『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』 作:深空 律
ドルガでは、日が落ちても東門周辺の片付けが続いていた。
「そこ、まだ触るな!」
ハインツの声が飛ぶ。
兵士が瓦礫から手を離した。
「上が残ってる。崩れるぞ!」
エイルは少し離れた場所から城壁を見上げた。
途中から、ごっそりなくなっている。
「ハルツでは、本当にここまでじゃなかったんですよね?」
「門と、その周りだ」
ハインツが答える。
「ここまで消えてない」
ロディオが瓦礫の山を見る。
「同じ《ブラストフレア》なんですよね」
「ああ」
「じゃあ、ガルベルトが強くなった?」
ハインツはしばらく黙った。
「そう見える」
メルディアが聞く。
「数日で?」
「だから気味が悪いんだよ」
ハインツは東の街道を見る。
「ハルツを落とした時より、明らかに強くなってる」
エイルも考える。
「魔王軍が何かしてるんでしょうか」
「強化魔法とか?」
ロディオが言った。
「分からん」
ハインツは首を振る。
「四天王だけなのか、他の魔族もなのか。それすら分からん」
ロディオが嫌そうな顔をした。
「他の魔族まで強くなってたら困るなあ」
「だから縁起でもないこと言うな」
「すみません」
少し離れたところから兵士が呼ぶ。
「ハインツ! こっち見てくれ!」
「今行く!」
ハインツはそちらへ走っていった。
エイルたちも作業へ戻る。
東門の跡では、まだ煙が細く上がっていた。
◇
その夜。
宿へ戻ったロディオが、部屋の真ん中で何度か腕を振っていた。
エイルが見る。
「何してるんだ?」
「昼の確認」
「何の?」
「祝福」
ルシエラが顔を上げた。
「あ」
ロディオは拳を握る。
「やっぱり、かなり強くなってたよな」
「俺も思った」
エイルも頷く。
走り出した時、身体が思った以上に前へ出た。
メルディアがベッドの端に座ったまま言う。
「前にも職業レベルが上がったら強くなってた」
「じゃあ今回もですか?」
ルシエラが聞く。
「たぶん」
ルシエラの顔が明るくなる。
「よかったです」
クラウスも頷いた。
「かなり頼もしくなりましたね」
「これなら、もっと皆さんを助けられそうです」
ルシエラが嬉しそうに杖を抱える。
ロディオが手を上げた。
「一個お願いがある」
「何ですか?」
「祝福かけた直後に走る時、ちょっと気をつけよう」
エイルも頷く。
「今日、転びそうになった」
「そんなにですか?」
「思ったより足が出た」
「ご、ごめんなさい」
「謝ることじゃないって」
メルディアが言う。
「慣れればいい」
エイルが見る。
「簡単に言うなよ」
「エイルならそのうち慣れる」
「それ褒めてる?」
メルディアは答えなかった。
◇
ハルツ。
ガルベルトはグラディオの前に立っていた。
隣には副官。
少し離れた場所には軍師ヴェルナーがいる。
ガルベルトは一度咳払いした。
「ドルガへの先行について報告します」
「聞こう」
ガルベルトは用意してきた言葉を思い出す。
「ドルガ守備隊は降伏勧告を拒否。そこで城門を突破するため、《ブラストフレア》を使用しました」
「うむ」
「その着弾後――」
一拍置く。
「城門付近で、原因不明の大規模爆発が発生しました」
グラディオがガルベルトを見る。
「原因不明?」
「はい」
「お前が撃った直後に?」
「はい」
「城門へ?」
「はい」
「《ブラストフレア》を?」
「はい」
沈黙。
ガルベルトは姿勢を崩さなかった。
「それで原因不明なのか」
「現地調査を行っておりませんので」
「なるほど」
ガルベルトは僅かに息を吐いた。
通った。
「爆発によって城門および周辺の城壁が大きく損壊しました。先行隊のみで原因不明の爆発地点へ進入することは危険と判断し、本隊との合流を優先して撤退しました」
「損害は」
「こちらにはありません」
「ドルガ側は」
「不明です」
グラディオが続ける。
「町は」
ガルベルトが一瞬止まった。
「……一部、損壊しています」
隣の副官が僅かに視線を逸らした。
グラディオがそれを見る。
「一部?」
「東門周辺です」
「どの程度だ」
「城門が消失しました」
グラディオの眉が動く。
「消失?」
「門楼もです」
「城壁は」
「かなり」
「建物は」
「何棟か」
また沈黙した。
ガルベルトは真っ直ぐ前を向いていた。
「ガルベルト」
「はい」
