『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第11話 今度こそ宝箱

ゴゴゴゴゴ――。

 

低い音が、静かになった広間へ響いた。

 

「……何?」

 

ルシエラが立ち上がる。

 

その隣では、ロディオがもっと早く短剣を抜いていた。

 

「また何か来るのか?」

 

「やめてくれ」

 

エイルも座っていた床から立ち上がり、剣へ手をかける。

 

ついさっきまで、もう動きたくないと思っていた。

 

それでも、音を聞けば身体が勝手に構えてしまう。

 

五人の視線の先で、広間奥の石壁がゆっくりと横へ動いていた。

 

石が擦れ合う音。

 

やがて、人が通れるほどの隙間が開く。

 

その向こうは、小さな部屋になっていた。

 

「……部屋?」

 

エイルが少し近づく。

 

ロディオが腕を出して止めた。

 

「待って。俺が見る」

 

「分かった」

 

エイルは素直に止まった。

 

今のロディオに先回りする気にはなれない。

 

ランタンを持ち、ロディオが慎重に中を覗く。

 

しばらく動かない。

 

「何かいる?」

 

ルシエラが聞く。

 

「魔物はいない」

 

「じゃあ何があるんだ?」

 

「箱」

 

沈黙。

 

エイルが聞き返した。

 

「箱?」

 

ロディオが振り返る。

 

「宝箱」

 

五人とも、すぐには喜ばなかった。

 

ルシエラが少し困ったような顔になる。

 

「……またですね」

 

「ああ。まただ」

 

エイルも頷く。

 

ロディオは何も言わず、部屋へ入った。

 

中央には石の台座。

 

その上に、一つの宝箱が置かれている。

 

さっき見つけた古びた木箱とはまるで違う。

 

濃い色の木材。

 

銀色の金具。

 

蓋には細かな模様まで彫られている。

 

見るからに上等だった。

 

だがロディオは、宝箱へ近づかなかった。

 

まず入口の床を見る。

 

壁を見る。

 

天井を見る。

 

床を叩く。

 

部屋の隅まで歩く。

 

再び天井を見る。

 

エイルたちも部屋へ入り、その様子を眺めていた。

 

「……ずいぶん慎重になったな」

 

エイルが言う。

 

「慎重で悪い?」

 

「悪くない」

 

ロディオは台座の周囲を一周した。

 

しゃがむ。

 

床へ顔を近づける。

 

「ここ、色が違う」

 

「何かあった?」

 

ルシエラが覗き込む。

 

「シミがある」

 

エイルも横から見る。

 

確かに、石床の一部だけ少し黒ずんでいる。

 

「……シミ?」

 

「液体が垂れた跡かもしれない」

 

ロディオは指先で軽く触った。

 

匂いまで確かめる。

 

メルディアが隣にしゃがんだ。

 

「ただの水じゃない?」

 

「本当に?」

 

「石に染みた水に見える」

 

ロディオはまだシミを見ている。

 

エイルが腕を組んだ。

 

「さすがに床のシミまで疑うのは、警戒しすぎじゃないか?」

 

ロディオが勢いよく顔を上げた。

 

「床が開いたんだぞ!」

 

「まあ、そうだけど」

 

「次はシミから何か出てきても俺は驚かないからな!」

 

ルシエラが反射的に一歩シミから離れた。

 

ロディオがそれを見る。

 

「ルシエラまで離れなくていいと思う」

 

「今、何か出るかもしれないって言ったじゃないですか」

 

「例えだよ!」

 

クラウスが天井を見上げる。

 

「上は大丈夫ですか?」

 

「三回見た」

 

「そんなに」

 

「前回は下だった。今回は上かもしれないだろ」

 

エイルが宝箱を見る。

 

「箱は?」

 

「最後」

 

「普通そこが最初じゃないのか?」

 

「前回それで失敗した!」

 

「箱には罠なかっただろ」

 

「それが余計に嫌なんだよ!」

 

それからしばらく。

 

ロディオは床、壁、天井、台座、宝箱の下側、蓋、錠前、周囲の隙間まで確認した。

 

ようやく立ち上がる。

 

「……たぶん大丈夫」

 

