代償があるタイプの異能持ち女の子vsチートヒーラーvsダークライ 作:ステラァァァァ!!!
「捕食者の外殻は硬い、柔らかいなどに関わらず、代償者以外の攻撃を無力化します。この能力の理由としては──」
いかにも研究者です! って感じの人が色々と説明してくれている。どうでもいいが、こういう時って研究者じゃなくて営業的な人が出てくるもんじゃないのか?
「ですから代償者の皆さんが使っている武装には捕食者の細胞が組み込まれており、これが中和することによって──」
意外とガキ共は真面目に聞いているようだ。まあ自分が戦場で使うものともなれば気になるか? 命を預けるわけだしな。
「ということで近接武装の試作品がこちらになります。シオンさんに関しましては戦い方の関係で補助的なものをご用意しておりますので、そちらを試していただければと……」
「よし、行ってこいお前ら。俺は外でヤニ入れてるから」
「なんで嬉しそうなの?」
自分に関係ない話は……眠くなる……! さっさと逃げたい……!
さて、そもそもなんでこんな話を聞かされることになったかだが────
「はい皆さん。明日は工場見学に行きます。おやつは300円までに収めるように」
「今時300円じゃ何も買えないよせんせー……」
当然だが人類の領域が狭まっているこの世界では嗜好品は贅沢品である。例えばチョコレートなんて日本じゃ作れないしね。タバコ? ヤニカスの執念を見くびるなよ。アホ高いけど。
「工場見学ってなんすか?」
「なんか武器だか装備だかの試作品が出来たから試して欲しいんだと。詳しいことは知らん……というか、お前らの方が詳しいだろ」
「あー、まあ何回かやらされてるっすけど……ここまで運んできてくれてたっすよ?」
「え」
輸送費ケチられた? というか運動場(婉曲表現)があるんだから確かに試すならここでやるべきじゃん。何で呼びつけられてんの? 俺のせいで舐められてる?
「……まあ、あれだ。普段遠出なんかしないから気分転換だろ。俺の」
戦力なのはコイツらなのに自由度が低いのは俺なんだよね。おかしくない? まあ外出申請がダルすぎて一回却下されて以来やってないのが悪いんだが。インドア派で良かった~。
「先生って普段なにやってるんですか?」
「ウォーシミュゲー」
嗜好品は贅沢品だが、そういうデータで済む娯楽は安いし充実してるぞこの世界。子供の前では言えないが性産業も発展してる。やっぱ辛い現実から目を背けられるようにしてるんだなって。
「とにかく、明日は全員で出かけるからな。迎えの車に乗り遅れないように早く寝ろよ?」
「せんせーも一緒の車乗るのー?」
「ん? ああ。まあ歩いていくわけにもいかないしな」
「隣になったりします?」
「まあ座席の配置によっては」
「「「最初はグー!!!」」」
「そんなに嫌か……?」
俺の隣ってジャン負けの罰ゲームなのか……? 普通に凹む。そりゃ友達の隣と引率の先生の隣じゃ楽しさ全然違うだろうけどさ。
助手席にしてもらえないか聞いてみるか……
「あー……肺が腐ってく~……」
ドーパミンがいっぱい出るドパねぇ……ちなみにチートヒーラーな俺はヤニで汚れた肺も治せる。ついでに色素沈着とか口臭も消せる。女の子はそういうのを結構気にするからチーターで良かったと安心したものである。アイツらタバコ臭いって言うくせに近寄ってくるからな……
「おお、先生殿、お手空きで?」
「あ? あー……どちらさんで? 見ての通り忙しいんですが……」
「これは失礼。私『キサラギ』の開発担当でして……」
「知らんなぁ……」
とりあえず渡された名刺は貰う。返せるものは無いから名刺交換とはいかないが。保健室の先生が名刺なんか持ってるわけないでしょ。
「で、何の用で? タバコ吸い終わるぐらいまでなら聞きますが」
「それは急がなくてはいけませんね。では率直に申し上げまして。今までの代償者の治療データを提供していただきたい。これだけあれらを長持ちさせてる手腕、共有しないのは人類への裏切りでは?」
「治療の経過は送っているでしょう? ああ、渡されていないなら御宅らがお国から信用されてないのでは?」
「これは手厳しい。ですが、仮にそうだとすれば余計に貴方の知識が欲しい。そうでしょう?」
「……そう言われてもね。特別なことなんて何もしちゃいませんよ。偶々代償が嚙み合っただけじゃないですかね」
当たり前のことだが俺のチートに再現性はゼロだぞ。代償者の異能は色々研究進んでるらしいんだけどな。だから治療記録なんて見せても何の価値もない。『奇跡が起きて治りました』なんて書いてあるカルテを見せられてもしょうがないからな。……本当にそんな事書いてる訳じゃないぞ?
