『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第3話 初めての戦闘

翌朝。

 

ルシエラたち五人は、街の門の前に集まっていた。

 

「全員いるな」

 

エイルが人数を確認する。

 

「います」

 

ルシエラが答える。

 

その隣では、メルディアが依頼書を読み直していた。

 

「採取対象はセリナ草。葉の先が三つに分かれていて、茎の根元が薄紫色」

 

「昨日も見てなかったか?」

 

ロディオが言う。

 

「見た」

 

「覚えてないのか?」

 

「覚えてる。間違えないために確認してる」

 

「なるほど」

 

ロディオはそれ以上何も言わなかった。

 

クラウスは自分の荷物を確認している。

 

「包帯と水、それから簡単な薬もあります」

 

「治療魔法があるのに?」

 

エイルが聞く。

 

「治療にはSPを使いますから。全部を魔法で済ませる必要はありません」

 

「ああ、そうか」

 

「エイルは?」

 

「剣」

 

「他には?」

 

「水」

 

クラウスが少しだけ考えた。

 

「……まあ、今日はそれでも大丈夫でしょう」

 

「なんだよ、その間」

 

「何でもありません」

 

そんな会話をしながら、五人は街を出た。

 

最初の依頼は、街から歩いて一時間ほどの林でセリナ草を採取すること。

 

危険度は低い。

 

周辺にはゴブリンなどの低級魔物が出ることもあるらしいが、新人冒険者向けの依頼として受付から勧められたものだった。

 

しばらく街道を歩き、林が見えてきたところでロディオが足を止める。

 

「ここから道を外れる」

 

「分かるんですか?」

 

ルシエラが聞いた。

 

「地図だとこの辺。それと――」

 

ロディオは足元を指差した。

 

「ここ、誰か通ってる」

 

エイルも見る。

 

草が一部だけ倒れていた。

 

「これ?」

 

「そう」

 

「よく分かるな」

 

「見れば分かるだろ」

 

エイルはもう一度見る。

 

「……分からない」

 

「じゃあ俺が見ればいい」

 

「それがスカウトの仕事ですからね」

 

クラウスが言う。

 

林に入ると、自然とロディオが前へ出た。

 

その少し後ろにエイル。

 

中央にルシエラとクラウス。

 

最後尾をメルディアが歩く。

 

しばらく進んだところで、ルシエラが小声で尋ねた。

 

「この並び方でいいんでしょうか」

 

「さあ」

 

エイルが答える。

 

「さあ、なんですか?」

 

「俺たち全員初めてだし」

 

前を歩くロディオが振り返る。

 

「俺が先に見つける。エイルが前で止める。後ろからメルディアが魔法。怪我したらクラウス」

 

「私は?」

 

「祝福?」

 

「疑問形なんですね」

 

「使ったことないんだろ?」

 

「はい」

 

「じゃあ、やってみないと分からない」

 

簡単な話だった。

 

ルシエラも、それ以上いい案は思いつかなかった。

 

少し歩いたところで、今度はメルディアが足を止める。

 

「これ」

 

地面近くに生えた草を指差す。

 

ルシエラも覗き込んだ。

 

三つに分かれた葉。

 

根元は薄紫色。

 

「セリナ草ですか?」

 

「そう」

 

「本当に依頼書と同じですね」

 

「周りにもある」

 

五人で採取を始めた。

 

最初は順調だった。

 

ロディオが周囲を見ながら探し、メルディアが似た植物との違いを確認する。

 

ルシエラとクラウスが丁寧に採り、エイルもそれを真似する。

 

「エイル、それ違う」

 

メルディアが言った。

 

「え?」

 

「根元が緑」

 

エイルは手に持った草を見る。

 

「似てないか?」

 

「葉の形も違う」

 

「同じに見える」

 

「違う」

 

「分かったよ」

 

エイルはそっと元の場所へ戻した。

 

その時だった。

 

少し離れたところにいたロディオが片手を上げた。

 

全員の動きが止まる。

 

ロディオは何も言わず、前方の茂みを見ていた。

 

エイルが腰の剣に手をかける。

 

「何かいる?」

 

小声で聞く。

 

ロディオが頷いた。

 

「三体」

 

「何が?」

 

「ゴブリン」

 

ルシエラの手が止まった。

 

名前は知っている。

 

冒険者が最初に戦うことも多い低級魔物。

 

