俺だけレベルアップな件 × 名探偵コナン 【 水篠旬は、米花町へと迷い込む 】 作:冷凍シャケ
水篠旬が、この世界で二度目となるクエストを成功させてから数日。
東京では、ある連続脅迫事件が世間を騒がせていた。
始まりは大阪。
ある企業へ、一通の脅迫状が送りつけられた。
要求に従わなければ爆発物を仕掛ける。
最初は悪質ないたずらだと思われていた。
しかし。
指定された時間。
実際に、その企業が所有する倉庫で小規模な爆発が起きた。
幸い、怪我人はいなかった。
だが、それで終わりではなかった。
二件目。
三件目。
同じ系列の企業へ次々と脅迫状が送りつけられ。
今度は東京にある関連会社まで標的となった。
犯人の目的は金なのか。
企業への恨みなのか。
それとも。
別の何かが隠されているのか。
警察が捜査を進める中。
この事件を追って。
大阪から一人の高校生探偵が東京へやって来ていた。
◇
毛利探偵事務所。
「久しぶりやな、コナン君!」
褐色の肌。
関西弁。
そして、少年とは違う鋭い目。
服部平次。
『西の高校生探偵』として知られる、大阪の探偵だった。
高校生探偵・工藤新一と並び称されるほどの推理力を持ち。
なおかつ。
江戸川コナンの正体が工藤新一であることを知る、数少ない人物でもある。
「もう、平次! いきなり押しかけてきて迷惑やろ!」
その隣では。
長い髪を束ねた少女が呆れたように声を上げる。
遠山和葉。
平次の幼馴染で。
何かと彼に振り回されながらも、東京まで一緒に来ていた。
「ええやんけ。どうせこっちでも例の事件調べとるんやろ?」
「だからって急に来んでもええやん!」
「うっさいなぁ」
二人のやり取りを。
蘭が苦笑しながら眺めている。
「まあまあ、和葉ちゃん」
一方。
コナンは。
平次が東京まで来た理由を理解していた。
例の連続脅迫事件。
大阪で始まり。
今は東京にまで広がっている。
そして。
毛利小五郎にも、東京側での調査依頼が来ていた。
「……で?」
少しして。
蘭と和葉、小五郎が別の話をしている隙に。
平次は声を落とした。
「事件のこともそうやけど」
視線が。
コナンへ向く。
「例の男、まだ見かけるんか?」
コナンの表情が変わった。
「……ああ」
水篠旬。
初めて会った日。
目の前から突然姿を消した男。
宝石強盗事件では。
犯人の銃口が不自然に逸れ。
そして。
マンションで起きた密室事件では。
誰も気づかなかった決定的な証拠を発見した。
「電話で聞いた時は、お前が考えすぎなんちゃうか思うたけどな」
平次が言う。
「姿が消えたとか、銃が勝手に動いたとか。そんなん普通に考えたらありえへんやろ」
「俺だって分かってるよ」
コナンは眉を寄せる。
「だから気になってるんだ」
特に。
前回の事件。
『光ったから気づいた』
旬はそう言った。
だが。
あの金属片に。
光るような要素は何もなかった。
「偶然にしちゃ、出来すぎてる」
「ふーん」
平次の口元が上がる。
「おもろそうやんけ」
「お前な……」
「実際に見てみんと分からへんやろ。ほんまに怪しい男なんか、それともお前が気にしすぎてんのか」
「だから、下手に突っかかるなよ」
コナンが念を押す。
「分かっとる分かっとる」
その返事が。
まったく信用できなかった。
◇
同じ頃。
旬は。
一棟のオフィスビルを見上げていた。
「……ここか」
目の前には。
例の連続脅迫事件で、次の標的になる可能性が高いと報道されている企業が入っている。
なぜ旬がそこにいるのか。
理由は単純だった。
――ピコン。
少し前。
いつものシステムウィンドウが現れたのだ。
『緊急クエストが発生しました』
【浪速の脅威の真相を追え】
『連続脅迫事件に関与し、その真相解明に貢献してください』
報酬:ランダムボックス×1
失敗条件:
・事件解決前に現場を離脱する。