「何故隠すのですか? 自分の価値を吊り上げようとでも?」
「逆に聞きますがね。俺が全面的に協力したとして、何が変わるって言うんで?」
「当然今より効率の良い運用方法を。治るのなら今より負荷をかけられる。治るのなら死線を潜らせられる。攻勢に出られなければ、いずれはジリ貧なのですから。……全ての指揮官と研究者を引っ括めても、貴方ほど代償者の治療に長けた人は居ないのですよ」
「さいですか。まあなんか分かったら協力しますよ。負荷を減らす方ならね」
まあ、なんというか。代償者の扱いは結構悪いのである。
人類の守護者を雑に扱うなんて馬鹿じゃんね、とは思わなくも無いのだが……これに関しては代償者の平均寿命が悪い。異能の質によっちゃぁ数回戦闘に出ただけで使い物にならなくなるなり死ぬなりするからな。
無理矢理市井から引っ張って高回転で使い捨てている代償者を普通の人間のように扱ってたら接する側のメンタルが死ぬから……って理由かは知らんが、有り体に言って道具扱いだ。まあ、ウチの奴等にしたって本来なら長期運用出来そうなのアザミぐらいだしな。
「はあ……折角のタバコが不味くなった。俺の視界から消えてくれると有り難い。一本吸い直すから」
「……貴方が人類の為の決断をしてくれることを願いますよ」
「そもそも俺にそんな期待をする方が間違ってんだよ。ただの医者だぞ」
そんな捨て台詞を言って去って行かれても困る。繰り返しになるが俺のチートに再現性は無い。だから期待されてもどうしようもないというのが本音なのだが……まあ理解されるわけがない。何かあるのは勘づかれてるらしいが。そうじゃなきゃ指揮官の方に運用方法について問い詰めに行くだろうし。
「でもなぁ……じゃあどうにかして全員俺が治せば解決かって言うとなぁ……」
ヒーラーが幾ら強かろうがアタッカーの数が足りん。ベホマを無限に使えようとそれだけじゃゾーマは倒せないのだ。そういう意味では現在のお国の方針──とにかく代償者を戦わせてデータを取り、より強力な新しい世代を作り出す──というのは俺としても望ましいものではあるのだが。
「結局半端なんだよなぁ……俺は……」
代償者達を全員救うなんて気概も無ければ、目の前の奴等を研究材料として死ぬ前提で戦わせ続けるような割り切りも出来ない。でも、みんな割とそんなもんじゃないか? 募金はしても現地にボランティアに行かないようなもん……自己正当化の言い訳だ。カスだな俺。凹む。
「あー……主人公にはなれそうもねぇわ……」
涙に濡れながら残酷な決断を下す、だとか、自分の力で完全無欠のハッピーエンドに辿り着く、だとか。そういう事が出来れば良かったのだろうけど。
「所詮ただのチーターよ俺は。現実って上手くいかねぇなぁ」
人類の未来の為だなんて酔っ払えないし、今日が良ければ全部よしと享楽的にもなれない。三食飯が食えて安全な所で眠れりゃ俺は十分幸せだが、自分はともかくアイツらにはどうにか今よりもっと幸せな未来が待っていて欲しいと思ってしまう。どっちつかずだなぁ……
「あ、せんせーお帰りー。見てこれ、炎に強い捕食者の細胞を埋め込んだ刀だって」
「大丈夫か? それ。使い過ぎたら使い手の身体乗っ取ったりしてこない?」
「どうだろ? 私の血吸いまくる事にはなるだろうけど……ほら、文字通り『燃えよ剣』だよ」
「燃える剣で良いだろうが……待て。お前まさか、新撰組が属性攻撃出来ると思ってんじゃ……」
「え、だって信長とかも炎出してたよ。火縄銃召喚したり」
「お前がゲームにハマってるのはよく分かった」
アホな会話してる時が1番落ち着くね。アニマルセラピー……?
「シオンは……なんだそれ。ボール?」
「私の異能に反応してくれる小型カメラの集合体だそうです。そのうち異能……先生の言うところのビームを乱反射する機能も付ける予定だとか」
「どういう原理なんだ……? 今日のテストで異能は?」
「出力弱めで何回か。申し訳ないんですけど、出来れば……」
「任せろ。ここの連中に見られないところでな」
弱めで使ってるならどうでもいい記憶が消えてるはず……なんだが、何が消えたか分からないのが本当にめんどくさい。正確に言うと、本当に他の記憶が消えてないのかが治すまで分からない、か? 最低出力にすると嫌な思い出しか消えないのは実証済みなんだがな。
「そんでアザミは……何も変わってないな……」
「私は耐久試験が主だったっすからねぇ……力に耐えられる装備が出来るまでお預けっす」
下手に剣だの槍だの持たせても握り潰して終わるからな……いっそ手甲でも付けたらいいんじゃなかろうか。でも捕食者の細胞を使った手甲ってそれこそこっちを取り込みに来そうで嫌だな……
「よーし、そんじゃ帰るぞ。挨拶……もしなくていいだろこんなとこ。塩撒いとけ塩」
「帰るのは伝えなきゃマズくないっすか?」
「というかむしろ撒かれる側じゃ無いんですか? 私達が居ない間に何かあったり……?」
「虐められたの……?」
「虐められるほど弱くないが……!」
待っててくれたドライバーさんの所へ戻る……道中で。
「あ、そうだ先生。一人助手席に座っていいっすか? ちょっと……ほら、えーっと……車酔いみたいな?」
「なんで曖昧なんだ……? 構わんが、そうなると俺の隣に座る奴が」
「「「最初はグー!!!」」」
「泣いていいか?」
先生は今虐められています。いっそ後部座席の真ん中に座って邪魔してやろうか。いや、俺越しに会話されるのに耐えられなそうだからダメだな……