それでも、実際にいると聞けば緊張する。

 

「こっちには気づいてる?」

 

メルディアが聞く。

 

「まだ」

 

ロディオは少し考えた。

 

「避けるか?」

 

五人が顔を見合わせる。

 

今回の依頼は薬草採取だ。

 

戦う必要はない。

 

クラウスが先に口を開いた。

 

「無理に戦う理由はありませんね」

 

「でも、この先も冒険者やるなら、いつかは戦うだろ」

 

エイルが言う。

 

「それはそうですが」

 

「三体って多い?」

 

ロディオを見る。

 

「多くはない」

 

エイルは少し考えた後、他の三人を見る。

 

「やってみない?」

 

メルディアが答える。

 

「危なくなったら逃げる。それなら」

 

クラウスも頷いた。

 

「それなら賛成です」

 

最後に、三人の視線がルシエラへ向く。

 

「私も……やります」

 

自分でも少し声が硬いと思った。

 

エイルが剣を抜いた。

 

「じゃあ俺が前」

 

「俺は横」

 

ロディオが言う。

 

「メルディアは?」

 

「撃てるところから撃つ」

 

「クラウスとルシエラは後ろ」

 

「はい」

 

ルシエラは胸の前で手を握った。

 

自分にできること。

 

昨日、説明を読んだばかりの技能。

 

使い方そのものは、職業を授かった時から分かっている。

 

ルシエラは息を整えた。

 

「《光と闇の祝福》」

 

柔らかな光が広がった。

 

ルシエラの周囲を包み、エイルたちへ届いていく。

 

エイルが手を開いたり閉じたりした。

 

「……少し体が軽い」

 

「効いてますか?」

 

「たぶん」

 

メルディアも杖を握り直す。

 

「魔力が少し通しやすい」

 

ルシエラはほっとした。

 

「よかった」

 

その直後。

 

ロディオが低い声で言った。

 

「来る」

 

茂みが揺れた。

 

三体のゴブリンが姿を現す。

 

緑がかった肌。

 

粗末な布。

 

二体が棍棒を持ち、一体は錆びた短剣を握っている。

 

一体が甲高い声を上げた。

 

その声に続いて、三体が一斉に走り出す。

 

「来た!」

 

エイルが剣を構えた。

 

先頭のゴブリンが棍棒を振り上げる。

 

エイルも剣を振る。

 

武器同士がぶつかった。

 

「っ!」

 

エイルの腕が弾かれた。

 

訓練とは違う。

 

相手は止まってくれない。

 

エイルが体勢を立て直そうとした時には、二体目が横から迫っていた。

 

「ちょっ――」

 

「一人で全部見るな!」

 

ロディオが飛び込んだ。

 

短剣で棍棒を横へ逸らす。

 

「助かった!」

 

「前見ろ!」

 

「分かってる!」

 

三体目が走ってくる。

 

メルディアが杖を向けた。

 

「《ファイヤーボール》」

 

火球が飛ぶ。

 

だがゴブリンは動いている。

 

火球は肩をかすめ、そのまま後ろの木にぶつかった。

 

「外した」

 

「次!」

 

ロディオが叫ぶ。

 

「分かってる!」

 

メルディアの眉間に皺が寄った。

 

エイルは最初のゴブリンへ向き直る。

 

今度は棍棒を正面から受けず、横へかわした。

 

剣を振る。

 

刃がゴブリンの腕に当たった。

 

甲高い悲鳴。

 

「当たった!」

 

「エイル、前!」

 

クラウスの声。

 

顔を上げる。

 

短剣を持ったゴブリンが、もう目の前にいた。

 

避けきれない。

 

腕に痛みが走った。

 

「っ!」

 

服が裂け、血が滲む。

 

「エイル!」

 

ルシエラが思わず前へ出かける。

 

クラウスが先に動いた。

 

「僕が治します!」

 

杖を向ける。

 

淡い光がエイルの腕を包み、傷が閉じていく。

 

「助かる!」

 

「浅い傷です! 前を見てください!」

 

その間にも、ロディオは一体を相手にしていた。

 

「メルディア! こっち!」

 

「そこにいると撃てない!」

 

「じゃあ下がる!」

 

ロディオが後ろへ跳ぶ。

 

追ってきたゴブリンが、一瞬だけ一人になる。

 

