『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

23 / 24
第23話 重なる異変

翌朝、五人は再びダンジョンへ入った。

 

上層はほとんど足を止めずに抜け、中層もこれまでに通った道を選んだ。

 

何度か魔物の気配はあったが、進路を変えられるものは避けた。今日は素材を集めに来たわけではない。

 

前回見つけた下り道へ着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 

石の通路が斜め下へ続いている。

 

ロディオが先を覗き込む。

 

「行く?」

 

エイルが頷いた。

 

「行こう」

 

ロディオを先頭に、五人は下り始めた。

 

途中から壁に残された目印が減り、足元の擦れも少なくなった。誰かが休んだ跡も、魔物を解体した跡も見なくなる。

 

ロディオの歩く速度が少し落ちたが、誰も急かさなかった。

 

しばらくして傾斜が終わった。

 

そこから先は、再び平らな通路になっていた。

 

◇

 

最初に止まったのはロディオだった。

 

手を上げる。

 

少し先の岩陰。

 

細い脚が見えた。

 

続いて、大きな鎌。

 

一体が通路へ出てくる。

 

さらにもう一体。

 

「ブレードマンティス」

 

メルディアが言った。

 

エイルが剣を抜く。

 

「ルシエラ」

 

「はい。《光と闇の祝福》!」

 

淡い光が広がる。

 

その直後。

 

二体が左右へ分かれた。

 

「速い!」

 

エイルが一体へ身体を向ける。

 

追おうとして、すぐやめた。

 

距離が縮まらない。

 

もう一体にはロディオが走る。

 

こちらは追いついている。

 

短剣と鎌がぶつかった。

 

甲高い音が響く。

 

エイル側の一体は、そのまま後ろへ抜けようとしていた。

 

「《薙ぎ払い》!」

 

剣を大きく振る。

 

刃は届かない。

 

だが、進路へ入った。

 

ブレードマンティスが横へ跳ぶ。

 

「メルディア!」

 

火球が飛んだ。

 

さらに横へ避ける。

 

そこへエイルが踏み込んだ。

 

剣を振る。

 

また避けられた。

 

「こいつ、かなり速い!」

 

ブレードマンティスが反転する。

 

今度は向こうから来た。

 

鎌。

 

一本目を剣で逸らす。

 

二本目。

 

エイルが身体を捻る。

 

肩口を浅く切られた。

 

「っ」

 

「エイル!」

 

ルシエラの声。

 

「大丈夫!」

 

ブレードマンティスが離れる。

 

エイルは追わなかった。

 

剣を構えたまま待つ。

 

再び近づいてくる。

 

鎌を避ける。

 

もう一本も外へ流す。

 

今度は近い。

 

踏み込んだ。

 

剣が胴へ入る。

 

ブレードマンティスが大きく崩れた。

 

「そこ」

 

メルディアの火球が直撃する。

 

一体目が倒れた。

 

すぐ横でロディオの声が上がる。

 

「こっちはまだ!」

 

もう一体がロディオへ鎌を振るっていた。

 

一撃。

 

二撃。

 

ロディオは避ける。

 

三撃目。

 

少し深い。

 

「《疾駆》!」

 

一気に横へ抜けた。

 

空振りしたブレードマンティスへ、エイルが入る。

 

今度は間に合った。

 

剣が脇腹へ食い込む。

 

ロディオも戻る。

 

左右から攻撃を受け、二体目も倒れた。

 

しばらくして、ロディオが息を吐いた。

 

「そっちの、やっぱり速かったな」

 

エイルが肩を押さえながら頷く。

 

「全然違った」

 

「俺の方は追えた」

 

メルディアが倒れた二体を見比べた。

 

「今回は差が大きかった」

 

「見た目じゃ分かんないのが面倒だな」

 

ロディオが言った。

 

クラウスがエイルへ近づく。

 

「肩を見せてください」

 

「浅いよ」

 

「見れば分かります」

 

傷を確認する。

 

本当に浅かった。

 

クラウスが少し考え、ルシエラを見る。

 

「下は思ったより消耗しそうですね。ルシエラさん、お願いしてもいいですか?」

 

「はい」

 

ルシエラがエイルの肩へ手を添えた。

 

「《ヒール》」

 

柔らかな光が傷を塞いでいく。

 

エイルが肩を回す。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

クラウスは自分の杖には触れなかった。

 

ロディオが先を見る。

 

「行けそう?」

 

「まだ大丈夫」

 

エイルが答える。

 

五人は先へ進んだ。

 

◇

 

次の敵は、姿を見るより先に仕掛けてきた。

 

ロディオが急に止まる。

 

「待って」

 

全員が足を止めた。

 

ロディオは床を見ている。

 

小さな石が僅かに転がった。

 

「下――」

 

メルディアの足元が盛り上がる。

 

本人が横へ跳ぶ。

 

直後。

 

石床が弾けた。

 

巨大な爪。

 

その後から、灰色の巨体が飛び出す。

 

グレイヴモール。

 

爪がメルディアのローブの裾を裂いた。

 

「怪我は?」

 

エイルが走る。

 

「ない」

 

グレイヴモールは地面へ戻ろうとしていた。

 

