『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

28 / 28
第28話 決着

「外から駄目なら」

 

ミゼリアの視線がルシエラへ向く。

 

「中はどうなんだろうね」

 

そのまま歩き出した。

 

「来るな!」

 

エイルが前へ出る。

 

ミゼリアが《絶対防御領域》へ足を踏み入れた瞬間、エイルが剣を振るった。

 

横薙ぎの一閃。

 

ミゼリアは上体をわずかに反らした。

 

剣先が胸元を通り過ぎる。

 

エイルが踏み込み、そのまま二撃目へつなぐ。

 

ミゼリアは半歩ずれた。

 

三撃目。

 

今度は身体を沈める。

 

どれも当たらない。

 

「入るだけなら平気なんだ」

 

「ロディオ!」

 

「分かってる!」

 

横からロディオが入る。

 

二本の短剣でミゼリアの進路を挟む。

 

だが、ミゼリアはその間をするりと抜けた。

 

ロディオが振り返った時には、もうエイルの横にいる。

 

ミゼリアの短剣が動く。

 

エイルの脇腹へ刃が走った。

 

「――っ!」

 

避けきれない。

 

確かに当たった。

 

だが、何も起きなかった。

 

服も裂けない。

 

血も出ない。

 

ミゼリアが自分の短剣を見る。

 

「へえ」

 

今度はロディオへ。

 

ロディオも反応したが、間に合わない。

 

刃が腕を捉えた。

 

やはり傷はつかなかった。

 

「中からでも駄目なんだ」

 

ミゼリアが少し離れた。

 

片手を上げる。

 

エイルの目の前に、小さな水の刃が生まれた。

 

放たれる。

 

何も起きない。

 

続けて風の刃。

 

これも消えた。

 

「本当に攻撃は通らないんだね」

 

ミゼリアの視線が、エイルからロディオへ。

 

メルディア。

 

クラウス。

 

そして最後にルシエラへ向く。

 

「じゃあ」

 

一瞬で距離を詰めた。

 

ルシエラの手首を掴む。

 

「え?」

 

そのまま引いた。

 

ルシエラの身体が一歩前へ動く。

 

ミゼリアの目が少し開く。

 

「これは動くんだ」

 

もう一度引く。

 

「ルシエラ!」

 

エイルが肩を掴んだ。

 

ロディオも反対側から腕を支える。

 

クラウスまで加わる。

 

ルシエラの足が草の上を滑った。

 

それでも、今度は止まった。

 

ミゼリアが少し力を込める。

 

三人の身体まで引かれる。

 

「結構重いなあ」

 

「離せ!」

 

「はいはい」

 

ミゼリアはあっさり手を放した。

 

後ろへ跳ぶ。

 

そのまま《絶対防御領域》の外まで距離を取った。

 

エイルがすぐにルシエラの前へ戻る。

 

「大丈夫か?」

 

「はい」

 

ルシエラは掴まれた手首を見る。

 

痛みはない。

 

それでも、確かに身体を動かされた。

 

ロディオも同じことに気づいていた。

 

「斬るのは駄目でも、掴んだりするのはできるのか」

 

「そうみたい」

 

メルディアが答える。

 

ミゼリアは少し離れた場所で、楽しそうに笑っていた。

 

「面白いね、それ」

 

短剣をくるりと回す。

 

「じゃあ、もう一つ試してみようか」

 

風が動いた。

 

先ほどまでとは違う。

 

ミゼリアの周囲を何重もの風が回り始める。

 

赤い髪が舞い上がった。

 

足元の草が円を描いて倒れていく。

 

次に、水が集まった。

 

空中で細長く伸びる。

 

一本。

 

二本。

 

さらに増える。

 

五本。

 

十本。

 

それでも止まらない。

 

水の刃が、ルシエラたちを囲むように浮かんだ。

 

「多い……」

 

ルシエラが周囲を見る。

 

今度は水刃の間で空気が歪んだ。

 

風の刃。

 

正面。

 

右。

 

左。

 

背後。

 

斜め上。

 

逃げ道を埋めるように配置されていく。

 

メルディアの目が忙しく動く。

 

「全部こっちを向いてる」

 

ミゼリアはまだ準備を続けていた。

 

身体の周囲へ風がまとわりつく。

 

水のような薄い光が腕と脚を走る。

 

短剣にも魔力が集まる。

 

一つ。

 

また一つ。

 