・真相解明への貢献が認められない。
「連続脅迫……」
旬は周囲を見渡す。
前回。
クエストを成功させる方法は理解した。
事件そのものを。
旬一人で解く必要はない。
システムによって赤く表示される。
『重要な証拠』
それを見つけ。
警察や探偵へ渡す。
あるいは。
存在に気づかせる。
そうすれば。
真相解明への貢献として認められるらしい。
(問題は)
旬の表情が。
ほんの僅かに険しくなる。
(次も箱の中身が包帯だったら、さすがに困るな)
異世界へ来て。
最初に手に入れた報酬が。
使い古された包帯。
帰還方法どころか。
使い道すら思いつかない。
ランダムボックスという名前なのだから。
当たり外れがあるのだろう。
なら。
成功を重ねるしかない。
その時。
「おい、兄ちゃん!」
聞き慣れない声。
旬が振り返った。
黒い帽子を被った高校生が。
こちらへ歩いてくる。
その後ろには。
コナン。
蘭。
小五郎。
そして。
もう一人、見知らぬ女子高生。
「あ」
コナンが旬を見て。
明らかに顔を引きつらせた。
(何でいるんだよ……)
一方。
平次の目が。
面白そうに細くなる。
「……こいつか」
「おい」
コナンが小声で止める。
しかし。
遅かった。
「兄ちゃん、何してんねん?」
平次が。
旬の前へ立つ。
「……何?」
「ここ、連続脅迫事件で警察が調べとる会社やで?」
平次は。
旬を上から下まで見る。
「関係者にも見えへんし。こんなとこで一人で何しとんねん?」
旬は一瞬だけ。
コナンを見た。
(また探偵か)
視線。
質問の仕方。
そして。
相手を観察する目。
眼鏡の少年とよく似ている。
ただし。
こっちは。
隠す気がほとんどない。
「別に」
旬は答える。
「ただの通りすがりだ」
「はぁ?」
平次が眉を上げる。
「この事件現場の前を?」
「ああ」
「たまたま?」
「ああ」
「……怪しすぎるやろ」
「平次!」
和葉が横から割って入った。
「初対面の人に何言うてんの!」
「いやいや和葉。どう考えても怪しいやろ!」
「せやからって、いきなり犯人みたいに言うたらあかんやん!」
「誰も犯人とは言うてへんやろ!」
二人が言い合いを始める。
旬は。
その光景を黙って見ていた。
そして。
コナンへ視線を移す。
「……知り合いか?」
「あ、うん」
コナンは。
子供らしい笑顔を作る。
「大阪から来た服部平次お兄ちゃん」
「お兄ちゃん言うな」
「西の高校生探偵なんだよ!」
「へえ」
旬は。
平次を見る。
探偵。
やはり。
そういう人間らしい。
(江戸川コナンとは違うが)
観察力は高い。
少なくとも。
普通の高校生には見えない。
「……水篠旬」
旬が短く名乗る。
「服部平次や」
平次も答える。
ただし。
握手などするわけでもなく。
お互いに。
相手を観察していた。
その横で。
コナンが小さく息を吐いた。
(頼むから喧嘩すんなよ……)
◇
その後。
小五郎たちは。
会社の関係者から話を聞き始めた。
平次とコナンも。
当然のように調査へ加わる。
旬は。
少し離れた場所から。
その様子を見ていた。
今回の脅迫状。
大阪で送られたものも。
東京で送られたものも。
文面はほぼ同じ。
犯人は。
毎回指定した場所へ。
小規模な爆発物を仕掛けている。
だが。
人を殺すことが目的には見えない。
人の少ない時間。
被害の出にくい場所。
それを選んでいる。
つまり。
爆発そのものは。
何かを伝えるための手段。
平次とコナンは。
そこへ注目しているようだった。
旬には。
犯人の心理までは分からない。
だが。
「……」
彼には。
別のものが見える。
事件の鍵となる。
赤い光。
旬は。
ビル内。
駐車場。
周囲の路地。
人目につきにくい場所を確認していく。
そして。
建物の裏側。
従業員用通用口の近く。
業務用の大きなゴミ箱の前で。
足が止まった。
「……あった」