だが、動きが遅い。

 

ロディオが先に回り込む。

 

短剣。

 

前脚へ入った。

 

グレイヴモールの身体が止まる。

 

エイルも追いついた。

 

剣を振る。

 

メルディアの火球が頭部へ当たる。

 

もう一度潜る前に、ロディオが横へ回る。

 

ほどなく魔物は動かなくなった。

 

ロディオが床を見た。

 

「潜ってる間の方が面倒だな」

 

メルディアは裂けた裾を持ち上げている。

 

「出たら遅い」

 

「次は振動見ればいいか」

 

「今よりは」

 

エイルが周囲を見る。

 

「怪我ないなら行こう」

 

メルディアが頷いた。

 

「大丈夫」

 

五人は再び歩き出した。

 

◇

 

そこからしばらくは何も出なかった。

 

道が広くなる。

 

何本もの岩柱が見え始めた。

 

その先に、大きな空間がある。

 

壁や床の一部から、青白い結晶が露出していた。

 

ロディオが足を止める。

 

「いる」

 

奥。

 

結晶の近くに、大きな影が伏せている。

 

四本脚。

 

長い尾。

 

背中から首へかけて、青白い結晶。

 

クリスタルドレイクが頭を上げた。

 

視線がこちらへ向く。

 

「起きたな」

 

エイルが剣を抜いた。

 

ドレイクの背中が光った。

 

「来る!」

 

光弾。

 

エイルが横へ跳ぶ。

 

後ろで大きな音がした。

 

振り返ると、壁が抉れている。

 

「当たりたくないな」

 

ロディオが言う。

 

「うん」

 

エイルも同意した。

 

「《光と闇の祝福》!」

 

ルシエラの声。

 

エイルが前へ出る。

 

二発目。

 

身体を沈める。

 

頭上を光が通った。

 

そのまま距離を詰める。

 

剣を前脚へ。

 

浅い。

 

「硬い!」

 

クリスタルドレイクの尾が振られる。

 

エイルが下がる。

 

ぎりぎりで避けた。

 

「《プロテクション》!」

 

クラウスの声。

 

身体を淡い光が包む。

 

反対側ではロディオが走っていた。

 

クリスタルドレイクの頭がそちらを向く。

 

光弾。

 

ロディオが横へ抜ける。

 

当たらない。

 

さらに回り込む。

 

「こっち!」

 

ドレイクがロディオを追う。

 

その間にエイルが前脚へもう一度斬り込む。

 

やはり浅い。

 

「《ブレイク》!」

 

剣を叩き込む。

 

硬い鱗が割れた。

 

クリスタルドレイクが吠える。

 

「そこ」

 

メルディアが杖を向けた。

 

「《フレイムランス》」

 

炎の槍が割れた場所へ突き刺さる。

 

巨体が揺れた。

 

エイルがさらに近づく。

 

今度はドレイクが前へ出た。

 

前脚。

 

避ける。

 

すぐに尾。

 

エイルも見えていた。

 

だが、戻り切れない。

 

剣を挟む。

 

衝撃。

 

身体ごと横へ飛ばされた。

 

床を転がる。

 

「エイル!」

 

ルシエラが声を上げる。

 

エイルはすぐに片膝をついた。

 

「大丈夫!」

 

腕が痺れている。

 

立てる。

 

クリスタルドレイクが追ってこない。

 

ロディオが横から脚へ攻撃していた。

 

ドレイクが振り向く。

 

光弾。

 

ロディオは岩柱の裏へ入る。

 

光が柱へ当たった。

 

石が砕ける。

 

「結構削れるな!」

 

ロディオが反対側から出る。

 

別の光弾。

 

また避ける。

 

速さではロディオが上だった。

 

その間にエイルが立ち上がる。

 

腕を一度振る。

 

まだ重い。

 

だが剣は握れる。

 

メルディアが別の岩柱の陰へ移動する。

 

クリスタルドレイクの背中。

 

いくつかの結晶が同時に光った。

 

「増えた」

 

メルディアが言った。

 

光弾が連続で飛ぶ。

 

エイルは岩柱へ。

 

クラウスも別の柱へ走る。

 

ルシエラもすぐに動いた。

 

光が床を砕く。

 

次。

 

壁。

 

さらに次。

 

ロディオが身体を低くする。

 

石片が腕を掠めた。

 

「っ」

 

「ロディオ!」

 

「平気!」

 

止まらない。

 

クリスタルドレイクがロディオへ頭を向ける。

 

その隙にエイルが柱から出た。

 

割った鱗へ剣を入れる。

 

今度は深い。

 

ドレイクが身体を振る。

 

エイルはすぐ離れた。

 

「同じところ!」

 

メルディアの《フレイムランス》。

 

さらに傷が広がる。

 

クリスタルドレイクが大きく向きを変えた。

 

尾がメルディアのいる岩柱へ当たる。

 

石が崩れる。

 

メルディアが離れる。

 

「そっち危ない!」

 

ルシエラが声を上げた。

 

メルディアが走る。

 

直後、崩れた岩柱へ光弾が当たった。

 

完全に砕けた。

 

