『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第14話 ドルガ防衛

警鐘が鳴り続けていた。

 

東街道の先で、ガルベルト率いる騎馬隊が止まる。

 

ハインツは城壁の上から身を乗り出した。

 

「本隊じゃない。六十……七十もいない」

 

エイルが隣から街道を見る。

 

「それでもガルベルト本人がいます」

 

「あいつ一人で十分厄介なんだよ」

 

城壁の下では兵士たちが走り回っていた。

 

「東門前を空けろ!」

 

「住民は中央通りへ!」

 

「西門からの避難は止めるな!」

 

ルシエラたちも階段を下りる。

 

門の内側には、まだ荷車や物資が残っている。

 

ロディオが脇道を指した。

 

「荷車はこっち! 一台ずつ!」

 

クラウスは足を引きずる老人に肩を貸す。

 

メルディアが東門を振り返った。

 

「動いた」

 

外で、一人の魔族が前へ出ていた。

 

「ドルガ守備隊へ告げる!」

 

声が城壁を越えて響く。

 

「門を開き、武器を捨てろ! 抵抗しない者には手を出さない!」

 

少しして、城壁の上から返事が飛んだ。

 

「断る!」

 

ロディオが顔を上げた。

 

「早いな」

 

「話し合う気ないですね」

 

ルシエラが言う。

 

「まあ、そうなるだろ」

 

エイルが答えた。

 

外では、ガルベルトが馬から降りていた。

 

右手を上げる。

 

後ろの魔族たちが、一斉に距離を取った。

 

ハインツの怒鳴り声が城壁から響いた。

 

「門から離れろ!」

 

エイルが振り返る。

 

「来るんですか!」

 

「《ブラストフレア》だ!」

 

兵士たちの動きが変わった。

 

門の補強をしていた者たちまで走り出す。

 

だが、まだ何人か残っている。

 

担架を運ぶ兵士。

 

荷物を抱えた住民。

 

転んだ子供を起こそうとしている女。

 

ルシエラが杖を握った。

 

「早く!」

 

淡い光が広がる。

 

「《光と闇の祝福》!」

 

エイルの身体が軽くなる。

 

「えっ」

 

一歩踏み出しただけで、思った以上に前へ出た。

 

ロディオも目を見開く。

 

「ちょ、強くない?」

 

「今はいいから!」

 

メルディアが叫んだ。

 

エイルは走った。

 

「こっちです!」

 

担架を一人で持ち上げかけて、慌ててもう一人の兵士に合わせる。

 

ルシエラは門の向こうを見る。

 

炎が集まっていた。

 

赤い光が、どんどん大きくなる。

 

「みんな、こっちへ!」

 

ガルベルトは掌の前に集まる炎を見た。

 

いつもより魔力の流れがいい。

 

炎の収束も早い。

 

「……今日は調子がいいな」

 

副官が横から見る。

 

「ハルツでの疲れも抜けたのでしょう」

 

「そうかもな」

 

ガルベルトは城門へ腕を伸ばした。

 

狙う。

 

「《ブラストフレア》」

 

火球が飛んだ。

 

「伏せろ!」

 

ハインツの声。

 

ルシエラが杖を振り上げる。

 

「《絶対防御領域》!」

 

白い光が広がった。

 

火球が城門へ届く。

 

次の瞬間。

 

ドルガの東側が爆炎に呑まれた。

 

轟音。

 

城門が吹き飛ぶ。

 

門楼が崩れる。

 

左右の城壁がまとめて砕け、巨大な石材が空へ舞い上がった。

 

爆発はそこで止まらない。

 

門の内側に並んでいた建物が巻き込まれる。

 

屋根が飛ぶ。

 

壁が崩れる。

 

さらに奥まで衝撃が抜け、通り沿いの窓が次々と割れた。

 

地面そのものが揺れる。

 

やがて煙が広がり、音が遠ざかっていく。

 

エイルが顔を上げた。

 

「……」

 

ロディオも起き上がる。

 

「……」

 

目の前に、夕焼けが見える。

 

エイルが呟いた。

 

「門、どこ?」

 

「ない」

 

少し離れた瓦礫の向こうから、ハインツが顔を出した。

 

「……は?」

 

◇

 

ガルベルトも同じ顔をしていた。

 

「……は?」

 

煙が流れていく。

 

城門がない。

 

門楼がない。

 

左右の城壁も、大きく抉れている。

 

その奥にあった建物まで何棟か姿を消していた。

 

ガルベルトは右手を見る。

 

握る。

 

開く。

 

もう一度ドルガを見る。

 

「……」

 

副官が恐る恐る口を開いた。

 

「さ、さすがガルベルト様……」

 

「褒めるな」

 

「はい?」

 

「今は褒めるな」

 

「は、はい」

 

後ろでは兵士たちがざわついている。

 

「何だ今の……」

 

「ハルツより凄くなかったか?」

 

「城壁まで……」

 

