『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』 作:深空 律
第21話 リューベル
リゼルを出て北へ向かうと、街道には思っていたより人が多かった。
荷馬車とすれ違い、冒険者らしい一団を追い越す。逆方向から来る者の中には、背負った袋から魔物の角や皮を覗かせている者もいた。
ロディオが振り返る。
「ダンジョン帰りかな」
メルディアも一団を見る。
「装備が汚れてる。たぶん」
先頭を歩いていたエイルが道の先へ目を向けた。
「この辺まで来ると、リューベルへ行く冒険者も多いんだな」
「町に着けば分かるでしょ」
ロディオはそう言って、また前を向いた。
さらに北へ進めばノルデンがある。
その手前にあるリューベルが見えてきたのは、しばらく街道を進んだ後だった。
◇
町へ入ってすぐ、ロディオの言った通りだと分かった。冒険者が多い。
剣や槍を持った者が珍しくない。防具を着たまま歩いている者もいれば、大きな袋を抱えて店へ入っていく者もいる。
通りには武器や防具を扱う店が並び、旅用の食料や薬を売る店も目についた。
「カレナとは全然違いますね」
ルシエラが周囲を見る。
少し先を、片足を引きずった冒険者が仲間に肩を借りながら歩いていた。
ルシエラの視線がそちらへ向く。
男は笑いながら何か話している。腕にも包帯が巻かれていたが、自分の足で歩いていた。
「怪我してる人も多いですね」
クラウスも男を見る。
「ダンジョンから戻ったところでしょうね」
「大丈夫でしょうか」
「仲間もいますし、あの先に治療院の看板もあります」
ルシエラはもう一度そちらを見てから頷いた。
前を歩いていたロディオが振り返る。
「ギルド、あっちじゃないか?」
冒険者が何人も出入りしている大きな建物が見えた。
エイルが頷く。
「まず話を聞こう」
五人はそちらへ向かった。
◇
冒険者ギルドの中も人が多かった。掲示板を見る者や受付で依頼の報告をする者が行き交い、奥では魔石や素材らしいものが次々に運ばれている。
ロディオはそちらを見た。
「結構持ち込まれてるな」
「後で見ればいい」
メルディアが言う。
「今はダンジョン」
「分かってる」
五人は受付へ向かった。
リゼルでダンジョンの話を聞いて来たことを伝える。
受付の女性は五人の冒険者証を確認した。
「初めて入るんですね」
「はい」
エイルが答える。
「どんなところか、先に聞いておきたくて」
女性は頷いた。
「上層は冒険者の出入りも多くて、かなり探索されています。経験の浅いパーティーが入るのもその辺りですね」
「中層は?」
メルディアが聞く。
「上層より魔物は強くなります。そこを中心に活動している冒険者も多いですよ」
「下層は?」
ロディオが続ける。
女性の表情が少し変わった。
「そこから先は慎重に考えてください。中層まで問題なく進める人でも、下層では話が変わります」
ロディオは小さく頷いた。
「急に変わるんだ」
「そう思っておいた方がいいですね」
エイルが四人を見る。
「最初は上からでいいよな」
「当然」
メルディアが答える。
クラウスも頷いた。
「実際に入ってから決めればいいと思います」
ルシエラも異論はなかった。
「素材は持ち帰れば、ここで買い取ってもらえるんですか?」
「はい。魔石はもちろん、種類によっては皮や牙、甲殻なんかも買い取ります。ダンジョン内で採れる素材にも値が付くものがあります」
メルディアが少し反応する。
「採取素材もあるんですか」
「あります。ただ、見つけても魔物への警戒は忘れないでください」
「分かりました」
一通り話を聞いた。
戻る余力やSP、退路、連戦への備えは前のダンジョンで経験している。その辺りを一から聞き直す必要はなかった。
必要なものを買い足し、その日は宿を取った。
翌朝、五人はダンジョンへ向かった。
◇