「長引くと隠れる場所なくなるな!」

 

エイルが言う。

 

「分かってる!」

 

ロディオがさらに外へ回る。

 

クリスタルドレイクの視線がまた動く。

 

その瞬間。

 

エイルが前へ。

 

傷のある側から斬る。

 

ドレイクが前脚を振り上げた。

 

「エイル、下がって!」

 

クラウス。

 

エイルが横へ抜ける。

 

前脚が床を叩いた。

 

メルディアの火球が顔へ当たる。

 

クリスタルドレイクが怯む。

 

ロディオが脚へ入った。

 

短剣が関節を切る。

 

巨体が傾いた。

 

「今!」

 

エイルが踏み込む。

 

首元。

 

剣を振り下ろす。

 

一撃。

 

ドレイクがまだ身体を起こそうとする。

 

ロディオがすぐ離れた。

 

メルディアが杖を向ける。

 

「離れて」

 

エイルも飛び退く。

 

「《フレイムランス》」

 

炎の槍が首元へ刺さった。

 

クリスタルドレイクの身体が大きく震える。

 

そのまま床へ崩れた。

 

静かになった。

 

誰もすぐには近づかない。

 

ロディオが肩で息をしながら言った。

 

「……終わった?」

 

メルディアが少し待つ。

 

「動いてない」

 

エイルが剣を下ろした。

 

「強かったな」

 

クラウスがすぐに来る。

 

「エイル、腕を見せてください」

 

「動くよ」

 

「動くかどうかだけじゃありません」

 

その間にルシエラがロディオの腕へ気づいた。

 

「そこ、切れてます」

 

「石が当たっただけ」

 

「見せてください」

 

ロディオが腕を出す。

 

クラウスがエイルの状態を確認しながら言った。

 

「ルシエラさん、そちらお願いできますか?」

 

「はい」

 

「《ヒール》」

 

ロディオの腕の傷が塞がる。

 

「ありがと」

 

ルシエラが今度はエイルを見る。

 

「エイルは?」

 

「打った方だから、クラウスに任せる」

 

クラウスが頷いた。

 

「骨には問題なさそうです。少し休んでください」

 

エイルが近くの岩へ座る。

 

腕の痛みは引いてきた。

 

だが、疲れている。

 

メルディアも壁際へ座っていた。

 

杖を膝へ置いている。

 

ロディオが奥へ続く道を見る。

 

「まだ行く?」

 

エイルは答える前に四人を見た。

 

誰も動けないほどではない。

 

ロディオも歩ける。

 

メルディアも魔法はまだ使える。

 

クラウスにも余裕はある。

 

ルシエラも同じ。

 

ただ。

 

「もう一体、今のが出たらどうする?」

 

ロディオが奥を見たまま止まった。

 

クラウスが答える。

 

「倒せたとしても、その後があります」

 

帰り道も残っている。

 

エイルは少し考えた。

 

「戻ろう」

 

メルディアがすぐに頷く。

 

「賛成」

 

ルシエラも言った。

 

「私もです」

 

ロディオが最後に奥を見る。

 

「じゃあ次だな」

 

「次だな」

 

エイルが立ち上がった。

 

五人は来た道を戻り始める。

 

帰り道、最初に戦った場所を通った時、ロディオが倒れたブレードマンティスの方を見た。

 

「次も速いとは限らないんだよな」

 

エイルが答える。

 

「遅いとも限らないけどな」

 

「それが面倒なんだよ」

 

ロディオは先頭へ戻った。

 

その後は大きな戦闘もなく中層まで戻り、そこでようやく五人の歩調が少しだけ緩んだ。

 

下層でも戦えることは分かった。どこまで行けるかは、まだ分からない。

 

◇

 

夕方、ギルドへ戻ると受付の職員に呼び止められた。

 

「今日、下層まで行かれましたよね?」

 

「はい」

 

エイルが答える。

 

「何か変わったことはありませんでしたか?」

 

五人が顔を見合わせる。

 

ロディオが先に答えた。

 

「速いブレードマンティスはいた」

 

「同じ二体でも、かなり差があった」

 

メルディアが続ける。

 

「クリスタルドレイクも強かった」

 

職員の手が止まった。

 

「下層でもですか……」

 

「何かあったんですか?」

 

ルシエラが聞く。

 

職員は机の上の紙を見てから、別の紙もめくった。

 

「今日、中層から似た報告が三件来ています。魔物の動きや攻撃が普段と違った、と。冒険者側の魔法や身体の動きまで、いつもと違ったという話もあります」

 

エイルが眉を寄せた。

 

「前から出てた話ですよね」

 

「はい。最初は中層だけでした」

 

職員は今書いた下層の記録を見る。

 

「複数の階層にまたがっているのかもしれません」

 

ロディオが聞く。

 

「ダンジョン全体ってこと?」

 

「まだ分かりません。ですが、こちらでも調べます」

 

ルシエラは少し心配そうに言った。

 

「私たちが入った時も敵が強かったですし……何か起きてるのかもしれませんね」

 

メルディアが頷く。

 

「可能性はある」

 

五人が持ち帰った情報も、その日の記録へ加えられた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。