俺だけレベルアップな件 × 名探偵コナン 【 水篠旬は、米花町へと迷い込む 】   作:冷凍シャケ

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第三話 西の探偵は、影を疑う

水篠旬が、この世界で二度目となるクエストを成功させてから数日。

 

東京では、ある連続脅迫事件が世間を騒がせていた。始まりは大阪。ある企業へ、一通の脅迫状が送りつけられた。要求に従わなければ爆発物を仕掛ける。最初は悪質ないたずらだと思われていた。しかし。指定された時間。実際に、その企業が所有する倉庫で小規模な爆発が起きた。幸い、怪我人はいなかった。だが、それで終わりではなかった。

 

二件目。三件目。同じ系列の企業へ次々と脅迫状が送りつけられ。今度は東京にある関連会社まで標的となった。犯人の目的は金なのか。企業への恨みなのか。それとも。別の何かが隠されているのか。

 

警察が捜査を進める中。この事件を追って。大阪から一人の高校生探偵が東京へやって来ていた。

 

     ◇

 

毛利探偵事務所。

 

「久しぶりやな、コナン君!」

 

褐色の肌。関西弁。そして、少年とは違う鋭い目。服部平次。『西の高校生探偵』として知られる、大阪の探偵だった。高校生探偵・工藤新一と並び称されるほどの推理力を持ち。なおかつ。江戸川コナンの正体が工藤新一であることを知る、数少ない人物でもある。

 

「もう、平次! いきなり押しかけてきて迷惑やろ!」

 

その隣では。長い髪を束ねた少女が呆れたように声を上げる。遠山和葉。平次の幼馴染で。何かと彼に振り回されながらも、東京まで一緒に来ていた。

 

「ええやんけ。どうせこっちでも例の事件調べとるんやろ?」

 

「だからって急に来んでもええやん!」

 

「うっさいなぁ」

 

二人のやり取りを。蘭が苦笑しながら眺めている。

 

「まあまあ、和葉ちゃん」

 

一方。コナンは。平次が東京まで来た理由を理解していた。例の連続脅迫事件。大阪で始まり。今は東京にまで広がっている。そして。毛利小五郎にも、東京側での調査依頼が来ていた。

 

「……で?」

 

少しして。蘭と和葉、小五郎が別の話をしている隙に。平次は声を落とした。

 

「事件のこともそうやけど」

 

視線が。コナンへ向く。

 

「例の男、まだ見かけるんか?」

 

コナンの表情が変わった。

 

「……ああ」

 

水篠旬。初めて会った日。目の前から突然姿を消した男。宝石強盗事件では。犯人の銃口が不自然に逸れ。そして。マンションで起きた密室事件では。誰も気づかなかった決定的な証拠を発見した。

 

「電話で聞いた時は、お前が考えすぎなんちゃうか思うたけどな」

 

平次が言う。

 

「姿が消えたとか、銃が勝手に動いたとか。そんなん普通に考えたらありえへんやろ」

 

「俺だって分かってるよ」

 

コナンは眉を寄せる。

 

「だから気になってるんだ」

 

特に。前回の事件。『光ったから気づいた』旬はそう言った。だが。あの金属片に。光るような要素は何もなかった。

 

「偶然にしちゃ、出来すぎてる」

 

「ふーん」

 

平次の口元が上がる。

 

「おもろそうやんけ」

 

「お前な……」

 

「実際に見てみんと分からへんやろ。ほんまに怪しい男なんか、それともお前が気にしすぎてんのか」

 

「だから、下手に突っかかるなよ」

 

コナンが念を押す。

 

「分かっとる分かっとる」

 

その返事が。まったく信用できなかった。

 

     ◇

 

同じ頃。

 

旬は。一棟のオフィスビルを見上げていた。

 

「……ここか」

 

目の前には。例の連続脅迫事件で、次の標的になる可能性が高いと報道されている企業が入っている。なぜ旬がそこにいるのか。理由は単純だった。

 

――ピコン。

 

少し前。いつものシステムウィンドウが現れたのだ。

 

『緊急クエストが発生しました』

 

【浪速の脅威の真相を追え】

 

『連続脅迫事件に関与し、その真相解明に貢献してください』

 

報酬:ランダムボックス×1

 

失敗条件:

 

・事件解決前に現場を離脱する。

 