「ドルガは占領する町だ」
「はい」
「壊す町ではない」
「……はい」
「次は気をつけろ」
「はい」
ガルベルトは内心で少しだけ安堵した。
思っていたより軽かった。
その時。
「少しよろしいですか」
ヴェルナーが口を開いた。
ガルベルトが振り返る。
「何だ」
「ドルガ周辺について、古い記録に気になるものがあります」
「記録?」
ヴェルナーが机の地図へ近づく。
「この地方では、大昔に神々と魔族の大規模な戦いがあったとされています」
ガルベルトの目が変わった。
「何?」
「神魔大戦の時代です。正確な場所は残っていませんが、ドルガからハルツにかけての一帯だったという記録があります」
「それで?」
「その戦いの影響で、土地の魔力が乱れた時期があったという伝承もあります」
ガルベルトが即座に言った。
「それだ」
ヴェルナーも地図を見る。
「状況とは合いますね」
ガルベルトが振り向く。
「だろう」
グラディオがガルベルトを見る。
「随分気に入ったようだな」
「状況と一致します」
ガルベルトは真顔だった。
「待て」
何かを思い出す。
「俺が使った魔力量も、ハルツの時と変わっていない」
ヴェルナーが顔を上げた。
「間違いありませんか?」
「ああ。いつもの《ブラストフレア》だ」
ヴェルナーはもう一度地図へ目を落とした。
「それなら、土地側を疑うのが一番自然でしょう」
ガルベルトの表情が明るくなる。
「ほら見ろ」
「ハルツでは通常、ドルガでは異常。使った魔力量は同じ」
ヴェルナーの指が、地図の上で二つの町をなぞる。
「神魔大戦の記録まであるなら、まずこの線で調べます」
ガルベルトが頷いた。
「繋がったな」
グラディオが口を挟む。
「調べろ。西へ進む前に、何が起きたのかは把握しておきたい」
「承知しました」
ヴェルナーが答える。
ガルベルトも頷いた。
「俺も確認します」
グラディオが地図へ視線を戻す。
「それと」
「はい」
「次は町を残せ」
「……はい」
◇
部屋を出る。
副官がガルベルトの横へ並んだ。
「ガルベルト様」
「何だ」
「神魔大戦の影響だったのでしょうか」
ガルベルトは少し考えた。
「可能性は高い」
「ヴェルナー様も、その線で調べると」
「ああ」
ガルベルトは頷いた。
「俺の魔力量はいつも通りだった」
「はい」
「ドルガでは異常な爆発が起きた」
「はい」
「この地方には魔力が乱れるという伝承がある」
「はい」
「筋が通っている」
副官も頷いた。
「やはり誘爆だ」
副官が首を傾げた。
「神魔大戦では?」
「土地の魔力が乱れて、何かが誘爆したんだ」
「なるほど」
「全部繋がったな」
「はい」
ガルベルトの足取りが少し軽くなる。
「次から大魔法は避ける」
「分かりました」
「土地の影響があるなら、いきなり大きな魔法を使う必要はない」
「では、どうされますか?」
ガルベルトは少し考えた。
「まずは小さい魔法で様子を見る」
「小さい魔法」
「ああ」
ガルベルトは頷いた。
「《ファイヤーボール》程度で十分だ」
◇
天界。
オルディナは観測器を見ていた。
「……四?」
隣からフィルネラが覗き込む。
「四だね」
「四・〇倍?」
「そう書いてある」
オルディナは観測器を持ち直した。
もう一度測る。
四・〇。
以前の記録を開く。
一・一。
オルディナは二つの数字を見比べた。
「普通の聖女が使う《祝福》は、一・二倍前後ですよ」
「じゃあ、かなり強くなったね」
「かなりで済ませていいんでしょうか」
フィルネラが首を傾げる。
「駄目なの?」
「普通の《祝福》と比べれば、明らかにおかしいです」
「でもこれ、《光と闇の祝福》でしょ?」
「そうですが」
「特殊職の技能だし」
オルディナがフィルネラを見る。
「便利ですね、その言葉」
「特殊なんだから仕方ないよ」
オルディナは観測器へ視線を戻す。
「こういう成長をするように作ったんですか?」
フィルネラが考える。
「……たぶん?」
「たぶん?」
「細かいところまでは覚えてない」
「作った本人ですよね?」
「うん」
オルディナは額に手を当てた。
もう一度、四・〇を見る。
「特殊職特有の成長曲線……」
フィルネラが頷く。
「それっぽいね」
「あなたが言うと急に不安になります」
「なんで?」
オルディナは記録に数字を書き加えた。
一・一。
その下に、四・〇。
観測器には、変わらず同じ数字が表示されていた。