代償があるタイプの異能持ち女の子vsチートヒーラーvsダークライ 作:らっきー(16代目)
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昔々の代償者。彼女達が命を支払って作った結界。今の人類はその狭い領域の中でなんとか安全に暮らしている。ただし、『安全に暮らせる』というのは『安心して暮らせる』というのを意味しないわけでして。今の人類からは弱者を慮る余裕なんてものはとっくに失われているのでした。
教育、医療、安全。どれも今では高級品。いえ、それは正確な言い方では無いかもしれませんね。教育を受けられる人は良い仕事に就いて、自分の家族に教育を受けさせる。そうしてその人が稼いだお金で医療や安全を買う。命の心配が無ければ時間を自己研鑽に当てられる。まあ、有り体に言えば格差社会。それも階層の固定化された。
幸せへのチケットは一部の上流階級と言われるような人にしか配られていないようで。彼ら彼女らが安心安全に暮らせるようにその他全てを請け負うのが私達のような持たざる人間で。
私みたいな人を助けてくる人なんて誰も居なかったから。私は『私達』を救う為に代償者となりました。
「よし、じゃあ少しずつ言葉を出してみようか。……なんか話のネタでもあるか?」
『急に言われても困りますね』
「そりゃそうだよな。……じゃあ好きな物か嫌いな物。文字じゃなく声で。さんはい」
「ぇっと……子供……は、好き、ですね。嫌い、は……お金持ち……?」
言葉を覚えたばかりの子供よりもなおたどたどしい喋り方。今の私に出来る精一杯で……二度と出来ないと思っていた行為。自分の声を聞いたのは大分久しぶり。心理的にはもうずっと聞いてなかったような気もする。
「俺からすればアマネも子供だがなぁ……いや待て、そもそもお前幾つだ……?」
『書類で見たのでは?』
「そこまで細かく目を通せてない。異能関連ぐらいだな」
『19』
「お、ギリ子供」
『代償者は15で成人です』
「ホムラも言ってたなそれ。決まりはどうでもガキはガキだろ……文句があるなら口に出してみ?」
「う……ズル……私。ちゃん、と、ぉかね、稼いで──ケホっ」
ちゃんと自分の面倒を自分で見れるお金を稼いでるし。流石にその主張は口に出すには長すぎたみたい。なんというか……錆びていた歯車に油を指したばかりみたいな、そんな違和感。喉が引き攣るという表現でいいのだろうか? そんな咳が出る事すらも嬉しいのだけど。本当に口から音が出なくなっていたから。
「金稼いでるだけで大人かねぇ……というか、そんな大人になりたいか? 俺は一生子供で居たいが」
『それはそれでどうなんですか?』
「情けない自覚はある……!」
『というか貴方は何歳?』
「おっと年齢の話はやめようか。永遠のアラサーだぞ」
「じぶん、振ったくせ……に……こほん」
「わざわざ声に出すほど文句を言いたかったのか……? ちょっと1回喉触るぞ」
この人に触れられると喉が少し楽になるし、咳も収まる。一体何をされているのだろうか。……
「そんで金持ちが嫌い……なんか嫌な事されたか? 言いたくなかったらいいが」
『妬ましいので』
「それは俺も色んな相手に思うわ。特に実家が太い奴」
『私は実家なんてありませんよ?』
「俺も無い。おっと、じゃあどうやって医者になったのかは聞くなよ?