ガルベルトが振り返る。

 

「聞こえているぞ」

 

静かになった。

 

また前を見る。

 

遠くで、崩れかけていた壁が倒れた。

 

ドォン。

 

ガルベルトの眉が動く。

 

「……俺、そんなに込めたか?」

 

副官が答えに困る。

 

「私には何とも……」

 

「そうだな」

 

しばらく黙る。

 

ガルベルトは東門があった辺りをじっと見た。

 

「門の裏に、何か置いてあったんじゃないか?」

 

副官も見る。

 

「何か、とは」

 

「火薬とか」

 

「人間が城門の裏に火薬を?」

 

「魔道具でもいい」

 

「確認できません」

 

ガルベルトは頷いた。

 

「つまり可能性はあるな」

 

副官が少し黙った。

 

「……可能性は、あるかもしれません」

 

「あるな」

 

「はい」

 

「ならそれだ」

 

副官がガルベルトを見る。

 

ガルベルトはもう一度、大きく抉れた城壁を見た。

 

「そうだ。誘爆したんだ」

 

「……はい」

 

「《ブラストフレア》だけで、あんなことになるわけがない」

 

「そうですね」

 

「だろ?」

 

「はい」

 

ガルベルトの顔に少し落ち着きが戻った。

 

後ろから兵士が声を上げる。

 

「ガルベルト様! 城門を突破しました!」

 

「今なら突入できます!」

 

ガルベルトが振り返る。

 

「待て」

 

兵士たちが止まる。

 

ガルベルトはもう一度ドルガを見る。

 

瓦礫。

 

煙。

 

燃えている建物。

 

「原因不明の誘爆が起きた場所だぞ」

 

副官が瞬きをした。

 

「原因不明……」

 

「まだ調べていないからな」

 

「はい」

 

「何が爆発したのか分からん」

 

「はい」

 

「そんな場所に、六十人で入るのは危険だ」

 

副官が少し考える。

 

「……確かに」

 

ガルベルトが力強く頷いた。

 

「だろ?」

 

「はい」

 

「よし。一度退く」

 

後ろの兵士が聞き返した。

 

「撤退ですか?」

 

「本隊と合流する」

 

ガルベルトは馬へ向かう。

 

「予定通り明日来ればいい。原因も分からん場所に、先行隊だけで突っ込む必要はない」

 

副官が頷いた。

 

「了解しました」

 

ガルベルトが鐙に足をかける。

 

そこで止まった。

 

もう一度だけドルガを見る。

 

占領する予定だった町。

 

城門はない。

 

城壁もかなりない。

 

建物も燃えている。

 

グラディオの顔が浮かんだ。

 

『ドルガを確保しろ』

 

ガルベルトは目を逸らした。

 

「……」

 

副官が聞く。

 

「どうされました?」

 

「いや」

 

「では撤退命令を」

 

「待て」

 

「はい?」

 

ガルベルトは小さな声で言った。

 

「魔王様に、どう報告する」

 

副官が黙った。

 

ガルベルトも黙った。

 

少しして副官が答える。

 

「ドルガ東門を破壊した、と」

 

「その後が問題だろ」

 

「……城壁も破壊」

 

「俺が壊したみたいじゃないか」

 

副官は何も言わなかった。

 

ガルベルトが見る。

 

「何だ」

 

「いえ」

 

「誘爆だろ」

 

「はい」

 

「なら報告も正確にしないとな」

 

「はい」

 

ガルベルトは考えた。

 

やがて頷く。

 

「『攻城魔法着弾後、城門付近で大規模な爆発が発生』」

 

副官が聞く。

 

「原因は?」

 

「不明」

 

「不明」

 

「まだ調査してないからな」

 

「はい」

 

「勝手に俺の魔法が原因だと決めつける方が問題だ」

 

「……はい」

 

ガルベルトは馬に乗った。

 

顔つきが戻っている。

 

「よし」

 

「よし、とは?」

 

「撤退だ」

 

副官は振り返った。

 

「全隊、撤退!」

 

魔王軍が東へ動き始めた。

 

◇

 

「……帰っていきますね」

 

ルシエラが言った。

 

ロディオが遠ざかる魔王軍を見る。

 

「帰ってるな」

 

エイルも見る。

 

「何で?」

 

ハインツが答えた。

 

「知らん」

 

城壁の残った部分から声が上がる。

 

「魔王軍が退くぞ!」

 

町の中から歓声が返った。

 

「退いた!」

 

「ガルベルトが退いたぞ!」

 

ルシエラが胸を撫で下ろす。

 

「よかった……」

 

ロディオは東門があった場所を見る。

 

「……勝った?」

 

メルディアも見る。

 

「敵はいなくなった」

 

「じゃあ勝ち?」

 

ハインツは崩れた城壁を見た。

 

燃えている建物を見た。

 

最後に、遠ざかっていくガルベルトを見る。

 

「……勝ちでいい」

 

誰も反対しなかった。

 

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