『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第26話 見えない角

翌日の昼、五人はリューベルの冒険者ギルドで、掲示板に並ぶ依頼票を眺めていた。

 

ロディオが一枚を指す。

 

「これ、昨日までなかったよな」

 

「護衛?」

 

エイルが覗き込む。

 

「南まで。今日は行かないけど」

 

「見るだけ?」

 

「見るだけ」

 

メルディアが隣から言った。

 

「さっきから三枚目」

 

「見るくらいいいだろ」

 

「受けないのに?」

 

「何があるか気になるんだよ」

 

ルシエラが少し笑った。

 

「ロディオ、掲示板を見るの好きですよね」

 

「冒険者っぽいだろ」

 

「そこ?」

 

エイルが笑ったところで、後ろから声がした。

 

「最近噂になってる五人って、あんたら?」

 

五人が振り返る。

 

昨日、宿で見かけた三人組の冒険者が立っていた。

 

ロディオが先に反応した。

 

「また噂?」

 

男が笑う。

 

「またってことは、もう聞いてるのか」

 

「嫌でも聞こえるから」

 

エイルが横から言う。

 

「昨日は悪い気しないって言ってたけどな」

 

「強いって言われる方はな」

 

「素材を買ってるって方は?」

 

メルディアが聞く。

 

「いらないって言っただろ」

 

三人組の一人が笑った。

 

「それも聞いたぞ。下層の素材を買って、自分たちで取ったことにしてるって」

 

ロディオが嫌そうな顔をする。

 

「なんで本人にそれ言うんだよ」

 

「反応見たかった」

 

「買ってない」

 

「即答だな」

 

「買ってないからな」

 

ルシエラが真面目に付け加える。

 

「本当に自分たちで取っていますよ」

 

ロディオがそちらを見る。

 

「ルシエラが言うと急に説得力あるな」

 

「私が言わないと説得力ないんですか?」

 

「俺が言うよりは」

 

「それは自分で言うんですね」

 

エイルが笑った。

 

三人組もつられて少し笑う。

 

最初に声をかけてきた男が掲示板へ目をやった。

 

「じゃあ、本当に毎日潜ってるのか?」

 

「毎日ではないよ」

 

ロディオが答える。

 

「休む日もあるし」

 

「昨日は?」

 

「行った」

 

ルシエラが先に答えた。

 

「下の方ですごい音がしたって聞いたんだけど」

 

エイルたちが顔を見合わせる。

 

ロディオが首を傾げた。

 

「聞こえてたんだ」

 

「かなり響いたらしいぞ」

 

「たぶん俺たちだな」

 

エイルが言う。

 

「クリスタルドレイクがいたから」

 

メルディアが付け加えた。

 

三人組の一人が少し身を乗り出す。

 

「倒したのか?」

 

「うん」

 

ロディオが答える。

 

「前にも戦ったことあるし」

 

「ずいぶん軽く言うな」

 

「最初はもっと大変だった」

 

ルシエラが言った。

 

「岩柱もたくさん壊れました」

 

「昨日も壊れたけどな」

 

エイルが言う。

 

「前よりは残った」

 

ロディオも頷く。

 

メルディアが三人組を見る。

 

「一本だけ」

 

一瞬、ロディオがメルディアを見た。

 

メルディアは何も言わない。

 

三人組のうち、右側にいた男の視線がわずかに動いた。

 

石室でも思い出したように、一度だけ横へ。

 

すぐに戻る。

 

「へえ」

 

それだけだった。

 

メルディアも、それ以上は何も言わなかった。

 

別の男が聞く。

 

「それだけ暴れて、怪我は?」

 

エイルが自分の胸元を見る。

 

「昨日はなかった」

 

「運がよかった?」

 

「ルシエラのおかげ」

 

エイルが答える。

 

三人の視線がルシエラへ向く。

 

ルシエラは少し居心地悪そうに杖を持ち直した。

 

「私ですか?」

 

「聖女なんだろ?」

 

「はい」

 

「何したんだ?」

 

「《絶対防御領域》を使いました」

 

一人が少し眉を上げる。

 

「絶対?」

 

ルシエラが困ったように笑う。

 

「私がつけた名前じゃないですよ」

 

