『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第12話 装備を新しくしよう

「最初からお願いします」

 

受付の職員にそう言われて、エイルは困った。

 

最初から。

 

どこを最初にすればいいのか。

 

「ダンジョンに入ったところからですか?」

 

「そこから普通に話していただければ大丈夫です」

 

「分かりました」

 

エイルは隣を見る。

 

ルシエラ、メルディア、クラウス、ロディオ。

 

誰も代わってくれそうにない。

 

仕方なく話し始めた。

 

「最初は普通だったんです。浅いところでコボルトとか蝙蝠とかを倒して、依頼の素材を集めてました」

 

受付の職員が頷きながら記録する。

 

「それで、少し大きな魔物と戦いまして」

 

「どのような魔物でしたか?」

 

「大きな蜥蜴みたいなやつです。背中が石みたいに硬くて」

 

メルディアが補足する。

 

「ストーンリザードだと思う」

 

職員の手が動く。

 

「浅層でも出ることがありますね。それで?」

 

「そいつが光を撃ってきたので、ルシエラが防いだんです」

 

「《絶対防御領域》ですね」

 

「はい。俺たちは無事だったんですけど、後ろの壁が壊れました」

 

職員の手が止まった。

 

「壁が?」

 

「壊れました」

 

「魔物の攻撃で?」

 

「たぶん」

 

少し間が空いた。

 

「続けてください」

 

「壊れた壁の向こうに通路があったんです」

 

職員がエイルを見る。

 

「入りました?」

 

「入口だけ見るつもりで」

 

職員は何も言わなかった。

 

ただ、記録を続ける手が少し遅くなった。

 

「そこに宝箱がありまして」

 

今度はロディオが口を挟んだ。

 

「ちゃんと罠は調べました」

 

職員がロディオを見る。

 

「罠があったんですか?」

 

「宝箱にはなかったです」

 

「宝箱には?」

 

ロディオが視線を逸らした。

 

「箱を動かしたら床が開きました」

 

職員の手が止まる。

 

「……なぜ宝箱を動かしたんですか?」

 

「下に何かあるかと思って」

 

「ありましたか?」

 

「下層がありました」

 

エイルが口元を押さえた。

 

受付の職員はしばらくロディオを見ていた。

 

それから、何事もなかったように記録を再開する。

 

「落下した先から戻れなかったので、上へ行く道を探しました」

 

「そこまでは分かりました」

 

「途中で魔物が多くて、全部戦うと大変だから避けることにしたんです」

 

「妥当な判断だと思います」

 

「それで逃げてたら、どんどん増えまして」

 

再び職員の手が止まった。

 

「何がですか?」

 

「追ってくる魔物が」

 

「……どれくらい?」

 

エイルはロディオを見る。

 

ロディオが答える。

 

「数えてません」

 

メルディアが付け足した。

 

「数えられる状態じゃなかった」

 

受付の職員は一度、五人が持ち帰ってきた大量の素材を見る。

 

「それで?」

 

「逃げた先の広間に、今度はものすごく大きな魔物がいました」

 

「大きな魔物」

 

「そいつの攻撃をルシエラの防御でやり過ごしたら、後ろから追ってきた魔物に当たりまして」

 

職員がゆっくり顔を上げた。

 

「追ってきた魔物と、その大きな魔物が戦い始めた?」

 

「そうなりました」

 

「そうなりました?」

 

ロディオが頷く。

 

「俺たちもびっくりしました」

 

「それで、小さい方を応援してました」

 

ルシエラが言った。

 

受付の職員が今度はルシエラを見る。

 

「応援?」

 

「最初は私たちを追いかけてた魔物だったんですけど、あの時だけは頑張ってほしくて」

 

「なるほど……」

 

本当に納得したのかは分からなかった。

 

「最後は大きい方がほとんど倒しまして」

 

エイルが続ける。

 

「でも毒みたいなのが効いて、かなり弱ってました。それでも俺たちの攻撃じゃほとんど通らなくて」

 

「それでどうしたんです?」

 

「そいつの攻撃で柱を壊して、天井を落としました」

 

受付の職員が完全に手を止めた。

 

「誰の上に?」

 

「俺たちと、大きな魔物の上に」

 

「皆さんは?」

 

「ルシエラが守ってくれました」

 

受付の職員はペンを置いた。

 

額へ手を当てる。

 

「少し待ってください」

 

「はい」

 

しばらく待った。

 

職員が顔を上げる。

 

