『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第15話 報告

ドルガでは、日が落ちても東門周辺の片付けが続いていた。

 

「そこ、まだ触るな!」

 

ハインツの声が飛ぶ。

 

兵士が瓦礫から手を離した。

 

「上が残ってる。崩れるぞ!」

 

エイルは少し離れた場所から城壁を見上げた。

 

途中から、ごっそりなくなっている。

 

「ハルツでは、本当にここまでじゃなかったんですよね?」

 

「門と、その周りだ」

 

ハインツが答える。

 

「ここまで消えてない」

 

ロディオが瓦礫の山を見る。

 

「同じ《ブラストフレア》なんですよね」

 

「ああ」

 

「じゃあ、ガルベルトが強くなった?」

 

ハインツはしばらく黙った。

 

「そう見える」

 

メルディアが聞く。

 

「数日で?」

 

「だから気味が悪いんだよ」

 

ハインツは東の街道を見る。

 

「ハルツを落とした時より、明らかに強くなってる」

 

エイルも考える。

 

「魔王軍が何かしてるんでしょうか」

 

「強化魔法とか?」

 

ロディオが言った。

 

「分からん」

 

ハインツは首を振る。

 

「四天王だけなのか、他の魔族もなのか。それすら分からん」

 

ロディオが嫌そうな顔をした。

 

「他の魔族まで強くなってたら困るなあ」

 

「だから縁起でもないこと言うな」

 

「すみません」

 

少し離れたところから兵士が呼ぶ。

 

「ハインツ! こっち見てくれ!」

 

「今行く!」

 

ハインツはそちらへ走っていった。

 

エイルたちも作業へ戻る。

 

東門の跡では、まだ煙が細く上がっていた。

 

◇

 

その夜。

 

宿へ戻ったロディオが、部屋の真ん中で何度か腕を振っていた。

 

エイルが見る。

 

「何してるんだ?」

 

「昼の確認」

 

「何の?」

 

「祝福」

 

ルシエラが顔を上げた。

 

「あ」

 

ロディオは拳を握る。

 

「やっぱり、かなり強くなってたよな」

 

「俺も思った」

 

エイルも頷く。

 

走り出した時、身体が思った以上に前へ出た。

 

メルディアがベッドの端に座ったまま言う。

 

「前にも職業レベルが上がったら強くなってた」

 

「じゃあ今回もですか?」

 

ルシエラが聞く。

 

「たぶん」

 

ルシエラの顔が明るくなる。

 

「よかったです」

 

クラウスも頷いた。

 

「かなり頼もしくなりましたね」

 

「これなら、もっと皆さんを助けられそうです」

 

ルシエラが嬉しそうに杖を抱える。

 

ロディオが手を上げた。

 

「一個お願いがある」

 

「何ですか?」

 

「祝福かけた直後に走る時、ちょっと気をつけよう」

 

エイルも頷く。

 

「今日、転びそうになった」

 

「そんなにですか?」

 

「思ったより足が出た」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「謝ることじゃないって」

 

メルディアが言う。

 

「慣れればいい」

 

エイルが見る。

 

「簡単に言うなよ」

 

「エイルならそのうち慣れる」

 

「それ褒めてる?」

 

メルディアは答えなかった。

 

◇

 

ハルツ。

 

ガルベルトはグラディオの前に立っていた。

 

隣には副官。

 

少し離れた場所には軍師ヴェルナーがいる。

 

ガルベルトは一度咳払いした。

 

「ドルガへの先行について報告します」

 

「聞こう」

 

ガルベルトは用意してきた言葉を思い出す。

 

「ドルガ守備隊は降伏勧告を拒否。そこで城門を突破するため、《ブラストフレア》を使用しました」

 

「うむ」

 

「その着弾後――」

 

一拍置く。

 

「城門付近で、原因不明の大規模爆発が発生しました」

 

グラディオがガルベルトを見る。

 

「原因不明?」

 

「はい」

 

「お前が撃った直後に?」

 

「はい」

 

「城門へ?」

 

「はい」

 

「《ブラストフレア》を?」

 

「はい」

 

沈黙。

 

ガルベルトは姿勢を崩さなかった。

 

「それで原因不明なのか」

 

「現地調査を行っておりませんので」

 

「なるほど」

 

ガルベルトは僅かに息を吐いた。

 

通った。

 

「爆発によって城門および周辺の城壁が大きく損壊しました。先行隊のみで原因不明の爆発地点へ進入することは危険と判断し、本隊との合流を優先して撤退しました」

 

「損害は」

 

「こちらにはありません」

 

「ドルガ側は」

 

「不明です」

 

グラディオが続ける。

 

「町は」

 

ガルベルトが一瞬止まった。

 

「……一部、損壊しています」

 

隣の副官が僅かに視線を逸らした。

 

グラディオがそれを見る。

 

「一部?」

 

「東門周辺です」

 

「どの程度だ」

 

「城門が消失しました」

 

グラディオの眉が動く。

 

「消失?」

 

「門楼もです」

 

「城壁は」

 

「かなり」

 

「建物は」

 

「何棟か」

 

また沈黙した。

 

ガルベルトは真っ直ぐ前を向いていた。

 

「ガルベルト」

 

「はい」

 

「ドルガは占領する町だ」

 

「はい」

 

「壊す町ではない」

 