エイルが眉を上げる。

 

「たぶん?」

 

「絶対って言ったら、また何か起きそうだから言わない」

 

「気持ちは分かります」

 

クラウスが妙に納得している。

 

ロディオが錠前へ工具を入れた。

 

数度、小さな金属音。

 

カチ。

 

「開いた」

 

だが蓋には触れない。

 

一度後ろへ下がる。

 

エイルが聞いた。

 

「開けないのか?」

 

「開けるよ」

 

「じゃあ何で下がった?」

 

「一応」

 

「もう好きにしてくれ」

 

ロディオが横から手を伸ばし、ゆっくり蓋を持ち上げた。

 

ギィ――。

 

蓋が開く。

 

何も起きなかった。

 

全員が待つ。

 

五秒。

 

十秒。

 

やはり何も起きない。

 

ロディオが眉を寄せた。

 

「……本当に何もない」

 

「よかったじゃないか」

 

エイルが言う。

 

「何もないと逆に不安になってきた」

 

「面倒くさいな、お前」

 

「誰のせいでこうなったと思ってるんだ」

 

「誰のせいだ?」

 

「分からないから困ってるんだよ」

 

ようやく五人が宝箱を覗き込んだ。

 

中には一本の剣が収められていた。

 

濃紺の鞘。

 

黒に近い革を巻いた柄。

 

派手な宝石などはついていない。

 

だが、今までエイルが使ってきた剣とは、造りそのものが違って見えた。

 

ルシエラが思わず身を乗り出す。

 

「綺麗ですね」

 

「剣だな」

 

ロディオが言う。

 

「見れば分かる」

 

メルディアが返した。

 

ロディオが少し傷ついた顔をする。

 

「前にも誰か似たこと言ってなかった?」

 

エイルが剣を手に取る。

 

意外に軽い。

 

鞘からゆっくり抜いた。

 

澄んだ金属音。

 

銀色の刃。

 

中央には、薄く青みがかった一本の筋が走っている。

 

ランタンの光を受けると、その部分だけ淡く光った。

 

エイルは何度か握り直した。

 

「すごく持ちやすい」

 

「使えそう?」

 

ルシエラが聞く。

 

「たぶん。今の剣より軽いのに、変に軽すぎない」

 

ロディオが広間の方を見る。

 

「さっきのでかいやつの皮、残ってるよな」

 

エイルもそちらを見る。

 

崩落で剥がれた黒い外皮が、岩の間に落ちている。

 

「試してみるか」

 

クラウスが少し嫌そうな顔をした。

 

「もう何も起きませんよね?」

 

「皮を斬るだけだ」

 

「今日、その言葉を信用していいのか迷います」

 

広間へ戻る。

 

エイルはまず、今まで使っていた剣を抜いた。

 

落ちていた外皮へ振り下ろす。

 

ガキン。

 

硬い。

 

傷はついたが、浅い。

 

あの巨大な魔物と戦っていた時と同じ感触だった。

 

次に、新しい剣を構える。

 

軽く息を吐く。

 

振り下ろした。

 

ザッ。

 

手応えが違った。

 

刃が黒い外皮へ半ばまで食い込んでいる。

 

エイル自身が一番驚いた。

 

「……入った」

 

ロディオが目を丸くする。

 

「今の、そんなに力入れてなかったよな?」

 

「入れてない」

 

エイルが剣を引き抜く。

 

刃こぼれも見当たらない。

 

もう一度、少し角度を変えて振った。

 

今度は外皮の端が切れた。

 

床へ黒い破片が落ちる。

 

ルシエラの顔が明るくなった。

 

「すごいじゃないですか!」

 

エイルは自分の古い剣を見る。

 

新しい剣を見る。

 

「全然違うな……」

 

メルディアも刃を観察する。

 

「詳しい性能は分からないけど、少なくとも今の剣より切れる」

 

「これ、もらっていいのかな」

 

エイルが言う。

 

ロディオが倒れた巨大な魔物を指差した。

 

「ここまでやって駄目って言われたら怒っていいと思う」

 

「誰に?」

 

「ダンジョンに」

 

「どうやって怒るんだよ」

 