「確認します。皆さんは浅層の素材採取と魔物討伐の依頼を受けました」

 

「はい」

 

「壁の向こうに入って、宝箱を動かして落下し、大量の魔物に追われ、その魔物を別の大型魔物と戦わせ、最後は天井を落として討伐した」

 

エイルは考える。

 

「だいたい合ってます」

 

「だいたい」

 

職員がまた額を押さえた。

 

ロディオが小声で言う。

 

「説明すると変だな」

 

クラウスが返す。

 

「説明しなくても十分変だったと思います」

 

その後。

 

五人が持ち帰った素材は、ギルドの奥へ運ばれた。

 

しばらくすると、受付の職員とは別の男が出てきた。

 

灰色の髪を短く刈り込んだ、五十歳ほどの男だった。

 

素材の査定を担当しているらしい。

 

男は最初に黒い外皮を手に取った。

 

表。

 

裏。

 

断面。

 

指で叩く。

 

次に牙。

 

爪。

 

最後に、大きな魔石を見る。

 

「これを倒したのは、あんたたちか?」

 

エイルが答える。

 

「最後に倒したのは俺たちです」

 

「最後に?」

 

「話すと長くなるんです」

 

受付の職員が横から言う。

 

「長かったです」

 

査定役の男はそれ以上聞かなかった。

 

魔石を両手で持ち上げる。

 

「アーマードレイクだな」

 

「知ってる魔物なんですか?」

 

ルシエラが聞いた。

 

「ああ。ただ、そこらの洞窟を歩いてるような魔物じゃない。古いダンジョンの深い区画で、たまに守護個体として居着くやつだ」

 

ロディオが聞く。

 

「強い?」

 

男がロディオを見る。

 

「倒してきた本人が聞くのか?」

 

「ほとんど他の魔物に削ってもらったので」

 

「なるほどな」

 

男は外皮を指先で叩いた。

 

「この外皮が特徴だ。生半可な刃じゃ通らない。魔石もこの大きさなら十分育った個体だろう」

 

エイルは腰の新しい剣を見る。

 

自分の古い剣で斬った時の手応えを思い出す。

 

男は素材を並べながら続けた。

 

「皮は防具になる。牙と爪は加工品にも武器にも使える。魔石は魔道具屋が欲しがるだろうな」

 

ロディオが少し前へ出た。

 

「高いですか?」

 

クラウスが隣で小さく息を吐いた。

 

男は笑った。

 

「安くはない」

 

「どのくらい?」

 

査定額を聞いた。

 

ロディオが黙った。

 

エイルも一度聞き間違いかと思った。

 

ルシエラは金額を頭の中で数えている。

 

メルディアが確認した。

 

「全部売った場合?」

 

「ああ。ただし外皮の状態がいい部分は、自分たちの装備に回してもいい。加工料を引いても、そっちの方が得になることもある」

 

ロディオがもう一度聞いた。

 

「さっきの金額、もう一回言ってもらっていいですか?」

 

男が同じ金額を繰り返した。

 

ロディオがエイルを見る。

 

「聞き間違いじゃなかった」

 

「俺もそう思ってた」

 

「これなら装備買えるよな?」

 

「かなり選べると思う」

 

査定役の男が笑う。

 

「新人が最初に持つ装備からなら、全員分を替えても余るだろう」

 

ルシエラが驚いた。

 

「全部替えてもですか?」

 

「全部を最高級品にすれば話は別だがな」

 

「最高級品は買わなくていいだろ」

 

エイルが言うと、ロディオも頷いた。

 

「俺も値段聞いたら怖くて使えない」

 

「あなたは高い物でも使うと思う」

 

メルディアが言った。

 

「使うけど、落とした時に泣く」

 

次は剣だった。

 

査定役の男が濃紺の鞘ごと受け取る。

 

刃を抜いた瞬間、表情が少し変わった。

 

「これはどこで?」

 

「大きな魔物を倒した後、壁の奥に宝箱が出てきたんです」

 

「討伐報酬か」

 

エイルが聞き返す。

 

「そういうの、普通にあるんですか?」

 

「普通というほどじゃない。ただ、古いダンジョンにはある。強い守護個体がいる区画で、そいつを倒すと奥の部屋が開くことがあるんだ」

 

ロディオが腕を組む。

 

「最初の宝箱と全然違うじゃん」

 

「最初のは何だったんだ?」

 

「床が開くやつです」

 