「……はい」

 

「次は気をつけろ」

 

「はい」

 

ガルベルトは内心で少しだけ安堵した。

 

思っていたより軽かった。

 

その時。

 

「少しよろしいですか」

 

ヴェルナーが口を開いた。

 

ガルベルトが振り返る。

 

「何だ」

 

「ドルガ周辺について、古い記録に気になるものがあります」

 

「記録?」

 

ヴェルナーが机の地図へ近づく。

 

「この地方では、大昔に神々と魔族の大規模な戦いがあったとされています」

 

ガルベルトの目が変わった。

 

「何?」

 

「神魔大戦の時代です。正確な場所は残っていませんが、ドルガからハルツにかけての一帯だったという記録があります」

 

「それで?」

 

「その戦いの影響で、土地の魔力が乱れた時期があったという伝承もあります」

 

ガルベルトが即座に言った。

 

「それだ」

 

ヴェルナーも地図を見る。

 

「状況とは合いますね」

 

ガルベルトが振り向く。

 

「だろう」

 

グラディオがガルベルトを見る。

 

「随分気に入ったようだな」

 

「状況と一致します」

 

ガルベルトは真顔だった。

 

「待て」

 

何かを思い出す。

 

「俺が使った魔力量も、ハルツの時と変わっていない」

 

ヴェルナーが顔を上げた。

 

「間違いありませんか?」

 

「ああ。いつもの《ブラストフレア》だ」

 

ヴェルナーはもう一度地図へ目を落とした。

 

「それなら、土地側を疑うのが一番自然でしょう」

 

ガルベルトの表情が明るくなる。

 

「ほら見ろ」

 

「ハルツでは通常、ドルガでは異常。使った魔力量は同じ」

 

ヴェルナーの指が、地図の上で二つの町をなぞる。

 

「神魔大戦の記録まであるなら、まずこの線で調べます」

 

ガルベルトが頷いた。

 

「繋がったな」

 

グラディオが口を挟む。

 

「調べろ。西へ進む前に、何が起きたのかは把握しておきたい」

 

「承知しました」

 

ヴェルナーが答える。

 

ガルベルトも頷いた。

 

「俺も確認します」

 

グラディオが地図へ視線を戻す。

 

「それと」

 

「はい」

 

「次は町を残せ」

 

「……はい」

 

◇

 

部屋を出る。

 

副官がガルベルトの横へ並んだ。

 

「ガルベルト様」

 

「何だ」

 

「神魔大戦の影響だったのでしょうか」

 

ガルベルトは少し考えた。

 

「可能性は高い」

 

「ヴェルナー様も、その線で調べると」

 

「ああ」

 

ガルベルトは頷いた。

 

「俺の魔力量はいつも通りだった」

 

「はい」

 

「ドルガでは異常な爆発が起きた」

 

「はい」

 

「この地方には魔力が乱れるという伝承がある」

 

「はい」

 

「筋が通っている」

 

副官も頷いた。

 

「やはり誘爆だ」

 

副官が首を傾げた。

 

「神魔大戦では?」

 

「土地の魔力が乱れて、何かが誘爆したんだ」

 

「なるほど」

 

「全部繋がったな」

 

「はい」

 

ガルベルトの足取りが少し軽くなる。

 

「次から大魔法は避ける」

 

「分かりました」

 

「土地の影響があるなら、いきなり大きな魔法を使う必要はない」

 

「では、どうされますか?」

 

ガルベルトは少し考えた。

 

「まずは小さい魔法で様子を見る」

 

「小さい魔法」

 

「ああ」

 

ガルベルトは頷いた。

 

「《ファイヤーボール》程度で十分だ」

 

◇

 

天界。

 

オルディナは観測器を見ていた。

 

「……四?」

 

隣からフィルネラが覗き込む。

 

「四だね」

 

「四・〇倍?」

 

「そう書いてある」

 

オルディナは観測器を持ち直した。

 

もう一度測る。

 

四・〇。

 

以前の記録を開く。

 

一・一。

 

オルディナは二つの数字を見比べた。

 

「普通の聖女が使う《祝福》は、一・二倍前後ですよ」

 

「じゃあ、かなり強くなったね」

 

「かなりで済ませていいんでしょうか」

 

フィルネラが首を傾げる。

 

「駄目なの?」

 

「普通の《祝福》と比べれば、明らかにおかしいです」

 

「でもこれ、《光と闇の祝福》でしょ?」

 

「そうですが」

 

「特殊職の技能だし」

 

オルディナがフィルネラを見る。

 

「便利ですね、その言葉」

 

「特殊なんだから仕方ないよ」

 

オルディナは観測器へ視線を戻す。

 

「こういう成長をするように作ったんですか?」

 

フィルネラが考える。

 

「……たぶん?」

 

「たぶん?」

 

「細かいところまでは覚えてない」

 

「作った本人ですよね?」

 

「うん」

 

オルディナは額に手を当てた。

 

もう一度、四・〇を見る。

 

「特殊職特有の成長曲線……」

 

フィルネラが頷く。

 

「それっぽいね」

 

「あなたが言うと急に不安になります」

 

「なんで?」

 

オルディナは記録に数字を書き加えた。

 

一・一。

 

その下に、四・〇。

 

観測器には、変わらず同じ数字が表示されていた。

 

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