「ずる……?」
短い単語程度なら話せるようになってきたかな。そもそもの最初もそうだけど、喉に触れられる度にどんどん調子が良くなっている……気がする。思い込み? リハビリが効いてる、ってことなのかな。
「……苦労してきたか?」
「それなり、に」
「そっか。頑張ったな。お疲れ様」
『ありがとうございます。大した事はしてませんが』
精々お金を稼ぐくらい。代償者は給料が良くて助かる……けど、私が必要な額には全然足りない。というか幾ら稼ごうと足りるということは無いと思う。だから、うん。私は大したことは出来ていないのだ。
「あー……そうだな、次の話題行くか。腕の話……は、嫌か?」
「別に……? カッコ、いいし……怖い?」
「俺はそういうの好きだけども。本人としてはどうなんだ……?」
『子供に隠さなきゃいけないのだけが不便ですね』
今みたいな腕周りを露出するスタイルが1番楽ではある……けど、流石に捕食者じみた腕を一般社会で披露するわけにはいかない。それ以外は特に文句は無い。最初は感覚に戸惑ったけど今では普通にペンも持てるし。というかなんなら本来の私の手より器用かも。力も強いから捕食者との戦いでも役立つし。
「治せるとしたら治したい?」
「なお──ゲホッ! ゲホッ! ……ぁ……え……? 『治せる?』
思わず食いついて、咽ながら書いたから大分汚い文字。でも通じたみたい。
「分からん。巫山戯てる訳じゃない。本当に分からん。つまり、可能性はあるってことだ」
他の人に言われたら馬鹿にするなと怒っていたかもしれない。変に希望を持たせないで欲しいと。ただ、目の前の人は既に私の声を治しつつあるわけで……
『貴方のこれは、何度でも出来る?』
「うん?」
「声……また、出なく……なぉせる?」
「ああ、そういうことか。イケるぞ。多分次の方が早い……って言うか、今回が例外だな。一発で治すつもりだったんだが」
何かを捧げて異能を使う。それが私達代償者。文字通り代償として差し出しているのだから、傷は治らないし失った物は戻せない。……私が代償者になる時にそう説明されたのだけど。
『どうやってるの?』
「俺にも分からん……って言ったら信じてくれるか?」
『信じられないけど問い詰めはしない』
「良い子だなぁ……代償者って皆そうなのか……?」
『それは知りませんが』
良い子云々ではなく損得勘定でも問い詰めはしないのではなかろうか。機嫌を損ねたら治してもらえなくなるかもしれないのに。この人の言っていることが真実という前提だけど。
『聞いてもらいたいことがあるんです』
「ん? なんだ?」
『私が代償者になった理由』
「金の為?」
『それはそうなんですが……』
協力してもらうのがベストだけど、最低限同情をしてもらえたらいい。こいつはもう治さなくていいや、と思われさえしなければ。治してもらえればまた戦える。また戦えればお金が入る。
私が代償者になったのはお金の為。そのお金の使い道はと言えば……明日の食事も保証されていないような人が、明日を当然に迎えられるように。
だって、私は一番助けて欲しかった時に誰にも助けて貰えなかったから。ヒーローなんてこの世界には居ないって理解してしまったから。だから……私がヒーローになるしかなかったから。
世界は悲劇に満ちているとか、独りでも生きていかなきゃいけないとか、都合のいい奇跡を待ってるだけじゃ駄目だとか。そんな悟ったようなことを言う、頭のいいお利口さんになんかなりたくなかった。
いいじゃないかご都合主義で。いいじゃないか誰かに頼ったって。いいじゃないか奇跡が起きたって。
弱くて。顧みられなくって。惨めで、泣くことしかできなくて都合のいい我儘を叫んでいるその誰かは──かつて泣いていた私自身なんだから。
『手が疲れました』
「早く喋れるようにならないとなぁ……」
なんだか言わなくていいことまで書いてしまった気がする。私の昔の事なんて知ったことじゃないのに聞かされて困ったろうな。
「とりあえず手出せ」
「はぁ……?」
とりあえず言う通りにして握ってもらう……と、それだけで手の疲労が抜けていく。本当に何をしているのだろうか。
「大変だったんだな」
「そんな、大したことは」
「お前の意見は知らん。俺がそう思ったんだからそうなんだよ」
「えぇ……」
何その滅茶苦茶な理屈は。
「お疲れ様。まあ俺は金の問題を一気に解決はしてやれないが……怪我だの代償だのは何とかしてやれる。だからちょっとは甘えとけ」
「私……は、だって、一人で、今まで……」
「黙ってろガキ。……今度はもう大人だって言うか? 知るか。俺がガキだって言ってるんだから俺の前ではお前はガキなんだよ」
「言ってること……滅茶苦茶……」
「まだ言うか。そんな奴はこうだ」
立ち上がって、何をするのかと思えば私の頭をぐいっと引き寄せてきて。そのまま頭を撫で繰り回される。本気で子供扱いしてない? この人。
「……タバコ、くさいです」
「目に染みるだろ?」
「……はい。涙、出るぐらい」
自分から頭を押し付けたのは顔を見られたく無かったからだ。縋りつくように手に力がこもってしまったのは、嗚咽を聞かれたくなかったから。
今だけ。今だけだったら、子供に成らせてもらってもいいのだろうか。
先生はこの後セクハラだったな…?と反省して頭を下げています