正式な名前も、どんな力を持つ剣なのかも分からない。

 

それでも、強い武器であることだけは十分に分かった。

 

エイルは剣を鞘へ戻した。

 

「町に戻ったら鑑定してもらおう」

 

「戻れたらな」

 

ロディオが言う。

 

全員が黙る。

 

「……先に帰り道探そう」

 

「そうですね」

 

宝箱の部屋をもう一度確認すると、奥に細い通路が続いていた。

 

床は緩やかに上っている。

 

ロディオが少し先まで確認して戻ってくる。

 

「上に続いてる」

 

ルシエラの表情が明るくなった。

 

「帰れそうですね!」

 

「まだ出口とは限らないけど、下に行くよりはいい」

 

その前に。

 

五人は倒した巨大な魔物のところへ戻った。

 

ロディオがその巨体を見上げる。

 

「これ、何か持って帰った方がいいよな」

 

「素材?」

 

エイルが聞く。

 

「この皮だけでも普通じゃないだろ。牙もでかいし」

 

メルディアは崩れた外皮を拾い上げる。

 

「全部は無理」

 

「全部持って帰ろうとは思ってないよ」

 

「思ってそうな顔してた」

 

「俺を何だと思ってるの?」

 

持ち帰れそうなものを確認する。

 

硬い外皮。

 

折れた牙。

 

爪。

 

そして、身体の奥から見つかった大きな魔石。

 

魔石を取り出した時だけは、五人とも少し黙った。

 

両手で抱えるほど大きい。

 

内部に白い光がゆっくり揺れている。

 

ルシエラが覗き込む。

 

「これ、あの光を出してたのと関係あるんでしょうか」

 

メルディアも見る。

 

「分からない。でも普通の魔石よりずっと大きい」

 

ロディオの目が輝く。

 

「高そう」

 

クラウスがため息をつく。

 

「最初に出る感想がそれなんですね」

 

「大事だろ。俺たち、装備ずっと最初のままだぞ」

 

エイルが自分の防具を見る。

 

あちこち傷が増えている。

 

「それは確かに」

 

ルシエラも自分のローブを見る。

 

「私のも汚れました」

 

メルディアがすぐに言う。

 

「それは洗えばいい」

 

「そういう話ですか?」

 

持ち運べる量には限界がある。

 

価値がありそうな外皮を何枚か。

 

牙。

 

爪。

 

大きな魔石。

 

それ以外にも、小さく切り取れる部分をいくつか。

 

全部を荷物へまとめると、かなりの重量になった。

 

ロディオが背負った袋を持ち上げる。

 

「重いけど、これ置いて帰るのも嫌だな」

 

エイルも素材を背負う。

 

「交代で持とう」

 

「新しい剣持ってるやつが一番元気そうだしな」

 

「お前さっき俺が吹き飛ばされたの見てたよな?」

 

「見てたから元気そうって言ってる」

 

「理屈がおかしい」

 

五人は上りの通路へ入った。

 

しばらく歩く。

 

途中に何度か分かれ道があったが、ロディオが地面の傾斜を見ながら上へ向かう道を選んでいく。

 

やがて。

 

前方から声が聞こえた。

 

ロディオが手を上げる。

 

「この先に三体いる」

 

「何が?」

 

エイルが聞く。

 

「ホブゴブリン」

 

全員が一瞬だけ黙った。

 

ついさっきまでなら、別の道を探していただろう。

 

メルディアが尋ねる。

 

「気づかれてる?」

 

「もう気づかれた」

 

曲がり角の先から足音が近づく。

 

エイルが新しい剣の柄へ手をかけた。

 

「じゃあ戦おう」

 

ロディオがエイルを見る。

 

「ずいぶん軽く言うな」

 

「三体だろ?」

 

「さっきは三体で結構苦労したぞ」

 

「その時は、今よりずっと弱かっただろ」

 

エイルは鞘から剣を抜いた。

 

ホブゴブリンが姿を現す。

 

一体目が盾を構えた。

 

エイルが踏み込む。

 

剣が振り下ろされる。

 

ホブゴブリンの盾が上がった。

 

金属音。

 

――ではなかった。

 

ザン。

 

