『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第27話 四天王ミゼリア

翌朝、ギルドから宿へ一通の手紙が届けられた。差出人の名前はない。

 

エイルが封を開き、全員で中を見る。文章は短かった。

 

今朝、リューベルを南へ出たギルドの伝令を預かった。

 

生かして返してほしければ、五人だけで南西の旧放牧地へ来い。

 

衛兵やギルドの人間を連れてくれば、伝令は殺す。

 

しばらく誰も話さなかった。

 

最初に口を開いたのはロディオだった。

 

「罠だね」

 

「うん」

 

メルディアも即答する。

 

ルシエラが二人を見る。

 

「そんなにはっきり?」

 

「この前のことがあったばかりだよ」

 

ロディオが手紙を指す。

 

「俺たち五人だけで町の外に来いって書いてある。あの三人以外に誰がやるの?」

 

メルディアも手紙を見る。

 

「人質を捕まえた証拠もない」

 

クラウスが立ち上がった。

 

「伝令について確認しましょう」

 

五人はギルドへ向かった。

 

◇

 

伝令が出たのは事実だった。

 

今朝早く、魔族潜入の件をリゼル側へ伝えるため、一人が南門を出ている。年齢、服装、出発した時間まで、手紙に書かれた情報と一致した。

 

受付の職員も険しい顔になる。

 

「まだ到着を確認できる時間ではありません」

 

「追いかければ?」

 

ロディオが聞く。

 

「今から別の者を出すことはできます。ただ、途中で何が起きているかは……」

 

ルシエラが手紙を見る。

 

ロディオが言った。

 

「まだ捕まってるって決まったわけじゃないよ」

 

「はい」

 

「俺はほぼ罠だと思ってる」

 

「私もそう思います」

 

ロディオが一瞬黙った。

 

「思ってるんだ」

 

「はい」

 

ルシエラは手紙を握った。

 

「でも、本当だったら?」

 

メルディアが答える。

 

「可能性は低い」

 

「ゼロではないですよね」

 

「ゼロではない」

 

「だったら行きたいです」

 

迷いのない返事だった。

 

メルディアはルシエラを見る。

 

「罠でも?」

 

「はい」

 

ロディオが頭を掻いた。

 

「こういうの、ルシエラに効きすぎるなあ」

 

「分かってます」

 

「分かってて行くの?」

 

「捕まってる人が本当にいたら、待っていられませんから」

 

エイルが全員を見る。

 

クラウスも止めようとはしなかった。

 

「行こう」

 

エイルが言った。

 

「五人で。ただし、向こうの話を全部信じて動くのはやめよう」

 

「僕たちが戻らなければ動いてもらえるよう、ギルドには伝えておきましょう」

 

クラウスの提案に全員が頷いた。

 

◇

 

旧放牧地は、街道からかなり外れた場所にあった。

 

低い草が風に揺れ、昔使われていたらしい柵がところどころに残っている。その先には広い草地が続いていた。

 

ロディオは先頭を歩きながら、何度も左右を確認する。

 

「人の気配は?」

 

エイルが聞く。

 

「まだ」

 

メルディアも周囲を見ている。

 

しばらく進む。

 

小高い丘を越えたところで、ルシエラが声を上げた。

 

「いました!」

 

草地の先。

 

一人の男が座らされていた。

 

手を後ろに回されているように見える。

 

ルシエラが駆け出しかける。

 

ロディオが腕を掴んだ。

 

「待って」

 

「でも」

 

「足跡がない」

 

ルシエラが止まる。

 

男の周囲を見る。

 

確かに、そこまで誰かを運んだ跡がない。

 

風が吹いた。

 

草が大きく揺れる。

 

男の服だけが動かなかった。

 

メルディアが言う。

 

「偽物」

 

次の瞬間。

 

男の姿が薄くなった。

 

そのまま空気へ溶ける。

 

「正解」

 

女の声がした。

 

五人が振り向く。

 

少し離れた草地に、一人の魔族が立っていた。

 

赤い短髪。

 

前方へ大きく湾曲した二本の角。

 

黒と赤を基調にした軽装。

 

腰には細身の短剣。

 

その後ろから、三人の魔族が現れた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ロディオの顔が変わる。

 

「この前の三人」

 

白い粉を角にかけられた男もいる。

 

女が三人を見る。

 

