代償があるタイプの異能持ち女の子vsチートヒーラーvsダークライ 作:ステラァァァァ!!!
突然だが、俺の職場が移動になった。人事異動的な意味ではなく、物理的に。
ざっくり言えば町の小さな診療所、ってところだったんだが……この度めでたく代償者達が暮らしてる施設の一角……というか、寮の1階? に居を構えることになった。防犯上の理由で自由な外出は禁止だそうだ。クソわよ。
まあ、元々一般の患者なんて全く来てなかったから仕事の内容は何も変わらないのだが、だったらいいかぁ! よろしくなァ! と開き直れるほど図太くもない。何故なら──
「お、先生。……どうしたの? 目逸らして」
「いや……別に……」
何故なら、この寮の1階には大浴場があるからである!!!
代償者の人数は10人前後。ソシャゲ的なお約束を考えればそのうち数百人ぐらいにはなるのだろうが、今はそんなもんだ。
前後、と曖昧な言い方をしているのは候補生的な人間が来たり、諸般の事情で辞めたりする分である。配属先が遠い奴らの情報は遅れて届いたりするしな。今俺の近くで暮らしてるのはホムラを含めて4人。一人は遊兵みたいなもんでフラフラしてるが。
彼女らは基本的にここの敷地内で生活が完結している。一応申請すれば外にも出られるらしいが……まあ、ポストアポカリプス系ソシャゲあるあるというか、外に出たところでそれほど楽しめる訳でもない。本とかの娯楽品だって今時通販で手に入るしな。釣りがしたくて、と申請してどっか行く奴も居るが。
ざっくりとだが、朝点呼があって、朝礼して、訓練やら教育やらを受けて、昼休憩挟んでまた訓練時間になって、自由時間からの夜点呼で就寝。これが彼女達のスケジュール。勿論実戦がある時はこの通りではない。
そして俺の仕事は怪我や病気の治療。つまり実戦が発生しなければ精々訓練の怪我の治療と病気の予防ぐらいしか仕事は無く、普段はむしろどう暇を潰すかを考える方が辛いぐらい。それで今までより金払いが良いから笑いが止まらん、政府の陰謀5Gに従って良かった! Vやねん! と思っていたのだが。
「先生、ボディソープの詰め替えってあります?」
「こら! ちゃんと服を着てから当直室に入りなさい!」
「? ちゃんとシャツ着てますけど……」
今時の若者……無防備過ぎ……!?
「あの、お風呂上がりなんですけど、何の呼び出しです? これ」
「シオン。俺はこう見えてもお前らより10は歳上なんだ。見た目通りとか言うなよ? 泣くから」
「はぁ……?」
「だがな……お前らぐらいの歳頃相手でも異性が薄着だと意識しちまうんだよ……!」
「……童貞?」
先生は致命傷を受けました。チートヒーラーでもこの傷は治せません。先生はここで死にます。だからノートに先生は童貞ってメモを取るな。
「す、すみませんでした先生……! でも鬱陶しいんで泣き止んでください……!」
「オブラートって知ってる?」
「えー、あー、忘れちゃったかもしれません。ほら、私の異能の関係で……」
「毎回しっかり戻してるだろうが……!」
この子が例の『記憶と引き換えにゲロビが撃てる』異能の持ち主である。ちなみに本人にとって大事な思い出ほど火力が上がるんだとか。今までで1番火力が出たのはこの寮に来てから他の代償者の女の子達に誕生日を祝ってもらった思い出、だそうだ。当然治療済みである。
さらにちなみに、最低火力は履いた靴にムカデが入ってて咬まれた思い出だ。こっちは治してないし、本人にも伝える気は無い。忘れてた方がいいことも……ある……!
「それは感謝してますよ、ええ、本当に。……何の話でしたっけ? 私達の胸が見たいって話でしたっけ」
「いや、その程度じゃ収まらん。正直触りたい」
「ええ……」
「──ってなるからちょっとは慎み深く隠してくれって話を」
「ちらっ」
「そぉい!」
こいつ胸元をわざと緩めて来やがった。瞬発力を活かして横を向いたから良いものを、もし先端が見えたらどうしてくれるんだ。警察沙汰だぞ? 俺が逮捕される側で。
「うわ……ほんとに耐性ないんですね……」
「は? 耐性あるが? 証拠でもあるんか?」
「今のが証拠でしょうどう見ても」
学生時代に女にモテなかった反動なんだ。女子高生はあの頃の青い春を体験させてくれるタイムマシーンなんだ。
「というか先生、そこまで嫌ならこの時間は引っ込んでたらいいんじゃ……?」
「お前らが色々呼んでくるんだろうが……!」
ボディソープが尽きた。着替え忘れたから取ってきて。脱衣場にGが出たから助けて。などなど。コイツらはちょっと警戒心が足りなすぎる。まあ俺程度襲われた所で返り討ちに出来るから警戒する必要も無いんだろう。
「いやー毎度助かってます。なにせ湯冷めしない距離に居るので……」
「なんで当直室がここなんだろうな……」
ざっくりのイメージとして風呂から廊下を一つ挟んだ距離。もしかして俺って番台なんじゃないか?