・真相解明への貢献が認められない。

 

「連続脅迫……」

 

旬は周囲を見渡す。前回。クエストを成功させる方法は理解した。事件そのものを。旬一人で解く必要はない。

 

システムによって赤く表示される。『重要な証拠』それを見つけ。警察や探偵へ渡す。あるいは。存在に気づかせる。そうすれば。真相解明への貢献として認められるらしい。

 

(問題は)

 

旬の表情が。ほんの僅かに険しくなる。

 

(次も箱の中身が包帯だったら、さすがに困るな)

 

異世界へ来て。最初に手に入れた報酬が。使い古された包帯。帰還方法どころか。使い道すら思いつかない。ランダムボックスという名前なのだから。当たり外れがあるのだろう。なら。成功を重ねるしかない。

 

その時。

 

「おい、兄ちゃん!」

 

聞き慣れない声。

 

旬が振り返った。

 

黒い帽子を被った高校生が。こちらへ歩いてくる。その後ろには。コナン。蘭。小五郎。そして。もう一人、見知らぬ女子高生。

 

「あ」

 

コナンが旬を見て。明らかに顔を引きつらせた。

 

(何でいるんだよ……)

 

一方。平次の目が。面白そうに細くなる。

 

「……こいつか」

 

「おい」

 

コナンが小声で止める。しかし。遅かった。

 

「兄ちゃん、何してんねん?」

 

平次が。旬の前へ立つ。

 

「……何?」

 

「ここ、連続脅迫事件で警察が調べとる会社やで?」

 

平次は。旬を上から下まで見る。

 

「関係者にも見えへんし。こんなとこで一人で何しとんねん?」

 

旬は一瞬だけ。コナンを見た。

 

(また探偵か)

 

視線。質問の仕方。そして。相手を観察する目。眼鏡の少年とよく似ている。ただし。こっちは。隠す気がほとんどない。

 

「別に」

 

旬は答える。

 

「ただの通りすがりだ」

 

「はぁ?」

 

平次が眉を上げる。

 

「この事件現場の前を?」

 

「ああ」

 

「たまたま?」

 

「ああ」

 

「……怪しすぎるやろ」

 

「平次!」

 

和葉が横から割って入った。

 

「初対面の人に何言うてんの!」

 

「いやいや和葉。どう考えても怪しいやろ!」

 

「せやからって、いきなり犯人みたいに言うたらあかんやん!」

 

「誰も犯人とは言うてへんやろ!」

 

二人が言い合いを始める。旬は。その光景を黙って見ていた。そして。コナンへ視線を移す。

 

「……知り合いか?」

 

「あ、うん」

 

コナンは。子供らしい笑顔を作る。

 

「大阪から来た服部平次お兄ちゃん」

 

「お兄ちゃん言うな」

 

「西の高校生探偵なんだよ!」

 

「へえ」

 

旬は。平次を見る。探偵。やはり。そういう人間らしい。

 

(江戸川コナンとは違うが)

 

観察力は高い。少なくとも。普通の高校生には見えない。

 

「……水篠旬」

 

旬が短く名乗る。

 

「服部平次や」

 

平次も答える。ただし。握手などするわけでもなく。お互いに。相手を観察していた。

 

その横で。コナンが小さく息を吐いた。

 

(頼むから喧嘩すんなよ……)

 

     ◇

 

その後。小五郎たちは。会社の関係者から話を聞き始めた。平次とコナンも。当然のように調査へ加わる。旬は。少し離れた場所から。その様子を見ていた。

 

今回の脅迫状。大阪で送られたものも。東京で送られたものも。文面はほぼ同じ。犯人は。毎回指定した場所へ。小規模な爆発物を仕掛けている。

 

だが。人を殺すことが目的には見えない。人の少ない時間。被害の出にくい場所。それを選んでいる。つまり。爆発そのものは。何かを伝えるための手段。

 

平次とコナンは。そこへ注目しているようだった。旬には。犯人の心理までは分からない。

 

だが。

 

「……」

 

彼には。別のものが見える。事件の鍵となる。赤い光。

 

旬は。ビル内。駐車場。周囲の路地。人目につきにくい場所を確認していく。そして。建物の裏側。従業員用通用口の近く。業務用の大きなゴミ箱の前で。足が止まった。

 