自身にも次々と強化を重ねていく。

 

「今までのは試しだったから」

 

ミゼリアが短剣を構えた。

 

周囲には無数の水刃と風刃。

 

正面には、それらとは別にミゼリア自身がいる。

 

少し楽しそうに笑う。

 

「四天王の全力でも、耐えられるかしら」

 

エイルの表情が変わった。

 

ルシエラがその横顔を見る。

 

「……エイル?」

 

「分からない」

 

「え?」

 

エイルは剣を構えたまま、周囲に浮かぶ刃を見回した。

 

「俺たちだって、四天王の全力攻撃なんて受けたことがない」

 

ルシエラの指に力が入る。

 

「今までと同じように防げる保証はない」

 

エイルの肩には傷が残っている。

 

ロディオの脚にも血が滲んでいた。

 

メルディアもクラウスも、すぐ近くにいる。

 

その全員へ。

 

あらゆる方向から刃が向けられている。

 

ルシエラは杖を握り締めた。

 

「でも……」

 

「領域を解くな」

 

エイルが言う。

 

「これしかない」

 

「……はい」

 

ミゼリアの周囲で、さらに風が強くなった。

 

「じゃあ、最後にこれも」

 

赤い光が灯った。

 

ミゼリアの身体を包んでいく。

 

足元へ風が集まり、周囲の草が一斉に伏せた。

 

「《風走》」

 

ロディオが目を細める。

 

「まだ何かあるの?」

 

「これを使うとね」

 

ミゼリアが腰を落とす。

 

「普段の三倍くらいで動けるの」

 

「三倍……?」

 

ロディオの顔が引きつった。

 

エイルも何も言わなかった。

 

周囲には水刃と風刃。

 

正面には、いくつもの強化を重ねた四天王。

 

そして。

 

その本人が、今までよりさらに三倍速くなる。

 

ルシエラの呼吸が浅くなった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

エイル。

 

ロディオ。

 

メルディア。

 

クラウス。

 

みんな、ここにいる。

 

全員を守らないと。

 

絶対に。

 

ミゼリアが地面を蹴ろうとした。

 

その直前。

 

ルシエラの胸元が淡く光った。

 

《地護りのペンダント》。

 

ミゼリアの視線が一瞬だけそこへ向く。

 

そして。

 

地面を蹴った。

 

赤い光が前へ走る。

 

はずだった。

 

消えた。

 

「え?」

 

ルシエラの声だけが残った。

 

さっきまでミゼリアがいた場所には、誰もいない。

 

同時に。

 

周囲の水刃が動いた。

 

風刃も。

 

全方向から一斉に殺到する。

 

轟音。

 

水が弾けた。

 

風が地面を切り裂いた。

 

《絶対防御領域》の外側で草と土が吹き飛ぶ。

 

内側には何も届かない。

 

だが、それで終わらなかった。

 

一瞬遅れて。

 

空気そのものが破裂した。

 

鼓膜を叩く轟音。

 

地面が揺れる。

 

草原を、目に見えない壁のような衝撃が走った。

 

古びた柵が一気に折れる。

 

土と小石が巻き上がる。

 

草が地面へ押しつけられた。

 

「っ――!」

 

エイルが踏ん張る。

 

ロディオが腕で顔を覆う。

 

クラウスが杖を地面へ突く。

 

メルディアの身体も大きく揺れた。

 

ルシエラにも猛烈な風圧がぶつかった。

 

身体が押される。

 

その瞬間。

 

胸元の石が強く光った。

 

淡い緑色。

 

足元に力が戻る。

 

ルシエラは一歩下がっただけで踏みとどまった。

 

《絶対防御領域》も維持されていた。

 

領域の外。

 

三人の魔族は、まともに衝撃を受けた。

 

最初に吹き飛んだのは、双短剣の男だった。

 

「――っ!」

 

避ける暇すらない。

 

身体が地面から浮いた。

 

横へ弾き飛ばされる。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

草地を跳ねる。

 

途中で短剣が手から飛んだ。

 

十数メートル先。

 

身体がようやく止まる。

 

起き上がろうと腕をつく。

 

崩れた。

 

片脚が動かない。

 

隊長格の男は、咄嗟に両腕で身体を庇った。

 

だが受け止められるような衝撃ではなかった。

 

足が地面から離れる。

 

背中から落ちた。

 

そのまま何度も転がる。

 

最後に肩から地面へ叩きつけられた。

 