ロディオがすぐ横から言う。

 

「でも今のところ名前負けしてない」

 

「そう言われると余計に恥ずかしいです」

 

「なんで?」

 

「絶対って、自分で言ってるみたいじゃないですか」

 

エイルが笑った。

 

「スキル名なんだから仕方ないだろ」

 

ルシエラはまだ少し納得していない顔をしている。

 

三人組の男が聞く。

 

「どんな防御なんだ?」

 

「みんなが中に入れば、攻撃を防げます」

 

「昨日のあれも?」

 

「はい」

 

「便利だな」

 

ルシエラは少し考えてから頷く。

 

「すごく助かってます」

 

エイルが言った。

 

「昨日もあれがなかったら危なかったな」

 

「柱どころじゃなかった」

 

ロディオが続ける。

 

「それは本当にそうですね」

 

クラウスも頷いた。

 

そこから話は、下層に出る魔物へ移った。

 

「下って何が出る?」

 

「色々」

 

ロディオが答える。

 

「それじゃ分からん」

 

「本当に色々出るんだよ。ブレードマンティスとか、グレイヴモールとか、クリスタルドレイクとか」

 

「素材は?」

 

「ドレイクは結構いい」

 

エイルが言う。

 

「でも持って帰るのが重い」

 

「それ、エイルが言う?」

 

ロディオが横を見る。

 

「お前も持ってるだろ」

 

「俺は軽いところ選んでる」

 

「知ってる」

 

「何で?」

 

「毎回そうだから」

 

ルシエラが笑う。

 

三人組の一人も笑った。

 

「仲いいな、お前ら」

 

五人が一瞬黙る。

 

ロディオが先に言った。

 

「まあ、ずっと一緒だし」

 

エイルも頷いた。

 

「まだそんなに長くはないけどな」

 

「でも毎日みたいに顔見てますよね」

 

ルシエラが言う。

 

メルディアが淡々と続ける。

 

「宿も同じ。食事もだいたい一緒」

 

ロディオが言った。

 

「言い方がちょっと嫌だな」

 

「事実」

 

クラウスが少し笑った。

 

三人組は、もう一度五人を見る。

 

それから、最初に声をかけてきた男が立ち上がった。

 

「ありがとな。参考になった」

 

エイルも軽く手を上げる。

 

「下層行くなら気をつけて」

 

「ああ」

 

三人はギルドの出口へ向かった。

 

その途中、先頭を歩いていた男がわずかに頭を下げた。

 

頭上には吊り下げられた灯りがある。

 

だが、見えている頭との間には十分な隙間があった。

 

メルディアの目が、その動きを追う。

 

次の男は普通に通ったが、最後の男も入口の梁の手前で、やはり少しだけ頭を下げた。

 

三人が外へ出て少しして、メルディアが口を開いた。

 

「ロディオ」

 

「ん?」

 

メルディアはまだ出口を見ていた。

 

「さっきの人、私が一本って言った時に反応した」

 

ロディオがメルディアを見る。

 

「やっぱあれ、わざと?」

 

「うん」

 

「先に言ってよ」

 

「反応が変わるから」

 

「俺の?」

 

「全員の」

 

ロディオは少し考えた。

 

「……それはそうか」

 

エイルが聞く。

 

「何が違った?」

 

「昨日、壊れた柱は一本じゃない」

 

ルシエラが頷く。

 

「三本でしたよね。亀裂が入ったのもありました」

 

「右にいた人だけ、一瞬そっちを見た」

 

メルディアが言う。

 

クラウスが出口を見る。

 

「昨日の戦闘を知っていた可能性がある?」

 

「それだけなら偶然かもしれない」

 

メルディアは続ける。

 

「でも、頭も避けてた」

 

「頭?」

 

「最初の人。灯りの下」

 

ロディオも思い出す。

 

「普通に通れたよな」

 

「通れた」

 

「癖じゃない?」

 

エイルが聞く。

 

「入口でも避けた」

 

ロディオの表情が変わった。

 

昨日、誰もいないはずの通路で一瞬だけ感じた後ろの気配。こちらが止まると、向こうも止まった。

 

「……昨日の奴らかな」

 