「……あった」

 

ゴミの中。僅かに。赤い光。段ボール。ビニール袋。空き箱。その奥に。小さな部品が落ちている。

 

旬が目を凝らす。タイマー。あるいは。それに近い電子部品。

 

(爆発物の一部か)

 

問題は。どうやって見つけさせるか。

 

前回。そのまま警察へ教えた。だが。それを繰り返せば。コナンの疑いが強くなる。既に。かなり怪しまれているのは。旬も気づいていた。視線だけでも分かる。

 

(……まあいいか)

 

隠すために。わざわざクエストを失敗するつもりはない。

 

ちょうど。近くで。平次とコナンが従業員へ聞き込みをしていた。旬は。ゴミ箱の前を通り。一度。立ち止まる。

 

「……」

 

少し考えてから。眉を寄せた。

 

「焦げ臭いな」

 

独り言のように。呟く。

 

「ん?」

 

平次が。すぐに反応した。

 

「今なんて?」

 

「焦げ臭い」

 

旬は。ゴミ箱を見る。

 

「この辺から」

 

それだけ言う。

 

平次とコナンが。同時に動いた。

 

「どれや?」

 

平次がゴミ箱を覗き込む。

 

「……ん?」

 

その横から。コナンも中を見る。

 

そして。

 

「服部!」

 

「ああ!」

 

二人は。ほぼ同時に。小さな電子部品へ気づいた。

 

もちろん。赤く光って見えているのは。旬だけだ。

 

平次が。手袋をした上で。慎重に部品を確認する。

 

「これ……」

 

表情が変わる。

 

「タイマーの部品ちゃうか?」

 

コナンも目を細める。

 

「それに、この焦げた跡……」

 

少し離れたところにいた小五郎が振り返る。

 

「何だ?」

 

「おっちゃん、警察呼んでくれ!」

 

「もう呼んどるわ!」

 

「なら、これ鑑識に見てもらうんや!」

 

発見された部品は。警察へ渡された。調べた結果。過去の爆発現場で使用されたものと。同じ種類のタイマーの一部だと判明する。

 

さらに。部品が捨てられていた場所。廃棄物を扱える人物。防犯カメラ。従業員の証言。それらが。一つずつ繋がっていく。

 

「なるほどな」

 

平次が腕を組む。

 

「犯人が狙っとったんは会社そのものやない」

 

コナンも頷く。

 

「脅迫状と爆発を利用して、特定の人物を追い込もうとしてたんだ」

 

事件の裏には。過去の社内トラブルがあった。犯人は。会社に恨みを持つ元関係者。直接人を傷つけるのではなく。騒ぎを大きくすることで。自分を陥れた人物の不正を表へ出そうとしていた。

 

もちろん。だからといって。爆発物を使った行為が許されるわけではない。集められた証拠を前に。犯人は観念し。事件は解決した。

 

その瞬間。旬の前に。ウィンドウが現れる。

 

――ピコン。

 

『緊急クエスト完了』

 

『真相解明への貢献を確認しました』

 

『クエスト成功!』

 

報酬:

 

ランダムボックス×1

 

旬は。表示を確認する。

 

(……よし)

 

これで。二度目の成功。やはり。やり方は間違っていない。赤く光る証拠を見つけ。探偵たちへ渡す。この世界では。それが。旬に与えられた役割らしい。

 

     ◇

 

事件が終わり。警察の事情聴取も終わった頃。平次は。満足そうな顔をしていた。

 

「いやー、やっぱ事件は現場やな!」

 

「楽しむなよ……」

 

コナンが呆れる。だが。コナンの視線は。別の場所へ向いていた。

 

水篠旬。少し離れた位置で。一人。帰ろうとしている。

 

「……」

 

また。あの男だった。前回も。旬が気づいた証拠から。事件は動いた。今回も。そうだ。

 

『焦げ臭い』

 

その一言。それがなければ。あのゴミ箱を。わざわざ調べたかどうか分からない。

 

平次が。コナンの視線に気づく。

 

「……あいつか」

 

「ああ」

 

二人は。旬を見る。

 

「どうだった?」

 

コナンが聞く。

 

「実際に会ってみて」

 

「せやなぁ……」

 

平次は。腕を組む。

 

「怪しい」

 

「やっぱり?」

 