「うちの子たちがお世話になったみたいね」

 

ルシエラが一歩前へ出た。

 

「人質は?」

 

女がルシエラを見る。

 

「いないよ」

 

ルシエラの肩から力が抜けた。

 

「……よかった」

 

「え?」

 

女が少し目を丸くする。

 

「怒らないの?」

 

「誰も捕まってないなら、その方がいいです」

 

女は数秒ルシエラを見た。

 

やがて笑う。

 

「あなた、面白いね」

 

エイルが剣を抜いた。

 

「誰だ?」

 

三人のうち、隊長格の男が答えた。

 

「ミゼリア様だ」

 

クラウスの表情が硬くなる。

 

「ミゼリア……四天王の」

 

「知ってるんだ」

 

ミゼリアは楽しそうだった。

 

「話が早くて助かる」

 

ロディオも短剣を抜く。

 

「俺たちをどうするつもり?」

 

「うちの潜入を見つけられちゃったからね。そのまま放っておくのも困るし」

 

ミゼリアの視線がルシエラへ移る。

 

「それと、あなたの防御。ちょっと見たかった」

 

ルシエラがクラウスの後ろへ下がる。

 

ミゼリアは三人へ目を向けた。

 

「まず、やってみて」

 

隊長格の男が短剣を抜いた。

 

残る二人も構える。

 

エイルが剣を正面に向ける。

 

「来るぞ!」

 

ルシエラが両手を合わせた。

 

「《光と闇の祝福》!」

 

戦闘が始まった。

 

◇

 

最初に動いたのは双短剣の男だった。

 

速い。

 

一直線にロディオへ向かう。

 

「また俺?」

 

ロディオも飛び出した。

 

刃がぶつかる。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

ロディオが下がる。

 

相手の方がわずかに速い。

 

横からもう一人がエイルへ入った。

 

エイルが剣で受ける。

 

金属音。

 

相手は力で押さず、そのまま剣の外側へ滑る。

 

短剣がエイルの肩へ走った。

 

エイルが身体を捻る。

 

刃先が服を裂いた。

 

「エイル!」

 

「浅い!」

 

背後から風が飛ぶ。

 

クラウスが杖を上げた。

 

「《プロテクション》!」

 

透明な防護がエイルを包む。

 

その横を炎が抜けた。

 

「《フレイムランス》」

 

メルディアの炎が、後方にいた三人目を狙う。

 

魔族の姿が二つに分かれた。

 

炎が片方を貫く。

 

消える。

 

「幻」

 

本体は横へ動いていた。

 

だが、その移動先へロディオが短剣を投げた。

 

魔族が避ける。

 

その一瞬。

 

エイルが踏み込む。

 

「《薙ぎ払い》!」

 

大きく薙いだ剣が、前衛二人をまとめて下がらせる。

 

ロディオも間合いを取り直した。

 

「三人なら、いける!」

 

「油断するな!」

 

エイルが言う。

 

双短剣の男が再びロディオへ入る。

 

ロディオは正面から付き合わない。

 

一歩引き、斜めへ抜ける。

 

そこへエイルの剣が入った。

 

男が身を反らす。

 

刃が服を裂く。

 

隊長格がすぐにエイルへ詰め、攻撃を止める。

 

今度はメルディアの炎が飛んだ。

 

後衛の魔族はかわしきれず、炎が脇腹を掠める。

 

「っ!」

 

初めて、三人の側から声が漏れた。

 

ミゼリアは少し離れたところで見ていた。

 

腕を組んでいる。

 

「へえ」

 

エイルたちには聞こえなかった。

 

「ちゃんと戦えるんだ」

 

◇

 

双短剣がロディオの右脚を掠めた。

 

血が散る。

 

ロディオはそのまま《疾駆》で距離を外す。

 

クラウスがそちらを見る。

 

「ロディオ!」

 

「まだ平気!」

 

エイルも肩から血を流している。

 

それでも三人を押し返していた。

 

人数の差がある。

 

誰かが一人を止めれば、別の誰かが横から入れる。

 

隊長格の魔族の腕にも、エイルの剣が浅く入った。

 

後衛の魔族はメルディアの炎で服の一部を焦がしている。

 

ミゼリアが手を上げた。

 

「そこまで」

 

三人が同時に下がった。

 

エイルたちも追わない。

 

ミゼリアが前へ出る。

 