「あ、先生。そろそろ消灯の時間に」
「ん? ああ悪いな。じゃあ──」
「はい。ベッド借りますね? ……何ですかその顔」
「……潜り込んできたなら添い寝しても許されるんじゃないか? って顔」
「その度胸があるならいいですよ? 一緒に寝ます?」
「ぉ、大人を揶揄うもんじゃないぞ……」
「うわ、凄い震え声」
このチートヒーラーに精神的動揺は無いと思ってもらおう!
「ええい、帰れ帰れ。ガキは寝る時間じゃい!」
「残念、振られちゃった。おやすみなさい、先生」
「おう、おやすみ」
大人の余裕を見せつけちまったな……! メモ帳はちゃんと処分しろよ……! 最悪他の誰かに見せなきゃ何でもいい……!
私が代償者になったのは、一言で言えばお金が無かったからだ。
『捕食者』が現れて滅茶苦茶になったこの世界では、一部の特権階級とその他大勢の労働者の差はとても大きい。だがしかし、労働者の中でも格差というのはあるのである。
パパもママも勤勉な労働者だった。強いて言うならその収入に見合わない数の子供を作ったことだけはどうかと思うけど、多産を奨励してるのは政府の方だから仕方ない。最初のうちは補助金も出てたしね。
まあ今にして思えばそれも含めて代償者を手に入れるための手段だったのだろう。補助金が訳の分からない理由で打ち切られて、日々暮らすことすら難しくなって、早く働きに出ようにも子供一人の稼ぎなんてたかが知れていて。唯一の選択肢が、代償者として政府に身売りすることだった。
とはいえ最初はむしろ心躍らせていたんだけどね。だって、アニメの魔法少女みたいじゃない? 私もまあその、そういう物が好きな子供だったから。正直今でもステッキとか欲しくなることあるし。子供の頃買ってもらえなかったしね。
初めて怖いと思ったのは、初めて異能を使った時……ではない。
代償者の異能は何かを失う必要がある、とは聞いていたのだけど私は何も失った自覚無く様々なことが出来た。まあ今ではもっぱらエネルギーをぶちかますだけだけど。結局これが一番早いんだよね。
そうして戦って、戦って、戦って。何度目かの家族との連絡の時にようやく違和感に気付いた。
私の知らない人が家族の中に居る。
その子誰? と迂闊に聞いてしまったあの瞬間の空気は一生忘れられないと思う。そこで私の異能の代償が『記憶』だと気が付いたのだけど……厄介なのはそれからだった。
なにせ形の無い物だ。失ったところで失ったことに気が付けない。
ありとあらゆることをメモに取るクセが付いた。寝る前にそれを何度も読み返すようになった。戦う度に何も忘れてないか確かめるようになった。自然に忘れるどうでもいいようなことですら、忘れるのが怖くなった。そうしてそれだけ意識してもあっさりと記憶が失われることに絶望した。
何もかも無価値になった。だって全部どうせ忘れるんだから。どんなに感動したことも、どんなにうれしかったことも、これだけは絶対に忘れないと誓ったことも。私が一度戦いに出ればすべて失われる。ふぁったら記憶を増やしても意味がない。
そうして無感動に命を消費し続けて……
「記憶喪失? まあアルツハイマーとか認知症の一種って認識すりゃ治せるだろ。よし、しばらく通え」
先生がそこから救い出してくれた。
「うーん、どうやったら手出してくれるのかな、先生は」
結構ムッツリだから挑発してれば限界が来るかな? って思ったけど、まさかお説教されるとは。そのくせ視線は胸にばっか来てたし。まあそのために下着も付けなかったんだけど。お風呂上がりだからって理由も付けられるしね。
「童貞ならこのままだとヘタレのままかな……処女がここまでしてあげてるって言うのに」
昔は食べた物やら何時に何をして、誰とどういう会話をしたかなどを記していたメモ帳も、今では先生のことばかり書かれている。まだあんま埋まってないけどね。
「いっそ既成事実作る……? でもホムラちゃん達が怒るよね」
明日が楽しみって思えるようになったのは先生のおかげなんだから。
逃がさないからね?
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