「それは知らん」

 

男は剣の刃を角度を変えながら見る。

 

軽く指で弾く。

 

音を聞く。

 

「蒼鋼だな」

 

「蒼鋼?」

 

エイルが聞く。

 

「魔力を含む鉱石から作る鋼だ。普通の鋼より軽くて硬い。刃持ちもいい。この量を使った剣なら、かなりいい品だ」

 

メルディアが聞く。

 

「特殊な効果は?」

 

「少なくとも見た限り、変な付与はない。切れて、折れにくい。武器としてはそれで十分だろ」

 

エイルは少し安心した。

 

複雑な使い方を覚えなくてもいいらしい。

 

男が鞘へ戻す。

 

「売るなら高く買うぞ」

 

「売りません」

 

エイルはすぐに答えた。

 

ロディオが横を見る。

 

「早いな」

 

「使えるんだから使うよ」

 

ルシエラが嬉しそうに言った。

 

「せっかく手に入れた剣ですしね」

 

男は笑って、エイルへ返した。

 

「なら手入れだけは覚えろ。いい剣でも雑に使えば傷む」

 

「はい」

 

素材の一部を売る。

 

一部は加工用に残す。

 

大きな魔石は売却することにした。

 

牙と爪も、必要な分を除いて換金する。

 

硬質外皮は状態の良いところを何枚か残した。

 

残した素材は防具の補強などに使えるが、加工には日数がかかるという。

 

ひとまず今使う装備は店で買い替え、素材の加工は別に相談することになった。

 

それだけでも、五人が今まで持ったことのない金額になった。

 

翌朝。

 

五人は装備屋の前に立っていた。

 

「入るぞ」

 

エイルが言う。

 

ロディオが店の奥を見る。

 

昨日までなら近づかなかった棚に、視線が向いている。

 

「この辺、値段書いてある?」

 

「入る前から値札探すなよ」

 

「大事だろ」

 

店の中には、剣、槍、盾。

 

革鎧。

 

金属鎧。

 

ローブ。

 

靴。

 

手袋。

 

冒険者向けの装備が壁一面に並んでいた。

 

店主は五人の予算を聞くと、少し奥の商品を案内した。

 

ロディオが小声で言う。

 

「昨日まで見てた場所と違う」

 

エイルも小声で返す。

 

「俺も思った」

 

まずエイル。

 

剣はすでに蒼鋼剣がある。

 

防具を中心に選ぶことになった。

 

重い全身鎧ではなく、胸や肩を守る金属板と、動きやすい革を組み合わせたもの。

 

腕当ても今までより厚い。

 

試着したエイルが肩を回す。

 

「思ったより動けるな」

 

店主が言った。

 

「その体つきなら、これくらいの重量は気にならないだろう」

 

ロディオが横から胸当てを叩く。

 

「前より硬そう」

 

「叩くな」

 

「確認してるだけ」

 

「店の物で確認するな」

 

ルシエラは白を基調にした新しいローブを選んでいた。

 

今までのものより布が厚く、胴や肩の内側には薄い補強材が入っている。

 

「こっちの方が軽いですよ」

 

ルシエラが別のローブを持ち上げる。

 

エイルがすぐに言った。

 

「丈夫な方にしよう」

 

「でも動きやすいです」

 

「昨日、何回危ない目に遭ったと思ってるんだ?」

 

ルシエラがエイルを見る。

 

「エイルの方が危なかったですよ」

 

「俺の話は今してない」

 

クラウスが横から言った。

 

「ルシエラは前へ出ることがありますから、少し丈夫な方がいいと思います」

 

「クラウスまで」

 

「昨日のことを考えると」

 

ルシエラは少し考えた。

 

「……じゃあ、丈夫な方にします」

 

杖も新しくした。

 

以前より質の良い木材で作られ、芯に細い魔力伝導材が通されている。

 

店主によれば、聖職者向けに重心が調整されており、長く持っていても疲れにくい作りらしい。

 

ルシエラは何度か握ってみる。

 

「前のより少し重いです」

 

「その分、丈夫だよ」

 

店主が答える。

 

「殴っても折れにくい」

 

ルシエラが杖を見る。

 

「殴る予定はないです」

 

エイルが言う。

 

「たぶんな」

 

「ありませんよ」

 

メルディアは杖選びに時間がかかった。

 

長さ。

 

重さ。

 

魔力の通り方。

 

握った時の感覚。

 

一本を持つ。

 