「今度は私」

 

ロディオが息を整えながら言う。

 

「四人で来るんじゃないんだ」

 

「それでもいいけど」

 

ミゼリアが笑う。

 

「まず自分で見たいから」

 

短剣を一本抜いた。

 

エイルが構える。

 

ミゼリアの姿が消えた。

 

ように見えた。

 

「――!」

 

エイルが剣を振る。

 

空を切る。

 

横。

 

ミゼリアがいた。

 

短剣の腹で剣を押す。

 

それだけで軌道がずれた。

 

エイルが振り返る。

 

もういない。

 

「右!」

 

ロディオの声。

 

エイルが向く。

 

ミゼリアが目の前にいた。

 

蹴り。

 

エイルが腕で受ける。

 

身体が草の上を滑った。

 

「エイル!」

 

ロディオが横から入る。

 

短剣を突き出す。

 

ミゼリアは半歩だけ動いた。

 

刃が胸元を通り過ぎる。

 

ロディオの腕を掴む。

 

体勢を崩す。

 

地面へ投げる。

 

「ぐっ!」

 

メルディアが杖を向ける。

 

「《フレイムランス》!」

 

炎が走る。

 

ミゼリアの前に水が広がった。

 

炎とぶつかる。

 

蒸気が弾けた。

 

メルディアが次を撃とうとする。

 

その時には、ミゼリアが目の前にいた。

 

短剣の先が杖へ触れる。

 

「遅い」

 

軽く押された。

 

メルディアが数歩下がる。

 

クラウスが前へ出た。

 

ミゼリアは追わない。

 

少し離れる。

 

五人を見る。

 

首を傾げた。

 

「……思ってたより普通だね」

 

エイルが起き上がる。

 

「それ、褒めてないよな」

 

「うん」

 

あっさり答えた。

 

ロディオも立ち上がる。

 

右脚から血が流れている。

 

ミゼリアはルシエラを見る。

 

「報告だと、もっと変なのかと思った」

 

ルシエラが杖を握る。

 

「変?」

 

「戦った跡はすごいし、下層にはどんどん潜るし」

 

ミゼリアは短剣を回した。

 

「でも、戦ってみたら普通に弱い」

 

エイルの顔が引き締まる。

 

ミゼリアは笑った。

 

「私から見れば、だけどね」

 

風が動いた。

 

ミゼリアの周囲に、水が浮かぶ。

 

細い刃の形へ変わった。

 

一つ。

 

二つ。

 

数が増える。

 

さらに風がそれぞれを包む。

 

ロディオが構え直した。

 

「来る!」

 

水刃が飛んだ。

 

エイルが一本を弾く。

 

別方向から二本目。

 

ロディオがかわす。

 

さらに後ろから軌道を曲げた刃が来る。

 

メルディアも避ける。

 

クラウスが防護を張る。

 

数が多い。

 

角度も違う。

 

五人それぞれへ同時に飛んでくる。

 

「ルシエラ!」

 

エイルの声。

 

全員が動いた。

 

ルシエラの周囲へ集まる。

 

「《絶対防御領域》!」

 

水刃が届いた。

 

消えた。

 

続けて風刃が飛ぶ。

 

ルシエラたちの横を通ったものは、地面を深く切り裂いた。

 

五人へ向かったものだけが何も残さない。

 

草も。

 

土も。

 

服も。

 

傷一つつかなかった。

 

ミゼリアの笑みが消えた。

 

じっと見る。

 

「……本当なんだ」

 

もう一度、手を動かす。

 

一本だけ水刃を飛ばした。

 

領域へ入る。

 

何も起こらない。

 

今度は地面へ向けて風を叩きつける。

 

領域の外側で土が弾けた。

 

内側の草は揺れているだけだった。

 

ミゼリアが少し近づく。

 

エイルがルシエラの前へ立つ。

 

「近づくな」

 

「大丈夫。今は見てるだけ」

 

ミゼリアは領域の縁を眺めた。

 

右へ歩く。

 

少し考える。

 

また左へ。

 

ルシエラの周囲。

 

六メートルほど。

 

そこだけが、攻撃から切り離されている。

 

ミゼリアの口元に、ゆっくり笑みが戻った。

 

「外から駄目なら」

 

視線がルシエラへ向く。

 

「中はどうなんだろうね」

 

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