刃が盾の縁へ食い込んだ。

 

そのまま深く裂く。

 

「え?」

 

エイル自身が一瞬止まりそうになる。

 

ホブゴブリンも同じだった。

 

ロディオが横から叫ぶ。

 

「止まるな!」

 

「分かってる!」

 

エイルは剣を引き戻す。

 

再び振る。

 

今度は盾を避けて肩。

 

刃が通った。

 

ホブゴブリンが倒れる。

 

「切れすぎないか、これ!」

 

「いいから使え!」

 

二体目がロディオへ向かう。

 

ロディオは剣をかわし、そのまま懐へ入り込んだ。

 

短剣を脇腹へ。

 

すぐ離れる。

 

「こっちも前より遅く見える!」

 

三体目へメルディアが杖を向けた。

 

「《ファイヤーボール》」

 

火球が胸へ直撃した。

 

ホブゴブリンの身体が大きく後ろへ飛ぶ。

 

壁へぶつかる。

 

立ち上がろうとしたところへ、エイルが距離を詰めた。

 

一撃。

 

終わった。

 

残っていた一体も、ロディオとの連携で間もなく倒れる。

 

静かになる。

 

五人が顔を見合わせた。

 

エイルが剣を見る。

 

「……早かったな」

 

メルディアが答える。

 

「前とは違う」

 

「剣だけじゃないな」

 

ロディオが自分の手を見る。

 

「身体も軽い」

 

クラウスも頷いた。

 

「明らかに余裕がありましたね」

 

ルシエラが嬉しそうに笑った。

 

「強くなってますね、私たち」

 

その言葉が、一番しっくりきた。

 

レベルが上がったことは、表示を見れば分かる。

 

だが、今は数字ではなく身体で分かった。

 

さっきまで苦戦した相手が、もう同じ強さには感じられない。

 

エイルが剣を鞘へ戻す。

 

「これなら、無理に全部避けなくてもよさそうだな」

 

ロディオが笑う。

 

「俺も今それ言おうと思った」

 

クラウスが二人を見る。

 

「帰るんですよね?」

 

「もちろん」

 

「魔物を探しに行くわけではありませんよね?」

 

「探さない」

 

エイルが答える。

 

ロディオも頷く。

 

「帰り道にいたら倒すだけ」

 

「ならいいです」

 

少し進む。

 

しばらくして、右の横道から鳴き声が聞こえた。

 

ロディオが足を止める。

 

「……いる」

 

クラウスが言う。

 

「帰り道ですか?」

 

ロディオが横道を見る。

 

「ちょっとだけ横」

 

メルディアが無言でロディオを見る。

 

「素材もありそうなんだよ」

 

「帰るんじゃなかったの?」

 

「帰りながら取る」

 

エイルが笑った。

 

「それ、帰りながらじゃないだろ」

 

「ちょっとだけだから」

 

ルシエラがロディオを見る。

 

「少し調子に乗ってませんか?」

 

ロディオが答える前に、エイルが頷いた。

 

「俺もそう思う」

 

「エイルまで!?」

 

結局、横道へは入らなかった。

 

だが、帰路で出会った魔物とは戦った。

 

甲殻を持つ大きな虫型魔物が二体。

 

エイルの新しい剣は、その甲殻にも深く食い込んだ。

 

一体が突進してきたところをエイルが受け流し、ロディオが脚を狙う。

 

体勢が崩れたところへメルディアの火球。

 

短い戦闘で終わった。

 

その次は狼型の魔物が四体。

 

以前なら囲まれないよう警戒していた相手だった。

 

今はロディオが先に一体へ回り込み、エイルが二体を正面で受ける。

 

クラウスが後方から声を飛ばす。

 

「右からもう一体来ます!」

 

「見えてる!」

 

エイルが一歩下がる。

 

狼が飛び込む。

 

その瞬間、前へ踏み込み、剣を振った。

 

一体。

 

次。

 

ロディオが追い込んだ相手を仕留める。

 

最後の一体が逃げようとした。

 

「追う?」

 

ロディオが聞く。

 

エイルは少し考えた。

 

「いや、いい。帰ろう」

 

「それでいいと思います」

 