ルシエラが声を落とす。

 

「私たちを追ってた人たちですか?」

 

「まだ分からない」

 

ロディオは答えながら出口を見る。

 

「でも、昨日『追ってきたらその時考える』って言ったんだよな」

 

エイルが小さく笑う。

 

「言ってたな」

 

「こんなのは考えてなかったけど」

 

メルディアが言う。

 

「試せる」

 

ロディオがそちらを見る。

 

「俺もそう思う」

 

クラウスが二人を見る。

 

「何をするつもりですか?」

 

ロディオは頭の少し上に手を置いた。

 

「見えてない何かがあるなら、そこに当たるようにすればいい」

 

ルシエラが首を傾げる。

 

「何かって?」

 

「分からない」

 

「分からないものを調べるんですか?」

 

「だから調べる」

 

メルディアが普通に答えた。

 

ロディオが頷く。

 

「人の多いところはやめよう。何もなかったら、それで終わり」

 

エイルが少し考える。

 

「危なくないやつでな」

 

「分かってる」

 

「お前の『分かってる』、時々信用できない」

 

「今日は大丈夫」

 

「今日は?」

 

ロディオは聞こえなかったふりをした。

 

◇

 

五人はしばらくしてギルドを出た。道具屋へ寄って宿へ戻るだけの予定だった。

 

途中でロディオが足を止める。

 

「こっちから行こう」

 

細い路地へ入る。

 

人通りは少ない。

 

両側を古い建物に挟まれ、上には物干し用の縄が何本か渡されている。

 

ロディオだけが少し先へ走り、角を一つ曲がったところで壁際にしゃがんだ。

 

荷物から細い糸を取り出す。

 

エイルが覗き込む。

 

「それ、ダンジョンで使ってるやつ?」

 

「そう」

 

「切れても大丈夫?」

 

「細いからすぐ切れる」

 

片方を壁の金具へ、もう片方を向かいの柱へ結ぶ。

 

高さは、普通に歩く人間の頭より少し上。

 

糸の中央へ、小さな布袋を結びつける。

 

ルシエラが横から見る。

 

「中は?」

 

「白い粉」

 

「目印の?」

 

「そう」

 

メルディアもしゃがむ。

 

「見えないものに当たれば残る」

 

「何もなかったら?」

 

エイルが聞く。

 

「普通に下を通るだけ」

 

ロディオは立ち上がった。

 

「できた」

 

五人は曲がり角の先へ隠れた。

 

しばらく待っても誰も来ず、さらに少し時間が過ぎたところで、ルシエラが小声で聞く。

 

「本当に来ますかね」

 

「来なかったら宿に帰るだけ」

 

ロディオが答える。

 

「それはそれで平和ですね」

 

クラウスが言った。

 

「俺もそっちでいい」

 

エイルが壁にもたれる。

 

メルディアだけは路地の入口を見ていた。

 

少しして。

 

足音が三つ。

 

ロディオが壁から背を離した。

 

「来た」

 

さっきの三人組が路地へ入ってくる。

 

急いでいる様子はない。

 

周囲を見ながら歩いている。

 

先頭の一人が糸の下を通った。

 

何も起きない。

 

二人目。

 

見た目なら、その頭も糸には届かない。

 

男が進む。

 

次の瞬間。

 

糸が引かれた。

 

ぷつりと切れる。

 

小さな布袋が破れた。

 

白い粉が舞う。

 

男が足を止める。

 

その頭上。

 

何もないはずの空間に、白い粉が引っ掛かっていた。

 

左右へ伸びる。

 

二本。

 

角の形に。

 

数秒、誰も動かなかった。

 

ロディオが角から顔を出す。

 

「……やっぱりあった」

 

メルディアも隣に立つ。

 

「角」

 

男たちの表情が変わった。

 

エイルが剣へ手を伸ばす。

 

クラウスも一歩前へ出た。

 

ルシエラはその後ろで杖を握る。

 

「お前たち……」

 

白い粉を被った男が、一歩下がる。

 

ロディオが聞く。

 

「昨日、俺たちの後ろにいたのもあんたら?」

 

返事はない。

 

三人目が短く言った。

 

「撤退」

 

その瞬間。

 

