目。
旬は、それを正面から受け止める。
「さあな」
短く答えた。
「俺は何も知らない」
(……今の間)
世良は僅かに目を細めた。
やはり。
何かあった。
だが、これ以上問い詰めても無駄だろうということも分かっていた。この男は、自分から話すつもりがなければ、テコでも口を割らないタイプだ。
「そっか。まあ、変な事件が多いからな、この街は!シュンさんも気をつけろよ!」
世良は、あっさりと話題を変え、明るく笑ってみせた。
「…ああ」
旬はそれだけ言うと、購入した数点の地図を抱え、足早に書店を後にした。
(…あの女子高生探偵も、妙に勘がいい。それに、江戸川コナンとの繋がりも深いようだ)
書店を出て歩きながら、旬は考える。
彼女もまた、今後の展開の中で、危険な事態に巻き込まれる可能性は十分にある。
(…厄介事に首を突っ込みかねないな)
世良はコナンと同じく、自分から危険の中へ入っていくタイプだ。
旬は、自身の影に意識を向けた。
念のため。
世良真純に対しても、何か異常が起きた時に察知できる程度の、目立たない監視を付けておくことにする。
水篠旬は、モンスターが現れ始めた原因を探る準備を進めながらも、この世界で関わりを持った人々への、自身でも予期しなかった責任感を、少しずつ育て始めていたのかもしれない。
そして。
彼が地図を広げ、異変の発生源となり得る地域を絞り込もうとしている間にも。
彼の知らない場所では。
この世界に存在するはずのない何かが。
静かに。
確実に。
動き続けていた。