戻す。

 

別の一本を持つ。

 

また戻す。

 

ロディオが横で待っている。

 

「違い分かる?」

 

「分かる」

 

「どこが?」

 

「こっちは魔力を流した時に先端へ寄りすぎる」

 

「……そう」

 

ロディオはそれ以上聞かなかった。

 

最終的に、黒い木材を使った細身の杖に決まった。

 

装飾はほとんどない。

 

店主が「もう少し見栄えのするものもある」と勧めたが、

 

「性能が同じならこっちでいい」

 

の一言で終わった。

 

クラウスは法衣と杖。

 

法衣は裾が動きを邪魔しない長さで、要所に丈夫な布が重ねられている。

 

杖はメルディアのものより太く、強度が高い。

 

「治療役は狙われることもあるからね」

 

店主が言う。

 

クラウスが頷く。

 

「壊れにくい方が助かります」

 

「盾は?」

 

ロディオが聞く。

 

「持ちません」

 

「即答だな」

 

「片手を空けておきたいので」

 

最後はロディオ。

 

短剣を二本並べる。

 

片方を握る。

 

振る。

 

もう片方へ持ち替える。

 

「これとこれ」

 

決めるのは一番早かった。

 

エイルが驚く。

 

「もっと悩むと思った」

 

「武器は持てば分かる」

 

「宝箱のシミはあんなに悩んだのに?」

 

ロディオが真顔で答える。

 

「床は持てないだろ」

 

「比べる話じゃない」

 

防具は軽さを優先。

 

胸、腕、脛だけを守る軽装。

 

靴も底が丈夫で、足音が立ちにくいものを選んだ。

 

履いて店内を少し歩く。

 

「これいいな」

 

「走るなよ」

 

「走ってない」

 

「今、走ろうとしただろ」

 

「試したかっただけ」

 

必要な物を一通り揃える。

 

古い装備は、まだ使えるものは予備へ。

 

傷みの激しいものは修理か下取りに回した。

 

会計を終えても、昨日の素材代はかなり残った。

 

店を出る。

 

五人とも、朝とは姿が変わっていた。

 

エイルの腰には濃紺の鞘に収まった蒼鋼剣。

 

身体には新しい胸当て。

 

ルシエラは白いローブと新しい杖。

 

メルディアは黒い杖と濃色のローブ。

 

クラウスは新しい法衣。

 

ロディオは二本の短剣と軽装。

 

ロディオが五人を見回す。

 

「なんか、一気に冒険者っぽくなったな」

 

エイルが言う。

 

「前から冒険者だろ」

 

「そうなんだけど、ほら。最初の頃と違うじゃん」

 

ルシエラもみんなを見る。

 

「確かに、ちょっと強そうです」

 

メルディアが言う。

 

「実際、前より強い」

 

「そこは雰囲気の話だろ」

 

クラウスが笑った。

 

五人はそのまま冒険者ギルドへ向かった。

 

途中。

 

通りを歩く人々の間に、東から来たらしい荷車が何台か見えた。

 

荷物を積んでいるものもあれば、家族を乗せているものもある。

 

この町へ来る途中で見た光景と似ている。

 

ルシエラが少しだけそちらを見る。

 

笑顔が薄くなった。

 

ギルドへ入る。

 

掲示板には、新しい依頼が何枚か追加されていた。

 

街道警戒。

 

物資輸送。

 

避難民の護衛。

 

東方面の情報収集。

 

ロディオが掲示板を見る。

 

「戦争の仕事、増えてるな」

 

エイルも隣へ立った。

 

「この町へ着いた時より多い気がする」

 

受付の職員が声をかけてきた。

 

「東側の状況が少し動いたんです。詳しい情報はまだ入っていませんが、魔王軍がさらに西へ動いているようです」

 

エイルは掲示板を見る。

 

街道で会った家族。

 

焼けた家。

 

新しい墓。

 

そして、四天王ガルベルトという名前。

 

もう、遠い場所の話ではなかった。

 

腰には、昨日まで持っていなかった剣がある。

 

身体も、装備も変わった。

 

それでも。

 

エイルは依頼書へすぐ手を伸ばさなかった。

 

「まず、話を聞こう」

 

「そうですね」

 

クラウスが頷く。

 

ロディオも掲示板から離れる。

 

ルシエラとメルディアも受付へ向かった。

 

新しい装備の感触を確かめながら。

 

五人は、受付の前へ並んだ。

 

 

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