「めちゃくちゃ怪しい」

 

即答だった。

 

「せやけど」

 

平次は少し考える。

 

「あいつが犯人側とも思えへんな」

 

コナンが。平次を見る。

 

「なんで?」

 

「もしあの兄ちゃんが犯人と繋がっとるんなら」

 

平次は。旬の背中を見る。

 

「自分から証拠の場所を教える理由がないやろ」

 

「それは……そうだけど」

 

「ただ」

 

平次の表情から。笑みが消える。

 

「偶然で片付けるんも無理や」

 

前回のことを。平次は直接見ていない。だが。今回。はっきり見た。何の迷いもなく。証拠のある場所を示した。まるで。最初から。そこにあると分かっていたように。

 

「工――」

 

平次が言いかけ。和葉の姿を見て。慌てて言い直す。

 

「コナン」

 

「今、絶対別の名前言おうとしただろ」

 

「気のせいや」

 

「バーロー……」

 

二人が小声で話していると。

 

「あっ!」

 

和葉が。旬に気づいた。

 

「さっきのお兄さん!」

 

旬が振り返る。

 

和葉が。紙箱を持って駆け寄ってくる。

 

「これ、よかったら食べて!」

 

差し出されたのは。まだ湯気の立っているたこ焼き。どうやら。事件が終わった後。近くの店で買ったものらしい。

 

旬は。箱を見る。

 

「……俺に?」

 

「うん!」

 

「なぜ?」

 

「なんでって……」

 

和葉が困ったように笑う。

 

「一緒に事件巻き込まれたんやし。お兄さんのおかげで証拠も見つかったんやろ?」

 

「……」

 

旬は。しばらく。たこ焼きを見つめる。こういう好意を向けられるとは。思っていなかった。

 

「いらんかった?」

 

「いや」

 

旬は。箱を受け取る。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

和葉が笑う。

 

「ほな、またな!」

 

旬は小さく頷き。その場を離れていく。

 

平次が。その様子を眺める。

 

「……なんや」

 

「何だよ」

 

「案外普通の兄ちゃんなんかもしれんな」

 

「さっきめちゃくちゃ怪しいって言ったじゃねぇか」

 

「怪しいもんは怪しい」

 

「どっちだよ……」

 

「せやけど」

 

平次が。小さく笑う。

 

「悪い奴には見えへんな」

 

コナンは。何も答えなかった。その点については。自分も少しずつ。同じことを感じ始めている。

 

危険かもしれない。正体も分からない。説明のつかないことばかり起こる。だが。少なくとも。これまで旬がしたことは。人を助け。事件の解決へ繋がるものばかりだった。

 

(……何が目的なんだ?)

 

それが。余計に分からない。

 

     ◇

 

その夜。

 

ホテル。

 

旬の前には。二個目となるランダムボックスが置かれていた。

 

「……今度こそ」

 

一度目は。使い古された包帯。さすがに。二度続けて。同じような物が出るとは思いたくない。

 

旬が。箱を開ける。光が溢れる。

 

――ピコン。

 

『アイテムを獲得しました』

 

旬が表示を見る。

 

『空き缶』

 

「…………」

 

旬は。無言で。手元を見る。どこからどう見ても。空き缶。何の特殊効果もない。

 

説明文も。

 

『中身の入っていない缶』

 

それだけ。

 

「……」

 

数秒。沈黙。

 

そして。旬は。静かに空き缶をインベントリへ入れた。捨てる気力すら起きなかった。

 

「包帯の次は、空き缶か」

 

このランダムボックス。思っていた以上に。外れが多いらしい。

 

だが。クエストを成功させれば。必ず箱は手に入る。なら。続けるしかない。

 

何十回でも。必要なら。何百回でも。いつか。帰還に繋がるものが。出てくるまで。

 

旬がベッドへ身体を預ける。その脳裏に。今日出会った高校生探偵が浮かぶ。

 

服部平次。江戸川コナン。

 

二人とも。明らかに。事件を見る目が。普通の人間とは違っていた。

 

(探偵、か)

 

この世界へ来るまで。ほとんど縁のなかった存在。だが。どうやら。これから。嫌でも関わることになりそうだった。

 

そして。旬はまだ知らない。次に手にするランダムボックスが。これまでの『ハズレ』とは。全く違うものになることを。

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