『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第29話 余波

最初に戻ってきたのは、痛みだった。

 

「……っ」

 

ミゼリアが目を開ける。

 

空が見えた。

 

雲がゆっくり流れている。

 

身体を起こそうとした瞬間、肩と脇腹に鋭い痛みが走った。

 

「痛……」

 

左手を地面につく。

 

一度、力が抜けた。

 

少し待ってから、ゆっくり身体を起こす。

 

黒と赤の服は何か所も裂けていた。

 

腕には擦り傷。

 

脚にも血が滲んでいる。

 

背中も痛む。

 

右肩を動かすと、さらに強い痛みが走った。

 

「なに……これ……」

 

座ったまま、周囲を見る。

 

低い草。

 

疎らな木々。

 

遠くに続く丘。

 

見覚えがない。

 

「……ここ、どこ?」

 

しばらく景色を眺めた。

 

それから、途切れた記憶を辿る。

 

旧放牧地。

 

五人の冒険者。

 

《絶対防御領域》。

 

水刃と風刃を周囲へ並べた。

 

自分にも強化を重ねた。

 

最後に使ったのは――

 

《風走》。

 

そして。

 

ルシエラの胸元で、淡い緑色の石が光った。

 

その直後。

 

身体を叩き潰されたような衝撃。

 

そこから先の記憶がない。

 

ミゼリアは自分の腕を見る。

 

裂けた服の下にも傷がある。

 

もう一度、知らない景色を見る。

 

「……転移された?」

 

誰も答えない。

 

胸元の光。

 

直後の衝撃。

 

意識を取り戻した時には、知らない場所にいた。

 

しかも全身が傷だらけだ。

 

「攻撃も一緒……?」

 

ミゼリアの表情から、いつもの笑みが消えた。

 

少し黙る。

 

「あの聖女……危ないな」

 

その時、三人の顔が浮かんだ。

 

ミゼリアが立とうとする。

 

左脚に力をかけたところで、膝が揺れた。

 

「っ……」

 

それでも立ち上がる。

 

「三人……」

 

旧放牧地へ戻らなければならない。

 

◇

 

ミゼリアは風と水の魔法を最低限だけ使い、身体を支えながら進んだ。

 

《風走》は使わない。

 

今の身体では、普段の移動すら痛みが響く。

 

しばらく進む。

 

丘を一つ越えたところで、足が止まった。

 

「……あ」

 

見覚えのある地形だった。

 

遠くに街道が見える。

 

さらにその向こう。

 

リューベル周辺の地形を頭の中で重ねる。

 

方角が分かった。

 

ミゼリアは来た方向を振り返った。

 

しばらく考える。

 

「……二十キロくらい?」

 

正確な距離までは分からない。

 

それでも、旧放牧地からかなり離れている。

 

意識を失う前にいたのは、確かにあの場所だった。

 

それが、気づけばここまで離れていた。

 

「転移……だよね」

 

脇腹を押さえる。

 

そこにも強い痛みが残っている。

 

移動させられたうえに、身体にもこれだけの傷を負った。

 

ミゼリアの顔が険しくなる。

 

「あれ、まともに食らったらまずいな」

 

そして再び歩き始めた。

 

◇

 

その頃、旧放牧地では風が少しずつ収まっていた。

 

折れた柵と大きく抉れた地面。一方向へ倒れた草の中に、三人の魔族が倒れている。

 

ミゼリアの姿だけがなかった。

 

ロディオが少し離れたところまで見て回った。

 

戻ってくる。

 

「いない」

 

エイルが聞く。

 

「どこにも?」

 

「見える範囲には」

 

メルディアは、ミゼリアがいた場所から周囲へ視線を動かしていた。

 

「消えた」

 

「どこに行ったんでしょう……」

 

ルシエラが胸元へ手を置く。

 

《地護りのペンダント》。

 

淡い緑色の石は、もう光っていない。

 

「これ、さっき光ってましたよね」

 

「うん」

 

ロディオが答える。

 