クラウスが安心したように言った。

 

さらに上へ。

 

空気が少し変わった。

 

湿った地下の匂いに、わずかに外気が混ざる。

 

ルシエラが顔を上げる。

 

「風があります」

 

ロディオも感じたらしい。

 

「近いかも」

 

歩調が少し速くなった。

 

その途中。

 

メルディアがふと立ち止まった。

 

「どうした?」

 

エイルが聞く。

 

「確認してなかった」

 

自分の状態を開く。

 

少しして。

 

「二十」

 

全員の足が止まった。

 

ロディオが振り返る。

 

「もう?」

 

エイルも自分の状態を見る。

 

肉体レベル。

 

二十。

 

職業レベル。

 

二十。

 

「本当だ」

 

ルシエラも確認する。

 

「私も二十です」

 

クラウスも同じだった。

 

ロディオが笑う。

 

「今朝は七だったよな」

 

「七だった」

 

エイルも思わず笑った。

 

「一日で十三上がった?」

 

メルディアがすぐに言う。

 

「戦った相手と数を考えて」

 

「分かってるけどさ。それでもすごいだろ」

 

ルシエラは自分の表示をしばらく眺めていた。

 

「二十……」

 

今朝、ダンジョンへ入った時は七だった。

 

それが、もう二十になっている。

 

数字を見ているだけなのに、朝よりずっと遠いところまで来たような気がした。

 

エイルが表示を閉じる。

 

「帰ったら装備も見直したいな」

 

ロディオが背中の素材を揺らす。

 

「そのためにこれ持ってるんだろ」

 

「売れるか分からないだろ」

 

「売れなかったら泣く」

 

「その時は一緒に泣きましょう」

 

ルシエラが真顔で言った。

 

「そこは励ましてくれよ」

 

やがて。

 

前方が明るくなった。

 

見覚えのある石壁。

 

人の足跡。

 

浅い階層でつけられている目印。

 

ロディオが壁を見る。

 

「知ってる場所だ」

 

エイルも周囲を見る。

 

「本当に?」

 

「間違いない。ここ、入口からそんなに遠くない」

 

ルシエラが大きく息を吐いた。

 

「帰れますね」

 

「ああ」

 

今度こそ。

 

誰も疑わなかった。

 

しばらくして、外の光が見えた。

 

五人がダンジョンの入口から出る。

 

空はもう赤く染まり始めていた。

 

入口の小屋にいた係員がこちらを見る。

 

最初は普通だった。

 

次に、五人の服を見る。

 

埃。

 

傷。

 

背負っている大きな素材。

 

そしてエイルの腰にある、入った時にはなかった濃紺の鞘。

 

係員の表情が変わる。

 

「……浅層の依頼でしたよね?」

 

五人が止まった。

 

エイルが答える。

 

「そのはずだったんですけど」

 

ロディオが付け足す。

 

「ちょっと下に行きまして」

 

クラウスが言う。

 

「ちょっと、ではないと思います」

 

「俺たちも好きで行ったわけじゃないだろ」

 

メルディアが言った。

 

「床が開いたから」

 

係員が黙る。

 

ルシエラが困ったように笑った。

 

「説明すると、少し長いんです」

 

町へ戻る頃には、すっかり夕方になっていた。

 

冒険者ギルドへ入る。

 

受付の職員が顔を上げた。

 

「お帰りなさい。ダンジョンはいかが――」

 

そこで言葉が止まる。

 

職員の視線が、五人の荷物へ移った。

 

黒い外皮。

 

大きな牙。

 

爪。

 

布で包んだ巨大な魔石。

 

そして見慣れない剣。

 

「……何をしてきたんですか?」

 

エイルは仲間を見る。

 

ロディオを見る。

 

メルディアを見る。

 

クラウスを見る。

 

最後にルシエラを見る。

 

誰も、簡単に説明できそうな顔をしていなかった。

 

エイルは少し考えてから答えた。

 

「俺たちも、どこから説明すればいいのか分からなくて」

 

受付の職員は、もう一度大量の素材を見た。

 

「最初からお願いします」

 

エイルは小さく息を吐いた。

 

「長くなりますよ」

 

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