三人の姿が揺らいだ。

 

髪。

 

顔立ち。

 

耳。

 

頭部。

 

人間の姿を覆っていたものが消えていく。

 

二本の角が現れた。

 

三人とも。

 

ルシエラが息を呑む。

 

「魔族……」

 

三人は一斉に走った。

 

ロディオも飛び出す。

 

「待て!」

 

路地を抜ける。

 

一人が壁を蹴った。

 

そのまま屋根へ。

 

残る二人も続く。

 

「速っ……!」

 

ロディオが追おうとする。

 

「ロディオ!」

 

エイルが呼び止めた。

 

屋根の上を走る三人は、すでに次の建物へ移っている。

 

その先は人通りの多い通りだ。

 

ロディオは一歩だけ進み、止まった。

 

舌打ちする。

 

三つの影は、そのまま見えなくなった。

 

しばらく誰も話さなかった。

 

ルシエラが屋根を見上げる。

 

「……本当に魔族だったんですね」

 

「みたいだな」

 

エイルが答える。

 

ロディオはまだ悔しそうに先を見ている。

 

エイルが横から言った。

 

「昨日、見られるの悪くないって言ってたよな」

 

ロディオが振り返る。

 

「これは違う」

 

「だよな」

 

「絶対違う」

 

メルディアが言う。

 

「でも昨日から見られてた」

 

「それ今言う?」

 

「事実」

 

ロディオはため息をついた。

 

「ギルド戻ろう」

 

◇

 

五人はすぐにギルドへ戻った。

 

受付の職員は、最初こそ驚いた顔をした。

 

話を最後まで聞く頃には、表情が変わっていた。

 

「三人とも、魔族だったんですね?」

 

「角がありました」

 

メルディアが答える。

 

「人間に見えてたけど」

 

ロディオが続ける。

 

「見た目だけ変えてたみたい」

 

職員は別の職員を呼んだ。

 

三人が名乗っていた名前や泊まっていた宿、装備、服装、顔について、覚えている限り伝える。

 

途中でルシエラが小さく言った。

 

「普通に話してたのに……」

 

エイルも頷く。

 

「俺も全然気づかなかった」

 

ロディオがメルディアを見る。

 

「気づいてたの、一人だけだな」

 

「確信はなかった」

 

「それでも十分だろ」

 

職員は記録を取り終えると、紙を別の職員へ渡した。

 

「こちらでも確認します。衛兵にも知らせます」

 

クラウスが聞く。

 

「人間の姿に見える魔族について、何か記録は?」

 

「調べます。ただ……」

 

職員は少し考える。

 

「少なくとも、私がすぐに思い当たるものはありません」

 

エイルがロディオを見る。

 

「昨日から見られてたんだな」

 

「たぶん」

 

「何でだろう?」

 

ロディオが肩をすくめる。

 

「それは本人たちに聞かないと分からない」

 

メルディアが言う。

 

「でも、昨日の戦闘を見てた」

 

ルシエラが聞く。

 

「やっぱり、柱の話ですか?」

 

「うん」

 

「一本って言った時?」

 

「右の人が反応した」

 

ロディオがメルディアを見る。

 

「やっぱあれ、わざと間違えたんだ」

 

「うん」

 

「先に言ってよ」

 

「反応が変わるから」

 

「なるほど」

 

一度納得してから、ロディオは少し考える。

 

「でも俺、普通に一本じゃなかったよなって思った」

 

「言わなかった」

 

「なんか理由あるのかと思ったから」

 

メルディアが頷く。

 

「助かった」

 

ロディオの顔が少しだけ得意そうになる。

 

「じゃあ俺も役に立ってた」

 

「罠も」

 

「そうだろ?」

 

ルシエラが二人を見る。

 

「二人とも、すごいですね」

 

ロディオが少し胸を張る。

 

メルディアは首を傾げた。

 

「確認しただけ」

 

エイルが笑った。

 

「その確認で魔族三人出てきたけどな」

 

メルディアは少し考えた。

 

「思ったより大きかった」

 

「そこは認めるんだ」

 

クラウスが小さく笑った。

 

さっきまで普通の冒険者だと思っていた三人。

 