ゴミの中。
僅かに。
赤い光。
段ボール。
ビニール袋。
空き箱。
その奥に。
小さな部品が落ちている。
旬が目を凝らす。
タイマー。
あるいは。
それに近い電子部品。
(爆発物の一部か)
問題は。
どうやって見つけさせるか。
前回。
そのまま警察へ教えた。
だが。
それを繰り返せば。
コナンの疑いが強くなる。
既に。
かなり怪しまれているのは。
旬も気づいていた。
視線だけでも分かる。
(……まあいいか)
隠すために。
わざわざクエストを失敗するつもりはない。
ちょうど。
近くで。
平次とコナンが従業員へ聞き込みをしていた。
旬は。
ゴミ箱の前を通り。
一度。
立ち止まる。
「……」
少し考えてから。
眉を寄せた。
「焦げ臭いな」
独り言のように。
呟く。
「ん?」
平次が。
すぐに反応した。
「今なんて?」
「焦げ臭い」
旬は。
ゴミ箱を見る。
「この辺から」
それだけ言う。
平次とコナンが。
同時に動いた。
「どれや?」
平次がゴミ箱を覗き込む。
「……ん?」
その横から。
コナンも中を見る。
そして。
「服部!」
「ああ!」
二人は。
ほぼ同時に。
小さな電子部品へ気づいた。
もちろん。
赤く光って見えているのは。
旬だけだ。
平次が。
手袋をした上で。
慎重に部品を確認する。
「これ……」
表情が変わる。
「タイマーの部品ちゃうか?」
コナンも目を細める。
「それに、この焦げた跡……」
少し離れたところにいた小五郎が振り返る。
「何だ?」
「おっちゃん、警察呼んでくれ!」
「もう呼んどるわ!」
「なら、これ鑑識に見てもらうんや!」
発見された部品は。
警察へ渡された。
調べた結果。
過去の爆発現場で使用されたものと。
同じ種類のタイマーの一部だと判明する。
さらに。
部品が捨てられていた場所。
廃棄物を扱える人物。
防犯カメラ。
従業員の証言。
それらが。
一つずつ繋がっていく。
「なるほどな」
平次が腕を組む。
「犯人が狙っとったんは会社そのものやない」
コナンも頷く。
「脅迫状と爆発を利用して、特定の人物を追い込もうとしてたんだ」
事件の裏には。
過去の社内トラブルがあった。
犯人は。
会社に恨みを持つ元関係者。
直接人を傷つけるのではなく。
騒ぎを大きくすることで。
自分を陥れた人物の不正を表へ出そうとしていた。
もちろん。
だからといって。
爆発物を使った行為が許されるわけではない。
集められた証拠を前に。
犯人は観念し。
事件は解決した。
その瞬間。
旬の前に。
ウィンドウが現れる。
――ピコン。
『緊急クエスト完了』
『真相解明への貢献を確認しました』
『クエスト成功!』
報酬:
ランダムボックス×1
旬は。
表示を確認する。
(……よし)
これで。
二度目の成功。
やはり。
やり方は間違っていない。
赤く光る証拠を見つけ。
探偵たちへ渡す。
この世界では。
それが。
旬に与えられた役割らしい。
◇
事件が終わり。
警察の事情聴取も終わった頃。
平次は。
満足そうな顔をしていた。
「いやー、やっぱ事件は現場やな!」
「楽しむなよ……」
コナンが呆れる。
だが。
コナンの視線は。
別の場所へ向いていた。
水篠旬。
少し離れた位置で。
一人。
帰ろうとしている。
「……」
また。
あの男だった。
前回も。
旬が気づいた証拠から。
事件は動いた。
今回も。
そうだ。
『焦げ臭い』
その一言。
それがなければ。
あのゴミ箱を。
わざわざ調べたかどうか分からない。
平次が。
コナンの視線に気づく。
「……あいつか」
「ああ」
二人は。
旬を見る。
「どうだった?」
コナンが聞く。
「実際に会ってみて」
「せやなぁ……」
平次は。
腕を組む。
「怪しい」
「やっぱり?」
「めちゃくちゃ怪しい」
即答だった。
「せやけど」
平次は少し考える。
「あいつが犯人側とも思えへんな」