メルディアの杖が向いた。

 

「《ファイヤーボール》」

 

今度は当たった。

 

火球を胸に受けたゴブリンが倒れる。

 

「一体!」

 

「よし!」

 

エイルも剣を振る。

 

腕を傷つけていたゴブリンの棍棒を弾き、そのまま肩へ剣を叩き込んだ。

 

二体目が倒れる。

 

残り一体。

 

短剣を持ったゴブリンが周囲を見た。

 

それから背を向ける。

 

「あ、逃げる!」

 

ルシエラが声を上げた。

 

ロディオがすぐに回り込む。

 

「そっちは駄目だ」

 

ゴブリンが向きを変える。

 

そこにはエイルがいた。

 

剣を構える。

 

「今度は――」

 

ゴブリンが突っ込んでくる。

 

エイルは短剣を剣で弾いた。

 

「ちゃんと見えてる!」

 

そのまま剣を振り下ろす。

 

最後のゴブリンも倒れた。

 

静かになった。

 

誰も、すぐには喋らなかった。

 

聞こえるのは荒い息だけ。

 

エイルがゆっくり剣を下ろす。

 

「……終わった?」

 

ロディオが三体を見る。

 

「動いてない」

 

「じゃあ終わったんだな」

 

「たぶん」

 

「そこは言い切れよ」

 

メルディアも杖を下ろした。

 

「三体」

 

ルシエラは倒れたゴブリンを見てから、仲間たちを見る。

 

「勝ったんですよね?」

 

「勝った」

 

エイルが答えた。

 

それから自分の腕を見る。

 

傷はクラウスの治療でほとんど塞がっていた。

 

「……思ったより大変だったな」

 

「連携がひどい」

 

メルディアが即答した。

 

「初めてなんだから仕方ないだろ」

 

「エイルが一人で二体見ようとした」

 

「向こうから来たんだよ!」

 

「だから位置を変える」

 

「ロディオも急に横から入るし」

 

「助けたんだけど?」

 

「撃てなくなる」

 

「じゃあ次から声かける」

 

クラウスが息を吐いた。

 

「僕も、治療に入るタイミングが遅かったです」

 

「いや、助かったよ」

 

「今回は浅い傷だったからです」

 

ルシエラは少し迷ってから尋ねた。

 

「祝福は……どうでした?」

 

エイルが頷く。

 

「効いてたと思う」

 

「本当ですか?」

 

「うん。少し動きやすかった」

 

メルディアも言う。

 

「魔法も少し強くなってた」

 

「よかった……」

 

ルシエラの表情が明るくなる。

 

自分にもできることがあった。

 

それだけで、かなり安心した。

 

ロディオが倒れたゴブリンを見ながら言う。

 

「でも次はもっと楽にできるだろ」

 

「なんで?」

 

エイルが聞く。

 

「最初から誰が何するか分かってれば、今みたいにはならない」

 

クラウスも頷く。

 

「エイルが前で一体を止める。ロディオは横から援護。メルディアは射線を取ってから魔法。僕とルシエラは後方」

 

ルシエラが首を傾げた。

 

「最初に決めたのと同じじゃないですか?」

 

ロディオが笑った。

 

「決めただけじゃできなかったってこと」

 

「ああ……」

 

それなら納得できた。

 

エイルが剣を鞘へ戻す。

 

「練習しないとな」

 

「実戦で?」

 

ルシエラが聞く。

 

「それ以外にある?」

 

「危ないですよ」

 

「危なくない相手からやる」

 

クラウスが静かに言った。

 

「今回も、そのつもりでしたよね」

 

エイルが少し黙る。

 

「……次はもっと気をつける」

 

その後、五人は周囲を確認してから採取を再開した。

 

さっきまでより、少しだけ慎重に。

 

必要な量のセリナ草を集め終えた頃には、日も傾き始めていた。

 

帰り道では、自然と先ほどの戦闘の話になった。

 

「次は先に魔法を撃った方がいい」

 

メルディアが言う。

 

「遠くにいるうちに?」

 

エイルが聞く。

 

「そう。近づかれてからだと、エイルとロディオが邪魔」

 

「邪魔って言うなよ」

 

「射線上にいる」

 

「それなら、先に一発撃って、残ったのを俺が止める」

 

「それがいい」

 

ロディオが自分を指差す。

 

「俺は?」

 

「横」

 