「前にも光ってた。風とか衝撃が来た時」

 

「はい」

 

メルディアがペンダントを見る。

 

「関係は分からない」

 

ルシエラも小さく頷いた。

 

エイルは剣を下ろした。

 

その視線が、近くに倒れている一人へ向く。

 

数日前、ギルドで笑いながら話していた三人のうちの一人だった。

 

ロディオも同じ方を見る。

 

「……あの三人、普通に喋ってたんだよな」

 

エイルが答える。

 

「ああ」

 

「噂の話して」

 

「素材を買ってるって言われたな」

 

ロディオが少しだけ顔をしかめる。

 

「それは覚えてなくていい」

 

いつもなら、そこで誰かが笑っていた。

 

今回は誰も笑わなかった。

 

ルシエラが三人を見る。

 

「本当に……死んだんですか?」

 

クラウスは最初の男、次の男、最後の男と一人ずつ確認し、少しして立ち上がった。

 

「はい」

 

ルシエラは何も言わなかった。

 

ロディオも視線を外す。

 

ほんの少し前まで同じギルドにいて、人間の姿で普通に話し、笑っていた三人が、もう動かない。

 

エイルは自分の肩を押さえた。

 

浅い傷はすでにクラウスが治療している。

 

服だけが裂けたままだ。

 

「ミゼリアも、戻ってくるかもしれない」

 

クラウスが頷く。

 

「長くいるのは危険です」

 

「そうだな」

 

ロディオが右脚を確かめる。

 

傷は塞がっているが、動かした時に少し違和感が残っていた。

 

「次も同じことが起きるとは限らないし」

 

メルディアが抉れた地面を見る。

 

「何が起きたかも分かってない」

 

エイルが全員を見る。

 

「戻ろう」

 

誰も反対しなかった。

 

五人は現場の位置を確認する。

 

三人の遺体は、その場に残した。

 

歩き出す前に、ルシエラだけがもう一度振り返った。

 

白い粉で角を見つけた日のことを思い出す。

 

あの時は、逃げていく三人の背中を見ていた。

 

今は誰も動かない。

 

ルシエラは前を向いた。

 

五人はリューベルへ戻った。

 

◇

 

ギルドへ着いた頃には、かなり時間が経っていた。

 

受付にいた職員が五人を見るなり立ち上がった。

 

「戻られたんですね!」

 

すぐに奥の部屋へ案内された。

 

話を聞く職員は二人。

 

五人は、偽の人質と幻影、先日の三人、そして赤い髪と角を持つ女について順番に説明した。

 

「……ミゼリア?」

 

職員の一人が手を止める。

 

クラウスが頷いた。

 

「三人がそう呼んでいました」

 

「四天王のミゼリア……」

 

部屋の空気が変わった。

 

もう一人の職員がエイルを見る。

 

「そのミゼリアは?」

 

エイルたちは一度顔を見合わせた。

 

「分かりません」

 

「分からない?」

 

「戦っている途中で、突然いなくなりました」

 

ロディオが続ける。

 

「本気で攻撃してくるみたいな準備をしてたんです。水とか風とか、いっぱい出して」

 

「それから本人も、すごく速くなる魔法を使って」

 

「《風走》」

 

メルディアが補足した。

 

「本人は、普段の三倍くらいで動けると言ってた」

 

職員が記録する。

 

ロディオが続けた。

 

「それで突っ込んできたと思ったら、消えました」

 

「消えた……」

 

「はい」

 

エイルが言う。

 

「その直後、ものすごい衝撃が来ました」

 

「三人の魔族は?」

 

「それで、ほとんど動けなくなりました」

 

エイルの声が少し止まる。

 

「その場で倒しました」

 

職員の手が止まった。

 

「三人とも?」

 

「はい」

 

しばらく紙へ視線を落としていた職員が、もう一度五人を見る。

 

「それで……どうやって四天王から逃げたんですか?」

 

誰もすぐには答えなかった。

 

ロディオが椅子の背へ少し寄りかかる。

 