「がっ……!」

 

息が詰まる。

 

短剣が手から落ちた。

 

最後の一人だけが、一瞬早く反応した。

 

両手を前へ出す。

 

「《障壁》!」

 

魔力の壁が広がった。

 

その直後。

 

衝撃波がぶつかる。

 

障壁が大きく歪んだ。

 

表面に亀裂が走る。

 

「なっ――」

 

砕けた。

 

防壁ごと身体が押し流される。

 

地面へ叩きつけられた。

 

さらに数メートル滑る。

 

杖が手から離れた。

 

三人とも倒れた。

 

しばらく。

 

誰も動かなかった。

 

土と枯れ草だけが空から落ちてくる。

 

隊長格の男が、震える腕で身体を起こそうとした。

 

顔を上げる。

 

「ミ……ミゼリア様……?」

 

周囲を見る。

 

いない。

 

さっきまで正面にいたミゼリアが、どこにもいない。

 

双短剣の男も、苦しそうに顔を上げた。

 

「消え……た……?」

 

魔法使いの男がルシエラたちを見る。

 

五人とも立っている。

 

ルシエラの胸元では、まだ淡い緑の光が残っていた。

 

「何の……攻撃だ……!」

 

隊長格の顔が強張る。

 

「聖女……お前たち、何をした……!」

 

「俺たち?」

 

ロディオも呆然と周囲を見る。

 

「今の、何?」

 

メルディアが答える。

 

「分からない」

 

本当に分からない。

 

ミゼリアが突っ込んできた。

 

消えた。

 

その直後に、何かが爆発したような衝撃が来た。

 

それだけだった。

 

エイルは三人の魔族を見た。

 

三人とも立てない。

 

武器も落としている。

 

一人は脚が動かない。

 

一人は呼吸すらまともにできていない。

 

もう一人も杖まで手が届いていない。

 

「今だ!」

 

その声と同時に三人が動いた。

 

エイル。

 

ロディオ。

 

メルディア。

 

それぞれ違う相手へ走る。

 

「退け……!」

 

隊長格の男が短剣へ手を伸ばした。

 

エイルの方が速い。

 

拾い上げかけた刃を剣で弾く。

 

男の腕が開く。

 

「《ブレイク》!」

 

剣が叩き込まれた。

 

男の身体が崩れ落ちる。

 

動かない。

 

ロディオは双短剣の男へ向かっていた。

 

相手も逃げようとした。

 

片脚を地面につく。

 

その瞬間。

 

力が抜けた。

 

膝から落ちる。

 

「くそ……!」

 

残った一本の短剣を振る。

 

ロディオが身体を沈めた。

 

刃が頭上を通り過ぎる。

 

一歩で懐へ入る。

 

短剣を突き込む。

 

男の身体が止まった。

 

そのまま前へ倒れた。

 

最後の一人。

 

杖へ指を伸ばす。

 

指先に魔力が集まりかける。

 

だが、形にならない。

 

先ほどの障壁で力を使い切っていた。

 

顔を上げる。

 

すでにメルディアの杖が向いていた。

 

「《フレイムランス》」

 

炎が走った。

 

魔族が咄嗟に作った小さな障壁を突き破る。

 

直撃。

 

身体が後ろへ倒れた。

 

炎が消える。

 

静かになった。

 

エイルが剣を構えたまま周囲を見る。

 

ロディオも振り返る。

 

メルディアは杖を下ろした。

 

三人の魔族は、もう動かなかった。

 

ルシエラは《絶対防御領域》の中央に立ったままだった。

 

胸元の光がゆっくり消えていく。

 

周囲には、抉られた地面。

 

倒れた柵。

 

吹き飛ばされた草。

 

そして三人の魔族。

 

けれど。

 

どこまで見渡しても。

 

ミゼリアの姿だけは、なかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます(作者:異星人アリエン)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

『魔法少女マギアイリス』。それは人気がすこぶる高いアニメとして、名を馳せていたアニメタイトルであった。▼話としては、至極単純世界征服を目指す組織《ディスナンド》が、ミラクルパワーとかいう力を操る魔法少女によって倒される。そんな分かりやすい物語。▼だけど、そんな世界で生きることとなった身としてはたまったものではない。▼そんな世界に転生した男、須佐八雲は男である…


総合評価:14104/評価:8.05/連載:53話/更新日時:2026年10月04日(日) 13:02 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>