中へ入ると、ロディオが自然と先頭へ出た。その少し後ろをエイルが歩き、ルシエラ、クラウス、メルディアが続く。前のダンジョンでも何度も使った並びだった。
しばらく進んだところでロディオが片手を上げ、五人が止まる。
「前。何かいる」
エイルが剣へ手を掛け、暗がりを見据えた。少し待つと一体のゴブリンが姿を現し、その後ろから二体が続いた。
エイルは剣を抜いた。
「行ける?」
ロディオが聞く。
「ああ」
ルシエラも杖を握った。
「《光と闇の祝福》!」
力が身体へ満ちると、ゴブリンたちも走り出した。
最初の一体がエイルへ棍棒を振り下ろす。エイルは剣で受け、そのまま押し返した。ゴブリンの足が浮く。
「軽いな」
一歩踏み込み、そのまま斬り伏せる。
二体目が横から来る前に、ロディオがそちらへ回っていた。振り向いた相手の攻撃をかわし、そのまま背後へ抜ける。奥の一体にはメルディアの火球が飛び、残りもエイルとロディオが処理した。
クラウスが魔法を使う場面もなく、戦闘は終わった。
ルシエラが辺りを見る。
「誰も怪我してませんね」
「うん」
クラウスも五人を確認した。
エイルは倒れたゴブリンを見る。
「前にダンジョンへ入った時より、だいぶ楽だな」
ロディオが魔石を回収しながら答える。
「そりゃあれから結構上がったし」
「そうだな」
それ以上話すこともなく、先へ進んだ。
◇
上層では何度か魔物と遭遇したが、そのたびにルシエラが祝福を使い、エイルが正面を止め、ロディオが空いたところへ入る。メルディアが必要な場所へ魔法を撃ち、クラウスが後ろから全体を見ていたため、危ない場面はなかった。
途中、ロディオが壁際で足を止めた。
「これ、何か採った跡じゃない?」
メルディアが覗き込むと、岩の隙間に植物の根元が残っていた。
「たぶん」
「受付で言ってたやつ?」
「種類までは分からない」
周囲を見たメルディアが、少し離れた場所に同じ形の植物を見つける。
「こっちは採れそう」
「周り見る」
ロディオが通路の先へ視線を向け、メルディアが必要な分だけ採取した。
ルシエラが横から見ている。
「これも売れるんでしょうか」
「戻ったら聞けば分かる」
「そうですね」
採取したものを荷物へ入れ、さらに先へ進んだ。
上層を抜ける頃になっても、五人にはかなり余裕が残っていた。
エイルが全員を見る。
「どうする?」
メルディアが答える。
「まだ行ける」
ロディオも周囲を確認する。
「帰る分を考えても余裕ある」
クラウスはルシエラを見る。
「ルシエラは?」
「私も大丈夫です」
エイルが頷いた。
「じゃあ、中層を少し見よう」
五人はさらに奥へ進んだ。
◇
中層へ入ってしばらくすると、三体のホブゴブリンが現れた。
上層で戦ったゴブリンより身体が大きく、武器もまともだ。一体は剣、一体は槍、もう一体は盾を持っている。
ロディオが小さく言う。
「上とは違うな」
エイルは剣を抜いた。
「やってみよう」
「《光と闇の祝福》!」
三体が走り出し、盾を持った一体が正面からエイルへ来る。
剣と盾がぶつかった。上層のゴブリンと違い、一度受けただけでは相手の姿勢が崩れない。エイルが力を加えるとようやく盾がずれ、そこへ剣を入れた。
横から伸びてきた槍にはロディオが回り込み、追ってくる穂先もかわす。
「こっちはちゃんと追ってくるな」
「離れて」
メルディアの声にロディオが横へ抜ける。
「《フレイムランス》」
炎の槍が槍持ちのホブゴブリンへ直撃し、一体が倒れた。
エイルの前でも盾が弾かれ、そのまま二撃目が入る。残った一体がルシエラたちへ向こうとしたが、クラウスが声を出す前にロディオが進路へ入り、短剣で仕留めた。
ほどなく三体とも動かなくなった。
エイルが息を整える。
「上よりは強いな」
「でも大丈夫」
メルディアが倒れた三体を見ながら答え、ロディオも頷いた。
「これなら行ける」
クラウスが全員を確認したが、怪我はない。ルシエラが笑った。