「それが分かれば、こっちも知りたいです」

 

「勝った、ということでは?」

 

エイルが首を振る。

 

「全然」

 

メルディアも答える。

 

「攻撃はほとんど当たってない」

 

「ほとんど?」

 

ロディオがそちらを見る。

 

「一発もじゃない?」

 

メルディアが少し考える。

 

「たぶん」

 

「たぶんなんだ」

 

「確認する余裕なかった」

 

エイルが苦笑した。

 

「俺は一回も当てられてないです」

 

職員は黙って記録へ書き込む。

 

クラウスが続けた。

 

「こちらは何度も攻撃されています。《絶対防御領域》がなければ、かなり危険でした」

 

職員がルシエラを見る。

 

ルシエラは膝の上で手を重ねていた。

 

「私も、何が起きたのかは分かりません」

 

「ミゼリアが消えた原因も?」

 

「はい」

 

「その直前、何か変わったことは?」

 

ルシエラは少し考える。

 

「ペンダントが光りました」

 

「ペンダント?」

 

淡い緑色の石を見せる。

 

「強い風とか衝撃が来た時に光るものです。前にも光ったことがあります」

 

メルディアが言う。

 

「関係があるかは分からない」

 

職員はそれも記録した。

 

「現場は?」

 

「そのままです。遺体もあります」

 

二人の職員が顔を見合わせる。

 

「すぐに調査隊を出します」

 

その言葉を聞いて、エイルたちはようやく席を立った。

 

◇

 

宿へ戻り、部屋へ入った瞬間、ロディオが椅子へ沈み込んだ。

 

「疲れた……」

 

エイルもベッドの端へ座る。

 

誰もすぐには次の話をしなかった。

 

クラウスが荷物を置く。

 

「エイル、肩をもう一度見せてください」

 

「もう痛くないよ」

 

「見せてください」

 

「はい」

 

エイルは素直に上着を脱いだ。

 

肩の傷は塞がっている。

 

代わりに、服には短剣で裂かれた跡が残っていた。

 

エイルがそこをつまむ。

 

「これ、直るかな」

 

ロディオが自分の右脚を見る。

 

「俺のも破れてる」

 

「そっちは服より脚だろ」

 

「脚は治ってきてる。服は勝手に治らない」

 

クラウスがロディオを見る。

 

「次はあなたです」

 

「もう見たじゃん」

 

「さっき歩いている時、少し庇っていました」

 

ロディオが黙る。

 

エイルが笑う。

 

「見られてるぞ」

 

「……はい」

 

ロディオが椅子へ座り直す。

 

クラウスが傷の具合を確認している横で、メルディアは杖を壁へ立てかけた。

 

ルシエラは首から《地護りのペンダント》を外す。

 

机の上へ置く。

 

淡い緑色の石は、いつも通りだった。

 

ロディオが裂けた服をもう一度見る。

 

「でも俺、あれだけ飛ばされてこれで済んだんだな」

 

エイルが聞く。

 

「投げられた時?」

 

「そう。あいつ、俺を投げてからもう俺のこと見てなかっただろ」

 

メルディアが答えた。

 

「見てなかった」

 

「だよな」

 

ロディオが少し笑う。

 

「結構ひどくない?」

 

「私も目の前まで来られた」

 

「ああ。『遅い』って言われてたな」

 

メルディアがロディオを見る。

 

「聞こえてた?」

 

「聞こえてた」

 

「助けて」

 

「その前に俺が投げられてたんだよ」

 

エイルが吹き出した。

 

ルシエラも少し笑った。

 

その笑いが残っているうちに、メルディアが言った。

 

「でも、あの時まだ本気じゃなかった」

 

ロディオの笑いが止まった。

 

エイルも黙る。

 

「……あれだけやられて?」

 

誰も答えない。

 

今までのは試しだったから。

 

最後にミゼリアが笑いながら言った言葉を、全員が覚えていた。

 

ロディオが椅子へ深く座り直す。

 