昨日は、自分たちの後ろを歩いていた。

 

今日は、目の前で笑って話していた。

 

その正体が魔族だった。

 

ギルドの中では、もう何人もの職員が動き始めていた。

 

◇

 

それから数日後。

 

人の街から遠く離れた場所に、小さな石造りの建物があった。

 

三人の魔族が、部屋の中央に立っていた。

 

人間の姿はしていない。

 

頭には二本の角。

 

壁際には地図が広げられ、その前で一人の女が報告を聞いていた。

 

赤い短髪に、前方へ大きく湾曲する二本の角。

 

黒と赤の軽装をまとったミゼリアだった。

 

「で?」

 

三人のうち、隊長格の男が口を開く。

 

「対象は噂通り、若い五人組です」

 

「下層には?」

 

「到達しています。戦闘にも慣れていました」

 

「聖女は?」

 

「強力な防御能力を持っています」

 

ミゼリアが顔を上げる。

 

「どんな?」

 

「広範囲攻撃を受けても、五人のいた場所だけ損傷がありませんでした」

 

「結界?」

 

「詳細は不明です。本人は《絶対防御領域》と呼んでいました」

 

「絶対、ね」

 

ミゼリアは少し笑った。

 

「ずいぶん大げさな名前ね」

 

隊長は続ける。

 

「対象が通った後には、激しい戦闘痕も複数確認しています」

 

「それは?」

 

「戦闘自体がかなり荒いものと思われます」

 

「ふうん」

 

ミゼリアの興味は、別のところへ移った。

 

「接触したんでしょ?」

 

「はい」

 

「どうだった?」

 

一瞬。

 

三人の間に沈黙が落ちた。

 

ミゼリアが眉を上げる。

 

「何?」

 

「正体を見破られました」

 

「……三人とも?」

 

「はい」

 

ミゼリアが少し姿勢を起こした。

 

「普通に話しかけたのよね?」

 

「はい」

 

「それで?」

 

「魔法使いが、我々の動きと発言に違和感を持ったようです」

 

ミゼリアの口元が少し上がる。

 

「何をしたの?」

 

隊長は一度だけ隣を見る。

 

「昨日の戦闘について、事実と違う話を混ぜられました」

 

「へえ」

 

「我々の一人が反応を見られたようです」

 

「それだけ?」

 

「その後、頭上の障害物を避けた動きも見られました」

 

ミゼリアが二本の角へ触れる。

 

「隠してたのに?」

 

「はい」

 

「それで角があるって分かった?」

 

「そこまでは」

 

隊長が答える。

 

「斥候が罠を仕掛けました」

 

「罠?」

 

「頭上に細い糸を張り、粉を落とされました」

 

ミゼリアは数秒黙った。

 

「頭上?」

 

「幻装で隠していた角に引っ掛かりました」

 

また少し沈黙する。

 

ミゼリアの口元が上がった。

 

「へえ」

 

三人を見る。

 

「そんな見つけ方するんだ」

 

隊長は何も答えない。

 

「斥候と魔法使い?」

 

「はい」

 

「面白いね」

 

ミゼリアは地図へ視線を戻した。

 

「それで、五人は?」

 

「リューベルへ戻りました」

 

「もう報告されてる?」

 

「可能性は高いかと」

 

「でしょうね」

 

指先で地図を軽く叩く。

 

三人は待った。

 

やがてミゼリアが立ち上がる。

 

「正体を知られたなら、放っておくのは面倒」

 

隊長が顔を上げる。

 

「我々が戻りますか?」

 

「同じ顔で?」

 

「幻装を変えれば――」

 

「もう隠れる必要ないでしょ」

 

ミゼリアは報告書を閉じた。

 

「今度は私も行く」

 

隊長が顔を上げる。

 

「我々も?」

 

「もちろん。あなたたちが一番あの五人を知ってるんだから」

 

そして少し笑う。

 

「それに、その聖女も直接見てみたいし」

 

三人の報告書を手に取る。

 

五人の名前、職業、見た目。

 

その中でも、ミゼリアの目は《絶対防御領域》の記述で止まった。

 

ミゼリアはそこだけ、もう一度見た。

 

「次は、隠れないで会いに行こうか」

 

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