「まだ余裕ありますね」
「あるな」
エイルは奥を見る。
「もう少しだけ見よう」
五人は進んだ。
中層でも何度か戦った。上層ほど簡単には終わらないが、戦い方を大きく変える必要はなかった。
ロディオが先に敵を見つけ、エイルが受ける。メルディアが状況を見て魔法を選び、危険な攻撃があればクラウスが声を掛ける。ルシエラの祝福もいつも通りだった。
やがて、魔石や牙、硬い外皮、採取した素材で荷物が増えてきた。
ロディオが自分の袋を持ち上げる。
「そろそろ戻る?」
エイルが時間を確認する。
「そうしようか」
「まだ余力はありますけど」
ルシエラが言う。
エイルは頷いた。
「あるうちに戻ろう」
クラウスもそれに同意した。
「次がありますからね」
メルディアは奥を一度見る。
「次はもう少し先まで行ける」
「じゃあ今日はここまで」
誰も反対しなかった。
五人は来た道を戻った。
◇
夕方、リューベルの冒険者ギルドへ戻ると、持ち帰ったものが買い取りに回された。
五人が受付近くで結果を待っていると、やがて職員が戻ってきて紙を一枚置いた。
「こちらになります」
エイルが見る。
その隣からロディオも覗く。
「……結構あるな」
「うん」
メルディアも数字を見る。
「一日分としてはかなりいい」
通常の依頼を一つ受けて終えるより、明らかに大きい。魔石だけでなく、中層で得た素材にも思っていた以上の値が付き、採取してきたものも買い取り対象になっていた。
ルシエラが顔を明るくする。
「これなら宿代とかも十分ですね」
「補給しても残る」
メルディアが言った。
ロディオは受付の奥へ運ばれていく素材を見る。
「戦って、持って帰ればいいのか」
クラウスが少し笑う。
「簡単に言えばそうですが」
「今日できた」
「今日は、ですね」
エイルはもう一度金額を見てから、四人へ視線を向けた。
「しばらくここでやってみる?」
ロディオがすぐに頷く。
「俺はいい」
メルディアも。
「中層はまだ先がある」
クラウスも異論はなかった。
「無理をしないなら、僕も賛成です」
ルシエラも頷く。
「私もです」
エイルは受付から金を受け取った。
「じゃあ決まりだな」
少し離れた受付で、別の冒険者が声を上げた。
「だから、今日の中層は変だったんだって」
五人も何となくそちらを見る。
三人組の冒険者が、受付の職員へ説明していた。
一人はへこんだ盾を抱えている。
「ホブゴブリンの槍を受けただけでこれだぞ。腕まで持っていかれるかと思った」
「個体が強かった可能性は?」
「俺もそう思ったよ。でも、こっちも変だった」
隣にいた魔法使いらしい男が言う。
「火球がいつもより爆ぜた。壁まで焦げた」
受付の職員が紙へ何かを書き込む。
「場所と時間を教えてください」
ロディオが小さく言った。
「強い群れでもいたのかな」
メルディアはへこんだ盾を見る。
「魔法も変だったって」
「そう言ってたな」
エイルも一度だけそちらを見た。
初めて来たダンジョンなので、中層にどれほど個体差があるのかもまだ分からない。五人はそのままギルドを出た。
◇
夜、宿で五人がステータスを確認した。
エイルが先に気づく。
「二十五になってる」
ロディオもすぐに開く。
「俺も」
メルディア、クラウス、ルシエラも同じだった。
ルシエラが嬉しそうに笑う。
「一日で上がりましたね」
メルディアは少し考える。
「中層まで行ったからだと思う」
「素材も結構売れたし」
ロディオが言う。
エイルが笑う。
「そこも忘れないんだな」
「大事だろ」
「大事です」
クラウスが普通に同意した。
ロディオがそちらを見る。
「ほら」
「宿にも泊まりますし、装備の手入れも必要ですから」
メルディアが言う。
「明日も行くなら、今日の続き」
エイルが四人を見る。
「朝起きて、問題なければ行こう」
ルシエラが頷く。
「はい」
今度は誰も迷わなかった。