ルシエラが自分の手首へ触れた。

 

エイルがそれに気づく。

 

「まだ痛い?」

 

「痛くはないです」

 

少し間を置く。

 

「でも、掴まれた時は……びっくりしました」

 

「俺、止められると思ったんだけどな」

 

エイルが自分の手を見る。

 

「普通に引っ張られた」

 

ロディオも言う。

 

「三人で押さえて、やっとだったし」

 

また静かになった。

 

最後に見たのは、周囲を埋める水と風の刃。

 

その正面にいたミゼリア。

 

ロディオが小さく息を吐いた。

 

「……よく生きてるな、俺たち」

 

エイルが顔を上げた。

 

ロディオ。

 

メルディア。

 

クラウス。

 

ルシエラ。

 

全員いる。

 

「本当だな」

 

ルシエラが四人を見て、ようやく表情を緩めた。

 

「はい」

 

ロディオが少しして笑った。

 

今度の笑いは、さっきまでとは違っていた。

 

「四天王まで出てきて、五人とも帰ってきたんだぞ」

 

「三人も倒した」

 

メルディアが言う。

 

ロディオがそちらを見る。

 

「そう。それ」

 

エイルも笑う。

 

「じゃあ、勝ったってことでいいのか?」

 

メルディアは少し考えた。

 

「結果だけなら」

 

「今日はそれでいいだろ」

 

「うん」

 

ロディオが背もたれへ倒れ込む。

 

「……なんか急に嬉しくなってきた」

 

クラウスが治療を終えて手を離した。

 

「では、その嬉しい気分のまま今日は大人しくしてください」

 

「そこは一緒に喜ぶところじゃない?」

 

「喜んでいますよ」

 

「全然そう見えない」

 

「あなたが動くと傷が開きそうなので」

 

「そっちが先かよ」

 

エイルが笑った。

 

しばらくして、ロディオが何か思いついたように顔を上げる。

 

「そういえば」

 

「何?」

 

「あいつら倒したなら、レベル上がってない?」

 

メルディアも少し反応する。

 

「最近見てなかった」

 

「俺も」

 

ロディオが自分の状態を開く。

 

そして、動きが止まった。

 

「……四十三?」

 

エイルが顔を向ける。

 

「え?」

 

「俺、四十三になってる」

 

「三十六だったよな?」

 

「ああ」

 

ロディオが指を折る。

 

「……七つ?」

 

「そんなに上がったんだ」

 

エイルも驚いていた。

 

今日戦った三人の魔族は強かった。

 

それでも、一度に七つというのは予想していなかった。

 

ロディオが表示を眺めていると、別の項目が目に入った。

 

「あれ?」

 

「今度は何?」

 

「上級職への転職条件を満たしました、だって」

 

エイルが顔を上げる。

 

「上級職?」

 

「うん。そう書いてある」

 

メルディアが言った。

 

「私たちも条件を満たしてるかもしれない」

 

「そうだな。今までは同じくらいのレベルだったし」

 

エイルも頷く。

 

クラウスが少し考えてから言った。

 

「転職するなら、神殿で確認するのがよさそうですね」

 

「そういえば、ルシエラはどうなるんだ?」

 

エイルが聞く。

 

ルシエラは少し考えた。

 

「私は最初から《光と闇の聖女》ですから……どうなんでしょう?」

 

「特殊職だから、四人とは違うと思う」

 

メルディアが答えた。

 

ロディオが言う。

 

「まあ、ルシエラは最初から変なのだし」

 

ルシエラがすぐに見る。

 

「変なのって言わないでください」

 

「職業の話」

 

「分かってます」

 

「ならいいだろ」

 

「よくないです」

 

エイルが笑う。

 

「光と闇の聖女って、最初からかなり珍しかったしな」

 

「珍しいと変は違います」

 

「そこは大事なんだ」

 

「大事です」

 

クラウスも笑った。

 

「それなら、一度ベルハルトへ戻ることになりますね」

 

ロディオが表示を閉じる。

 