「雑だな」

 

「必要なところに行けばいい」

 

「それが一番難しいんだけど」

 

ルシエラは、そんなやり取りを聞きながら歩いていた。

 

昨日会ったばかりの五人。

 

まだ、お互いのことはほとんど知らない。

 

それでも、一緒に戦った後は、出発した時より少しだけ話しやすくなっていた。

 

街へ戻ると、そのまま冒険者ギルドへ向かった。

 

受付でセリナ草を提出する。

 

女性職員が量と状態を確認した。

 

「問題ありません。依頼達成です」

 

五人の顔が同時に緩んだ。

 

「やった」

 

エイルが小さく言う。

 

「初仕事成功」

 

ロディオも嬉しそうだった。

 

報酬を受け取り、五人で分ける。

 

大きな金額ではない。

 

それでも、自分たちで初めて稼いだ冒険者としての報酬だった。

 

ルシエラは手のひらに乗せた硬貨を見る。

 

「冒険者になったんですね」

 

「昨日からな」

 

エイルが言う。

 

「でも、今日の方がそんな感じがします」

 

「それは分かります」

 

クラウスも笑った。

 

「あ」

 

エイルが声を上げた。

 

「どうしました?」

 

「レベル、上がってる」

 

その言葉で、全員が自分の状態を確認し始めた。

 

ルシエラも表示を開く。

 

肉体レベル。

 

職業レベル。

 

その両方が、出発前より一つ上がっていた。

 

「私もです」

 

「こっちも」

 

ロディオが答える。

 

クラウスも頷いた。

 

「僕も両方上がっています」

 

メルディアは表示された数値をじっと見ていた。

 

「ステータスも上昇してる」

 

「どれ?」

 

エイルが自分の表示を見る。

 

「本当だ。筋力も上がってる」

 

他にも耐久や敏捷など、いくつかの数値が上昇している。

 

上がり方は全員同じではなかった。

 

エイルは筋力や耐久の伸びが比較的大きい。

 

ロディオは敏捷の伸びが大きい。

 

メルディアは魔力系の数値がよく伸びていた。

 

「職業が違うから?」

 

エイルが聞く。

 

メルディアは少し考える。

 

「それだけじゃないと思う」

 

「なんで?」

 

「同じ職業でも成長の仕方には個人差があるって、神殿で聞いた」

 

「そうだったっけ」

 

「聞いてなかった?」

 

「……たぶん」

 

「職業は、その人の適性に合ったものを授かることが多い。だからファイターは筋力が伸びやすい人が多い。でもファイターだから筋力が伸びるわけじゃない」

 

「分かったような、分からないような」

 

ロディオが言った。

 

クラウスが言い換える。

 

「エイルは元々、筋力が伸びやすいから《ファイター》になった可能性が高い、ということですね」

 

「ああ。それなら分かる」

 

エイルは改めて自分の表示を見る。

 

「じゃあ、ちゃんと俺自身も強くなったんだな」

 

「レベルが上がったんだから、そうでしょう」

 

メルディアが言う。

 

ロディオは自分の腕を曲げたり伸ばしたりした。

 

「俺、もう速くなってる?」

 

「走ってみれば?」

 

「ここで?」

 

「外で」

 

「今から?」

 

「確認したいなら」

 

「今日はいいや」

 

ルシエラも自分の表示を見る。

 

肉体レベルと、《光と闇の聖女》の職業レベル。

 

どちらも上がっている。

 

細かな数値もいくつか増えていた。

 

初めて依頼を達成した。

 

初めて仲間と戦った。

 

初めて祝福を使った。

 

そして、初めてレベルが上がった。

 

「次は、もう少し上手く戦えるでしょうか」

 

エイルが答える。

 

「今日よりはな」

 

「連携を直せば」

 

メルディアが付け加える。

 

「分かってるよ」

 

メルディアはすでに、依頼が並ぶ掲示板へ視線を向けていた。

 

「次は何にする?」

 

「もう?」

 

「忘れる前にもう一度戦った方が、今日の反省を使える」

 

ロディオが笑う。

 

「意外とやる気あるな」

 

「効率の話」

 

「はいはい」

 

ルシエラも掲示板を見る。

 

次も、自分の祝福は役に立つだろうか。

 

今日のように、みんなの助けになれればいい。

 

そう思いながら、四人の後を追った。

 

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