コナンが。
平次を見る。
「なんで?」
「もしあの兄ちゃんが犯人と繋がっとるんなら」
平次は。
旬の背中を見る。
「自分から証拠の場所を教える理由がないやろ」
「それは……そうだけど」
「ただ」
平次の表情から。
笑みが消える。
「偶然で片付けるんも無理や」
前回のことを。
平次は直接見ていない。
だが。
今回。
はっきり見た。
何の迷いもなく。
証拠のある場所を示した。
まるで。
最初から。
そこにあると分かっていたように。
「工――」
平次が言いかけ。
和葉の姿を見て。
慌てて言い直す。
「コナン」
「今、絶対別の名前言おうとしただろ」
「気のせいや」
「バーロー……」
二人が小声で話していると。
「あっ!」
和葉が。
旬に気づいた。
「さっきのお兄さん!」
旬が振り返る。
和葉が。
紙箱を持って駆け寄ってくる。
「これ、よかったら食べて!」
差し出されたのは。
まだ湯気の立っているたこ焼き。
どうやら。
事件が終わった後。
近くの店で買ったものらしい。
旬は。
箱を見る。
「……俺に?」
「うん!」
「なぜ?」
「なんでって……」
和葉が困ったように笑う。
「一緒に事件巻き込まれたんやし。お兄さんのおかげで証拠も見つかったんやろ?」
「……」
旬は。
しばらく。
たこ焼きを見つめる。
こういう好意を向けられるとは。
思っていなかった。
「いらんかった?」
「いや」
旬は。
箱を受け取る。
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
和葉が笑う。
「ほな、またな!」
旬は小さく頷き。
その場を離れていく。
平次が。
その様子を眺める。
「……なんや」
「何だよ」
「案外普通の兄ちゃんなんかもしれんな」
「さっきめちゃくちゃ怪しいって言ったじゃねぇか」
「怪しいもんは怪しい」
「どっちだよ……」
「せやけど」
平次が。
小さく笑う。
「悪い奴には見えへんな」
コナンは。
何も答えなかった。
その点については。
自分も少しずつ。
同じことを感じ始めている。
危険かもしれない。
正体も分からない。
説明のつかないことばかり起こる。
だが。
少なくとも。
これまで旬がしたことは。
人を助け。
事件の解決へ繋がるものばかりだった。
(……何が目的なんだ?)
それが。
余計に分からない。
◇
その夜。
ホテル。
旬の前には。
二個目となるランダムボックスが置かれていた。
「……今度こそ」
一度目は。
使い古された包帯。
さすがに。
二度続けて。
同じような物が出るとは思いたくない。
旬が。
箱を開ける。
光が溢れる。
――ピコン。
『アイテムを獲得しました』
旬が表示を見る。
『空き缶』
「…………」
旬は。
無言で。
手元を見る。
どこからどう見ても。
空き缶。
何の特殊効果もない。
説明文も。
『中身の入っていない缶』
それだけ。
「……」
数秒。
沈黙。
そして。
旬は。
静かに空き缶をインベントリへ入れた。
捨てる気力すら起きなかった。
「包帯の次は、空き缶か」
このランダムボックス。
思っていた以上に。
外れが多いらしい。
だが。
クエストを成功させれば。
必ず箱は手に入る。
なら。
続けるしかない。
何十回でも。
必要なら。
何百回でも。
いつか。
帰還に繋がるものが。
出てくるまで。
旬がベッドへ身体を預ける。
その脳裏に。
今日出会った高校生探偵が浮かぶ。
服部平次。
江戸川コナン。
二人とも。
明らかに。
事件を見る目が。
普通の人間とは違っていた。
(探偵、か)
この世界へ来るまで。
ほとんど縁のなかった存在。
だが。
どうやら。
これから。
嫌でも関わることになりそうだった。
そして。
旬はまだ知らない。
次に手にするランダムボックスが。
これまでの『ハズレ』とは。
全く違うものになることを。