「じゃあ、ベルハルト戻る?」

 

メルディアが答える。

 

「ここで予定してた探索はかなり進んだ」

 

「魔族にも見つかったしな」

 

エイルが言う。

 

ルシエラが少し考える。

 

「ギルドの調査結果は聞いてからにしたいです」

 

クラウスも頷いた。

 

「僕もその方がいいと思います」

 

ロディオが伸びをしようとして、途中で止まった。

 

クラウスが見ていた。

 

「……何もしてない」

 

「そうですね」

 

ロディオはそのまま腕を下ろした。

 

エイルが笑う。

 

「じゃあ、それ聞いたら帰るか」

 

「うん」

 

メルディアが答える。

 

ルシエラも頷いた。

 

「久しぶりですね。ベルハルト」

 

◇

 

日が傾き始めた頃。

 

ミゼリアはようやく旧放牧地へ戻った。

 

足取りは遅い。

 

身体を支える魔法を使っていても、傷は消えない。

 

最初に見えたのは、折れた柵だった。

 

その先には抉れた地面があり、広い範囲で草が倒れている。

 

ミゼリアが足を止める。

 

「……ひどいな」

 

さらに進む。

 

そして。

 

三人を見つけた。

 

ミゼリアは、その場で止まった。

 

すぐには近づかなかった。

 

やがて一人目の前へしゃがむ。

 

隊長。

 

身体には、強い衝撃を受けた跡が残っている。

 

それとは別に、大きな剣傷。

 

二人目。

 

双短剣を使っていた男。

 

こちらも全身に強い打撲。

 

脚の損傷が大きい。

 

最後に受けた傷は短剣によるもの。

 

三人目。

 

少し離れた場所に杖が落ちている。

 

近くには、壊れた魔法障壁の痕跡が残っていた。

 

最後に受けたのは炎。

 

ミゼリアは立ち上がる。

 

三人を順番に見る。

 

自分が意識を失い、あの大きな衝撃を受けたあとも三人は生きていて、それでも五人と戦った。

 

そして。

 

「……負けたんだ」

 

返事はない。

 

ミゼリアは周囲を見る。

 

聖女たちがいた辺りは、他の場所に比べて損傷が少ない。

 

《絶対防御領域》。

 

その周囲には大きな衝撃の跡が残っている。

 

ミゼリアは脇腹を押さえた。

 

自分の傷。

 

三人の傷。

 

そして、最後に見た緑色の光。

 

「あの首飾り……」

 

もう少し調べようと歩き出す。

 

その時。

 

遠くから音が聞こえた。

 

馬。

 

一頭ではない。

 

人の声も混じっている。

 

ミゼリアが顔を上げる。

 

リューベルの方角。

 

「……もう来たか」

 

しばらく耳を澄ます。

 

近づいてくる。

 

今の身体で人間側の調査隊と鉢合わせするのは避けたい。

 

ミゼリアは三人を見る。

 

本当なら、戦場をもっと調べたい。

 

衝撃の中心。

 

魔力の残り方。

 

聖女たちの立っていた位置。

 

確認したいことはいくらでもある。

 

馬の音がさらに近づく。

 

「仕方ないか」

 

最後に、ルシエラが立っていた場所を見る。

 

思い出す。

 

淡い緑色の光。

 

「あの聖女……やっぱり危ないね」

 

ミゼリアは三人に背を向けた。

 

傷ついた身体へ最低限の風をまとわせる。

 

そして、人間たちが姿を見せる前に草原を離れた。

 

◇

 

しばらくして。

 

リューベルのギルドから派遣された調査隊が旧放牧地へ入った。

 

先頭の男が馬を止める。

 

誰もすぐには声を出さなかった。

 

折れた柵、抉れた地面、一方向へ大きく倒れた草、水と風で切り裂かれた跡。その中に、三人の魔族の遺体が残されていた。

 

「……ここで、何があったんだ」

 

答えられる者は、もうそこにはいなかった。

 

 

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